【UEA】スレイヤーズSTS 〜4回目〜
**** LINA ****
「──えっ!?」
それはセイルーンの中心地辺りだろうか、すでに陽は沈み辺りは暗くはっ
きりとは断定できないが、そこから煙が立ちあがっているのがわかる。
「くそっ!こっちはおとりか」
達也が叫び、そしてセイルーンの街中に向かおうとする。
「まって、達也。あいつはどうすんの?」
「ちっ」
アインの一言に舌打ちの達也は再び、彼とガウリィが言っていた…人間と
もゼロス=魔族とも違う気配の…方へ険しい顔を向ける。
………………
暗闇に佇む人1人。
う〜む、こりでは暗くてどんなやつなのか全然解らんな…
「明り!」
あたしが生み出した光の球、数個を空へと放り上げると、ここら一帯を光
が灯し、その光が闇にすむ者を浮かび上がらせた。
黒くショートカットの髪。男とでも女とでも見て取れる美形。
結構細身だが、要所要所が鍛えられている体。
そこには──
「…そんな…」
アインがぼつりとつぶやいた。達也の表情がさらに険しくなる。
──もう一人の達也がいた──
あたしたちと一緒にいる達也と、もう一人の達也はうりふたつといえよう。
いや、どちらかというとあちらの達也の肌が多少白く見えるが…
「コピー?」
あたしたちと対峙する達也…仮に影・達也と呼ぶ…があたしのつぶやきに
答える。
「コピーとは心外だな。あんな感情も持たない人形と僕を一緒にしないでほ
しい」
影が言い返す。
そりゃまあ、確かに…感情のないコピーとは違う風には見えなくはないけ
ど…
「…ゼオの命令か?」
「まあね」
達也の質問におちゃらけて答えるコピー。
しばらくは沈黙が入る。
「アイン…」
「はい?」
「リナたちと一緒に先に行ってくれ。こいつを片付けたら、オレもすぐにか
けつけるからよ…」
「…ちょ、ちょっと勝手に決めない…」
「片付ける?この僕を?」
抗議しようとしたあたしの言葉を遮り、影=達也の声が響く。
「そうだ…」
「くふっふ…あははははははは…この僕を…この僕を倒そうだなんて…面白
いはったりだよ…あははは…」
達也の返事を聞くと彼は哄笑をあげ、さらには腹を抱えその場で転がりま
くる。
あたしならここで否応もなく攻撃魔法で吹き飛ばすんだけど…やっちゃっ
てもいいのかな?
「精王雷輪(アスルトグ・ファーリング)!」
いつのまに唱えていたのか、いきなり達也が仕掛けた。
彼の手から青白い五方陣が描かれ、そいつがリング形の武器となって影=
達也を襲う。
おおー!あたしの意志が達也に届いたのか?
まさしく影=達也を捉えた瞬間──
空間がきしんだ悲鳴を上げると同時に
ヴオォーン!
爆発と大音響、そして衝撃波と熱風があたしたちを薙ぐ──
煙と粉塵が辺りを覆い尽くす。
「…うぷっ…」
精王雷輪…な…なんて…威力なの…竜破斬、並みじゃない…
「今だ!はやく行け!!」
達也があたしたちに向け叫び、
「なんで…あんなものを食らったのよ…」
「ばかやろう、あんなんで倒せるんならくろうしねえよ。いいから、さっさ
と行け!!」
疑問を言おうとしたあたしの言葉を遮り、達也は叱責する。
「そうはいかないよ」
──なっ!
「ちぃっ」
声が煙の先から聞こえ、達也が舌打ちする。
そして煙の中から、数十個の光球が飛び出しあたしたちを襲う。
やばいっ!
かあああぁぁぁぁー!
いつの間に持っていたのか、達也の持つ大筒から光が発し、すべての光球
を包み込み、すべての光球が結界の中に閉じ込められた。
「ちぇっ…R<IN>キャノンか…不意をついたつもりだったんだけどなあ」
影=達也の声がこちらにかけられる。爆煙の中から。
──まさか──でも──
ゆっくり薄れ出す煙の中で佇む人影一つ。
あれをくらって生きてた。なんなのあいつ──
「はやく、行け…アイン。こいつは多分おとりだ!つまりこんな事をするっ
て事はあのやろオレたちの存在に気付いてる。んなら手加減するな。リナた
ちをできるだけバックアップして…もしもの時は船を使ってもかまわん」
「…………」
「アイン!」
「あ!えっ?あっうん…わかった」
達也があたし…いや、ガウリィを見て、自分の左手首のリストバントを外
すとそれが光り輝き一本の光の剣に変わる。
そしてそれをガウリィに放り投げた。
「こいつを仕えガウリィ。今お前さんが持ってる剣では奴には傷も付けられ
ないからな…」
「へえぇ…」
ガウリィが興味深げに渡された光の剣を眺める。
「そいつに魔法をかければ増幅もしてくれる。リナとのコンビネーションで
うまく利用しな」
「ああ…サンキュー」
剣を見せて言うガウリィの返事に彼は一つうなずくと今度はこちらに顔を
向け、
「リナ。向こうで暴れてるやつも手強いヤツかもしれん。気を付けろよ」
「解った…でも後でちゃんと説明してくれるんでしょうね?あんたたちやこ
いつらのこと」
「ああ…後でな…”魔を滅する者”さん(ハート)」
そのセリフにくすっと一つあたしが笑うと,
「一億五千年後に?」
「望んでるんなら…」
その答えに、まるで悪戯坊主のような笑顔で答える達也。
「んなもん望んでないわよ…と、それよりも…さあ、行くわよガウリィ。こ
こでぐずぐずしてらんないわ」
「おう」
あたしは笑顔とともに走り出した。達也の言葉を信じて──
「気を付けて達也」
そう言い残してアインも走り出す。
何故だろう…あたしは彼の言葉を信じられる気がした──
あたしたちは街中で起こる爆発へ向けひたすら走る。
そういや…ゼロスの姿が見えないが…ま、いつもの事か…
爆発が起こるそこでは赤赤と輝いているのが見える。
あたしたちが走る場所まで飛び火し、逃げまどう人々。
「リナ、達也のやつ大丈夫かな?1人で」
ガウリィが時々ちらちらと達也がいる方向を見たりして走っている。
その先でも光の線が空を飛び交い、爆音がこだまする。
「大丈夫なんじゃない。あんな魔法も仕えるんだし…そうでしょアイン」
「…………」
が、返事がない。
「アイン?」
「え?」
何か考え事をしていたのか突然、振られたあたしの言葉にきょとんとする
彼女…あんまし、考え事をしながら走ると危ないぞ…
「だから、達也なら大丈夫でしょあんなやつ…」
「ええ…多分…」
「多分?」
「相手の力が未知数なんです。いえ、達也の方が不利という可能性もありま
す」
「でも…あれって達也のコピーでしょ。だったらオリジナルのほうが」
「ただのコピーじゃありません!…あっ!いえ…その…ただの…コピー…じゃ
…ないんです…」
そう言って彼女はそれ以上は口を開かなかった。
**** TATUYA ****
「お前さん…なんでここに残ったんだ?」
リナ達の姿が完全に見えなくなってからオレはゼロスに問いた。
「いや〜、なかなか、面白い勝負が見れそうでしてね(ハート)もちろん見
せてくれますよね」
「……それだけか……」
「いいえ、実を言いますと僕はあなたの秘密を知りたいんです。あなたは人
間であり、魔族のような力を持っているような気がしたもので」
「…ふ〜ん、面白い事を言うな…」
そうゼロスにこたえながら肩に担ぐ物のエネルギー残量を確認する。あと
1回だけか…
「もちろん、完全に見切れていませんからね。だからこそ今ここで見学させ
ていただきたいのですよ」
言いながら彼は、ちょこんと近くの岩に腰を下ろす。
「ほんとに見学だけか…襲ったりしないだろうな…ホモになる気はないぞ。
オレは」
彼に向けて殺気を放つ、
「むろんです」
がそんな殺気にも何事もなくへーぜんとするゼロスは、あっさりと首を縦
に振る。
「ま、邪魔しないなら別にいいけど…流れ弾にあたってもしらねぞ…」
…わざとゼロスに当ててみようか…
「ええ…気を付けることにいたしましょう……それにしても…ホモになる気
はない…ですか……ふ〜む…もしかして一度、そういうお方に襲われたこと
があるとか…」
「……………………」
…う…余計なことを言ってしまった…
「あはははははは…図星ですか」
腹を抱えて笑うゼロス。
「…うるせいほっといてくれ…」
くそー、だからあんな潜入捜査はいやだってチーフに言ったのに…
…おかまバーの潜入捜査だなんて…それにあのやろう…う〜今思い出して
も腹が立つ!
「あははははははははは…」
「……と、とにかくだ…」
顔を赤らめながら声を張り上げ、オレはやつを睨む。
「始めようか、兄ちゃん」
やつは無邪気な笑顔で開始の合図を掲げた。
「…ああ…」
小さく返事を返すと、オレは静かに目を閉じ、精神集中するため一つ長く
息を吐き、目を開く。
そして名乗る。
「正心気功流14代目、田中達也。まいる!」
──と──
「先手必勝っ!」
躊躇もなく、R<IN>キャノンの引き金を引く。
光の帯はそのままやつを捕らえ…瞬間、そいつが消える。
ちいぃっ、あいつ体の中に転移装置を組み込んでるのか!
エネルギーの全てを打ち尽したキャノンを捨てる。
やつはどこから来る──
「!?」
慌てて横っ飛びしてその場から離れる。
ずががががが…
オレが体制を立て直すと、ちょうど先いた場所に光の矢が雨あられと降り
注ぐ。
小降りの威力だろうが、打ち所が悪ければ普通の人たちなら致命傷になる
のは間違いないし…
かわされるのは目にみえてるけど……オレはお返しとばかりに天に一発、
気功弾。
そしてワンステップほどその場を動くと、
ぶうんっ
という音と共に…いつのまに後ろにいたのか…そいつからの鋭い蹴りがオ
レを襲い、それを紙一重でかわす。すぐさま脇腹狙いの右フックに左の正拳
突き──どちらも肘でブロックされるが、んなの無視。
ごっ!
タックルの形でオレの頭突きがやつの顔を捕らえた。
「ぐっ…」
小さくうめき体制を崩したところを──
撃つべし──ごぶ
撃つべし──ずぐ
撃つべし──ばきい
ごがああぁぁぁーっ!
オレの拳の2連打に最後の蹴りで、そいつを近くの木にたたきつける。
すぐさま、口と両手を動かす。
右手で前部の呪文を描き──
左手で中部の呪文を描き──
口で後部の呪文を紡ぎ──
「精王雷輪っ!」
立て続けの魔法攻撃!
ガグオーンッ!
リナたちがいた時よりもさらに魔力を込めた一撃が見事にヤツを直撃する。
「おみごと」
ゼロスが三唱する。いや──まだだ──
「もうイッチョ…精王雷…」
ずうがっ!
「…がっ!」
だがその時、背に一つ、いきなしの攻撃を食らいオレは前のめりに倒れた。
**** LINA ****
「あそこだ、リナ!」
ガウリィが爆発の起こる方を指差してあたしたちの行き先を教える。
するとその先から、
「氷の矢いきます!」
「火炎球っ!」
2つの聞き覚えのある声がする。
「リナ、今の声…」
「解ってる」
あたしは走りながらも内心、喜んだ。
こんな状況にしろあの2人に再び会えるのだ。
仲間として信頼できるあの2人に──
走る速度を上げた。
あたし達は一つの道を曲がり──そして開けた場所に出る。
セイルーンでも1番の待ち合わせスポットになっている、ここ噴水のある
広場は戦場になり果てていた。
見事な鎧を身にまとった騎士らしき者達が、のっぺらぼうの人間大の人形
と剣を打ち合わせるのがあちらこちらで見かける。
「アインあれはなに?」
「操り人形です…ただの…」
「強いのか?」
「いいえ…並の剣士程度の実力しかありません。けど、その体は鉄の鎧よう
な物で覆われています」
「…なんだ…そうか…だったら簡単だな…」
ガウリィならそうでしょ…けど、ここにいる騎士達はどう見ても…
がちぃん!
「うおっ」
騎士が振り下ろした剣はノッペラボウの体を切り裂けずそのまま弾き返さ
れるのが目に映る。騎士にしてはちとばかし弱すぎるんじゃないか…
「…ただ…」
「ただ、なに?」
「これらを操っているのはとても強いヤツのはずです…人形以外の敵に出く
わしたときには気を付けて下さい」
『わかった』
アインの説明に一つ返事で頷くあたしとガウリィ。
『炎の矢っ!』
見事なぐらいにハモる男女1組の声。そこに目を向けると…いた!
男性の名はゼルガディス。
長旅でかなり変色してしまった白い貫頭衣を身にまとった、銀の色の髪の
美青年。
かつてある魔道士に、石人形、邪妖精と融合させられ、その肌は青黒い岩
と化している。
女性の名はアメリア。
肩で切りそろえてるはずの艶やかな黒髪は今はのばしているのか後ろ手で
結びポニーテールにしている。やや童顔で大きな瞳は全然変わってない。
ここセイルーンの元第一王位継承者、そしてこのたび国王に即位すること
になっているフィリオネル=エル=ディ=セイルーン様の二番目の娘である。
かつて、あたしと数ある魔族を討ち滅ぼし、旅を共にした仲間──アメリ
アいわく、『正義の仲良し四人組』。
「正義は我にあり。もしおとなしくするならそれでよし、抵抗するのであれ
ば私たちが容赦しません。このセイルーンの名にかけて!!」
拳を天に掲げ朗々としゃべくるアメリア…かわっとらんなあの子…
「ただの人形だからあんなこと言っても、何もならないんですけどね…」
とアイン。その彼女の言葉どおり、アメリアのセリフなどいにかえさず、
騎士達と剣を組交わすノッペラボウ。
「あくまでも抵抗を続ける気ですね。仕方ありません。みなさん、こうなっ
たら私たちの力を見せて上げましょう」
『おおうっ!』
怒りの拳を…よくよく見ると船に取り付けられている錨の絵が描かれてた
りする…振り上げながらのアメリアのセリフに意気揚々と上がる騎士達の声。
その光景に一時酔いしれる彼女。
「バカっ!アメリアっ!後ろだ」
ゼルが叫ぶ。
アメリアの後ろで剣をまさに今、振り下ろそうとするノッペラボウ。
「あ…」
突然のことで彼女は動けない…が、
「黒妖陣っ!」
あたしの放った呪文でそいつは塵と化す。
「助太刀に来たわよ。アメリア。ゼル」
ぱさっと髪をかき上げ、言うあたし。
ざあうんっ!
ガウリィが持つ、達也から借りた光の剣で異ともたやすく切り裂かれるノッ
ペラボウ。
「よう…久しぶりだな…2人とも」
剣を肩に置き2人へ声をかけるガウリィ。
『リナ(さん)!ガウリィ(さん)!』
そして4人から、笑顔がこぼれた。
**** TATUYA ****
「くはあ…」
背中の痛みをこらえ立ち上がろうとした。
…ばかな…
オレの目の先にヤツが何事もなかったかのように平然としている。
精王雷輪とは風と雷の精霊全てを統べる精霊王・雷聖鳳から力をかりる呪
文だ。
オレの世界では精霊王から力をかりる物は秘技中の秘技と昔から言われて
いるが、それは精霊王を表す言葉のみで呪文は一切伝わっていない。
では、どうやって呪文を覚えるのか…それは自分で開発するしかないのだ。
オレも偶然に六精霊王から力をかりるとんでもない威力のある呪文を完成
させた一人…それの全力による一撃を確かにくらったはず…それなのに…
…くそ…あのやろう…転移装置だけじゃなくバリアー発生装置まで持って
やがるな。
だったら、ただの精王雷輪じゃあ歯がたたねぇ…
「ぐあっ…」
横からのヤツの蹴りを、まともにくらいそのまま吹き飛ばされる。
地面にたたかれ、何度か転がり止まる。
慌てて身を立てようと、
ずきん!
「いてててて…」
あばらの辺りが痛みが走る…やべえ…2、3本は折れたかも…
「なんだ…つまんないや…」
おもむろに彼は言う。
オレは急いで、回復呪文を唱える。回復力のスピードを上げる呪文を。
こちらの世界で言えば治癒と同じような物だ。
「ゼオの話じゃめちゃくちゃ強いって聞いてたんだけど…お兄ちゃんって、
たいして強くないや」
やかましいっ!
「それに何だい、最初のあの魔法弾は。もしかしてあんなので僕を牽制しよ
うとでもしたのかい」
…最初の魔法弾?…魔法ならわかるが…それって気功弾のことか?
「僕としても期待はずれですね…それとも…本気で戦ってないんですか?」
ゼロスもため息混じりな声でオレを挑発する。
「えー!そんなのダメだよ。人生何事も一生懸命が大事なんだよ」
「その通りです」
その場にそぐわぬおちゃらけた声にゼロスも頷く。
…おいおい…
「魔族が人間の人生を語るな…」
「いや〜はっはっはっはっはっ…痛いところつきますねぇ…これは一本取ら
れました」
「…たくっ…」
呪文を中断し、おられた脇腹辺りを突っついてみる。
…よし!痛みが完全になくなったぞ。どうやら回復は完了したようだ。
「…さて、どうするんだい…このまま僕に殺される方がいい?」
そのセリフにオレは立ち上がりながら頭をかく…ふむ…
「………しゃーねえな…本気でやってやるよ…」
「やったね(ハート)」
言いながらバク転して喜ぶ彼。
…しかし本気でって言っても…肉弾戦ではこちらが不利だな。
スピードもパワーもこっちが上でもあの転移とバリアーがあるんじゃ…効
き目ウスだし…
だったら精霊王・光聖龍からの力で…いや…いくら六王の中でいっちゃん
強いと言っても、かりる力は限られてるし…多分効かないか…となると…あ
れしかないな……ちぇっ…ゼオ用に取って置いた技の一つだったんだけど…
「…さてと…そういやおまえさんの名前、まだ聞いてなかったな。なんて名
だ?オレと同じ達也って訳じゃないんだろう」
「ライクっていうんだ。気楽な性格だからこういう名前が付いた」
「軽い性格だから…Liteがライクか…なんて単純な…どうせゼオが付け
たんだろ?」
「あれ?何で解ったの?」
「昔っからそういうヤツらなんだよ、あいつも妹も…」
「妹?」
ゼロスが問う。アインのことなんだけど…
「…じゃ…戦闘の再開といくか」
「OK」
いきなりオレは2つの力を高め、そのまま1つの力・魔力を使い呪文詠
唱に入る。
そして右手にもう1つの力・気を溜め始める。
「またあ…そんなの僕には効かないよ…」
ライクは呆れた声を出す。
やっぱり、こいつ気付いてない…どうやら生まれたばかりだから、気功の
感知能力がなってないようだ…魔力も気功も一つの魔力として見てやがる。
しかし何故だ?
疑問を抱えつつも、かまわず呪文を続ける。
精王雷輪と呪文の構成は同じだが力をかりる精霊王を変えることにする。
精霊王・闇聖蛇に──
──黒き影を統べし者
六精の 闇を統べる王
明と陰を渡りし時 時を渡りし者
我が力 我が身となりて 無とかえし
紅蓮の炎も 冷たき炎のリングとなりて
全ての視界を踊りつくせ──
「精王闇輪(アスシャグ・ファーリング)っ…」
『力ある言葉』を解き放つ。
「だから…無駄だってば…」
ライクが言う。もとより承知のこと。
オレの目の前に黒き五方陣が描かれ…ここで一気に右手の気を開放する。
「なんだ?」
右手が気功によって神々しい光を放ち、コントロールするオレの意志にそ
れは答え、徐々に一つの形に形成する。キャノン砲の形に──
それが完成するとおもむろに弾を詰め込む。その弾となるのは先ほど唱え
終えた、精王闇輪。
「…これはまた…おもしろい手を…」
驚き半分、興味半分でゼロスが歓喜する。
そうこれこそ、オレがゼオ専用に開発した、魔法と気功の混合術。
そのまま、ライクに照準をあわ…
「ぬうわわっ!」
オレの手に収まる大筒が暴れ出す。
やべ…光と闇じゃあ相性が悪すぎたか…光聖龍や雷聖鳳なんかではこんな
ことはなかったんだが…
「…こんにゃろ…収まれ…暴れんな…」
体中の気という気を全てを使って振動を止めようとしてみるが、なかなか
言うことを効かない。
「…ふっははは…なんだ…はったりか…」
ライクが邪気を含んだ顔で笑い。
そして両の手を上にかかげると、その両手のこうからは強大な魔力弾が姿
を現す。
まずいっ!こんな時にっ!
ヤツが静かに言う。
「…それともまだ未完成なのかな?」
ちゃうわいっ!ただたんに精王闇輪で使うのは初めてなだけだいっ!!
と言いながら中指を立てたい衝動を何とかこらえながら、両手を踏ん張っ
て照準を合わせようとしてみる。
が、依然として暴れる。
「…死ね…」
ライクが魔力弾をほうり放つ。
「くっ…」
だめだ…まだ、照準があわせられない…
迫る魔力弾──
ええーい!!!!
こうなりゃ神頼み…
「なむさん!!」
精一杯の力を込めて言いながらオレは精王闇輪をぶっぱなし──
ぐうかあかあぁぁぁーーーーっ!!!!
──その反動はオレの予想を遙かに超えていた。
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