【UEA】スレイヤーズSTS 〜7回目〜
**** LINA ****
『火炎球っ』
ゼルとアメリアが呪文を解き放つ。
2つの火球が彼女に向かい、結界の手前でぶつかり合い誘爆する。
今だ!
「竜破斬っ」
その時──
彼女を光が襲い、大きな爆発が包み込んだ。
竜破斬には、ほど遠い威力だが──
光が飛んできた方向を見やる。
大筒1つを肩に掛け…またいつの間に、どっから出したんだ…あたしと目
が合うとウィンク一つ投げかけるアイン。
ナイスフォロー!
これで、あいつがあたしの竜破斬をくらったと勘違いしてくれれば…
もうもうと立ち込める煙がやみ始めると、やはりあの女は何事もなかった
かのようにその場に浮かんでいた。
「そんなっ!」
その姿を見てあたしは驚愕な声を出す。
「まさか…今のが竜破斬とかと言う物かしら…だとするとずいぶんと低レベ
ルな呪文ねえ」
女は言う。完全に小馬鹿にしたセリフで。
「…リ、リナさんの…竜破斬が…」
「…効かないだと…」
アメリアはその場に崩れ落ちながら、ゼルは唖然とした表情でつぶやく。
うむうむ、いい芝居じゃのう二人とも。
何となく2人の目が笑っているように見えるのは、あたしの気のせいでは
ないのだろう。
「この程度じゃあ、お遊びにもならないわね…そう言うわけだからあなたた
ちさっさと死んじゃいなさい」
彼女の手から何とも巨大な魔力光が灯る。
まずいぞ!あんなのを受けたらいくらなんでも…
突如、影が彼女を被う。
空高く、彼女よりも更に高く上を行く、ガウリィの影。
慌てず、彼女は口を開く。
「1匹足りないと思えば…それに、そんな剣などあたしに通用……なに?」
やっと気付いたらしい。ガウリィが持つ剣が金色に輝く剣では無く、赤く
燃える光の剣に変わってたことに。
「うおおおおぉぉぉーっ!」
剣が振り下ろされる。
「くうっ…これは…」
嫌な予感をもったか、慌てて避けようとする女魔道士。
だがおそい。
剣が結界に触れ、
ぎちいぃぃーっ!
赤き剣は見えない壁に遮られる。
──そんな、これでもだめなの?
女が歓喜に近い表情でガウリィに手を向ける。
その手は魔力が込められ…
「崩霊裂っ」
唐突にゼルが『力あることば』を解き放つ。
ガウリィの持つ光の剣が同時に青白き光をまとい、次には赤き、そして青
白き光が混じり合う。
竜破斬がかかっている光の剣に崩霊裂をかけた──なんて無茶を。昔の光
の剣じゃないんだから。
容量をオーバーして爆発したらどうすんのよ!!
あたしの心配をよそに唐突に剣が、光が大きくなる。
2つの光が渦をまく。
もしかして、2つの魔法が何らかの相互干渉を起こしたのか──
ぴしっ
2人の間からそんな小さな音がした。
「崩霊裂っ」
アメリアが叫ぶ。
だあああああって、だからちょっとまてい──
そんな、簡単に強力な呪文を、ぽこぽこ、ぽこぽこ、剣にかけるなあー!
更に光が大きくなる。
びぎいぃぃーんっ
そしてそんな音と同時に光は全くの抵抗もなく、彼女の左腕を──
ざうんっ
地面に着地──
「うおおおおおぉぉぉぉー!!」
──したガウリィが吠え、走り、近くの瓦礫を踏み台にして再び飛ぶ。
左腕を失った女魔道士へ──
その彼の手にはあたしの竜破斬とゼルとアメリアの2重の崩霊裂が干渉し
あい、渦が舞う光の剣。
魔道士は慌てて手を天にかかげ、火球を作り出す。
させるかっ!
「炎の矢」
がうううぅぅーん!
あたしの一本の矢が火球をとらえ、誘爆させる。
彼女がその爆発に視界を遮られる。
「ちぃっ」
煙の先から舌打ちがする。
ガウリィが煙の中へと吸い込まれ、
ずうんっ!
「うぎゃあああああああっー!!!」
女の絶叫が周りに響く。煙がはれる。
攻撃魔法の誘爆が勝負の勝敗を決めることとなり、ガウリィの手に輝く剣
は見事に視界をさいぎられた彼女の胸を貫いていた。
血が流れる。緑色した不気味な血が。
そして、悲鳴がやむと彼女の頭がたれ落ち、長き髪が顔を覆い隠す。その
彼女の最後の表情はあたし達には見えない。見えるのはガウリィのみ。
不気味な静けさが当たりに漂う。
これで終わっ──
「──ま…だ──」
女がつぶやく。
──なっ──まさか!──
「ばかなっ!」
ガウリィが叫び、驚愕の顔のまま目を見開く。
彼女の右腕がガウリィに向かって大きくなぐ。
「くはあっ」
彼女のパンチをもろにくらい吹き飛び、大地に落ちる。
剣を彼女の胸に残したまま。
「ガウリィ!」
あたしは思わず、叫びながら彼に駆け寄り、
「いてててて…」
……ほっ……
そう言いながらムクリと起きあがる彼に、しばし、胸をなでた。
「大丈夫ですか?ガウリィさん」
アメリアの心配する声に、
「くわあ〜女のくせになんてバカちからだよ…」
答えず殴られた頬に手を当て、そう言いながら渋い顔をする。
そして、握り拳を作り、力強く叫ぶ。
「…まるでリナじゃねぇか!!」
すぱあぁぁぁぁぁんっ!
そしてあたしの手に持つスリッパがガウリィの頭をはり倒した。
こんな時にまでボケをかますんじゃないいぃぃっ!!!!
「しかし信じられん」
とゼル。
確かに…人間が左腕を失い、胸に剣を突き立てたまま緑色の血を流し、憎
悪のまなざしでこちらを睨み付ける姿なんぞ、はっきしいって不気味この上
ない。
これで首が吹っ飛んでもまだ動けたりしたら、あんたゴキブリだぞ。
もしそうなったら、熱湯でもぶちかけるか…
「…はあ…ゼ…ゼオ様の…はあ…た…めに…はあ…はまだ…」
ゼオ?そう言えば達也もそんな名前を言っていたような…
「…全員…殺して…あげるわ…」
「その体で?無理なんじゃないの?」
「…それ…は…どう…か…しらね…」
「どういうこと?」
「…こう…いう事よ…」
おもむろに手を上げ、振り下ろす。
……?……
「いけない!」
何かに気付いたのかアインが叫ぶ。
かあっーーー!
瞬間、あたし達はまぶしく輝く、何かに包み込まれ、焼け付くような衝撃
波が真上から襲いかかった。
その衝撃波と地面とでサンドイッチ状態で押しつぶされる。
そしてその後に爆発が起こりあたしは宙へ投げ飛ばされ、地面にたたきつ
けられる。熱とショックで息が止まる。痛みで意識が失いそうになる。
「……くうっ……」
今のはいったいなにが…あたしは何とか痛みに耐えて、上体を起こす。
そして空に。あたしの目に映ったものは…
異様な形をしたどでかい物──あたしの知る限りそんな風に形容するしか
なかった。
大きさは山一つ分はあるだろう。鳥が羽を畳んでいるようなそのような形。
その表面は黒く光り輝き。それは空中で浮かんでいる。
「…少し…標準が…甘かっ…はずし…」
女が静かに言う。
「まさか、あれもあいつのか…」
少し離れてゼルが瓦礫に埋もれた体を起こす。
「ああ〜んっものすごく痛いですう〜」
とアメリア。さすがさすが、鉄骨娘。
「おわああー、びっくりした」
首から下がすべて瓦礫に埋もれるガウリィ。
……とりあえず…無事…
「アイン…そうだ。アインは?」
「…こ…ここです…」
声にあたしは振り向く。そこには右腕のない女性が右足を引きずりながら
やってくる。
「アインその腕…」
「…あはは…直撃くらっちゃいました…」
「アメリア!治療呪文を…」
「は、はい」
「あ、いいんです。あたし。人間じゃないですから(はーと)」
『はっ?』
「あたし、感情を持つ人形なんです。ほら、血なんかでてないでしょ?」
そういって彼女は自分の右腕の傷口を見せる。確かに血は出ていない。そ
のかわり火花がばちばちと音をあげていたりする。
…そうか…ガウリィが言っていた「人間じゃない」とはこういうことだっ
たのか。
「じゃあ…まって…それじゃあ達也も…」
「いいえ…達也はれっきとした人間ですよ」
笑顔のアイン。
「…やはり…全員…生きて…いたか…」
ちいぃぃ…
「火炎球!」
アメリアの放った光の玉は女魔道士に直撃する。
吹き飛ぶこともせず、女はその場にたたずむ。
彼女が腕を振り下ろす。
空に浮かぶ物体から一条の光が落ち襲う。
再びあの焼け付くような衝撃が襲う。
…………………
「…リナ…」
…………………
「どういうつもりです。ねらいはあたしと達也のはず…」
…………………
一瞬気を失っていたのかそんな、あたしを呼ぶガウリィの声と叫ぶアイン
の声でふと気がついた。
「…ガウリィ…あたし…いったい…」
その返事とともに上半身を起こすあたしにガウリィは安堵のため息をはく。
ゼルとアメリアもそこにいた。
まだ、頭の中がもやがかかっているようにはっきりしない。
「…関係ないさ。あたしはここにいる害となす者の排除を任されている…」
その声にあたしの意識はしっかりした。勢いよく立ち上がる。
「…この者は…ゼオ様に…害となす者とみた…だから殺す…」
女魔道士の手が上がる。
またくる!!
全員が身構える。あわてて呪文を。
「…だめ…このままじゃ…みんなが…」
叫びながら両手を広げるアインの周りから風が巻き起きる。
いったいなにを…
「…あら…アインたら…こんな所に船を転移させる気かしら…」
船?
「………………」
「出来ないわよねえ…こんな場所に中型艦とはいえ、あんな物を転移させた
ら…」
「…転移による衝撃波だけでこの一体残らず吹き飛ぶ…」
不気味な微笑を見せる彼女にアインが答える。
「…今から船を呼び寄せても5分はかかる上に…大気圏を突破するには…あ
たしが戻らなければならない…けど、今のあたしの体では…転移で発生する
磁場に耐えられない…それで船を動かせず…ジ・エンド…」
アインの体から火花が散る。
「…そういう事ね…今のあなた達では打つ手は無いのよ…これでゼオ様に…」
女魔道士の手が…
「…今度はフルパワー…で打ってあげるわ…」
「まって!…そんなことしたら…」
「…あたしも…吹き飛ぶ…でも、そんなの関係ない…」
…このっ!
すでに呪文はできあがっている。
「獣王牙操弾っ!」
「烈閃咆っ!」
「青魔烈弾波っ!」
あたし、アメリア、ゼルの順に呪文を解き放つ。
──が、それら全てを受けながらも、そこにはうつろな目をした彼女が立
ちつくす。
「そんな…なんで…たおれないんです?結界は張られていないのに…」
「ろうそくの最後の炎だ…最後の燃えかすが勢いよく燃えているんだ」
「まずいわ、ああいうのが一番、倒しにくいのよ…2人共、とにかくありっ
たけの呪文で彼女を止めるのよ!!」
次々と繰り出される3人の呪文。
だが、それら全ての呪文を受けてまだ立ちつくす彼女。
「このままじゃ…街が、セイルーンがあ〜」
泣きながらも次々と攻撃魔法を繰り出すアメリア。
まずい、このままじゃ…あたし達の方が先にまいってしまう。
「この!」
アインが彼女に向けて、大筒を構える。
「…あたしは…ゼオ様を…愛している…」
攻撃をくらいながらの彼女の言葉に、動揺したのか一瞬、アインの眉が揺
れる。
彼女がアインの方へ顔を向け、
「…アイン…あなたなら…この気持ち…解るでしょ…う…」
「…あ…」
悲しい目に惚けるアイン。解るって…どういうことよ?
それじゃあ…まるで…
「撃て!アイン」
ゼルが叫ぶ。
「アインさん!」
アメリアも叫ぶ。
「…ねぇ…アイン…一緒に…ゼオ…様の…ところ…に…」
「うわあああああぁぁぁぁー!」
アインが吠えながら大筒の引き金を引く。
「…ア…イ…」
そして、光が彼女を包み込んむ──
──一時、静寂が入る。
「…ま…間に合った…の…か?」
あっけに取られながらガウリィがその場所を見つめて問いていた。
光がやむとそこには女魔道士の姿はない。
「ああ…どうやら…」
「…間に合わなかったようです…」
『──なっ──』
ゼルの言葉を遮り、空を見上げていたアインの言葉に全員の声が重なった。
「どういうことですか。アインさん」
涙声で叫ぶアメリア。
「…ふ…船が暴走してる…」
『!?』
全員が彼女の言葉に絶句する。
「主砲のエネルギーが…ほんの少しずつですが…上昇してます…100%ゲ
ージまで後12分。その時、主砲からエネルギーが放たれます…」
…じょ…冗談じゃない…ここまで来て…
「アインさん…止められないんですか?」
「通常の時なら止めることは出来ましたが。暴走している物はあたしの手で
は…それに…」
「それに?」
「…もしかしたらあの船は最初から暴走するように細工がなされていたかも
しれません…」
『──なっ──』
更なるアインの言葉に再び全員の声が重なる。
「ちょっと待って…細工って…じゃあ…なに?最初っからそいつは彼女も巻
き込むつもりだったわけ?」
「…簡単です…当事者は彼女を物としか考えていなかったからです…だから
死んだってかまわない…」
「なんてヤツだ…」
ガウリィがつぶやく。
「アイン──」
ゼルが口を開く。その呼びかけに一瞬、アインの肩がびくりとふるえた。
「もし、あの船から主砲とやらが発射されたとしてだ…被害はどれだけの物
になる…」
…そうだ…問題はそれだ…
「………………」
彼女はその質問に無言のままあたし達から背を向ける。
「…答えろ…」
鋭い視線でのゼル。
「…答えてアイン」
あたしも口を開く。
「…一撃です…」
彼女があたし達に振り向く。その表情はまことに厳しい。
「…一撃だけでセイルーンは完全に崩壊します…」
そんな彼女の言葉にあたしの頬に一筋の汗が流れた。
「どうしたらいいんですう」
アメリアが叫ぶ。
「…こ…こうなったら、あたしの竜破斬であの船を吹き飛ばす!」
少しの沈黙を破ってあたしが言う。
「無理ですよリナさん」
が、それを静かなアインの声が冷たくあしらった。
「不可能ですよ…リナさんだけでは…」
むかっ
「あんたねぇ!」
思わずアインの襟首をひっつかみ、
「無理?無理だろうと、なんだろうと、そんなのやって見なきゃわかんない
じゃない。ただの竜破斬じゃあだめだって言うんならタリスマンでも何でも
使ってやるわよ。重破斬でも成功させてみせるわよ!」
怒気があらくアインの首を締めかけている。
「どういう理由があろうとなかろうと、これ以上あたしの目の前で人を殺さ
せない。見殺しにはしたくはない。サイラーグのようにしたくないの!!」
あたし手に力がこもる。強く彼女を締め上げる。
「バカっ、やめろ!リナ!」
ガウリィが割ってはいり、あたしの手からアインをひっぺがそうとする。
「バカってなによっ、バカって!」
あたしの手から彼女が離れる。
悔しいっ、こんなのあたしじゃない!
頬に熱いものが伝った。
「泣いてるんですか?リナさん…」
「…な…泣いてないわよ…こ…これは目にゴミが入っただけで…」
あわてて手で涙をふき取る。
「…せめて…もう一人いれば…」
しばらくの沈黙の後にアインがぼつりとつぶやいた。
全員の目が彼女に注ぐ。
「あの船にはバリアが張ってあります。みなさんにわかるように言うなら防
御結界のようなものです。その防御力は多分、リナさんの竜破斬でも防げる
はずです」
「だからタリスマンこみの…」
アインが手であたしの言葉をせいする。
「話は最後まで聞いてください…」
「…う、うん…」
「とりあえずバリアを破る方法があったとします…けど、あのバリアには一
つの特徴があります。それがリナさん一人では無理だという結論なるんです」
「どういうことだ?バリアを破りあの船もろとも吹き飛ばせばいいんじゃな
いのか?」
ゼルガディスが質問する。
「いいえ、それができないんですよ」
「できない…?」
あたしの眉間にしわがよる。
「バリアを破れるエネルギーを未然に感知し、接触した時、バリアはそのエ
ネルギーとともに誘爆して船への衝撃を最小限に抑えるようになっているん
です。そして再びバリアが張り直される…」
…………………
「あのバリアがある限り、ただのいたちごっこなんです。いかにリナさんが
竜破斬を増幅したとしても、バリアと船を丸ごと吹き飛ばすことは出来ない
と思います。せめてもう1人…もう1人…バリアを破壊する者と、船を破壊
する者の2人がいれば…」
「もう1人いればいいんだな…」
不意に後ろからかけられる声。
慌てて振り向き、ゼルとアメリアは思わず身構える。
「ずいぶん遅かったじゃないか達也」
ガウリィが振り向きもせずにそう言った。
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