あんだ〜ば〜EX ラジオドラマ 〜1回目〜
…ざわざわざわざわ…がやがやがやがや…
「…す…すごい人だな…」
「…ああ…」
ガウリィの言葉にゼルも頷く。
「いや〜オレよ。こんなに人がいるところで劇をやるなんて初めてだぜ」
「なに言ってるんですかガウリィさん。あたしたちはすでに経験済みじゃな
いですか」
「え?そうだっけ?」
「…ほら…コピーレゾとの戦いの前に…」
「…え〜と…」
「アメリア…」
あたしは彼女の肩をぽんと軽くたたく。
「ガウリィがそんな些細なことを憶えていると思う?」
「…………でしたね…」
そしてあたしの言葉にアメリアが深いため息と共に納得した。
ここはセイルーンでも1番大きい劇場──
その垂れ幕のかかったステージの一角であたしたちは観客席を眺めていた。
その数、うん百…ハッキリ言ってセイルーンのほとんどがやって来たんじゃ
ないかなって錯覚させられるぐらい…もちろん、この国の人口とで比べたら、
ほんの1部でしか無いんだろうけど…
実はここ最近、あたしたちが放送している【スレイヤーズラジオ】と裏番
組==あんだ〜ば〜EXのスタッフたちが、「ここらで新しい企画を!」と
会議を行ったところ、あたし達の出演よる演劇を行うことに決定された……
はた迷惑な…
そんな訳で、今まさしく、只今を持ってその劇が始まるのである。
そん中でも一番だだをこねたのはやはりゼルだったりする。目立つのがめ
ちゃくちゃ嫌いだもんね…あいつって。
え?よくこのあたしがこの劇に出る気になったな、ですて?
だあれが、こんなしちめんどくさいもん出る気になるもんですか。あたし
だって、ゼル同様嫌だったわよ。
…けど…事情があんのよ…事情が…
──ぴい〜ん、ぽお〜ん、ぱあ〜ん、ぽおん〜──
『──皆様、本日は演劇・”スレイヤーズ サーガをつくろう”においで下
さりありがとうございます。尚、会場は大変込み合っておりお隣に開いてお
られるお席は、お詰め下さるようご協力、お願いいたします──』
──ぴい〜ん、ぽお〜ん、ぱあ〜ん、ぽおん〜──
『──続けて、本日の演劇・”スレイヤーズ サーガをつくろう”のご紹介
をさせていただきます。
出演・リナ=インバース、ガウリィ=ガブリエフ、ゼルガディス=グレイ
ワーズ、アメリア=ウィル=テスラ=セイルーン、獣神官ゼロス──』
ざわっ…
ゼロスの名前が出た瞬間、会場内にざわめきが起こった。
…まあ…人間達が企画した演劇の中に本物の魔族が出てくると知れば、普
通は騒ぐわな(他にもいるのだが…)
だから、あたしは名前は出さない方がいいって言ったのに、面白がったゼ
ロスが「絶対に出して下さいねって」アナウンスのねーちゃんに頼むんだも
んなあ…あのにこ目で迫られても怖いもんがあるし…
更にアナウンスは続く。
『──盗賊A、盗賊B──』
…盗賊…って、んなのがでてきていいのか?
『──市民155号…あんだ〜ば〜EX特別出演、香純舞、田中達也──』
「…でっ…何でオレまで出なきゃならんのだ…?」
半眼状態であたし達の後ろから現れる達也。
彼の名は田中達也。あたしたちが放送している【スレイヤーズラジオ】の
裏番組==あんだ〜ば〜EXのレギュラー。
若干15歳の美少年である…間違っても女の子と言わないように…半殺し
の目に合うわよ…
「期待してるわ、達也(はーと)」
「今朝いきなり…脚本を渡されて…どこをどうやってがんばれってんだ?こ
んな短期間で憶えられるわきゃなかろうが…」
「まあまあ…いいじゃない…細かいことは…そっちのけで…それに文句言う
んなら…」
アナウンスが聞こえてくる方へ指を差し、
『──脚本・アイン=バーグス──』
「…に言いなさいよ。あたしは関係ないのよ」
言い放つ。
「さっき小耳にはさんだんだが…どっかの誰かさんがオレを出すように、ア
インに脚本の修正を頼みこんだやつがいたらしいんだが…」
「さあ。みんな準備は良いわね。そろそろ始まるわよ!」
『おうっ!』
あたしの言葉に元気よく返事を返したのは舞と雪菜だけ。
「…逃げたな…おまいら…」
逃げたんじゃなくて…聞いてないだけ…って…おまいら?…
「よおおーし!がんばるぞおおおぉぉーーー!!!!」
気合いを入れる達也の妹・雪菜──但し、達也から目をそらし──
「はあ〜…今日はいい天気よねえぇ〜」
上を見上げのんびりのほほん、紅茶をすする達也とは双子の兄妹・舞──
ここ、室内なんだけど──
『──演出及び監督──』
瞬間、その言葉で思わず身が固くなる。
『──ルナ=インバース──』
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…あたしがこの演劇の出演を断れなかった理由…解ってくれただろうか…
そう…それは一途に…ねーちゃんが怖かったからである。
『──第一幕──プロローグ』
幕が上がる──
それと同時にあたしはステージの中央までゆっくりと歩き出す。鼻歌混じ
りに。
瞬間──
『リっナっちゃあ〜んっ!』
会場からリナコールとなる物が送られてくる。
その後、上部スピーカーから女性の声が流れ始めた。その声は先ほどのア
ナウンスのねーちゃんの声ではなく、あたし達の知った声、アインだ。
『──ある所に…あ!お金が落ちてる!!』
「きゃあーー!どこどこどこどこ!!!」
『──冗談です──』
「ちょっと、アイン!」
どっ!
会場内で笑いが起こる。
…う〜…いくら芝居とはいえ恥ずかしいよお〜
『こほん…失礼しました──まあこのようにお金には特に執着する、世間一
般でもぶっ飛んだ人でもある、一人の少女が森の中を静かに歩いていました。
その彼女は、まだ年端もいかない年齢ながらも、並ぶ者のない、強力な魔力
と才能を持ち合わせていた、天才美少女魔道士──』
そしてそのナレーションが終わると同時にあたしはステージの中央まで歩
き、ふとっ立ち止まる。
『──その少女の名をリナ=インバース──』
どっわああぁぁぁーーー
会場から見事な喚声、指笛、『リっナっちゃあ〜んっ!』のリナコールも
再び、湧いてくる。
…う〜…めっちゃはずかひい…
『──そんなある日、彼女はタチの悪い盗賊に絡まれてしまいました』
ここであたしが現れた方向とは逆側から盗賊の格好をした、にーちゃんら
が数名登場してくる。あんまひ、すごみのない顔つきだが役者不足のためこ
のあたりは仕方がない。
『…まあ…と言っても趣味の盗賊いじめの結果だがな…』
『…自業自得とも言う』
『その通りです!』
どべっ
突然、割り込んできた知った声の3人のナレーションに思わずあたしはず
るこけた。
『…ちょ…ちょっとみなさん。勝手にナレーションに割り込まないでくださ
いよお…』
『まあまあ…』
『それに…ガウリィさんはすぐに出番でしょうが。何をこんなところで油打っ
てるんですか!』
『あれ?そうだったっけ?』
…忘れるな…
『…まあったく…何を考えてるんだか…』
『って…お前さん少し前に、いつでも良いからナレーションに割り込んでく
れって3人に頼んでなかったっけか?』
突如、達也の声が割り込む。
ぬうわあに?
『…こほん…失礼しました…え〜っと…しかし、少女にとっては…』
『…逃げたな…』
『…しっ…達也、邪魔しないで……少女に…少女にとってはこんなハッキシ
言って、そんな連中など敵ではありませんでした。ところが──』
ここでガウリィ登場。剣を抜き肩に担ぐ。
…よくまにあったな…
『──そんなこととはつゆ知らず、一人の…クラゲ王国の王子…』
どしゃあっ
思った通りにガウリィがおもいっきしこけた。
『…って…え?ちょっと…誰よ。クラゲ王国の王子なんて台本に赤ペンで書
いたの?』
『オレはしらねえぞ』
『あたしでもありません』
『…しらん…』
『…え?誰でもないの…おかしいなあ…誰が書いたんだろう…』
実は…あたしだったりして…
『まあ…半分はあたってるからいいか…』
…あ!ガウリィ…角でいじけてる…
『…王国の王子兼、剣士がか弱い女が襲われている。と、勘違いして、少女
を助けます』
突如、始まる盗賊とすぐに復活したガウリィのチャンバラ。もちろんあっ
という間の、ガウリィの勝利として終わる。
『彼としては、もっと、彼好みの大人の女性が良かったのですが、まだ、子
供とも言える年齢の少女をここで放り出しては危ない。そう、判断して、少
女に旅の同行を申し入れます』
あたしとガウリィがステージの真ん中から右方向に足踏みを始める。
と、それと一緒に、どでかい紙に書かれていたバックの風景画が動き出し
た。
『それが…長い長い物語のはじまり──』
バックの風景画に魔王1/7が、レゾが、魔族達が現れる。
『魔王に一筋縄じゃいかない魔道士、魔族。もう、人生、何回、何十回にも
繰り返しても出会えぬだろう事件に携わり、何度ともなくピンチを後に出会
うことになる2人の仲間、キメラにされてしまった魔剣士──』
ゆっくりとゼルガディス登場。
『セイルーンの熱血お姫様──』
アメリア登場。空に指さし。
「正義は必ず勝つのです!」
『と共に切り抜けて行きました。そしていつしか少女は成長し──』
瞬間、ステージ内のあちらこちらに魔法陣が現れる。
会場からどよめき。
そして数体のアンデットがが現れた。
ゾンビにスケルトン、ゴーストに…数は多種多様。
もちろん、これは予定どおりのことである。
「炎の矢っ!」
あたしは間髪入れずに1匹のゾンビに向け呪文を放つ。
「おおっりゃああぁぁー!」
雄叫びを上げ、相手を光の剣で一刀両断するガウリィ。
「烈閃咆」
ゼルが叫ぶ。
「霊王結魔弾(ヴィスファランク)」
呪文を発動させ、魔力のこもった拳でスケルトンを殴りに出るアメリア…
ただ…ゾンビの方へは全体に行かない……まあ…わからなくもないわな…そ
の呪文でゾンビを倒すにはねぇ…
「…にしてもだ…」
「ん?何?ゼル…っと魔風!」
殴りかかろうとするスケルトンをはじき飛ばす。
「おわあああっ!!」
…あ…はじき飛ばしたスケルトンがガウリィに…
「…いくら何でも…劇で本物なんて使うか普通…」
ゼルが小さい声でぼやいた。その声はステージに立つあたし達にしか聞こ
えない。
「…うちのねぇちゃんって完璧主義者だから…それにゼロスならこんなのお
手もんだし…」
「…確かにそうだが…もし会場の方に被害が出たらどうするつもりなんだ…」
「…結界を張るってゼロスのヤツ言ってたら大丈夫なんじゃない?」
「…信じるのかあいつの言うことを?」
「…あいつはウソだけは言わないし…」
ここで私語を止める。最初のセリフ。劇内での心配事の1つ。クリアでき
るのか…
あたし達はガウリィを盗み見ていた。
ガウリィが何匹目かの敵を切り倒し、あたしの背と自分の背を合わせると、
「どうする、リナ。こう次から次へと現れるんじゃあきりがないぞ」
そう叫んだ。
『…………おおおおうっ!!ガウリィがセリフを憶えてる!!!!!!』
思わず、全員が驚きの声をハモらせる…スピーカから…会場からも何人か…
稽古中は何度もセリフを忘れてあたしに呪文で吹き飛ばされていたガウリィ
が!!!
これほど、見事にセリフを。
思わず目頭が熱くなる。
「良かったですね。リナさん」
「うん…ついにガウリィがセリフをまともに言ってくれたわ…」
「お前さんの努力は無駄にならなかったわけだ…」
ゼルがあたしの肩をたたく。
「…お…おまえらなあ…」
だがその後のセリフを何度となく失敗したことを付け加えておこう…
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