【UEA】スレイヤーズSTS ~6回目~
**** LINA ****
戦闘が停止して早12分──今だに再開されていない。
それで今、あたし達が何をやっているのかというと、
『じゃあーんけーん…』
ジャンケンで誰があのおかまと戦うのか決めていた。
それをアインが呆れながら、わきで見学している。
『…ぽん!』
あたしはグー。
ガウリィがチョキ。
ゼルもチョキで。
アメリアがパー。
『……………………』
また勝負がつかない。
「まだ、勝負がつきませんね」
アメリアがため息混じりにそうつぶやく。
「ふっ、まだまだあー!」
「なあ…リナ。いい加減に別な手で決めないか?俺あきちまったぜ」
「なによガウリィ。言い出しっぺのあんたが最初に諦めてどうすんのよ」
「そうです。鉄より硬い意志を持たない者は、即ち悪」
アメリアがびしっとガウリィを指さす。
「ガウリィさん。ここで諦めたとあればこれからずっと悪人呼ばわりされる
んですよ。それでもよろしいんですか!!」
…ア…アメリア…それはいくらなんでも…無理矢理過ぎると思うけ…あっ!
ゼルのヤツ。俺は関係ないって顔してそっぽ向いてる…いや…まあ…あん
たの気持ちはわからんでもないけどさあ…
「…でもよお…」
「…あのお…」
アインがおそるおそるあたしとガウリィの会話に割り込んでくる。
「何?」
あたしの一言に、彼女はかすかに怯えの表情を浮かべ、ゆっくりとガウリ
ィの背に隠れる。
──あっ──いかんいかん。つい、気合いが入っていたせいか語気が荒かっ
たみたい。別に彼女は悪くないもんね。
「ごめんごめん。脅かしちゃって。それで何なのアイン」
ビクビクしながら顔だけを背中から見せ、
「…その…あの人は達也のコピーじゃないと思うんですけど…」
…じゃない…?
「どうしてそう思うの?」
「…え~っと、実は知り合いに達也と顔のそっくりな女性を知っているんで
すけど…」
ぴきっ
眉が引きつるのがわかる。
「へ、へえ~」
それを何とか冷静に保つ。更にアインは言葉を続ける。
「…その人って言うのが達也の妹さんで…あ、それで2人は双子で…そっく
りで…とても瓜二つなんです…」
「…ふ、ふう~ん…」
変な文章説明にあたしは返事をなんとか返す。
ぴくぴく──眉が痙攣する。
「…だから…その人のコピーで多分、あの人もオリジナル通り女ではない…
か…と…」
……ん…んふふふっ……
「…だったらやっぱりおかまでもないんですよね……あははははは…」
…ふ…ふふふふふふっ…
「…はははははーって…あ…あの…リナさあ~ん…聞いてま…………………
ひぃっ!」
あたしの両手に魔力光が灯り、その姿に恐怖を覚えたアインが短く悲鳴を
上げ、再びガウリィの背に隠れる。
「リ、リナさん。目、目が怖いですう~」
そんなアメリアの言葉など無視して、キッと、あいつをにらみつける。
「ちょっとどういうことよ。あんたが達也のコピーじゃないなんて!話が違
うじゃないの!!」
「あら?あたしはひとっことも彼のコピーだなんて言っていないわよ。ただ、
おもしろそうだから黙っていただけ…」
「……う……」
…確かにそうだけど…
「まったく、勘違いもいいところよね。強くもない人間が、この美しいあた
しに喧嘩を売ろうとする事じたい間違っているわ…」
「…一つ聞いていい…アイン…オリジナルの達也の妹もあんな性格なの?」
「…いいえ、素直ないい子なんですけど…ちょっとおてんばで…」
更にコピーは言葉を続ける。
「…醜い岩人間にならないと強くなれない男に…」
「はほおお~…もしかして…それは俺のことか…」
ゼルの瞳が鈍く光る。それに気付かないコピー。
「…愛とか正義とか口先だけのお子さまに…」
「…お子さま……ぶう…」
アメリアの頬が膨らむ。それにも気付かないコピー。
「…なにも考えていないぬぼーっとした男…」
「…えっと…なあ、リナ。それって誰のことだ?」
?マークのガウリィがあたしに聞く。
「…そして何より未熟児胸の女…」
ぷちっ
「…そんな人たちが…」
気付いていないコピー。あたしたちが何をしているのか──
「火炎球っ」あたし。
「炎の矢っ」アメリア。
「炎の槍っ」ゼル。
どぐがしいかごぐおおぉーん!
3人の同時攻撃をくらい爆発する、口先コピー。
そう…これで戦いの幕はあっさりと下りたのだった──
──いや、はずだった。
あたしたちの呪文によってもうもうと立ち込める煙がやみ始めると、そこ
には何事もなかったかのようにその場に浮かんでいた。
あの女が──
「バカな!全く効いてないだと…」
「まさか…魔族…」
「いいえ──」
ゼルとアメリアの言葉に静かな声であたしは否定する。
「──効かないんじゃなくて、防がれただけよ。防御結界でね。それだけの
魔法容量を持っているってことにもなるんだろうけど…」
そう、たしか…達也と別れた場所に現れたあいつも…精王雷輪だったかな
…をくらって無事でいた…彼女も同じようにそのくらいのやつは防げると考
えた方が妥当だろう。
竜破斬あたりじゃ通用するとは思えない…竜破斬なみの威力だったもんな
…あの精王雷輪って…
となると、決定打を決めるのには、やはり神滅斬……でも、このあとに敵
がまだいるという可能性もあるから無理は出来ないし…あ~、こんな時に光
の剣さえあれば、そいつに竜破斬ぶちかけて…………増幅…し…て…………
「おーっほほほほほほほほ…」
…うぐ…突然の彼女の甲高い笑い声に一瞬、ある顔が頭に浮かんで立ちく
らみを起こすが何とかこらえる。
「ほほほほほ…その程度の魔法であたしを倒せると思ったの?浅はかな子た
ちねぇ…ほほほほほ…」
…うっ…だからその高笑いだけは…やめて…お願い…
沈みがちな気分を吹き払いあたしは叫ぶ。
「ガウリィ、久しぶりにあの手を使うわよ。援護して!」
「おうっ」
あたしが何をするのか、解ってるのか解ってないのか、子供のように元気
に駆け出すガウリィ。
「ゼルとアメリアもお願い」
「わかった」
「はい……でもリナさん…あの手っていったいなんなんです?」
…そうあの手…光の剣があった時に使ったあの手…う~ん…大丈夫かな?
…暴走しなきゃいいんだけど…
「あれよ」
「あれ?」
「あれっつったらあれしかないでしょ…その程度の魔法…じゃなきゃいいも
の…よ…」
『………………』
あたしの言葉に一時、二人が沈黙する──
「…リナさん…それって…まさか…」
アメリアの顔色が変わる。何かに気付いたようである。
「…ダメですリナさん、そんなの。こんなところで使ったら!セイルーンが
!!」
「そうだ、リナ。そんなことをすれば街なんか一瞬で…」
アメリアもゼルも慌てて反対抗議。
ちょっと待て…おまいら、何を勘違いしている。
「もし、それでも使うというのなら、あたしは正義の名の下にリナさんを倒
してでも止めなければいけません!!」
津波をバックに燃える拳を天にかかげるアメリア。
「…ああ…なんて燃えるしゅちえーしょん!」
…陶酔すんなよ…
「あのねぇ~アメリア…」
あたしはアメリアの両肩をがっしりとつかみ、
「よく聞いて!」
真剣な目でアメリアを見つめる。
「いやです!」
同じく真剣な目でアメリアがきっぱり言い放つ…………おい……
「今あたしがリナさんに説得させられたらセイルーンはもう、おしまいです。
だからこそあたしは断固として首を縦に振りません!!」
「そこまで言わなくても…第一、あたしが所かまわず呪文をほいほい使うよ
うな人間に見える?」
「見えます」
「…いや…そんな…はっきり言わなくても…」
「例えばゾアナ王国!!!!」
「……う゛……」
…そ…そりは…
「俺達も何度か吹き飛ばされたしな…」
それはゼル達だから…大丈夫だと思って…
そんな会話をしているのに、気付いているのかいないのか、ガウリィが雄
叫びを上げて女魔道士に剣を振るう。
だが、見えない結界に剣は阻まれる。
「わかったから、アメリア。そんな目くじら立てないで…よく見て、あの手っ
て言うのはこういう手なの…………烈閃咆!」
間髪いれずに呪文をガウリィに向かって解き放つ。
それに気付いたガウリィが慌てず騒がず剣でそれを受け止め、
「うりゃあっ」
一声叫び。結界に向け剣を振り下ろす。
剣の先から飛び出る、あたしの烈閃咆より威力のある烈閃咆が結界にぶち
当たる。
おおーっ、偉いぞガウリィ。あたしのやりたいことを野生のカンで理解し
てたな。
2人に顔を向け、
「解ったわね。2人とも。あの剣は多分、光の剣と同じ性質を持っているわ」
「そう言うことか…」
ゼルが頷く。
「アイン!竜破斬を知ってる?」
彼女のケンジュウが光を放ち、ガウリィの援護をする。
「知ってます」
「もつの?」
「もちろんです。達也もよく利用してました」
彼女がこちらに笑顔を見せる。そのまま、ケンジュウが光を放つ。一寸違
わず結界へ。
どうやら、あたしの考えを理解しているようである。
それに達也もよくやってるのか…となると…
「…わかった…」
…遠慮しなくても良いわね。
「いい…2人とも、あたしは竜破斬を唱える。だからそれまではガウリィと
一緒に、援護をお願いね(ハート)」
<続き 7回目へ>