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【UEA】スレイヤーズSTS 〜9回目〜


**** TATUYA ****

「…あぐ、うぐ、んぐ…あーガウリィそれはあたしがキープしてた物でしょ
…んぐ…」
「…あがぐ、もぐ…何言ってんだリナ…うぐ…こう言うのは食べたもん…ん
ぐ…勝ちだろ…あぐ…」
 次々とテーブルの横に空になる料理皿が積み上がっていく。
「…よく喰う奴らだな…」
「…ほんと…」
 オレとアインはリナとガウリィの喰いっぷりに目をまん丸にしながら見入っ
てしまっている。
 ガウリィはともかく…あのきしゃな体つきのリナのどこに、あれだけの飯
が入るんだろう…もしかして小型の143型αが彼女の体ん中で巣くってる
んじゃあ…
「気にするな、いつものことだ…」
「そうです…こういう食事をしない2人は2人らしくありません…」
 コーヒを飲みながらのゼルガディスに、頬杖をかきながらため息混じりの
アメリア…さん。
「いつもなんですか…」
 アインが言う。
 その言葉に1つ、首を盾に振る2人。
 ちなみにリナとガウリィ以外のみんなも一緒に飯を食っているのだが…はっ
きしいって2人のペースで食い散らかせるわけがない。
 ちらりと横を見ると空になった皿をせっせと運び、料理を乗せた皿を持っ
てくる人たちが忙しげに動き回る。
 しかも空になる皿の方が多少ペースが速いようだが…
 今日の騒動も何とか収集がつき、オレ達はここセイルーン国・王宮内にあ
る来客用の食堂にやって来た…いや〜…それにしてもあの戦いの中で一緒に
戦ってくれたアメリアさんがお姫様だったなんて…思いもしなかったっすよ
…あたしゃあ…そして、落ち着いたところで「さて、どうやって彼女たちに
説明をするか…」といきこんでみたものの──
「お腹空いたああぁぁぁーっ!」
 ──と言うリナの一喝のもとに先に食事をとると言うことにあいなった…
………なんだかなあ………………ん?……
 ………………………………かたんっ…
 オレは立ち上がった。
「ん?どうしたんだ達也?」
 その行動にふと手を止めたガウリィが問いかける。
「…ああ…ちょっとな…」
「…ふ〜ん…………おお!そうかトイレか!!」
 ぱかっ!
 リナの拳が彼のほほをとらえる。
「いてっ…なにすんだよリナ…」
「うるさい…食事中にんなことを大声で言うんじゃない!」
「…ああ…そっか…」
 ……恥ずかしいやつ…
 多少顔を赤らめながらオレは部屋をあとにした。


 静寂と闇夜が廊下を包みオレはその中を歩く。
 静寂の中にオレの足音だけが響き、開け放たれた窓から冷たい外気がほほ
にあたりとても気持ちがいい。
 ふと、ある窓のところでオレの足が止まった。
 外の方へ目を移す。
 月の光に照らされ、そいつは空中にたたずむ。
 真っ黒なスーツに身を包み、アインやガウリィと同じ金色の長髪。
 容姿はアインとうり二つだが、鋭い眼光にあの体つきでそいつは男性だと
はっきり見て取れる。
 食事時にある気配を感じていたんだが…どうやら気のせいではなかったよ
うだ…

 かつて『S.T.S』のトラコンとして、オレが初めてコンビを組んだ人
物──
 アインの兄──
 オレと気が合った最高の親友──
 『S.T.S』のトラコン数名を殺戮した犯罪者──
 オレの気功術の師匠を殺した者──
 邪悪な心に魅入られた感情登録知性体──

「…ゼオ…」
 あいつがオレのつぶやきに気付いたのか、ゆっくりと近づく。
 そして2分間という長いような短い沈黙をへて、彼は2メートルぐらいの
距離を開け、お互い同じ目線の高さになるとその動きを止めた。
 相変わらずとてつもないプレッシャーを感じる…いや…もしかしたら前以
上なのかも…
「お久しぶりですね。達也」
 ゼオが口を開く。
「…何しに来た…ゼオ…」
 言葉を出したことによって、自分の口の中がからからになっていたのがわ
かる。
「…ちょっとしたご挨拶ですよ。どうでした先ほどのパーティの趣向は?」
「パーティ?」
「ええ…とても楽しいパーティだったでしょ?とくにライクとの試合は堪能
したようで…」
 …パーティだと……
「…あれがパーティだっていうのか…」
「ええ…そうですよ…でも、ライクにはもう少し期待してたんですが…やは
りまだまだ子供だったんでしょうね。わがままな子でしたし…」
 …でした?…その言葉だけ何故か彼は強調して言った気がするが…
「…おまえ…ライクをどうした…」
 嫌な予感がする。
「ああ…あの子なら…」
 ゼオが一瞬だけ、鋭い眼孔でをオレ睨む。
 そして何事も無かったように、にっこりと微笑むと言う。
「…私が殺して差し上げました」
「…!?」
 ライクの笑顔が頭をかすめる。
「てめぇっ!」
 一気に頭に血がのぼり、叫んだときには怒りにまかせ気を開放していた…
が、
 …とす…
「…え?…」
 突然、ゆらりと視界がぼやけオレはその場に崩れ落ち、
「…なんだ?何が起こった…」
 何がどうなったのか解らずに、小さく自分に問いかけていた。
 目をやれば、ゆっくりとこちらに近づいてくるゼオ。
 どんどんと呼吸が荒くなる。
 …まさか…こいつが何かやったのか?
「無茶はいけませんよ達也。先ほどのパーティであなたは魔力も気も使いきっ
てるんですから」
「──あっ──」
 そーだった…パワーを使いすぎて、今は常人以下のレベルでしかないんだっ
た…
 ゼオがオレの目の前に立ち構える。
 ゼオの右掌がオレの目の前にかかげられ、その手に光が灯り出す。気とい
うエネルギーによって。
「…くっ…」
 慌てて、立ち上がろうとするが体に全くと言っていいほどに力が入らない。
 更に掌に集まる気。
 …うそだろう…なんだよこの膨大なエネルギーは…以前にあったときより
数倍の容量じゃねぇか…
 頬に汗が流れる。体がふるえる。
 蛇に睨まれた蛙の様に動けず、目は右掌から離せない。
 今ここでゼオが気を放出すれば……間違いなくオレは消滅…死ぬだろう。
 更に光り輝く。まだ膨らむ。
 と、思えば不意に掌の気がかき消えた。
「──!?──」
「安心して下さい。達也をどうこうする気はありませんよ」
「…なん…だと…」
「…今はね…後5、6日もすればまたパーティを始めますからそれまでには
体力を回復して置いて下さい…達也…」
「…てめぇ…今度は…何やらかす気だ…」
 ゼオが邪気のない笑顔を見せる。
「…穴ですよ…穴を開けるんです」
 …穴だと?……まさか………インフェイルホールか?…
「……あな?……」
 その問いかける声は俺達から少し離れた場所から届いた。


 オレは慌てて声のした方へ顔を向ける。
 誰かがいる?
 よっぽど疲れていたのか、それともゼオに意識が向いていたのか、まった
く気配を悟れなかったらしい…
「そんなところでかくれんぼですかお嬢さん…」
 ある方へ顔だけを向けて、静かな声でゼオが言う。
 その方向の暗闇から一人の女性が1歩進み出る。
 そして更に1歩。月の光で彼女の顔が照らし出され──
 ──リナ──
「…これは…これは……確か…リナ=インバース殿…でしたか?」
「…ええ…そうよ…」
「…リナ…おまえ何でこんなとこに…」
「女の直感ってヤツね。何となく気になったんで達也の後を付けさせてもらっ
たわ…そしたら案の定…」
 言い終えると彼女はその燃えるような赤い瞳でゼオをにらみつける。
「…で…聞かせてもらえるかしら…その穴っていったい何なの?せっかくの
ご飯を不意にして来てあげたんだから、教えてほしいんだけど…」
「それはゆっくりと達也に聞いていただければ解ることでしょう?」
 ……うっ……こらっゼオ…こっちにふるんじゃない!
 だいたい、インフェイルホールのことは話す気はなかったんだぞ!!
 リナが肩をすくめ、
「…なるほど…それもそうね…」
 …ああ…彼女も納得してるし…
「…じゃあ…質問を変えるわ…多分これは達也も聞きたかったことだろうけ
ど…」
 彼女は一度目を閉じ、少しの空白を開け再び目を開ける。
 彼女の表情が硬くなる。
「…あんた、その穴で何をやらかすき?」
 凛とした声でゼオに問いた。
「別にたいしたことではありません。ある物をこちらに持ってくるだけです」
『ある物?』
 オレとリナの声がハモると同時に、数人が走り来る音がオレ達のいる場所
にまで響いてきた。
「…リナ…」
「…リナさん…」
 みんなの声が聞こえてくる。
 多分、膨らましたゼオの気にガウリィかアインあたりが気付いて、駆けつ
けてくれたのだろう。
「…さて…向こうがなにやら騒がしくなってきたようですね」
 そういうとゼオの姿がとけ込み始め、
「…まて…ゼオ…」
「やめなさい…達也」
「…わかってる…」
 立ち上がろうとするオレをリナが静止するが、既にオレはここで戦うつも
りはみじんにも思っていなかった。それに──
「…ただ、オレはまだ聞きたいことが…ライクのことだ…」
「………………なんでしょう?」
 消えかかったゼオの姿が再びもとに戻る。
「あいつは気功術のことは一切知らなかった。何故だ?おまえなら教えるこ
とが出来たはずだ」
「ええ、出来ましたよ」
「じゃあ…何故?そうすれば…」
「あなた達はやられていたでしょう」
「………………」
 次の言葉をゼオは軽く言い放ち、オレたちは言葉を失う。
「けど、あなたを殺すというのは私の意志ではないのでね…あくまで彼はあ
なたのアイテムとして作り上げたまでです」
「オレのためのアイテム?」
「そう…あれと戦ったおかげであなたは経験値を上げ、更に強くなったはず
です。そうでしょ?」
『──なっ──』
 オレとリナの声がはもる。
 ここで、ガウリィ達が到着した。
「…まって…まさか…彼女も…そのために…船の暴走もアインの言う通りで
…あんたの仕業なの…」
「その通りです」
 リナの言葉に満足そうにヤツは答えた。
「…そんな…彼女はあんたのためにあれほど…」
「…それでは…これで…」
 叫ぶ、リナの言葉を遮り、ゼオはこの場を去った──
 消えた跡を見つめるオレたちにゼルガディスがぼつりとつぶやく。
「…消えた?…リナ。今のヤツはいったい何者だ?ただ者じゃないことは確
かのようだが」
「…今回の黒幕よ…」
「なに!」
 リナの一言にガウリィが驚きの声を上げる。
「…ちょ…ちょっとまって下さい…じゃあ…リナさんたちはあの人が悪だと
解っていて、見逃したんですか…そんなの正義じゃありません」
 アメリアさんが、わなわなと拳を振るわしながら握りしめ、バックに炎を
携える。
 …いや…別にオレは正義の味方をするつもりはないんだが…
「あのねえ、アメリア。言っとっくけど、今のパワーダウンしたあたし達じゃ、
あいつに勝てるみこみなんて、蟻の触覚もなかったのよ」
「…え?…」
「じゃあ、なにか?あいつが何もせずに引いてくれたのは、俺達にとって助
かったってことか?」
「──いいや──」
 ガウリィの言葉をオレが否定する。
「──どういうことだそれは?」
 ゼルガディスの質問にリナが口を開く。
「…勝てなかったのよ…あたし達が完全の状態で全員が束でかかっても──
あいつは…強いわ──」
「…ああ…」
 勝てなかった…ゼオのやつはオレの想像以上に強くなっていたから──

 
 
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