【UES】スレイヤーズSTS 〜1回目〜
**** TATUYA ****
──暗い闇──
『暗い闇』というのは表現としては正しいのだろうか?
オレはそんなことを考えながらその場に佇み、両手の指と指との間に合計6枚の札をはさんだまま、
静かに呼吸を整える。
札に魔力をこめる。
札が色違いの6つの光に輝き燃える。
これならどうだ?
そう考え、頭の中に浮かんだ呪文の構成を行い、その呪文を口の中に吐き出した。
未完成と言う強力魔法の呪文を──
──混沌なる闇の世界──
その中で唯一、光を放つ存在がある。
それはオレを中心にして広がる、六方陣の青白い光──
その六方陣それぞれの頂点に佇む6つの呪札。その1つ1つに力がどんどんと集まっていく。
──魔呪符士──ある大陸では昔、退魔士と呼ばれていた者。
──魔道士───ある大陸では昔、魔術師と呼ばれていた者。
基本的に解釈の仕方は同じではあるが、大きな違いとしては、呪符と呪文だろう。
基本的に魔法は、光・闇・火・水・風雷・地…などの精を有する力を呼びい出す物であり、魔呪符
士は呪符を介して呼び出し、魔道士は呪文によって呼び出す。
いわば、呪を見せて呼ぶ(呪符)と呪を聞かせて呼ぶ(呪文)の違いだけである。
…って所だろうか…
もちろん、それぞれに長所と短所があるのは当然である。
が…本当なら、もっと細かく説明したほうがいいのだが、それ以上の説明となると一般には知らせ
てはいけない部分にまで入り込んでしまう。
実はこの呪符という物、ほんの少しの知識があれば簡単な召還ぐらいは出来てしまうのである。
そこはそれで法律という物がしっかりと管理しており、そういった呪符という物はそう簡単には手
に入らない物でもあるのだが…
まあ…言ってしまえば…今の時代、呪符は拳銃と同じような扱いをされているってことだ。
呪符の作成には、経験豊かな知識と、あふれんばかりの才能、そして時間が必要である。
もちろん、多くの呪符には殺傷能力があるために、資格免許と許可書がないうちは作成する権利は
ない。
まあ、作ったとしても、呪符自体に指紋のような個人別の特徴があるため、誰が作ったのかすぐに
割り出すこともできるし…誰々が作った呪符で誰が使用したか?とういことまで特定することも最近
は可能になっている。
オレのいる世界には、六精霊王と言う、他の世界で言う神や魔王のような者が存在する。
この周りに広がっている札、1枚1枚がその精霊王たちの力を召還する役割をになっているのだ。
額に大粒の汗が流れるのがかろうじてわかる。呪文を紡ぎ続ける度に魔力が吸い取られ、視界は徐
々に失っていく。
目の前が揺らめき視界がぼやけることで、オレはそう考えることが出来た。
両手を左右へと大きく広げ、小さな<力のある言葉>を静かにいい放つ。
その<力ある言葉>に操られ、胸中に生まれる<光の札>。
この術には4つの欠点がある。
1つ目は専用の呪符を6枚使用すること。
2つ目が限界まで魔力を使ってしまうこと。
3つ目に発動させるにある程度の時間が必要なこと。
まあ…こいつは強力で複雑な術なればこそ出てきてしまう欠点であるが…
どんな呪文においても、この欠点は似たり寄ったりである。
6枚使用すると言っても、結局、1枚の呪符だけでも小山1つ分を吹き飛ばせる魔法を発動させら
れるのだが…
そして4つ目が強力な故に重たいってことだ。
つまり、そいつが重たくて敵に投げ飛ばせないってこと。
直訳すると──火炎球なら──
「う〜りゃ!火炎球じゃ!」
とか何とか言って軽軽しくぽいすて(はあと)
きゅどーんっ!!!!
「びくとりいぃーーー!」
ってなるわけだが──今回のこの魔法になると──
「う〜りゃ!最強魔法じゃ!」
とか何とか言って軽軽しくぽいすて…………
ずしいっ
「………うお…お…重い……投げられん……あ…ああうぅ…つ…つぶれるうぅ…………」
ぺぷちっ…
………………………………………………………
きゅどごおおおおぉぉぉ!!!!!!
…あ…自滅してら…
と…まあこー言った…ラブリーな擬音効果(バックミュージック?)を引っさげて自滅するのだ。
ってことである──え?違う?
追伸:以前、上記のようなことをやらかした間抜けな魔族さんがいたことを述べておこう…合掌…
両手を大きく広げる、その胸の前で輝く<光の札>──
そして、その札を挟み込むようにオレは拳と拳をめい一杯の力で打ち合わせた。
弾ける<光の札>。
打ち合わせた拳と拳の間に収束し始める6つの光。
呪文はやっと3分の2まで進んだところである。だがここで気を抜いたらこいつが暴走することは
間違いな…
瞬間──
今まで精神力だけで押さえ込んでいた力、両手の光の札が突然暴走を始めた。
…げっ…やば…
光の一つから…風雷の力が…鳳凰が…飛び出し、オレの周りを駆け回る。所々で放電が起こり、突
風がオレの体を巻き殴る。
かと思うと突如、残り5つの力がそれぞれ、縦横無尽に飛び回る。
それらが一斉にある一カ所でぶつかり合い目を覆いたくなるような閃光が瞬くと、オレはそのまま
強烈な爆風によって吹き飛ばされた──
……………………………………………………………………………………………………………………
………………………………………………………………………………………………………………………
……気が付くと視界の隅々までオレは闇にのめりこまれている。
『ティクアウト。ティクアウト。タツヤ=タナカ。アナタ ハ ジュモン ノ セイギョ ニ シッ
パイ シマシタ。ソノタメ アナタ ハ シボウ。シュミレーション ヲ シュウリョウ シマス』
感情の無い音声が辺りに響くと、オレがいた場所に明かりが灯り、バーチャルシュミレーション
によるトレーニング室は全体を見渡せるようになった。
今のは今日、10回目の挑戦だったのだが──
「だああああああ。畜生!また失敗だあー!」
があごおんっ!
オレは力一杯、すぐ近くにあった壁を拳でたたき付け怒りをぶつける。
「………………」
最後の最後でどうしてもうまくいかねぇ…これさえ成功すれ…ば…………
……あいつにだって通用するはずだ…
「………………」
オレはある呪文の開発にいそしんでいた。
まだ一度も成功例が無いのでどれだけの威力があるのか答えられないがとにかく、生半可な呪文で
ないと言うことだけは告げておく。
ただ、すべての力という力を使い切ってしまうのでこいつが完成したとしても、使う気になれない
が…
おまけに発動させるのに時間をかなり食うし…
ふう〜…今日はこれでやめるか…
オレは部屋の角に脱ぎ捨てたGジャンを引っつかむと、ゆっくりとした足取りでトレーニング室を
でていく。
そのほんの少しの動作で左手にはめたブルーメタリックのCONVERSEと書かれた腕時計(ア
ナログ)がキラリと輝いた。
あの事件から既に1年半──
当時何もできなかったオレはこの月日でかなり腕を上げたと自負できる。
しかし、今の実力でもあの時の事件がどうにかできたか、疑問が残るだろうが。
オレの名は田中達也。歳は15だ。
国家認定・次元セキュリティ会社『S.T.S』──に勤める最年少、”特別級資格者”のトラブ
ルコンサルタントである。
突然、こんなことを言われて、みんなには言っている意味はわからないだろうが…次元セキュリティ
会社『STS』と呼ばれる所のトラブルコンサルタントだ。
そして、今回、仕事としてとある世界へ現在移動中である。
次元は科学の発展した近未来(21世紀中旬)。
その世界で一人の科学者が異次元航行を可能にするシステムを開発した。
そしてそのテクノロジーの発展により、さらなる発見もあった。
それは『魔族』たちの存在────
みんなは魔族と聞いて、思いつくのは悪の根元を司る存在と思われるだろうが、オレ達の言う魔族
は、異次元と異次元との境目に発生する磁場の中で生活する種族たちのことを指し示している。
元々、彼らは各世界の微妙な歪みを回復させる種族(以下、純魔族と呼称)だったそうだが…と、
いってもぴんとこない者もいるだろう…
…えーと…ようするに……一つの次元の存在はメビウスの輪みたいなものだと思ってくれればいい。
一つの次元には過去、現在、未来の3つが一つの道につながっている。それがメビウスの輪。その輪
の中で時間がぐるぐる回り続けているのだが…その時間が何度も何度も回り続けると少しずつである
が、ずれが生じてくる。例えばどんなに精巧にできた時計でも必ず遅れたりするだろう。それが次元
の歪みになるんだ。
さて、話はそれてしまったが、とにかく彼らがその歪みを治しているのだが…人間同様、やはり悪
いやつがいるもので…その仕事をほっぽりだして、いろんな世界でいたずらをするものもいる(以下、
不魔族と呼称)たとえば無理矢理神隠しを起こしたり、ある世界でやりたい放題あばれまくったり、
神になったり魔王になったり…など等々…ちなみに異次元航行システムが世の中に一般化されてから
は、似たようなことをする人間達までもが現れ始めていたりする。
そのため、最近になってからは、どんどんと歪みがひどくなり、異次元と異次元とをつなぐトンネ
ル(通称インフェイルホール)の…俗に言う神隠しやタイムトラベルとかの原因…発生率が増えるつ
ー厄介なことまでおき始めた。
そこで、始まったのが国家認定・次元セキュリティ会社『S.T.S』──設立者は……おっと…
あまりぽこぽことばらす名前じゃないな………そうだな…設立者は今の会長とでも言っておくか…
──『S.T.S』──
実はこの会社、国家認定と言われているだけのことはあり、社員のトラブルコンサルタント(以後、
トラコン)は、どんなところにでも強制捜査が可能であり、警察からの介入もシャットアウトさえで
きる特権を持つ。つまりは国家権力以上の力を持った会社と言うことになるのかな?
ただ…多種多様の次元が存在するため、力が及ばない場所(次元)もあるのだが…まあ…次元の数
なんて物は宇宙に存在する星の数に等しいと、どっかの学者(なんて名前だったかは覚えてない)が
言っていたぐらいだし…ま…会長の性格から考えれば………………………いや…これ以上言うのはや
めておこう…
この会社の主な仕事は、次元を狂わせる不魔族や人間たち犯罪者の逮捕、および歪みの修正処理…
と簡単に言ってしまったが…この魔族ってーやつは、頭はいいは、人間たちよりも体が丈夫やら、
長生きやら、おまけに魔法まで使えるときた。
そんなんこんなで、普通の人間が奴等を捕まえられるのかっつーとはっきり言って無理。
そこで会社は、純魔族である彼らや、各次元から不魔族らと対抗しえる者たちをスカウトし、魔族
専属のトラコン…彼らを"特別級資格者"と呼ぶ…で対抗した。
ちなみに、会社名である『S.T.S』とは『星とセキュリティ』の略…と言われているのが表上
の定説。
ところが、"特別級資格者"の者達には"Select Target Slayer"の略であると
聞かされている。
とその前に──特別級資格者は──などと説明を施していたが、いってしまえばかなり高位の階級
である。
その"特別級資格者"の上に"チーフ"がいて──いわゆるトラコン達の総まとめ役…会社で言う取締
り役社長って所か?
社員派遣の人選もすべて任される。能力のみならず部下を思いやる人柄も人選の対象になっており、
成績の良し悪しではなることの出来ない階級である。
そして"特別級資格者"は──
トラブルコンサルタントでは最高の階級であり、不魔族たちなどが起こす次元犯罪に対応。捜査権
限及び戦闘能力は高く、武器類の使用に許可を取る必要が無い。極秘の捜査も受け持つこと多し。
なお、オレはこの階級にあたる。
その次の階級が"α級資格者"──
"α級資格者"は人工生命体や感情登録知性体(感情を持つ人工知能)達で最高の階級。"特別級"と
同等の権限を持っており、人工体と戦闘艦という2つの母体に自由にアクセスできる。好きな世界で
の移住許可も持てる…ちなみにオレの相棒がここ階級になる。
そして、この下からは"1級資格者"〜"5級資格者"となり、
"1級資格者"は──
次元犯罪者(不魔族以外)の逮捕、及び空間などの歪みの修正処理。捜査権限は"特別級資格者"程
ではないが高く、数種の武器携帯も認可されやすい。戦闘能力が通常程度…負魔族などに対抗できな
い力…しか持たない者ならここが最高の階級と言えるだろう。
"2級資格者"──
1級と同じで次元犯罪者(不魔族以外)の逮捕、及び空間などの歪みの修正処理を行なう。ただし、
必ず3人1チーム、もしくは"特別級"、"1級"、"α級"の誰か1人と行動することを義務付けられて
いる。
"3級資格者"──
次元犯罪者(不魔族以外)の逮捕は行なわず、ほとんどが空間などの歪みの修正処理を行なう。た
だし特例で犯罪者の逮捕を行なうことあり。
"4級資格者"──
空間の歪みの修正処理。ただし、自分が住む世界でのみ。他に別の世界からやって来た者(物)た
ちを送り返したりもする。
"5級資格者"──
新人のトラブルコンサルタントがここにあたり、トラコンの試験に合格しそのまま資格訓練校へ入
学した者の階級。ただし、"β級資格者"のアドバイザーが付いた場合、そのまま"4級資格者"になり、
1級以上のいるチームに加わると3級にもなる。基本的に資格候補生扱いで、仕事等などはしない。
で"5級"の説明で出てきた"β級資格者"は──
本来のトラコンの仕事とは異なる資格者で、トラコンになり得る者のスカウトや新人のアドバイザ
ーなどを担当する。感情登録知性体や、寿命の長い妖精たちなどが大半を占めている。
──っとまあ…階級はこんなモンだ。
時計の針を何気なく除くと12時22分を指している。
自分の時間間隔がずれていなければ夜中の0時半となるはずだが…オレの住んでいる世界での時間
帯での話だ。
そうそう…このブルーメタリックのこの腕時計…本来はこの様な色はしていない。
つまり特注品と言うべきであろうか…
本来は通常の腕時計と同じ銀色なのだ。
何故本来の色と違うのか…それは他ならぬ金属が全く別の物質へと変えられているからである…原
子レベルで…金属名を記憶合金ネオラム。
アルミニウム並に軽いのに、その硬度はあのダイヤモンドに匹敵する。
なおかつ普通の金属で先に形を整えた後に原子レベルで変更する事が出来るから作りやすい。
しかも、ある処理さえ行えば、あるパルス波長によって形を変えたり、特殊の精神エネルギーを増
幅具現化までできるのだ。
主にトラコン達には防弾着用として使われている…いたせりつくせりの金属なのだ。
ただし…1個体で変更を行うこと…言うなれば…部品1つ1つで処理を行う。
ボルトとナットを組み合わせたまま処理をするな…と言うことである。
さて、話を戻そう…
先ほど唱えていた魔法だが…まだ、成功例はないが、
それよりも一つレベルを下げれば、精王光輪(アスレイン・ファーリング)などの、六聖霊王…光
聖龍、闇聖蛇、雷聖鳳、水聖鮫、火聖獅、地聖狼などから力を借りる呪文をそれぞれオレは持ってい
る。
威力は小山1つぐらいは吹き飛ばすことができるが、これでも”特別級資格者”を続けるとすれば
役不足。この仕事をしてオレはそれをいやと言うほどあじあわされた。
何せ、それらの魔法が一切合切、相手に効かなかったのだ。
六聖霊王とは光、闇、火、水、雷風、大地、それぞれの精霊を束ねる王たちである。
ありていに言うと神や魔王、みたいな者だろうか…
本来、オレの世界には精霊王から力を借りる呪文は、秘技中の秘技と昔から言われている。
そのためかその呪文自体が制御に難しいのか、長い年月をへて、いつの間にかその存在は忘れ去ら
れようとしていた。
そんなおり、オレはその精霊王たちの存在を知る。
それだけでも既に常識を越える様な大事件なのだが、その力を借りた呪文を、たった14才で偶然
とはいえ完成させたとなると…
その呪文でさえ、あの時のあの相手に致命傷も与えられなかったのである。
その時にオレはやつの強さに思わず震えた。
怖くなったのではない、たぶん武者震いだったのだろう。
武道家によくある悪い癖ってやつである。
「もっと強いやつと戦いたい」
と、つい考えてしまう武道家の癖。
だが、戦いたいと思ってもこの仕事で動いている限り、甘っちょろい考えでは死んでしまう。
そうなるともっと威力のある呪文が必要になってくる。
一つだけ、未完成の魔法はある。
まだ、本番で使っていないが別な、方法が一つある。
で、オレは未完の呪文の開発のために、今もこうやってトレーニング室でがんばっているわけだが
………………………………………………………………………………って……おひこら…誰が暴れてい
るだけじゃないかって……………………………………………………………………………………………
………………………………………………………………………………………………
……何故わかったんだよおぉ………………………………………………………………………こほん…
「………………」
無言で歩きつづけるオレは目的地のドア手前までくると、
「はあ…」
思わずでっけーため息をはく。
そしてそのドアについているセンサーがオレの姿を認識し、頑丈な作りで出来ているドアを静かに
開け放った。
その先には相棒と…
『…あ…お帰りなさあーい(はあと)あなた(はあと)』
どずざあああああぁぁぁぁあー!!!!
──じゃなく…1人と新メンバー1人、ここにいるはずも無いもの1人、計3人の美女&美少女た
ちの姿とセリフで地をすべった。
『………………』
「達也…なにやってんですか?」
そういいながらアインはテーブルに置かれたハーブティ…多分…を口に一口注ぐ。
その姿、その動き一つ一つがさまになった。
年は20前後…目測…さらりとした金色の長髪に淡いブルーの瞳。
すらっとした長身にナイスなプロポーション。
容姿も端麗で、健全な男なら皆反応するであろういい女、てやつである。
名をアイン=バーグス。
”α級資格者”であり、オレの相棒でもある。
正式名は201型感情登録知性体DWSMM(ディダブルストゥーエム)変船『アイン』。
縦幅48メートル、横幅15メートル、総重量42トン、矢尻型の形をしたブルーメタリック色…
この色名を聞いてピンと来た者がいるだろう、そう、装甲がすべてネオラムである…の中型宇宙船
なのだ。
STS社でも唯一存在する…現在…と言われている、ネオラムのみで作られた船。
この特長すべき船は”全てが!!”ネオラムで作られているのである。
エンジンのみ、ネオラムで作られてる船は他にも数多くあるが、外装から小さな装備まで、まるま
る全てとなるとこの船しか存在しないのである。
まあ…それ故、この船は”変船”と呼ばれているのだが…
たしかオレは、ネオラムの説明時に『ある処理さえ行えば特殊のパルス波長によって形を変えるこ
とさえ出来る』と言ったと思うが、この『アイン』はその特徴を十二分に発揮できる様に建造されて
いる。
そう…この船は多種のパルス信号を駆使し、多種多様な物へと変形する事が出来るのだ。もちろん
武器も一瞬で作り出すことが出来る。
他に、一部分だけを分離させて1台の車を用意することだって出来るという便利さ。
では何故、『アイン』以降に同じ様な船は建造されないのか?
それは建造の難しさである。
その中でも溶接することが一番の難解であろう。
ぶっちゃけて言えば、ネオラムは溶接することができないのだ。
それゆえ、最初の段階からネオラムによる船の製造は暗礁に乗り上げた。
が──しかし、その製造をたった一人の女性が作り上げたのだ…それが『S.T.S』の会長でも
ある。
完成したのは初代・ネオラム船『ゼオ』──
正式名・感情登録知性体DWSMM/変船『ゼオ』。アインの兄貴である。
オレが”特別級資格者”になって最初の相棒である。
どういう魂胆でどうしてそうなったのか、どうもゼオの性格はオレの性格をコピーしたらしい…な
ぜオレなのだ?
そして、2代目・ネオラム船の『アイン』。この船…目の前の金髪美人である。
普段は船と別に持っている…目の前にいるこの姿…人型(女性)アンドロイドボディで船外とかで
行動をとっており…このボディは船から分離したネオラムの一部…性格はお茶目でいたずら好き。
過去、ゴキブリと遭遇してキレた…ぷっつんした…回数多々。
これさえなきゃ、ほんと、いいやつなんだけど…あ〜…いや…あの悪戯好きなところにも少々問題
はあるか?
趣味は、機体にはデリケートに撤し、くもり一つないボディにうっとりすること…これを趣味と言っ
ていいのか?思わず悟りを開きたくなる心境である…
「わかった!!…何かの必殺技か何かだ!」
クッキー片手にびしいっとオレのほうに指差し言い放つ妹の舞。
やっぱり…悟りを開きにいこうか…
年は15(オレとは双子)。
まだまだ、子供子供していて結構甘えん坊でもある。
栗色の髪の毛…ちなみに染めている…にオレと瓜二つのその笑顔。
実家(実世界)では香純舞という名前でアイドル歌手をやっており、人気度はトップレベル。
性格はお茶目でいたずら好き…つーか…アインの性格はこいつからコピーしたもの…何で…こいつ
の性格にしたんだ?会長……
趣味は料理と自負しているが…実は壊滅的なスーパーゲテモノ味…
例えで言えば………ドラゴンがそのまずさに驚いてレーザーブレスを振り撒いて世界を崩壊させる
くらいの味だろうか…うん…我ながらうまい例えである。
「舞ちゃん」
今居恵美が口を開く。
「これのどこをどう見れば必殺技なんですか?」
「え?違うの?めぐちゃん」
あたりまえだろ…
「違いますよ、どう見たってこれは…」
今の今まで地面に突っ伏していたままだった、オレは恵美の言葉を聞きながらゆっくりと立ち上が
る。
「昼寝をしてるとしか見えないじゃないですか?」
どぐしゃあっ!
失敗バクテン。
最後の三人目、恵美も、オレや舞と同い年。
で、腰まで届く艶やかな黒い髪を1本の三つ網状にまとめ、日本人にはない珍しい淡いブルーの瞳
が、揺れる前髪から見え隠れする。
まだまだ成長期ということもあってかプロポーションについてはとやかく言うのはやめておくが…
容姿端麗で、絶対、学園のアイドルになるであろう…いや…現にアイドル的存在になってるらしい
…ってくらいの美少女である。
オレとは通っている学校が違うのだが、ちょっとした事件が切っ掛けで彼女と知り合い、そして現
在は3級資格者として現在オレたちのチームで仕事をこなしている。
ちなみに彼女には兄がいてその人は現在チーフとしてSTSで働いていたりする…あと、その兄と
オレとは…あ〜…いや…今回とは関係ない話だからまた今度にでもしておこう。
恵美は運動神経も成績も抜群に良く、気立てが良くてお人よし。
その性格ゆえ、女子生徒にも人気があり、後輩たちに「御姉様ぁ〜ん」と呼ばれ、その子達から逃
げ回るのが最近日課になってるらしい。
学校では剣道部に所属しており、その実力は全国レベルと言われているが、本人は大会にでる意思
がまったく無いが…2ヶ月前に、全国ベスト8にはいる大学生を圧倒的な実力で勝利を手にしたとい
う奇妙な経歴を持ってたりする…ちなみにその大学生は男性だったり…
ただ…大会にでる意思がないと言うより……極度のアガリ症のため大会とかに出たくないんじゃな
いかな?
甘い物…特にケーキにはとことん目が無く、どんな状態でも『ケーキはあたしの命』とオトメチッ
ク(本人呼称)な決心を心がけているらしい…どういう基準でオトメチックっていう単語が出来上が
るんだろう…
何せ、家が家事の時、必ず持ち出すものは何?
と聞かれたら、真っ先にケーキと言い放ったほどの武者(?)なのだ。
ちなみに彼女から、ケーキをかっさらうと問答無用で火炎球10連打…以上…が飛び交うので注意
されたし。一度、舞がその被害?に会ったらしいが…
「恵美!全然、違うだろぉー!!」
「えー!違うのおおぉ!!!」
「やっぱり、必殺技!」
「いや…それも違うって…」
そこでオレは2度目のでっけーため息をはいたのであった。
つれてきた覚えのない舞の姿を盗み見ながら…
**** LINA ****
はあ〜
あたしは思わずでっかいため息を吐く。
ぽかぽかと暖かい春日和。
みなさんご存知、あたしこと天才美人魔道士リナと、相棒のガウリィ=ガブリエフはセイルーン行
きの道筋を周りの景色を眺めつつ足を運んでいた。
さらさらと流れる小川の音。
小鳥のさえずり。
まさしく言葉道理の春爛漫。
しかし、この景色とは裏腹にあたしの気持ちにはブルー的な色が入っていたりもする。
季節感を重んじるこのあたしがである。
…って言うか…何と言うか…今のあたしは春的な気持ちも無くは無いのだが…いや…はっきり言っ
て…めっちゃやたらと幸せ一杯の春と言った方が言いかもしれないが…
…じゃ…無くて…と…とにかく今のあたしの気持ちはブルーなのである!!
『………………』
てくてくてくてく…
はあ〜
再びため息。
「どうしたんだ?リナ?さっきからため息ばっかり?もしかして疲れてるのか?」
「…………………」
「だったら一日ぐらいさっきの街で休んでも…」
「…ガウリィ…」
「あ?何だ?」
「あんた…今の本気で言ってる?」
「おう。俺はいつも本気だぞ」
「………………はあ〜」
「おいおい…リナ…やっぱり疲れてるんじゃ…」
「ふんっ!」
めしっ!
問答無用の左アッパーが、ガウリィの顎を見事にとらえ、彼は勢い宜しく吹き飛ぶ。
「いてー、いてー!リナ!なにすんだ!いきなり!!」
「いやっかましい!あたしが疲れてるのは誰のせいだと思ってんのよ。あんたは!」
「忘れた♪」
…ほっほ〜…言うに事欠いてそんなことを言うのかな〜このガウリィくんは。
「忘れたからリナが教えてくれ♪」
…ほお〜…
「なあ。何で疲れてるんだ?リナ?」
そんな彼の目はしっかりと今の状況を楽しんでる目である。
「…ガウリィ…」
「なんだ?」
「本気で忘れさせてあげようか?」
「え?」
「………………………………………………………………………黄昏よりも暗きもの…」
「どわーーー!冗談だ!冗談!だから、竜破斬はやめてくれー!!だいたい、あんなリナの可愛くて
あられもない姿、忘れようとしたって忘れ…」
「でりゃ!」
めきょっ!
「……いたい…」
「い〜い?ガウリィ。今度言ったら殴るからね!」
「殴るって…じゃあ…今のは」
「ただの飛び蹴りよ!」
「…しくしく…」
…まったく…も〜(怒)
「ほら!泣いてないでとっとと次の街に行くわ…とと…おおっと…」
思わず小さな小石に蹴躓きたららを踏む。やば…本気で疲れてるわ…あたし…
ふえ〜ん(泣)
どれもこれもすべてガウリィのせいよ!
「仕方ないな…リナ…」
「ん?何?ガウリィ?」
ひょいっ
「って////////////ちょ////////////」
いきなり抱き上げられて、あたしは思わず赤くなり声をあげる。
しかもお姫様抱っこ!
「何すんのよ!ガウリィ!」
「何って…リナがなんか疲れてるみたいだからな♪俺がしばらく運んでやるよ」
「いやだあーー!おろせーーーーーー!!!!」
「いーから♪いーから♪」
「恥ずかしいでしょうが////////」
「いまさら恥ずかしがること無いだろ、リナ♪俺たち夫婦なんだし♪」
…う…そりは、そうなんだけどさ…
「だいたい、ガウリィだって疲れてるんじゃないの…えっと…昨夜は……その………何…回…も……
もごもご…」
「大丈夫♪大丈夫♪」
「そうじゃなくて!…ほらそれにあたし昔よりめちゃくちゃ背が伸びたから、その分、体重も増えて
ると思うし!」
「胸も大きくなったしな♪」
「じゃないでしょ!!」
すぱーーーーんっ
あたしのハリセンが響く。
「リナ。道はこっちで良いんだよな」
「良いんだけど…って!その前におろしなさいってばーーーー!!!!」
「やだ♪」
そしてあたしたちの旅はまだまだ続く──
<終り>
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………………………………………………………………………………………………………………………
………………………………………………………………………………………………………………………
…………
──じゃなくて!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
危ない。危ない。
ガウリィのせいで、今の状況を話すのを忘れるところだったわ。
「え?俺のせいかあ?」
「そうよ!」
…おっと……こほん…じゃあ、改めて自己紹介ね。
あたしは天才美人魔道士・リナ……………え〜と……その〜……ガブリエフ…なのです…(真っ赤)
「リナ。照れてる顔も可愛いぞ」
「るさいっ!」
あのダークスターとの戦いからはや1年半──
行くとこ来るとこトラブルに巻き込まれながら、世界中を旅する20歳の乙女。
誰が言ったか怯えたか世間体では………『盗賊殺し』……や……『ドラまたリナ』………とも……
呼ばれていたりしたのだが…この度、できあがったリナちんファンクラブ(なぜそんなものが)会員
番号No1…誰なのかは知らない…が『魔を滅する者(デモン・スレイヤー)』と言う名であたしを
呼び、それがあっという間に広がり、その名が世に浸透してしまった。
さて…そして、あたしと共に旅をし続ける者が1名ほどいるが、彼の名をガウリィ=ガブリエフ。
自称・天然おおぼけ剣士、及び…………………………………
…あたしの……夫です……
剣の腕は超一流。金色の長髪に整った顔立ち。
一見、気の良さそうな兄ちゃんに見えるが、これでもかあれでもかって言うぐらい解りやすい説明
をしてあげてんのに、8割方は理解できず、2割方は聞いていないと言う、何も考えていないクラゲ
の親戚。
こんなんでも光の剣の戦士の末裔でもあり、ダークスターとの戦いまでは光の剣を持っていたりし
ちゃってたんだけど、どこで捨てたか忘れたか…って、ホントはある人物に返しちゃったんだけどね
…今は持っていない。
そう言う理由もあってか、その後あたしたちは、彼の光の剣に変わる魔力剣を探しに旅をしてたの
である。
──が──世の中そう甘くはなかった。やはり、なかなかいい剣は見つからないのが実状。
近くで剣の噂があれば足を運び、うまい飯屋で全メニューを2制覇し──
西で噂を聞けば、盗賊いじめに生をだし──
東にあれば、山が一つ消え果てる──
北にあると、温泉を掘り当てて商売し──
南に行くと、アンデッドに求婚を迫られる──
え?あんたらはいったい何をやってんのかって?
うっさいなあ…ほっといてよ…全部が全部、偽の情報だったし…そのたんびにやっかいな事件に巻
き込まれるし…魔族は出てくるし…
あたしが何したって言うのよ!!
……………………………………………………………………………………………………………………
………………………………
…こほん…失礼…
──で──
ガウリィが腰にくくりつけている一本の剣にあたしは目を落とした。
まあ…そんなこんなの騒動の中でも何本かの魔力剣は見つけたわよ…何本かはね…けどさあ…
レッサーデーモンあたりを難なく切り倒した!
すごいっ!!
……と思ったら、なんでかゴーストあたりが全然倒せない……普通は逆なんだけどね…
また時には…
魔力を持たない者でもその意識だけでで炎の矢、位の魔法を発動するという剣。これもまた今まで
探していた物の中でもなかなかなものともいえる…が…炎の矢を3本ほど放つと、まるで疲れ果てた
ようにぐんにゃりとしおれ、それ以降は剣としての役割もたたない…いいのかおい…こんなんで…
だが、その中でも──旅を再開して2ヶ月──
なんと言うことか、なかなかとんでもない代物をあたしたちは手に入れてしまったのだ。
それは伝説にもなっている剣。
その名を──斬妖剣(ブラスト・ソード)──
その切れ味と言うと超一級…………を…さらに上回る…超非常識。
なにせ、切っ先を下に向けて落としただけでも、石畳の上に深々と突き刺さり、石を切り裂きなが
ら横倒しになる。
鞘に納めて一振りすれば、ぱっくり鞘が斬り割れる。
この鞘が木や革なんぞで出来ていたら、納める前には手応えも無く斬っていることだろう。
こう、すぱすぱすぱすぱ切れまくられると、危なかしいったらありゃしない。それ以前にどうやっ
て持ち運ぶのよ…こいつを…
まったく…ガウリィの脳味噌みたいに非常識な剣である(我ながら見事なたとえ)
今こそ、少し前に再会した竜の峰の長老・ミルガズフィアさんに切れ味を鈍くする細工をしてもらっ
て何とか事なきをえてるんだけど…それでも、まだ切れ味は非常識だったりするのよねぇ…
そうそう、本当か嘘かは定かではないのだが…
この剣についてはこんな話もある…しかもこの話は世間一般には知られていないらしく…
数十年前──正義と悪にわかれた二人の剣士がいた。
悪に染まった剣士が持つ剣の名は『斬妖剣』──
正義を貫く剣士が持つ剣の名は『光の刃』──
…この『光の刃』とは多分、以前ガウリィが持っていた光の剣ではなかろうかとあたしはにらんで
いる…
二人の技量は互角。
光が空を切り裂けば──
邪が大地を割る──
その戦いは日中夜続いた。
疲れ果て肩肘をつく、光の戦士。
同じように邪の戦士。
光の刃を杖代わりに立ち上がろうとする戦士。
斬妖剣を杖代わりに立ち上がろうとする戦士。
その時、斬妖剣は地面深くにまで、突き刺さった。
崩れ落ちる邪の戦士。
しかも剣は深々と突き刺さったため引き抜くことができず…………そのまま光の戦士に倒された…
……なんちゅうか…情けない結末である。
…世間一般には知れ渡らない理由がその辺にあったりして…
…と…まあ…ガウリィが持ってた光の剣に代わる代物探し、『斬妖剣』も手に入れて、その後のト
ラブルも無事乗り越え…あまり話したくないことなのでその辺は省くけど…その後、あたしはガウリィ
のリクエストに答え、新たな恐怖に怯えながらも故郷ゼフィーリアに帰還。
ガウリィと一緒に帰ってきたことにより…ねーちゃんには、冷やかされ、からかわれ、壁越しに聞
こえてくる…あたしとねーちゃんの部屋は隣同士である…「姉の私を差し置いて…」なんていう呟き
を夜な夜な聞かされ、とーちゃんはガウリィを「息子よ!」とか何とか言いながら毎夜酒を交わし…
そういやとーちゃん、ガウリィのこと知ってるふうみたいだったんだけど…、かーちゃんは「リナが
決めたことなんだし…」と言って後はいつもと変わりなし…いいのか?そんな簡単に割り切って…
そんなこんなで実家でしばらく平穏な毎日を送っていたのだが……えっと…今から2ヶ月前…あた
しが20になるかならないかの時……
////////////あぅ…えっと…////////////
ガウリィと結婚してしまいました…あははははははは…
「って…ガウリィ…何…Vサインなんかしてるの?」
「なんとなく」
まあ…結婚したって言っても、まだ籍を入れてるだけで…結婚式はやってないんだけどね…その辺
の理由はおいおい話すとして…
「…はあ…リナの花嫁衣装………(…きっと…可愛いんだろうなあ(泣))」
「…………………………………………」
あ…なんかその辺で妄想爆走中なクラゲが一匹…
「可愛いぜ可愛いぜ。俺のリナ!」
…山に向かって叫んでるし……百害有って一理無し…って言うし…ほっといたほうが賢明よね…
そして…今あたしたちはセイルーンへ向け旅をしている。
え?なんでセイルーンに向かってるのかって?それは…
「なあ…リナ…」
「ん?なに?ガウリィ」
「…俺たち、セイルーンに何しに行くんだっけ?」
ずべしっ!
「…ど…どうしたんだ?リナ…んなところで寝ると風邪引くぞ」
「誰が寝るかっこのクラゲっ!3日前、連絡が来たとき散々話したでしょうが…セイルーンのエル
ドラン先王が亡くなって、フィルさんが即位することになった。そこで是非ともあたし達にも即位
式の出席をお願いしたいって!アメリアから!!」
その言葉をきいて、ガウリィはぽんと手をたたくと、
「おお〜そうだったそうだった、覚えてる覚えてる…」
これである…さっきまで忘れてただろうが、あんたは…
「で…エルドランって誰だ?」
──ダークアウト──
…お願い…神様、こいつの脳みそ何とかしてえ〜(泣)
………………………………………………………………って無理だろうな…絶対…
たぶん、この連絡はゼルにも届いているはずである…あの子が一番合いたがっている人でもある
しね…
いつもどおり大ボケガウリィをスリッパではたいていた時。
アメリアから手紙が届いたのは…セイルーンのエルドラン先王が亡くなり、フィルさんが即位す
ることになったという知らせが…
この連絡によって、今回の即位式はかなり盛大な式になることは明白だ。
なにせアメリアの友人であり、フィリオネル新王にも面識があり、かつてのお家騒動での尽力な
功績…まあ…ちょぴっとセイルーンのある一角を吹き飛ばしちゃった事もあったけど…
それにもまして──
今や『魔を滅する者』として名を発している大魔道士である、このあたし。
そして『魔を滅する者』の相棒であり、なおかつ『光の戦士』の末裔であるガウリィ。
『魔を滅する者』と共に戦った魔剣士にして、あの五大賢者の一人・赤法師レゾの血を受け継ぐ
者、ゼルガディス。
──という、ネームバリューバリバリの3人が出席するとなると、即位式に箔がつくてー物だ…
…ちょっと…誰よ…別な意味で泊が付きそうって言ったのは!
「けどよ…リナ」
「うん?」
「アメリアのヤツ。おまえさん見たら驚くんじゃないか。背、かなり伸びたもんな…胸も大きくなっ
たしよ…というか…めちゃくちゃ…スタイルいいし…」
「…う…うん……まあ…ね……」
…な…なんか…ガウリィに改めていわれるとやっぱり照れる…
この時期があたしの成長期だったのか、実家ゼフィーリアに帰ってから急に延び始め出した。
前までのあたしはガウリィと比べると彼の胸よりちょい下ぐらいだったが、今ではガウリィの肩
を超えるところまでに達している。
この1年でここまで延びるなんて、はっきし言って思ってもいなかった…まあ…うれしいことは
間違いないんだけどね……
「ま…昔のリナのままでも俺は好きだけどな♪」
ぼぼぼぼぼふっ//////////
「なっなっなっなっなっなっな/////////っな、何、いきなりさらりと言ってんのよ!ガウリィはっ!!!!」
「あ〜?何、勝手にゆだってんだ?リナ?俺は思ったことを言っただけだぞ?」
「だから!そういうことをさらりというなっていってんのよおおぉぉ!!!」
「はいはい(はあと)」
くうぅ〜…面白そうな顔をしてえ…
「…そんなに…あたしが赤くなるのが面白いかってーの?…」
ぼそりっ
「そこがかわいいからな♪リナは♪」
「にゃああ!!!!なっなっなっなっなっなっなっ何!あたしの独り言に答えてんのよおお!!!!あんたは!!!!」
「いやああ。聞こえちまったからなあ♪」
「うにゃああああぁぁぁぁ!!!!全部忘れろおおおぉぉぉ!!!!どりゃぐしゅれいぶう/////」
ぱふっ
しかし…言葉がどもってばかりのあたしのその力ある言葉では、ちゃんと発動することはなかった──
それもこれもガウリィのせいよおおぉぉぉぉーーーーーーーーーー!!!!!!!!!
セイルーンまであと3日って言うところだろうか──
ざわっざわっざわっざわっざわ…
あたしたちが現れた時から、店の中にいた連中は騒ぎ続けていた。
ここは大きくもなく小さくもないちょっとした街。
セイルーンに結構近い街でもあるので、簡単にセイルーンの情報を手に入れることだってできる。
その一角にある、ある飯屋兼宿屋──あたしとガウリィはこの宿に泊まろうと思っていた。
が、しかし、あたしに襲い掛かったのは最悪な恐怖の一言。
「えええ!!!!!!1部屋しか残ってないいぃぃ!!!!!!」
「…は…はひ…」
今のあたしの声にとても驚いたのだろう。宿屋の受付をしていたネエちゃんが身を引いていた。
…わいわい…ざわざわ…がやがや…
『…なあ、似てないかあの二人…』
『…ああ…似てる似てる…』
『はああ〜い。お客様、追加の品で〜す♪』
『おお…って…から揚げなんて俺達は注文してないぞ…しかもなんてカラフナな…』
『これはサービスなんですよ♪』
『…そうか…まあ…それなら…もぐ……………………………………………………
ぐっはああああああぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!』
…と…やけに騒がしい飯屋………あら…なんか人が溶けてるけど………気…気のせいよね…
「1部屋しかないのか?」
「ほんとに?ほんとにないの?」
「ええ…すみません、お客様…」
…まじ…
ふえ〜ん(泣)
また部屋がガウリィと一緒じゃ昨日と同じことの繰り返しじゃないのよおぉ。
「しゃ〜ないな…一つしかないんじゃ…そこにしようぜ…」
「…で…で…で…で…でも…でも…でも…」
「んじゃ…その部屋で」
「って!ガウリィ!かってに仕切るなあ!!」
ざわざわざわざわ…
更に店内が騒ぎ始めた。
『……ガウリィ?……』
『……まさか……』
……ん?………
「安心しろって…いくらなんでも俺だって見境ないわけじゃないぞ。俺はソファか床でいいから」
「とか…何とか言って…昨日も同じ事を言ってたの忘れたわけじゃないでしょうね…」
「…ふっ…」
「…ガウリィのくせに何遠い目をしてるのよ!」
「はい。これが部屋の鍵です…あ…安心してください。部屋はダブルベットルームですから♪」
「解った」
「…だ!だぶりゅーーー!!!!!」
にゃあああああああぁぁぁぁ!!!
ますます、最悪じゃないの!
「どうした?リナ?行こうぜ」
そういいながらガウリィがあたしの手を引っ張っていく。
どおぉぉぉぉっ!
『…リナ…』
店内に更なるざわめきが起こる。
なに?
「でも♪リナの可愛い姿を見たら、また見境なくなるかも知れないなあ♪」
…そう言いながら本日何度目かの遠い目をしまくるガウリィ…って…をひ…
「ごゆっくりぃ〜」
にっこり、営業スマイルで受付のネエちゃんが手を振ってくれる。
「ごゆっくりってなによ!ごゆっくりって!」
「…まあまあ…」
「いやあぁ〜!ガウリィ離してぇ!!あたしの安息の日々!カムバックーーーーーー!!!!!」
翌日の朝──
「むわ〜ったくあんたはほんとに何を考えてるのよおぉ!!」
そう言いながら鳥の唐揚げさんを口に放り込む。
いつもならおいしい朝ごはんにご機嫌なはずのあたしだが、今日ばかりは機嫌が悪かった。
「いや〜リナがめちゃくちゃ可愛くってさあ。ついな♪」
「////////あう////////って……言っても…限度ってものがあるでしょうが…限度っ
てものが////////」
「だってなあ…リナがあんな甘えた声を出すんだぜ。もう理性がとまらなくってよ♪」
「////////ううぅ////////あたしがやめてっていっても全然やめてくれないし(泣)」
「それがまた可愛くってよ♪……あっ、すいません!Aセットのおかわり追加!」
ざわっざわっざわっざわっざわ…
なぜか店内は大勢の人、人、人、で溢れていた。
…で…なぜかそのほとんどの人たちが、じっと…あたし達を見ているのだが…まあ…
一人は絶世の美女。
一人は美男子(いかに頭がスライムでも)。
そんな組み合わせのカップルがいると、やはり気にはなるのだろう…
『…やっぱり、似てるよなあの二人…』
『…ああ…似てる似てる…名前も…らしいし…』
……って…かんじとはちょっと違う…はて?いったい、なんだ?
手配をかけられたときの雰囲気にも似てるが……けど…ここはセイルーンの領域内。それならば、
あのアメリアの目に真っ先に止まり「こんな手配書、嘘です。正義の仲良し4人組がこんなことする
はず…いや…リナさんなら何となく…いえ、やっぱりあるわけありません」とか何とか言って手配書
を破り捨てると思うし…途中の「リナさんなら何となく」って所、ホントに言っていたら体裁を加え
ておかなければ…
「…はあ…やっぱり…リナと結婚してよかったよなあ…」
そんなことにはミジンコ並にも気付いていないガウリィは、しつこい位遠い目をしながら物思いに
ふけ、前におかれた料理の皿では一生懸命、皿の中のピーマンをより分けている。
「…ピーマンぐらい食べなさいよね…ガウリィ…」
「えー…でもよー…ピーマンって苦いじゃん…」
…子供か…あんたは…
ざわざわざわざわ…
更に店内が騒ぎ始めた。
『……やっぱりガウリィ?……』
『……本当かよ……』
……はて?……ま、いっか……考えてもしょうがないか…
「食うかリナ?」
ガウリィがそのピーマンをあたしに食べさせようとする。
どおぉぉぉぉっ!
『…リナ…』
店内に更なるざわめきが起こる。
なんだなんだなんだなんだっ!
あたしたち、なんか変なこと言ったか?
「ほ〜ら〜ほ〜ら〜…リナ!ピーマンだぞお〜」
にこにこ顔でピーマンを串刺しにしたフォークでぴこぴこ上下にふって遊ぶガウリィ。
…をひ…これだけ騒がれてもまだ気付かんのか、おまいは…
「…お…おまたせしました…ご注文の…A…Aセットです…」
ガウリィが注文したAセットを運んできたウェイトレスのねーちゃんは、その2つをテーブルにお
くとしばらくその場所でそわそわしながら無言で立ちつくした。
?
どうしたのだろうか?
ごくっ
姉ちゃんが喉をならすと、
「あ、あの…す、すみません。じ、実は一つ、お尋ねしたいことが…」
『?』
ウエイトレスの姉ちゃんが息咳きって口を開く。
「お二人方はもしや、リナ=インバース様とガウリィ=ガブリエフ様では…」
『え?』
あたし達はそのセリフにしばし呆然。しかも様付け?
そして店内が沈黙をする。
全ての人たちがあたし達の返事に注目しているみたいだった。
──手配書──いや、なんか違うか…あたしはありありといぶかしげな表情をしながら、
「…ええ…………そだけど…」
「ああ…確かに俺はガウリィ=ガブリエフだ。けど……リナはもうリナ=ガブリエフだけどな♪」
…こら…一言余計じゃ!
「って…なあ…リナ。俺たちこの人と合ったことあるけか?」
「ないわよ」
「あ…あのリナさんといえばあの…『魔を滅する者』というリナ=インバースさんですよね!!」
「え…えっと…」
「ですよね!」
「う…うん…」
おおおおおおぉぉぉぉっ!!!!
そのあたし達の返事に、この店に入って一番大きなざわめき…いやもうこれは歓声と言うべきか…
そして津波宜しくほとんどの人たちがこちらに押し寄せ、あたし達の席を中心に囲い込んだ。
「…あわわわわわわわ…」
「ななななな…なんだなんだなんだ!リナ!いったいみんなどうしちまったんだ!」
「…あ、あたしが解るわけないでしょ!…み…みなさん落ち着きましょう…ね、ね、ね(はーと)」
一人の女性があたしの目の前にまで顔を近づけ…なにかその目は微妙に潤んでいたりするのだが…
「あああああ〜ほ、本物のリナ=インバース様。あたしもう大感激ですう〜」
と言いながら手を胸元で組む…
「…へ?感激って…」
「…あぁぁ〜…もう死んでもいい…」
「…あのお…」
「…しあわせ(はーと)」
…は…はあとをまき散らしながら、あっちの世界に行っちゃってるよ…この人…
「え?なんだ…」
一人のがたいのいい傭兵らしいオッちゃんがガウリィの肩をたたき、それにガウリィは反応してい
た。そして、
「うおおおぉぉぉぉぉおー!光の剣士様に俺さわっちまったよ。もうぜってい手を洗わん」
肩をたたいたその手を天にかかげ、涙流して吠えまくる。
いや、一生洗わないってのはどうかと思うよ、あたしは。
「くうううぅぅぅぅ〜やっぱしリナちゃんは可愛い〜」
…え?か、可愛いって?
「ほんとほんと、すげー可愛いー!」
なんか次から次と見も知らぬ男どもが、あたしを見て「可愛い」という単語を連発してくれるが、
この勢いに押されて何が何だかもう訳がわからない。
「リナ様、ガウリィ様」
…あ…ウエイトレスの姉ちゃん。
「あたしお二人方の大ファンなんです。ぜひ、サインを!!」
突き出される一冊の本とサインペン。
え?大ファンって?…いや…ちょとまて…いくらファンだからとはいえ、あたし達の顔をなんか知っ
てる風なんだけど…どこで知ったんだ、おまいら…
「何いってんのファンていうのはねえ、プロマイド全シリーズに写真立て、等身大ポスター、なんか
を全て揃えていなけりゃだめなのよ!」
と彼女の反対側にいた女性が叱責する。
「そのくらい持っています!!」
プ、プロマイド?写真立て?等身大ポスター!!…をひをひ…なんなんだそひは…
「ふっ、あまいな…」
いつの間にかあたしの隣の席に座っていた一人の男が髪をかき上げながら言い、一本のバラをあた
しへと差し出す。
…あ、どうも…
「…私ならそれに限定品の4人全員が書かれた超特大ポスターに、今では入手困難なぴこぴこリナちゃ
んを加えるがね…」
…げ、限定品…超特大…ぴこぴこリナちゃ…あ!これはかすかに覚えが…
……てっんなもんはどうでもいいよの……これって一体全体、なにがどうなってんのよーーーー!!!!
既に日は沈み、街の店にはちらほらと灯りがつきだした頃である。
「…ぜい…ぜい…ぜい…ぜい…な、何とか逃げ切ったわね…」
「…な、なんとかな…」
あたしとガウリィはとりあえず街の裏道で珍しくへばっていた…だけど…だけどそれ以前に………
………………………………………………………………………………………………
朝ごはん10人分しかご飯食べられなかったのよー(泣)
どっぱーんっ!
津波をバックに涙流しつつ拳を握りしめるあたし。
お昼ごはんも食べれてないぃぃぃぃ(泣)
「…何やってんだ?リナ?…」
「………………」
……む…むなしい………
…ううううぅぅぅっ……おにゃか空いたよおおぉぉ………
あの後、あたし達は延々と1時間、ファンの人たちに握手を、サインを求められた。
いつものようにあたしが呪文の一つ唱えて沈黙させればいいのだが…いや…一様、3、4回ほどやっ
てみたんだけど…ただあたしたちがここにいますよーって知らせているだけのようで、魔法で黒こげに
なった人数の3倍が別なところから、所狭しとやって来て増えてしまうだけだった…
そこで否応なしにあたしとガウリィはその場から退散したってわけ…そしてその間中、ファンという
やからに追いかけ回された…そして今に至る。
…くそお…なんかよく考えたらあたし達が何で逃げなきゃならないのよ…だんだん腹がたってきたぞ…
「ん?リナ。その手にもってるのは何だ?食いもんか?」
「へ?」
そのまま手をみる。
それは一冊の本だった…確かこれって…あの時のウエイトレスの姉ちゃんが渡してきたような…思わ
ず持ってきちゃったんだろうか?
『デモンスレイヤー』とタイトルがついている…デモンスレイヤーって?
その本をめくってみる。
「…こ…これは…………」
<−−−−−−−−−−−−−−
とても心地いい夜風。
冬もまじかなこの季節。
寒いくらいなのかもしれないが、月の光に照らされた2人にとっては関係なかった。
見事な金色の長い髪の美青年──
ほぼ赤に近い栗色の美少女──
青年の胸に少女は頬を寄せ、青年は優しく少女を抱く。
少女にとって大きくて暖かく、とても安心出来る場所。
青年にとって小さくいとおしく、絶対に離したくない存在。
寄り添う二人は、互いの体温を感じあう。
少女は嬉しかった。いつ何時でも子供のように接していた彼が、自分を一人の女性として認めてく
れたから。
どれだけの時を費やして2人は今にいたったのだろう。
短いようで長い道のり。
最初に、出会ったのはある意味偶然。
それがいつしか、自分の背を安心して任せられるようなパートナーへと変わり、隣に居ることがあ
たりまえのようになっていった。
笑いあって──怒って──泣いて──失いかけそうになって──いろんな旅をして──
「…リナ…」
「…何?…ガウリィ?」
彼のその呼びかけに、胸の中でうずくまっていた彼女の顔が持ち上げられ、青年は思わず驚いた。
青年がいつも見つづけていた、赤く強い光を放っていたはずのその瞳は、今では、美しくも儚く壊
れそうに見えたから。
少女も驚いていた。
今の彼女にその答えは出せずにいたが、いつも見つめつづけていた、空のように澄んだ青い瞳が違っ
て見えていたから。
その瞳に…新たに見つけたその瞳に…心を奪われ、思わず見詰め合う二人。
開け放たれた窓からは、静かに優しい風が迷い込み、金と赤の髪をなで、2人の祝福を祝うかのよ
うに舞った。
「…リナ…愛してる…」
「…あたしもよ…ガウリィ…」
自然に湧き出したその言葉。小さくも優しい。だが、強くもある。
そして2人の瞳が重なり、吸い寄せられるように──
−−−−−−−−−−−−−−>
「………………」
長〜い、長い沈黙が続く。目がその本から離せない。
「………………」
さらに続く沈黙。
「……そしてっ…………って…だあああ〜なんなのよこりわああ〜」
顔を真っ赤にしながら本を地面にたたきつける。
なんかまだ…"おまけ"とか書かれて続きがあったようだが…んなこたあどうでもいい…
「…お…おおい…どうしたんだ?リナ?」
あたしの剣幕に驚きながらも、恐る恐るたたきつけられた本をガウリィは拾おうと…
「見るなああぁぁぁっ!」
ぼうんっ
…する前にあたしの魔力弾でそれは消滅する。
…じょ…冗談ではない…こんなのをガウリィに見られた日にゃあ…また…暴走して…今夜あたりな
んぞ……ぞぞぞぞぞぞぞ…
これは何が何でも阻止しないと!
「…リ…リナ?」
ぎろっ!
ガウリィをにらむ。
「…い…いやなんでもない…」
その思いにガウリィは黙ってくれた。
「…ま…まあ…とにかく…あれっていったいどういうことなんだろうな…」
「…し…知らないわよそんなの…」
まだ、何となく顔が赤い気が…
少なからず、あそこの食堂で聞いたことは…あたし達4人(あたしにガウリィ、アメリアにゼルガ
ディス)のプロマイドに写真立て、ポスターにゴーレム印の『ぴこぴこリナちゃん』シリーズ、リナ
ちゃん・アメりん・ガウくん・ゼルやんの各種大中小のぬいぐるみ、子供達に大人気・『爆裂戦隊・
ドラグレンジャー』の人形&変身セット(なんじゃ…そりは…)……etc,etc…
それに加えて…「リナ様がお書きになられている自英伝。毎週欠かさずに読んでいますわ!」……
…って……あたしはんなもん書いた覚えはない…
…そ…それがさっきの本であるということは用益にわかる。
…し…しかも…さっきのは…あたしとガウリィの初……ごにょごにょ……
…な…なんで?
なんで…あんなのが…販売されて…てっ…うだああああぁぁぁぁぁぁぁーーー!!!!!
思い浮かべて再び顔が赤くなる。
「…リナ?」
ガウリィがいぶしかげな顔をする。
朝ご飯中に起こったあの事件…あの時あたしの耳には…ダークスターという単語を聞き逃さなかっ
た。さらにいろいろ聞いているうちにわかったのが…
あたしとガウリィ、ゼルにアメリアが巻き込まれた、ダークスターとのあの事件…
あの事件が、どうやら誰かの手によって小説になったらしい。
1年半ほど前である──あたし達は、竜神スィーフィードのお告げにより、フィリアと言うスィー
フィードの巫女であるゴールドドラゴンに出会い、異界の魔王・ダークスターと一戦を構えることに
なってしまった。
まあ、結局はこうして、今でも無事に旅を続けているのだから、その事件は片が付いているのだが
…それが今回の騒動の発端だったのだと言えなくもないのだろう…
今更ながら思うのだが、セイルーンに近づくたびに、食事をとっている最中やら街の中を歩いてる
時やら、どうも周りの人々のあたし達を見る視線がどんどんとおかしくなっていたのだ。
最初は、またまた手配書なんかがかけられたのかと思ってたんだが、そうであれば今頃、自称正義
の味方ご一行様がやってくるはずだし…それが違うとなると…この絶世の美人、リナ=イン……ガブ
リエフ……に目を奪われたな!っと勝手に決めつけたのが原因でもあるんだけど…
どこからどう話を聞きつけたのかは知らないが、白魔術都市セイルーンを中心にしてあのダークス
ターとの戦いの事実が白日のものに曝されたのだ。
そう、それがよくなかった。
つまりである…あたし達の活躍が一般の人たちの知れ渡ったのである。
それからがまた凄いことになった。
あの話が誰かの手によって小説になってベストセラーになったのを皮切りに、あたし達の生写真が
爆発的に売れまくり、ポスターやらプロマイド、大中小のぬいぐるみ…等々…のグッツまで販売され
る。
リナ=インバース宗教が出来たり、男の間では金髪のサラサラストレートが流行のヘアーファッショ
ンになったり、結構有名だった大悪党が突然正義に目覚め無償で盗賊狩りをしてるとか(…もったい
ない…)、魔道士協会に自分を石人形と邪妖精のキメラにしてくれとやってくる者がいたとか…
もう、てんやわんやの大騒動。
と、言うわけで今やあたしたちは一躍有名人になってしまったわけ。
……………目立ってるだろうな……ゼルも……特徴ありありだし……今頃、
「…目立ってる…目立ちまくっている…」とかぶつぶつ言いながら、あっちの世界に行っちゃってる
とか……ちと、見てみたい気もする…とはいえ何であたしまでがこんな目に…
ぐうきゅるるるるるううううぅぅぅ〜
と怒りをあらわにしようとしたあたしの意思とは裏腹に思わずお腹がなってしまった──なんては
したない…
「腹減ったな…リナ…」
…言うな…ガウリィ…
「ゆっくりと飯が食えるところがあればなあ…」
ないからこういう状況におちいってるんでしょうが…
ごきゅるるるるる〜
今度はガウリィのお腹が盛大になる。
「腹減ったな…」
だから言うなってば…この乙女のあたしが我慢してるんだから、大の男がぐちぐち言うんじゃない…
「おやおや…こんなところでどうなさったんですか?お二人さん?」
その声は唐突──
その声に慌ててあたし達は声の方へ振り向く。その先には上空でたたずむ黒影一つ。そいつは──
「お久しぶりです。リナさん。そし…」
いつも絶やさぬにこにこ顔に──
「炎の矢」
──黒髪のおかっぱ頭──
「…てガウ…わわわ…」
ちいいぃぃぃー…よけたか…
──そして黒い神官服を──
「…ち、ちょっと、リナさん、いきなり何をするんですか!」
──まとった獣神官ゼロスだった。
「あ、気にしないで(ハート)たんなる憂さ晴らしだから」
あたしは手をぱたぱた仰ぎ、
「…あのですねぇ…リナさん…僕のこといったいなんだと…」
「たんなるマト」
きっぱり言い放つ。
「…しくしく…」
その辺の家の壁に『の』の字を書くゼロス…いじけるなよ…
この一見、何が楽しいのかわからんくらいに、四六時中にこにこ顔の兄ちゃん。こう見えても赤目
の魔王の腹心、獣王ゼラス=メタリオムに仕える高位魔族である…ちなみに強引な交渉にはめっぽう
弱いというのは実証済み。
「…ゼロスいつまでいじけてるんじゃないの…それよりも…なんか用?って言うか用があるからあた
したちのところにやってきたんでしょ?」
そのあたしの言葉に何事もなかったかの様にすくっと立ち上がったゼロスは…やっぱひ嘘泣きかい…
「ええ…実はですね…」
『お待ちなさい!!』
と言いかけたゼロスの声をふさぎ、朗々と響く──
<続き 2回目へ>