【UEA】スレイヤーズSTS 〜8回目〜
**** LINA ****
「よっ!」
片手をあげ、笑顔で挨拶する達也。
その笑顔とは裏腹に服はかなりぼろぼろで埃まみれ、体はところどころに
かすり傷をおっている。
「達也、あんた今までどこに…って、あっゼル、アメリア。この子は敵じゃ
ないわ。アインの相棒の達也よ」
「この人が?」
「まだ、子供じゃないか…」
アメリアとゼルが互いの感想を述べる。
「言ったでしょ、まだ14、5の少年だって。っと、それより達也、あんた
今までなにやってたのよ…」
「え?あ!うん…ライクと戦ってた」
「ライク?」
「ん?…あっ…そっか。ほら、あん時のオレのコピー…」
…ああ…あの…あれね………って、ちょっと待てえ……
「戦ってたって…今までずっと…」
「え?うん、まあ…」
頬の辺りをぽりぽりかく達也。そして大きく息を吸い、大きく吐く。
その彼の背後から、怒気をはらんだアイン…あんた…いつの間に彼の後ろ
に回った…
「…達也…」
「ぎくっ」
「また相手と試合と言う考え方で格闘技を楽しんでましたね…」
半眼の目を達也に向けながらアインがぼつりとつぶやく。
「…え?…え〜と…」
「いっつも強い人と戦うとそうなっちゃうんだから…そのためにあたし達が
どれだけ苦労を…」
「…いや…その…な…」
「まあまあ、いいじゃないかアイン。どうせここに来たってことはあいつを
倒してきたってことなんだろ…」
「んにゃ…逃げられた…」
楽天的なガウリィの言葉に意外な言葉の達也。
「…ああぁ…やっぱひ…」
「…にっ…逃げられたあ」
「うん(はーと)」
…うんって、笑顔であっさり頷くなよなあ…
「しかもさあ…泣きながら…おまえなんか大っ嫌いだー!おまえの母ちゃん
でえべえそー…とか何とか言って、ぱあーっと消えちまうんだもんなあ…あ
んな風に言われると追っかける気にもならんよ」
「…それって、子供の喧嘩じゃないか…」
呆れた顔のゼル。
「まあ…コピーってーのは元々、見た目より精神面が子供だし…」
ゼルの言葉に腕を組んでうんうん頷く達也。
「あんただって子供でしょうが…」
つぶやくあたし。
「…まあ、それはそれでこの辺に捨てといてさ…」
無邪気な顔で彼が船を指さす。
「…あっち何とかした方が…」
全員の目が半眼で彼を見つめる。
「…えっと…」
指さした状態で固まり、彼から汗がにじむ。
あたしは一つため息をつき、
「…そうね…達也。あんた、あの結界を破れる?」
そんなあたしの質問に達也は大きく息を吸う。
と突然、子供とは思えぬしっかりした表情に変わった。
「ああ…多分な。アイン。その体でなんだが…あの船のバリアに干渉できそ
うか?」
多分?
「うん…ちょっとやってみる…」
そう言って彼女は目をつぶりなにやら小声でぶつぶつと独り言を始める。
何をしてるんだろうか…
「…ダメ…完全には消しきれない…」
数秒ほどで彼女がそうつぶやいた。
「ごめん…なんとか通常の50%までは低下させることが出来たんだけど…
船が暴走してるからバリアの方も150%までアップしてるみたいで…」
「…50か…全力でやればそのくらいのバリアならオレが吹き飛ばせるだろ
うが…2撃目で船を吹き飛ばす前にバリアが回復か…」
顎に手をやりながら息を大きく吸いそして吐く達也。
そしてこっちを見て、
「…やっぱり…リナに頼るしかないか…」
「あの結界の中でまず、達也がそのバリアを破る。そしてすかさずあたしの
竜破斬で船を撃沈する。そういう事ね」
「…ああ…だが、チャンスは一回だけだ。バリアの方も暴走してるんなら…
一度壊され次に張り直されるバリアはたぶん強固されちまうだろう…」
「…なるほど…」
「それと言っておくが…オレの精王雷輪でもあの船は一撃では倒せないぞ。
それ以上の攻撃魔法でぶちこわさなきゃな。できるのか?リナ」
「ふっ、誰に物言ってんの?このあたしは世紀の天才美人魔道士リナ=イン
バースよ。あんなのタリスマンこみの竜破斬でちょちょいのちょいよ」
「そいつはすごい…」
大きく息を吐き、心の底から驚きの声を上げる達也に、あたしはジト目で、
「あら…達也こそ、ホントはものすごい裏技でも持ってんじゃないの?」
「…さあ…て…何のことか…」
「とぼけんじゃないの…」
そう言いながら左腕で、あらぬ方向を向いて誤魔化す達也の首を腕で締め
上げ、
「見たんだからね、あの光の塔。どうせ、あんたの仕業なんでしょ」
右の拳をぐりぐりと彼の頭に押しつけてやる。
「とっととその呪文教えなさい。あたしがちゃんと効率よく使って上げるか
ら」
「はて?呪文?最近、記憶力がとぼしくって、全然覚えちゃいないんだが」
「ええーい!ガウリィみたいなボケをカマすんじゃない」
「あははははは…」
笑って誤魔化す達也に、笑顔を保ちながらあたしは更に右手でぐりぐりぐ
りぐり…
「まあ、お遊びはこの辺にして…」
達也がするりとあたしの腕から抜け、
「…アイン…もしかしたら衝撃波が襲ってくるかもしれん。きついだろうが、
街全体にバリアをはっといてくれ…」
「了解!」
空に浮かぶ船をにらみつける。
「確かに遊んでる場合じゃないわね…ゼル、アメリア。敵がまだいるかもし
れないからあたし達の呪文が完成するまで防御結界でのサポートお願い」
2人が頷く。
それを確認してから、ちらりと達也の方を盗み見る。大きく息を吐く彼…
これで何度目だろう…
「ガウリィ…」
あたしはこっそりとガウリィに聞こえるくらいの声で呼ぶ。
「ん?なんだリナ」
「あんたはあの子について上げて。きっとあの子…」
「…ああ…へとへとに疲れてるな…」
「………………」
さすがガウリィ。気付いてたか…
「でも…リナは…」
「大丈夫よ。この程度じゃ怪我にはいんないし。彼に比べればたいして疲れ
てないわ」
「…わかった…無理するなよ…」
「うん…」
「…本当にたのむぜ…」
次の瞬間、生暖かい何かが頬に触れ…………………かああああああああっ
ものの見事に真っ赤になるあたしの顔。
「……なっ、ななななななっ、なっ……」
なっなっなっなんちゅうことをっ!!!!!!
耳が、顔が熱い。心臓が高鳴りをあげる。
「ちょっと、ガウリィ。あんた、今、なにしたああーーーー!!!」
あたしは恥ずかしさも加わって一気にしゃべくった。
そんなセリフに後ろ手でぱたぱたと振りながら、ガウリィがゆっくりと達
也の方へ進んでいく。
少しの距離をあけあたしと達也は空に浮かぶ船をにらんでいる。
「…ふう…そういやよ…」
達也が大きく息を吐き、おもむろに言葉を吐く。
「お互いまだちゃんとした自己紹介してなかったっけ?」
「あははは(はーと)そう言えばそうだった」
そして互いの顔を見つめ、
「んじゃまあ…」
彼のその言葉に一つほほえみ、
『やってみますか』
2つの声が見事にはもると全員がその場で力強く頷いた。
あたしが腕を十字に切ると、タリスマンに光が灯る。
魔力増幅の呪文──
──四界の闇を統べる王──
呪文を唱えながらもあたしの目は達也の方を向いている。
足下がふらついて危なっかしい。
突然、彼の足が崩れた。近くで立っているガウリィが慌てて捕まえる。
あんた、そんなんで本当に大丈夫なの?
──汝の欠片の縁にしたがい──
アメリアに頼んで、先に復活の呪文でもかけてあげたほうがよかったのだ
ろうか…
「…ああ…大丈夫…やれる。それによ──」
ガウリィに支えられている彼は、うつむきながら、再び目をつぶり、深く
息を吐き、深く息を吸う。
そしていきなり顔を上げると、
──汝らすべての力もて──
「ここでやらなきゃ男がすたるってね!」
「よく言った!」
達也が叫びガウリィが言う。
その通り!!
彼から一陣の風が舞う。
ここであたしは達也を信用し呪文だけに専念することにした。
**** TATUYA ****
足がふらついている。
今までは、気か魔力、どちらか一方だけつきかけた事はある。
だが、両方というのは今回が初めてだ…これで気も魔力も使いきっちまえ
ばオレはどうなるんだろうな…
「おおっと…」
崩れかけたオレの体をガウリィが慌てて支える。
リナは既に呪文の詠唱に入っている。目だけがこっちを見つめ、その瞳が
まるでオレを「大丈夫?」っと心配しているかのようだ。
「…わりいなガウリィ…」
「なあに…いいって事よ。それに今の俺はこんな事ぐらいしか手伝えんから
な。おまえさんぐらいは俺が支えてやる」
「…サンキュー…」
目をつぶり、深く息を吐き、深く息を吸う。
目を開く。
「大丈夫か?」
「…ああ…大丈夫…やれる。それによ──」
うつむいて、再び目をつぶり、深く息を吐き、深く息を吸う。
目を開き、勢いよく顔を上げ、
「ここでやらなきゃ男がすたるってね!」
叫ぶ。
「よく言った!」
握りしめた左手を額にあて、精神を集中する。
体中にあるありったけの気を全て右手にかき集める。
本日、2度目の混合術。
精霊王・光聖龍から力をかりる呪文──
──眩く全てを照らす者
六精の 光を統べる王
全ての夢をかなえし時 時に迷わぬ者──
オレのあの叫びでリナも心配するのを止めたのか、もう彼女の目は標的の
船だけしか見ていない。
──我が力 我が身に答え 無とかえし
紅蓮の炎も 力と未来のリングとなりて
全ての闇を輝き染めよ──
歯を食いしばる。どんどんと消耗していく魔力。
力ある言葉を悲鳴を上げるかのように叫ぶ。
「精王光輪(アスレイン・ファーリング)っ…」
そして前へつきだしたオレの左手に黄金の光の五紡星が姿を現した。
**** LINA ****
増幅呪文を終え、すぐに竜破斬の詠唱に入る。
お互いどちらかの呪文が速くても遅くてもそれでアウト。
けど、ここで焦るわけにはいかない。
──黄昏よりも昏きもの
血の流れより紅きもの──
「精王光輪っ…」
達也が叫んだ。
だめっ達也、まだ速すぎる。あたしの呪文が完成してない!
あたしは達也の方へ思わず目をやる。
輝く黄金の光の五紡星が彼の前に姿を表す。
──時の流れに埋もれし──
焦るあたしの口調が速くなる。
「まだです。リナさん。達也のはまだ完成してません」
アインがあたしの心を見透かしたのか声をかける。
完成してない?それってどういうこと?
だってあれが…
「うおおおおおおぉぉぉぉぉー!」
吠える達也。その彼の右手が。
──偉大なる汝の名において──
なに?
突如、光り輝く。
「なんだあれは」
ゼルがつぶやく。
──我ここに闇に誓わん──
それはゆっくりと何かの形に変わり、光の大筒へと変化した。
『あれは達也さんの大技ですよ』
その声はゼロス。あんた、今までどこに行ってた!
『みなさんも見たんでしょ。あの光の塔を。あれは達也さんの仕業ですよ』
姿は見えないが…精神世界面から声だけを飛ばしているのだろう。
『彼がやろうとしているのは、気と魔法をあわせた混合術…』
──我等が前に立ち塞がりし──
達也が目の前に浮かぶ光の五紡星を光の大筒に詰め込む。
「…けど、今の達也では半分も威力は出ないでしょうね…」
アイン?
その顔には悲しげな表情が浮かんでいる。
「いつも…1人だけで無茶をするんだもん…何度言っても…」
──すべての愚かなるものに──
痛みをこらえるような顔で、達也はふるえる手でそれを構える。
『その威力はこの僕でさえ討ち滅ぼせます』
…ゼロスさえ討ち滅ぼせるですて…
『かつてダークスターを倒すきっかけとなった、カオス・ワーズ』
──我と汝が力もて──
彼を手伝うかのようにガウリィが彼の後ろから手を伸ばし、光をつかむ。
…混合魔法…まさかあれって…
『あの時に使った、魔と神の力を合わせた混合魔法。それと似たような方法
なのでしょうね』
…まってそれじゃあ…
『しかし、彼のは自ら作り上げた暴走せし、巨大な力。1人の人間にはとて
もあつかえられぬ力。そしてそのダメージの蓄積も、力を抑えるために削ら
れる精神力も多分…相当な物…』
…やっぱり…
──等しく滅びを与えんことを──
ここであたしの呪文が完成する。
「やれっ達也!」
ガウリィが叫ぶ。
「おうっ!」
かああぁぁぁーっ!
光の大筒から眩き光る巨大な帯となって船に突き進む。
その反動に、歯を食いしばる2人の足が地面を滑らせ、少しだけ後退する。
風が激しく、暴れ。光が力強き熱を、優しき温もりを。
風が優しく頬をなで、皆の髪やマントを激しくなびかせる。
光が船と接触する。光はバリアと呼ばれる物に阻まれ…
ぴきいぃぃーんっ!
…ず見え無きクリスタルの音をたて砕け散る。
「バリアの消滅、確認!…今です!リナさんっ!!!!」
「竜──」
光の大筒が消滅すると、そのまま前のめりに倒れかかる達也。
そんな彼を慌ててガウリィが抱き止める。
その光景をあたしの目がうつす。
吹き飛べっ!!!!
「──破斬!!!!」
がぐおおぉーん!
そしてあたしの放った増幅版・竜破斬が見事に空飛ぶ船を吹き飛ばした。
「終わったのか?」
ゼルがつぶやいた。
「ええ…何とかね…とっそれよりも達也…」
あたしはある方向へ目を向ける。そちらからガウリィがゆっくりと歩いて
くる。達也を抱き上げながら。
「ガウリィ。達也は?」
「寝てる。よっぽど疲れたんだな。それでも、あの船がリナの呪文で吹き飛
んで完全に消えたのを確認するまでは必死になって凝視したたぜ。その後は
安心したまま寝ちまった」
「…そう……アメリア…疲れているとこ悪いんだけど…この子に…」
「はい!復活ですね」
あたしの意図をはかったアメリアが、地面におろされる達也に向けて、呪
文を唱え始める。
「…それにしても…大した子よねこの子…」
「…ああ…」
あたしの言葉に返事を返しながら、優しい顔で達也の頭をなでるガウリィ。
「どうしたんですかガウリィさん?何か懐かしげな表情で達也さんを見てま
すけど」
「…ああ…似てるんだ…」
「似てるって誰に?もしかして弟かその辺?」
「いや…弟はいない…」
「じゃあ…誰に似てるの?」
「忘れた」
…おい…
ガウリィの言葉に全員が脱力する。
「…いや…多分、俺が小さい頃に近所にいた子だと思う」
「ふう〜ん」
そういや…あたしってガウリィの事に関しては何も知らないのよね…家族
の事だって効いたことないし…ましてや故郷がどこかさえ知らない…
「はい。とりあえず怪我はふさぎました」
とアメリア。
「大丈夫なのかこいつ?」
「大丈夫ですよ。まだ若いんですし。体力もすぐに戻りますって」
アメリアの言葉に安堵のため息のガウリィ。
「…さてと…んじゃあ後は…い〜っぱい…ご飯を食べて…食べて食べて食べ
まくって…」
「おう…飯か!」
ガウリィがあたしの言葉に反応しガッツポーズする。
「…後はふっかふかの布団で…」
「変わってないなおまえら…」
ゼルが小声でぼやく。でも無視。
「あっ!そうだガウリィ」
「ん?なんだリナ」
「ちょい、ちょい」
あたしは彼を手招きする。それに疑問も持たずに近寄る。
…ふっ…かかった…
「ていっ!」
ごっ!
見事にあたしの上段蹴りが頭部をとらえ、そのまま彼は大の字に倒れる。
そしてしばしたってからムクリと置きだし、ぶうたれる。
「いてーな、リナ。いきなりなにすんだよお〜」
「やっかっましい!あんたが達也の方に行く前にあたしに何をしたのか、忘
れた、なんて言わせないわよ!!」
「…あっ…………いや…それは…あのな…」
あたしのセリフにとまどい、まったく言葉になっていないガウリィ。
よっぽどあたしの顔が怖いらしい。
「うふふふふふ…」
「ま…まて…リナ。落ち着け。よお〜く、話し合おう。なっ!」
不気味な含み笑いでじりじりとガウリィに近づく。
同じ距離間を開けながらじりじり後退するガウリィ。
「問答無用!」
「うわあああああぁぁぁぁっ!」
「この関係も、変わらずじまいか…」
「…そのようですね…」
「…さて…帰ろっか…」
「そうだな」
ぽつりとつぶやいたあたしの言葉にガウリィが答え達也を抱え上げる。
「歩けますか?アインさん」
「…ええ…なんとか…」
アメリアの問いに静かに彼女は答える。
からんっ
…?…近くで小石が弾ける音がした。
「…この…まま…で…は…」
『?!』
全員がその声の方に振り向き、一斉に凍り付く。
「…あんた…」
あの女魔道士が瓦礫の山から這い出してくる。
切り裂かれた左腕はなく、髪の毛はすすだらけでちりぢりになり、右足を
引きずり、体中から火花を上げ、顔の半分がはげ落ち鉄色の骨が露出し、そ
してなにより今だ胸に突き刺さる光の剣。
…なんちゅう執念…
「こいつ」
ゼルが構える。
「…その男を…置いて行け…そいつだけは…ゼオ様に…」
彼女から紡ぎ出される、男よりも更に野太い声。
その声で更にあたし達は硬直する。
「…そ…そう言うわけにはいかないわ。人間としてね。そして何よりあなた
のためにもね…」
あたしは睨み付ける。彼女を。そしてある物を…まだ使えるか…
「…そうか…ならば…おまえ達も…」
両手をあわせあたしは呪文を唱える。
「火炎球?」
アメリアがつぶやく。
いぶしかめな表情を今彼女はしているだろう。
この魔法では倒せないと思っているからこそ…
「…抵抗…するのか…」
女魔道士の手から光が灯り始める。
その光は弱々しく頼りない…風前の灯火…消え始めた炎…
あたしは慌てない。ゆっくりと呪文を紡ぐ。
あなたはある人のために…自分の命を懸けてまでこんなことをしている。
あなたがしたことは許せる事じゃない…
許せる事じゃない…けど…あたしにはそれをとやかく言える権利は無い…
あたしだって、ガウリィを助けるために世界さえ犠牲にしようとした…
…いえ…実際にしてしまった…そして自分も犠牲にして…
だから、あなたの気持ちはわからないでもない。
…でも…全く違う気持ちもある!!!
女魔道士の魔力光が強く輝き出す。
あたしの両手の間から生まれた青白き炎。
「火炎球っ!」
先に仕掛けたのはあたしの方。
放り投げたそれは頼りなく彼女へ向かい、突如、彼女の前でかき消える。
「消えたなんで?」
アメリアが不審な表情であたしを見る。
この場の状況にあたし以外は誰も理解出来ずにいる。
それでもあたしは勝ち誇ったように、そして悲しい表情でその場に立ちつ
くす。
「あっ!」
アインが何かに気付く。
「…な…何を…しようとしていたのか…しらないけど…これで──」
「まずい!リナっ!!」
ゼルが叫ぶ。何かの呪文を唱え、それをアインが腕でせいする。
女魔道士は手に灯る赤き光を解き放とうと…
だが──
「ブレイク!」
…ごめんね…心でわびながら、あたしはゆっくりとした動作で指をパチン、
と…そう…火炎球は消え、無くなったわけではない。
鳴らした同時に──
「──え?──」
自分に何が起こったのかも解らないまま彼女の胸が大きくはじけ飛び散る。
あの胸に刺さっていた光の剣に増幅され、内側からはじけたあたしの火炎
球によって──
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