【UEA】スレイヤーズSTS 〜5回目〜
**** LINA ****
「黒妖陣っ!」
あたしが放つ呪文は見事に敵を粉砕する。
「氷の矢」
アメリアが作り上げた6本ほどの氷の矢で次々と敵を凍らし、
「炎の矢っ!」
ゼルが凍って脆くなったそいつら全てを粉砕する。なかなかいいコンビネ
ーションをするもんである。
ざうんっ!
ガウリィの剣が閃く。
ぱしゅうっ!
アインの持つケンジュウとかというアイテムから光の帯が飛び出し、敵の
胸元…強いて言えば心臓当たりか…を貫く。
今やあたし達の活躍により敵のほとんどは姿を消していた。その数は数十
にもあたるだろうか…にしても…
「…アイン…」
「はい?」
「変だと思わない?」
「変?」
「あっけなすぎるのよ…それに…こいつらを操っているヤツがいるってあん
た言ってたじゃない…そいつはどこ言ったの?」
「それはあたしも気になってました…けど…どこかにいるはずです…今探索
中ですから…もう少し…」
ヴオォーン!
そしていきなりとも言える爆発音は遠く離れた場所から聞こえた。
「なに?もしかして新手?」
「…見てください、リナさん。あれ…」
「え?」
アメリアの指さす方を…爆発音が聞こえた方向…見やると、神々しいまで
に輝く光と、夜の闇より暗い光がとぐろを巻いて天を貫いていた。
それはまるで光の塔のような光景。
そう言えばあそこは達也がいたはずの場所──
ごおうっ
「うぶっ」
あの爆発の影響か、突然、強い風が吹き付けて体がもって行かれそうになっ
た。あたしの髪とマントが激しくはためく。
「ぴいぃやあぁっ」
強風で飛ばされてきた桶を、かろうじてよけ──
ばきいっ
「あう」
あ。飯屋の看板がアインの顔面にあたった。
…よけろよ…少しは…
ぱくっ
今度はトマトが飛んできてそれをガウリィが口でキャッチする。
ぎしっ
今度はすぐ近くの、大きくもないが小さくもない樹木がこちらに倒れかか
る。
「わわ…で、魔風っ!」
空気を凝縮した、突風があたしの手から生み出され樹木を吹き──飛ばせ
ないっ!
しまった、この強風でかき消された。
──やばっよけれない!
ぱしゅう!
…え?
一本の光の剣が樹木にかすり一瞬にして灰と化す。
「大丈夫かリナ」
「…今の…ガウリィが…」
「ああ…とっさに剣を投げた時、はずれそうだったんでひやりとしたけどな…」
そんなやりとりをかわし、やがて光の塔は徐々に消えていき…あたし達を
吹き付けていた強風がおさまっていく。
「何だったんだ今のは…」
「さあ…でも多分、達也がやったんでしょうね…それか…」
…あの男がやったのか…
その言葉は心の中に押しとどめた。
「達也?誰なんだそいつは」
ゼルガディスが聞く。
「アインと一緒に………そういやあんた彼とはどういう関係なの?」
「パートナーです。まだ半年ほどですが…」
「そう…ま、そういう子でね…14、5のなかなかの美少年よ」
そして異界から来た少年…
「とにかく…彼の所に行ってみましょ。何かが解るかも…ここもあらかた片
づいたし…」
「まだ片づいてないわよ」
意外な返事は別の所から聞こえた。
「上だっ!」
ゼルが叫ぶ。
ゼルの言うとおり空を見上げると、空中に浮かぶ女の姿。
魔道士!
そしてその容姿には見覚えがあった。
「何者です、あなたは」
アメリアが叫ぶ──ただし、桶をかぶったまんまでまったく彼女とは違う
方向へ指を指し示していたりするが──
静かにしてるかと思ったら、あんなもんかぶって遊んでるし…
「………………………………」
しばし沈黙が続くと、がばっと桶を脱ぎ捨てきょろきょろ辺りを見回し女
魔道士の姿を見つけると、再び、びしっと指をさす。
「もう一度聞きます。何者ですあなたは!!」
「………………………………」
また、沈黙が訪れる。
…アメリア…少しはテンション下げなさいってば…こっちが恥ずかしいで
しょ…
「コピーのサイボーグ…さっきの子と同じですね…」
アインがつぶやいた。
「サイボーグ?アインそれって何なの?」
「あたしの世界の常識知識によって生まれた改造人間です。こちらの世界に
とっては非常識な知識ですけど…」
「ようするに?」
「う〜ん…説明がむずかしんですよねぇ…………まともな人間じゃないって
言えばいいでしょうか…」
「ようするにゼルみたいなもん?」
「おいこら…俺をたとえにするな…それに何故、まともな人間じゃないっと
いうことで俺の名が出る」
「え?だって…キメラだし…岩の肌だし…」
「…う゛…」
きっぱりはっきり言い放ち、ゼルは言葉につまる。
ありゃ…ゼルったら、完全にいじけちゃったよ…ま、ほっぽいてもすぐに
復活するか。
あたしはゼルへ向けていた顔をアインへ向き返し、
「ようするにコピーのサイボーグてーのはコピーのキメラなのね…」
「ええ…まあ…ちょこっと違いますけど…だから…ただのコピーとは違って
オリジナルより強いんです」
「なるほど…それでただのコピーじゃないって、あの時、言ったのか…」
「…はい…」
…ふ〜ん……コピーのキメラねえ…そういやレゾのコピーもキメラ…魔族
との合成体…だったわよね…
あたしは女魔道士の顔を見つめる。その顔は達也の顔とそっくりだった。
多分、彼女は達也から生まれたコピーなんだろ…ってちょっとまってよ…
…………なんか…嫌な予感が…
「…ねぇ…あんたってさ…達也のコピー?」
「さあ…どうかしら…」
あたしの質問にさらりと誤魔化す彼女──
「……………………」
…コピーって物は男の細胞を使えば男が生まれるし、女の細胞を使えば女
が生まれる。
…つまり…こいつが達也のコピーであったとすると………
「…もう一つ聞いていい?」
「いいわよ(ハート)」
「…も…もしかして…あなた……お、と、こ…かな?…」
「……………………」
あたしのとぎれとぎれの言葉に彼女は…いや、彼はただ妖艶な笑みを浮か
べ沈黙するだけ。
「……ようするに…おか…ま、さん……」
アメリアがあたしの後を引き継ぐ。
………………………………………………
………………………………………………
………………………………………………
………………………たりっ………………
その場にいる全員が全員頬に背中に、有りとあらゆる場所に冷や汗をかい
たことだろう。
『どおおうううええええぇいいいぃぃぃぃっっっっ!!!!!!!!!!!』
ずざざざざざざざざざ…
そして、アイン以外が悲鳴上げ思い切り後ずさる。そしてみんなで円陣を
組み、
「やだよおー、あたしあーいうタイプすんごい苦手…」
「でもでも、やっぱりあの人も悪人ですよね。でしたら…」
「…そ…そうよね…それに達也の所にも急いで駆けつけたほうがよさそうだ
し…そ…そうだ、ガウリィ!!あんた、その剣でぱぱーっと行って、ぱぱーっ
とあいつをぶったぎってきてよ!!!」
「でえええぇぇぇぇー!ちょ、ちょと待てリナ!!」
「なによ、あたしの言うことが聞けないわけ」
「んなむちゃいうな…あんなヤツに近づいてうつったりしたらどうすんだ!」
「うつるわけないでしょ」
「そうです、百害あって一理なし。さあ…ガウリィさん!正義の名の下に、
彼女に…じゃなくて彼に鉄柱を!」
「…だったらアメリアがやれよ…」
そう言いながらガウリィがアメリアの背を彼へと押し出す。
「ええぇぇぇー!いやですよおぉ〜…ちょっと…ガウリィさん…ええ〜ん、
ゼルガディスさん、助けて下さあ〜い…」
「…お…俺にふるな!」
「………あのお………」
アインが申し訳なさそうにあたし達の会話に入ろうとするが、みんな聞く
耳無し。
そして、しばらくは誰があいつを倒すかと言う、問題で戦いは静止してし
まった──
**** TATUYA ****
ごすっ
とてつもない衝撃で吹き飛ばされ一つの大木にオレは背中を打ち付けた。
…なんだ…今のはいったい…何が起こった…
たしか…気功砲で精王闇輪を撃ちだし、それが激しい光を放ったんだよな
…そうだライクは…
慌てて、ある方向へ目をやる………
……………………………………………………
………………おひ…なんじゃこりは…
目の前で光の龍と、闇の蛇がとぐろを巻きながら上へ上へと上り詰めてい
る。もちろん龍とか蛇とかは、たとえとして言っているだけなのでそれが本
当に龍や蛇だったとは言い切れないだろうけど…
…いや…そんなことよりもだ……
何故オレはその中心地にいる。
「見事な光景ですねぇ」
「ぅどうわ!」
突如、オレの真横に現れて感想を述べるゼロス。
「…って、脅かすなよゼロス…それにしてもおまえさん…よくあれに巻き込
まれなかったな…」
「ええ…それが精神世界面に逃げようと思っていたのですがなぜか達也さん
のすぐ近くに出て来ちゃいまして…まあ、それでも一様助かったようですが
…さすがの僕もあれに巻き込まれたらただじゃ済みませんでしたね…ははは
ははははははっ…」
ちっ…運のいいヤツ…
「今、舌打ちしませんでした?」
「してない、してない」
手をぱたぱた振りながら何気なく誤魔化す。
「そうですか?まあ、それよりもです…何故…精神世界面に逃げようとして
こちらに出て来ちゃうんでしょうかねぇ…ご存じありませんか達也さん?」
「…そうなるようにしむけたんだもん…」
「…は?」
「…いや…だから…あっ、そうか…こっちの世界には精霊王とかは知られて
いないんだっけ…えっと…ゼロスさ…オレが唱えてた呪文聞いてたか?」
「ええ…まあ…」
「だったら話は早いな…あの呪文は、オレがいる世界で伝わる六精霊王の中
の闇を統べる王から力を借りた呪文なんだけど…」
「待って下さい、その六精霊王とはなんですか?」
「それはパス…知る必要はないし、教える気もないから…」
「…はあ…」
「…でだ…その闇の王の呪文の中に『明と陰を渡りし時 時を渡りし者』っ
てあっただろ?」
「…ええ…あります…ありましたね…」
「実はあそこの部分はな、空間移動のことを表してるんだよ」
「え?」
「要するに、今ここにいる場所が明だとすれば、ゼロスが言う精神世界面は
陰となるし…その逆にもなるな…じゃあ…明と陰の間には何があると思う?」
「…いえ…そのお…突然言われても…」
「明が+(プラス)で陰が−(マイナス)。差し引き0だ。何も無い…つま
り闇…」
「…ああ…なるほど…」
無感動に相づちを打つゼロス。
周りでとぐろを巻く光と闇が消え始めた。
「そのためにその闇の王の呪文を使い、空間をわたるための通り道を遮断し
たわけなのですね」
「そういうこと〜…あいつも空間をわたれたからな…だから、わたれなくし
てやったんだ…とりあえずバリアも張れるようだから、気の力で魔法を倍増
させてぶっ放してみたんだが…ま、直撃すれば跡形もな………げっ!」
オレの目の先で、消えた光と闇から一つの影が見え隠れする。
そしてそいつの姿が完全に現れた。
彼は左腕半分を失っており、そこから火花が散り、幾数のコードが見え隠
れしている。足の所々からもバチバチと火花がちり、顔に至っては左上半分
の皮膚がそげ落ち、鉄色の骨格が現れている。
…やっぱり…コピーサイボーグか…
「…やってくれるじゃないか…」
「…直撃しなかったんだ…」
「まあね…さっきのがバリアを難なく貫いて、左腕を吹き飛ばしてくれたけ
どね…確かに直撃したら、僕は消し飛んでいただろうね…僕なら…」
意味ぶかめな言葉をライクが吐く。
「ずいぶん余裕だな、その体で」
「そりゃあ、まだこちらが勝てる要素が残っているからね。知ってるんだよ
お兄ちゃんが魔力のほとんどを使い切っちゃったことを…使えても火炎球4、
5発くらい…最初に僕にかけた精王雷輪だったっけ、それが1回ちょっとか
な…」
「………………」
おいおい…探知装置まで持ってんのか…他にもまだなんか、やっかいなも
ん、持ってんじゃないだろうな。
「…と言っても、僕の方もさっきのをこらえるためにほとんどを魔力障壁に
使っちゃったけど…」
「なるほどそれなら5ぶ5ぶだな…いや…6:4か…5体満足でいるオレの
方がまだ有利かな?」
「いいや、7:3で僕の有利さ」
「…ほおぉう…」
「転移のほうは壊れちゃったけど、バリアはまだ使えるからね。だから7:
3」
なるほど…それで7:3か…ふう〜ん…
「さてと…」
突然ライクの左腕のコードが生き物のように激しく動き出す。腕の肉が異
様な動きをし、伸び、膨らみ、全ての動きが止まると、左腕は1本の剣と生
え変わっていた。
…おいおいおい…んな裏技まで持ってんのかよ、はっきり言ってずるいぞ、
それ…
一歩前に進み出て、
「…今度は本当に死んでもらおっかな(ハート)」
笑顔でそう言うとライクが脱兎の如く駆け出す。オレの方へと──
剣が上から縦に一閃する。オレはそれを右横へとステップしかわす。すぐ
に横凪の一閃が襲い、更に右横に数歩のステップでかわし、彼との距離を開
ける。
攻撃は一切しない、ただオレはよけるだけ。
ついでに余裕の笑みを浮かべてやる。まあ、実際に余裕でかわせているの
で素直な表情を見せていることになるのだが…
そう言っても、ライクの剣技はなかなかのものだ。いや…実際に強い。ラ
ンク付けすればパワー・スピードとも上級者レベルだろうか。
ただ、剣より拳に優れていたためなれていないのか…間隔がつかめないの
か多少ぎこちないが…最初っから拳で戦った方がいいんでないの?
「この!」
「ひゅっ」
叫びながら振るうライクの一振りを、口笛を吹くような感じで鋭く息を吐
きオレは空高く跳ね上がる。
空中で2回ほど前転を加え、ライクを飛び越えそのまま2メートルほど離
れた場所へ着地すると、すかさず3回のバク転で更に間を開ておく。
「ちょこまかと逃げるな!やる気があるの!」
「まったくない」
彼の叫びに軽く言い返す。
ライクはぱっくりと口を開け、徐々に顔色が変わっていく。
怒気をはらんだ顔に。
「もお、絶対に怒った。何がなんでも怒った。とにかく怒った」
言いながら地団駄を踏むライク。
その彼の内側に気がどんどんと膨らんでいくのが解る。
多分、その気は火炎球数個分の威力になっているだろう。
本当ならこれだけの気を上げるに、かなりの修行を行わなければ出来ない
のだが…多分無意識でやっているのだろう。さすがオレのコピーだけのこと
はあるぜ。
だっ!
ライクが駆け…おっ、一瞬でオレは懐に入り込まれる。
──速いっ──
ひゅんっ!
剣筋も速くなっているな…それをよける。今度は蹴りが来る…それを蹴り
返…蹴りがとまる。なにい!フェイントっ!
うわっ
慌てて後ろに飛び下がるとオレの鼻先を剣先が通り過ぎる。
…こ…こいつ…どんどんと動きが…
ライクがそのオレを追い、その場でくるりと横に一回転しその反動で拳を
飛ばす。それをかろうじて受け止め、一瞬の蹴りがオレの頬をかする。
「くっ!」
今度は上から剣を振り下ろされ…
このっ!
ばちいぃ
「ちいぃ」
繰り出したオレの拳がバリアに阻まれる。
そして剣がオレの肩をとらえ──
「──る!わきゃねえだろおー!!」
と叫び、バリアに阻まれた腕に力を込めそのまま吹き飛ばす!
「うわああああああーっっっ!」
ごろごろごろごろごろ…
バリアを張ったまま悲鳴を上げボールのように弾み転がっていくライク。
…目、回してなきゃいいけど…
「いってー」
そう言いながら彼がムクリと起き、頭をさする。何故か、彼のその表情と
仕草がとてもほほえましくも見えるのは気のせいだろうか…
「………………」
…っにしてもだ…おっでれいたよな…こいつ…今の組み手だけでスピード
が数段上がりやがった…将来にはいい武道家になれるぜ…
ライクが叫ぶ。
「バリアごと拳で殴り飛ばすなんてっ非常識だあー!詐欺だー!クレーム付
けてやるっ!金返せえー!!」
「やっかましい!そんなグチをこぼす余裕があるならとっとと、かかってこ
ーい!」
それを大声で叫び返す。
「達也さん…あなた、もしかして楽しんでいません?」
「気のせい!」
ゼロス…まだいたのかあんた…の疑問に一徹の如く言い切ったオレだが、
多分、武道家としての血がこの試合で高揚してきたのかもしれないな。
そして、二人は再びぶつかり合う──
<続き 6回目へ>