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【UEA】スレイヤーズSTS 〜2回目〜


**** LINA ****

「ええ…実はですね…」
「お待ちなさい!!」
 と言いかけたゼロスの言葉を遮るかのように朗々と響く──
 ………やっぱし出たな………鉄筋コンクリート……
「悪があるとこ正義あり!正義があるから世は平和!」
 上を見上げれば、人1人。眩しく輝く太陽を背に、屋根の上で何ごとか、
きゃいきゃいと叫んでいる。その顔は影がかかって見えないが…金色の長い
髪が風に揺らめく………あれ?金色の長い髪?
「…世にある悪を滅するため……ため……えっと……う〜ん…何だったかな
あ?…」
 そう言って彼女は懐から何かしらの本を取り出した。
  …ぺらぺらぺらぺら…(ページをめくる音)
「………心の…闇を…懲らす…たあ…め…っと…」
 その本を読みながらぎこちなく朗読する…誰だあれ?
「…なあ…あれってアメリア…じゃないよなあ…」
「おもいっきし違うわ」
 声も違うし、結構背も高いし…
「…天に…天に代わってあたひの裁きを受けなさい!」
 ぽひっ!
 彼女が本を投げ捨てる。
 それがあたしの足下に落ちてくる………その本にはアメリア名言集と表紙
には書かれていた…
『………………』
「とおうっ!」
 掛け声一発、屋根から飛び降りる。
 その時、あたしは呆れながらこりこりと頭をかき…屋根から飛び降りた彼
女が空中の3分の1で1回転し、後は着地へ──そこをすかさず。
「炎の矢」
「火炎球」
  ぎゅおおーん!じゅぐおぉおがびごしゃ!
  どごがぎゃあぁん!
「ぷぴぎぃやあーー!」
  あたしともう一人が放った攻撃魔法を食らい、その人物は悲鳴を上げ、
  ぺちっ…
  地面と同化──
「…お、おい。リナ。今のはちょっとひどくないか」
  青ざめて言うガウリィ…ちょっとなのか…
「だあってぇ〜こういうシュチエーションに1回だけでも茶々入れてみたかっ
たんだもん…アメリアじゃあ絶対抗議がかえって来るし…」
「アメリアじゃなくても抗議されるって…」
「さすがリナさんですね、容赦がありません」
「…なによ、そのさすがってーのは…」
  あたしはぎろりとゼロスをみすえる。
「…あ…いや…えっと…あの…」
「…それにあたしは炎の矢しか使ってないわ…」
「それでも十分ひどいと思うが…」
「びえええぇぇぇー。いたいーよおおー」
  うわっ!
 …も…もう復活してる…こういうやつって全員、体が丈夫なのか…
「…なら…よし…ここでもう一度、火の矢でとどめを…」
「…悪人かお前は…」
  ガウリィが突っ込む。
「…お気に入りの洋服がすすだらけですう〜」
  なかなか珍しい服…今のをくらってすすだらけ?…普通はボロボロになるだ
ろ…を眺めながら1人明後日の方をむく彼女。
  年の頃は二十歳前後か…あたしと似たような癖を持つ金色の長髪。なかなか
の…いや…かなりの美人である…胸は…結構あるな…くそっ…やっぱし…もう
一度、炎の矢で…
「…ほお…そうかほうか…まだそんだけの余裕があるなら、もう数発くらって
も大丈夫そうだな…」
  奥の方から一つの男の声が彼女にかけられた。
「…どきしーん…」
  何じゃ、その「どきしーん」ってーのは…
 男…いや…建物の影から一人の少年が現れいでる。
  年の頃は14、5か…黒髪で女の子みたいなショートカットの髪型。結構細
身の体格だが、要所要所が鍛えられているし、弱々しい雰囲気も感じられない。
顔は…女の子?と疑問に思える程の美少年だったりする…が鋭い目つきで彼女
を睨んでいたりする。
  青に紺が混ざった少し暗めのズボンに真っ黒なアンダーシャツ。そしてシャ
ツの上にボタンがごじゃごじゃとくっつく、ズボンと同色の服を羽織っている。
こちらもまた彼女と同じく珍しい服と言えよう。そして……
「………あ…あははははは…た、達也じゃない…偶然ねぇ、こんなとこであえ
るなんて……」
「言う事はそれだけだな…んじゃそういう事でもうイッチョ…ファイヤー…」
「…きゃー!!ちょっとまって、ちょっとまって。あたしが悪かったです。誤
ります。ごめんなさい。ついつい、ボディ磨きに夢中になってゼオのトレース
を忘れていました。すみません!ゆるしてっ!お願い(ハート)」
 早口で冷や汗たらたら平謝りする彼女。白旗もふってたりするし、最後には
「アブラカタブラ」…とわけのわからんことをぶつぶつ唱えてたりするひ…
「…………」
「ね、ね、ね、ね(ハート)」
 両手を眼前で合わせ片目をつぶりながら言う彼女に、
「…やだ…」
 少年一言。
「…え…」
 彼女の顔が蒼白になる。
「…つー訳でさらばだアイン…火炎球(ハート)」
  ぶどおぉぉぉーん!
  少年の笑顔で放った一撃は、彼女を中心に紅蓮の炎と化した。



「…あんた誰…何もんなの…平謝りする人物に容赦のないその攻撃魔法…」
「リナさんも似たようなことを、よくなさっていると思うのですが、僕は…」
「あたしは悪人にしかやらないからいいの!」
「…そうかあ…」
 ガウリィが首を傾げる。
 少年が作り上げた、人火事も収まりつつあるところで、かすれたような声で
あたしは彼に問いかけていた。
 極微量だったが彼からは障気を感じていたから…ただし魔族にしてはものす
ごく低級の部類に当たる障気だったが…そういう低級魔族程度ならあたしにとっ
てたいしたことはない…が、低級魔族はここ聖王都セイルーンの結界に阻まれ
て入れるはずはないのだから、多分こいつは中級、またはそれ以上の魔族なの
だろう…
「え?何者って…」
 少年はあたしのセリフに言葉を濁し、人差し指でほっぺた辺りなんぞをぽり
ぽりかいたりする。
「……あ…そうだ…」
 そう言いながら、ほっぺたをかいていた指を彼は前へ向け…
「それは秘密です…なんて言ってはいけませんよ。それは僕の十八番なんです
から」
 …るが、胸をはるゼロスが彼のセリフをさえぎるとともに、
「……えっと……」
 おったてた人差し指をくるくる回し、腕組みして再び何かを考える。
 …こいつ、本気でそうやって誤魔化そうとしたな…
「…魔族ね…あなた…しかも中級の…」
「魔族?……それって…」
 彼はいぶしかげな表情をする。
「…親父とかお袋とか、兄貴とか姉貴とかの…」
「それは家族じゃ…こいつみたいな解りづらいボケをかますなあ!」
 あたしはガウリィを指さして笑…じゃなかった…叫ぶ。
「…んなことより…魔族なんでしょ…あんた。精巧に隠してんのかわざと出し
てるのか知んないけど、ほんの少しだけあんたから障気を感じんのよ」
「…障気?…なあ…それって…もしかして…」
「ここでまたアホなボケかましたらガウリィ、投げ飛ばすぞ…」
「…う゛…」
 あたしは彼の次の言葉をさえぎり、拳を握りしめて言い放つ。もう一方の片
手ではガウリィの襟首をつかみ…
「…リナ…なんで俺が投げられなきゃならないんだよお〜」
「この辺に手頃な石がないから」
「俺は石以下か…」
「うん」
 あたしは破棄入りとガウリィに頷いてやった。
「…しくしく…」
 その場に立ちつくして涙涙のガウリィ…すねるなよ…
 まっ、冗談はこの辺にしてっと…
「さあ、きりきり白状してもらいましょうか魔族さん」
「あのお〜リナさん…」
 ゼロスが申し訳なさそうな感じであたしに話してくる。
「何よ!いいところを邪魔しないでよ」
 あたしが向けた美貌に一瞬くらっと来たか…別名・怒気のはらんだ顔…ゼロ
スは1歩後退し、
「…あ…いや…そのですね…中級以上の魔族のかた達であれば、僕、ほとんど
存じているんですが…」
 …だから何よ…
「…この人、僕の存じ上げてるかたの中にはいらっしゃらないのですけど…」
 …え゛……
 しばらくの沈黙──
「ずずずずずううぅぅー」
 その間に、ほのぼのとお茶をすするガウリィ。
「ずずずず…結構なお手前で…」
 ガウリィに向かってお辞儀をする金髪姉ちゃん。
 やっぱしこのねーちゃん、早くも復活してるし…このぶんじゃあ、ナーガ
とためはれるわね…
「…そう…だったら低級魔族ね。そう決めた。あたしが決めた。今決めた!」
 青春カンバック!あたしの指さす方向には、太陽が赤々と燃えながら沈みか
ける姿は……見えなかった…くそ…沈む方向は逆だったか…




**** TATUYA ****

 オレは少しいらだっていたのかも…せっかくこの世界まで来たっていうの
に、アインのヤツがゼオのトレースを忘れて、せっせとボディ磨きにせいを出
していただけでは飽きたらず、ここセイルーンと言うところで『王国美味しい
物食べ歩き』をするとだだをこねられたせいかもしんない…
「…魔族ね…あなた…しかも中級の…」
 とかなり赤みの強い茶髪のねぇーちゃんがオレに向かっていぶしかめな表情
で言う。
「魔族?……それって…」
 …オレの知っている魔族とは多分、違うよな…えっと…たしかこっちの世界
にいる魔族ってーのは…………どんなんだっけ?アインの説明そっちのけで、
あの術の特訓にいそしむべきじゃなかったな…
 …いや…それ以上に…特訓してた術の制御をまともに失敗して、生死の境を
はいかいしまくっているのに、それに気付かず、にこにこ顔で世界の説明をす
るアインも悪い気がするんだが…それもいらついていた理由の1つなんだろう。
 …ふむ…よおし…
「…親父とかお袋とか、兄貴とか姉貴とかの…」
 …とりあえず低次元なボケで…
「それは家族じゃ…こいつみたいな解りづらいボケをかますなあ!」
 …てっ……なにいいいぃぃぃぃーーーーー!!!!!!!
 本気でんな低次元なボケをかますやつがいたのか……うむ…あの金髪兄ちゃ
んか…何となくそれっぽいな…
「…んなことより…魔族なんでしょ…あんた。精巧に隠してんのかわざと出し
てるのか知んないけど、ほんの少しだけあんたから障気を感じんのよ」
 …障気ねえ…しょうき…しょうき…賞味期限?…将棋に…賞金…ふむっ…
「…障気?…なあ…それって…もしかして…」
「ここでまたアホなボケかましたらガウリィ、投げ飛ばすぞ…」
「…う゛…」
 そう言う彼女は金髪の兄ちゃんの襟首をつかんで投げる体制を取る…それっ
て結構やだな…重そうだし…あの兄ちゃん…ガウリィって人も涙流して、めっ
ちゃやたらと嫌がってるし…
「あのお〜リナさん…」
 おかっぱの兄ちゃんが彼女に話す…ふう〜ん…リナっていうのかあの人…
「何よ!いいところを邪魔しないでよ」
 彼女の、魔王でも1歩後退しそうなほど怒気がはらんだ顔に彼は後退しなが
ら、
「…あ…いや…そのですね…中級以上の魔族のかた達であれば、僕、ほとんど
存じているんですが……」
 なんか訳のわからんことを言っているぞ。
「ずずずず…結構なお手前で…」
 ガウリィに向かってお辞儀をするアイン…っち、やっぱし復活してやんの。
やっぱし、アンドロイドであるあいつには、あの程度の攻撃じゃこたえなかっ
たか…
「…いえいえ…」
 正座でお互い向き合って座るガウリィとアインの間に茶釜がチンチンと音を
出している…ちょっとまて……どっから出してきたんだ…それ…
「そう…だったら低級魔族ね。そう決めた。あたしが決めた。今決めた!」
 そう言い放つリナはどっか訳のわからん方へ指を差し…

 …………しばし……………

「…と言うわけだからあんた今から低級魔族に決定。さあ、白状した方が身の
ためよ」
 指をすっと、オレに向け直し言った。
「…いや…決定って…あ…ちょっと…いきなしそう言われても…」
「ふっ…どう、のらりくらりとゼロスのように誤魔化そうとしても、あんたか
ら発しているその障気が何よりの証拠」
「…僕ってのらりくらり…してますか?」
「絶対してる!」
 おかっぱ兄ちゃんの質問にきっぱり言い放つリナ。
 …う〜む…発してるねぇ……
 ん?…って…ちょっとまてよ……もしかしたら…ごそごそごそごそ…Gジャ
ンのポケットを探り、一つのカプセルをオレは取り出す。
 大きさはピンポン球程度。
 そん中には人間ともおぼつかない変なちっちえ爺ちゃんが入っている。腕を
6本も持つ人間なんていやしないだろう?
「もしかして障気ってーのはこいつから出てる気じゃねえのか?」
「…あん…これ?…って……あっホントだこれから感じる…」
 と言いながらリナはいぶかしげな表情。
「…確かに…低級ですね…」
 と……えっと…誰だったかな…おかっぱ頭の兄ちゃんはオレの手元をニコニ
コしながら見て言う。
 それにしても、常ににこにこ顔でいて疲れないんだろうか…この兄ちゃん…
「へえ〜魔族ってこんな小さいのもいるんだ」
 と興味津々のガウリィ。
「いや…元々は普通の大きさだったんだけど…」
「…元々?…」
 リナがオレの言葉に、ありありと疑問を持つような顔を作る。
 まあ…それが普通の反応だろう…実は、オレの手のひらにあるこのカプセル。
 つい最近、会社のほうからトラ・コンである社員全てに支給されたアイテム
で、簡単に言うと捕獲器みたいなもんである。
 なんでも捕獲する物体を一度、電子情報として分解し、その情報を圧縮して
そのままカプセル内に具現化させるらしい…そういや、なんかのマンガに似た
ようなもんがあったような…ほいほいカプセル……いや…ポイ捨てカプセルだっ
たかな?
 まあ…とにかく…このアイテム。ちょっとおもしろそうだなあ…って言う好
奇心も手伝って、このセイルーンに入る前にちょっくら使用してみたんだけど
…どうやら、彼女らが言う魔族というヤツを偶然にも捕まえてしまったようで
ある。
 なかなかの邪悪な気を発していたから…この気を彼らは障気と言うんだなきっ
と…見せ物になるかなあ…っと思って捕まえちゃったんだけど、やっぱまずかっ
たかな?
「…もしかして、それってそん中に取り込む物を小さくしてしまう魔法アイテ
ムとかなにかなんじゃあ…」
「…ん…まあ…そう言うようなもんかな…」
 …魔法じゃなくて、科学だけど…
「…へえ…」
 リナが、物珍しそうに指でカプセルをつんつんと突っつく。
「僕も始めて知りまたね。こういう物があったと言うことを…」
「なんだ…ゼロスも知らなかったんだ…」
 …おかっぱ兄ちゃんがゼロスか…
「…あ…でもさ…その取り込まれたのが、内側から攻撃魔法とかを使って、出
ようとかしたりしないの?」
「…へぇ〜…」
 この姉ちゃん…案外鋭いんだな…うちの開発部でも、捕獲器を作り出してか
ら一週間してやっとそのことに気付いて、慌てて改良を加えたっていう実例が
あったのに…それとも…向こうとこっちとでは感性の違いでもあるのかな?
「………………」
「…な、何よ…人の顔をじっと見つめて…」
「…あ…いや…別に…」
 お互いが赤くなりながらそっぽを向く。
「…で、どうなのよ。その辺のとこは…そうじゃなきゃ使えないじゃない…」
「…ああ…それなら心配ないですよ…」
 リナのセリフを遮って口を挟んだのはアインだった。
「…心配ない?…それってどうして?」
「結界を利用していると説明した方があなた方にはわかりやすいでしょうかね
…えっと…リナさんと言いましたっけ?」
「そうよ…」
「結界を造りだした時、中と外とは違う状態になりますよね」
「それって……………中と外では全く異質な物体として存在するとか…時間経
過の違いとか…そういうこと?」
「はい」
 リナの言葉に満足したのか、にっこりとアインが微笑む。
「その捕獲器はリナさんが2つ目に言われた『時間経過の違い』を利用してい
ます…ここまでで何か気付きません?」
「…気付きません…って言われても…待てよ………いや…でも………」
 結界の中では数分間なにか行動をとっていたとしても、外では時間が全然経っ
てないってことがある…ま…どういう経緯でそんな風になるのかはオレも詳しい
ことはしんないから説明は省くが…それを利用していると言うことだ…
「…ねぇ…どうやって時間の流れを止めるのよ…」
 好奇心かアインに疑問の念を問う。
「…残念ですが…それは企業秘密ですね」
「けち…」
 リナがぷうっとほほを膨らます。
「…っと言うことは解ってくれたようですね。リナさんが考えたとおり…結界
の反作用…結界内では時間が止まるようにしてるんです」
 真顔で説明するアインの表情は、知理的な雰囲気を周りの者たちに感じさせ
るが…
「ずずずずずずううぅぅ…」
 …座布団を敷いて正座しながらお茶を飲む姿は…なんとも異様な光景である…
「…う〜ん…ホントにそんなことが出来るのかなあ…」
 リナは顎に手をおきながら首をかしげ…
「……おおー!それよそれ」
 …る、前にめっちゃ明るい声を出しながらカプセルをびしっと指さす。
「…な…なんだよ…いきなし…」
「あんた、たしか…達也って言ったっけ?」
「…あ…ああ…そうだけど…」
 がしいぃっ
「…お願いがあるの達也…」
 リナが、オレの手をつかみ、少し潤みのかかったその綺麗な赤い瞳でオレを
見つめてくる。
 …う…いや…なんかそんな風に美人に見つめられると…目のやり場に困るん
ですけど…
「…リナ…何か良からぬ事をたくら…」
「爆裂陣っ」
 どぐごわああーんっ!!
 全てのセリフを言い終える前にリナの魔法で吹き飛ぶガウリィ。
「…おいおい…」
「…大丈夫よ…あれをその辺に吹き飛ばしたって、どこからも文句は出ないか
ら!」
 …いや…普通は本人から文句が出ると思うが…って…あれ?ガウリィのヤツ
平然として戻ってきたぞ…なんて頑丈な…サイボーグかあいつは…
「…それよりも……達也…」
 優しく静かな声で再びオレの名を呼ぶ彼女。
「…な…何?…」
 再び目も潤み出す。
『………………』
 ──沈黙──
「それちょうだい(ハート)」
 どうしゃあっ!
 きゃぴきゃぴぜんとしたその声と、彼女のセリフにオレはその場でずるこけ
た──




**** LINA ****

 ──沈黙が続く。
「それちょうだい(ハート)」
 どうしゃあっ!
 あたしの誠意ある『ぷりちぃーお願い』モードに、なぜか彼はまともにこけ
ていた…失礼なやつ…
 ころころころころ…
 …おっ…カプセルがあたしの足下に。
「らっきぃ(ハート)ひいろった!もうこれはあたしのもん!超らっきい!!」
 ぴょこぴょこ、ぴょんぴょん、Vサインをしながら跳飛ぶあたし。
「…おい…おい…」
「なによガウリィ。世の中にはその辺に落ちていた物は拾った人のもんになるっ
ていう法律がちゃんとあるじゃない」
「…あったか?そんなの…」
「ガウリィは忘れているだけ」
 はっきり言い放つ。これでガウリィの方は丸め込んだ。
「…あ…あんたなあ…」
 あっ達也がおきだした。
「ずずずずず…まあ、いいじゃないですか達也…カプセルの1個や2個ぐらい」
 とアイン…あんたまだお茶のんでんの…
「だいたい、あのカプセル。そんなに高くはありませんし」
「…いや…まあ…そだけど…」
 おっいいぞアイン。もう少しだ。達也を丸め込め!
「それに…拾われてしまったのではしょうがありません…彼女の言う法律に従
わなければ…」
 …あっ…いや…彼女ってば…あたしの法律に素直にしたがってるんだけど。
ガウリィじゃないんだから…そう簡単に納得しなくても…まあ、その方がこっ
ちには都合がいいけど…
「………………」
「…………なるほど…………あげるのはともかく…落としたという理由なら誤
魔化せる…ってわけか…」
「はい」
 アインが達也に笑顔でうなずく。
「…しょうがねぇか…」
 ため息の彼。
「…もってってよし…」
 よっしゃあ!商談成立!!
 そこらでガッツポーズ。
 …でも…誤魔化すって…一体、誰を誤魔化すんだろ?
「それはそれはありがとうございます」
 そう言いながらひょいとあたしの手からカプセルを奪ったのは、ゼロス──
「ちょ、ちょっとゼロス。勝手に人のもん持ってくな!」
 いつの間にかあたしからゼロスは距離を開けていた。その彼にあたしは叫ぶ。
「あんたもある意味では勝手に持っていったようなもんだけど…」
 とジト目で言い放つ達也。
 無視───
「ゼ〜ロ〜ス〜……一体どういうつもりよお〜」
「いや〜はっはっはっは…僕もこれ、欲しくなっちゃいましたもんで…」
「だからって人のもん持ってくのは悪人よ」
 びっとゼロスを指さす。
「…リナ…おまえが言うなよ…」
 ていっ!
 ガウリィに蹴り一発。とりあえず彼は沈黙する。
「…と、とにかく…だいたいあんたがそれを欲しがるってことはまた何かあるん
でしょ。例えばその魔族を捕まえてこいとか言われていたとか…」
「それは…」
「秘密です…なんて言ったら崩霊裂ぶち込むわよ…」
 ゼロスの十八番の前にあたしが静かに言い放つ。
「…り…リナ…さん…」
 指さすその手は凍り付いている。
 にこ目のまま頬に汗が流れ、
「…崩霊裂って…いつ…覚えたんですか…」
「ついこの間よ。なんなら見せてあげよっか?タリスマン込みで…」
 口調は軽いがあたしの目は笑っていない。
「…い…いえ…いいです…結構です…ちゃんとお話しします!」
 よろしい…
「いや〜、実はですね。ある人に、あることを頼まれちゃいまして…」
 そんなゼロスの一言に、あたしは下を見ながら頭をかき、
「やっぱし仕事絡みなのかい…」
「ええ…それが中間管理職の辛いところですね…それでですが…実は頼まれ
た事って言うのが、リナ=インバースの…つまり、リナさんの捕獲だったり
するんですよこれが…」
 ぴしっ!
「…い〜や…ほんとまいっちゃいました僕…はっはっはっはっはっは…」


 
 ぎぎぃっ、と下を向いていたあたしはゼロスへとむき直す。
「…をい…ゼロス…あんた…今なんて言った…」
「…リ…リナの捕獲だって…言ってたぞ…」
 ゼロスではなくガウリィがつぶやいてあたしの問いを返した。
「…ええ…そうですよ…」
 あくまでも笑顔のゼロス。
「誰よそんなことを頼んできたのは!」
 ゼロスは指を口元に当て、
「それはもちろん秘密です(ハート)」
 …やっぱし…
「…おい!正気なのかゼロス!」
 ガウリィが叫ぶ。
「おや?ガウリィさん…もしかして怒ってます?」
「当たり前だ!」
 ガウリィが怒ってる?いつもとの穏やかな笑顔とは違って真剣になったそ
の表情。
 …あっ…やだ…そんなガウリィの顔を見てたら、心臓がドキドキしてきちゃった
じゃない…
「…もしそんなことをするとしたら…」
 …どきどきどきどき…更に鼓動が早くなっていくのが解る。
「…そんなことをしたら…」
 ……ガウリィ……
「…リナが暴れて、街中が火の海になっちまうじゃないかー!」
 こけけっ!!
「あっガウリィさんもそう思います…僕なんかその人に…もしかしたら街なんかが
消滅すると思いますよって…説明しておいたんですけど…」
「おお〜なるほど。それは言えてる」
 その2人の会話を横目にジト目で達也が、
「あんた今までどういう人生おくってきたんだ?」
「聞かないで!お願い…」
「それにですね…無傷でという条件まで入ってるんですよ…本当に不可能への挑戦
ですよね…これって…」
「ゼロス。おまえも苦労してるんだな」
 困ったような困っていないような顔のゼロスに、しみじみのガウリィ。
「あ〜ん〜た〜ら〜あ〜」
「わあああ〜、リ、リナ。何そんなに怒ってんだ」
「あのねぇ、ガウリィ。そんなの怒るの当たり前でしょう…って…………あっそう
か…それでカプセルなのね、ゼロス!」
「へっ?なんでそれでなんだ?」
 相変わらず理解してないガウリィ。
「ぴんぽお〜ん。当たりです。さすがはリナさん」
 そんなもん当たっても嬉しくないやい…
「と、言うわけで…」
 そして突如、殺気ともとれるあの魔族独特の障気がゼロスからあふれ、いつもの
笑顔で、
「さあ、リナさん。大人しく捕まってもらいましょうか」
 芝居かかったようなセリフを吐き出す。
「冗談。あたしが、はいそうですかって一つ返事で大人しくすると思ってんの」
「思ってませんよ。だから僕、これが欲しくなっちゃったんじゃありませんか」
 カプセルをあたしに見せびらかす。
「…くっ…」
「おおっと、その前に…」
 すらっ!
 ガウリィが剣を鞘から抜き放つと、そのままその剣を肩に乗っけて、あたしの横
で立ち構える。
「俺を倒してからにするんだな。何度も言ってるが俺はこいつの保護者なんでね」
「…ガウリィ…」
 こういう時のガウリィって頼もしく見える…けど、今ガウリィが持つその剣では
ゼロスを…
「…うわああぁー…よくまあ恥ずかしげもなく、んなセリフを言えるもんだな…」
「…ほんと、ほんと…」
 うっさい、外野!
「安心して下さいガウリィさん。リナさんが寂しくないようにあなたも取り込んで
あげますから…」
「…なっ……」あたし。
「…………」にこにこゼロス。
「……でも取り込むって?……」?のガウリィ…あんたなあぁぁぁ…
「ずずずず…ああ…おいひ(ハート)」
「ずっ…なあ…アイン。お茶菓子かなんかねえのか?どうもお茶だけじゃ物たりな
くって…」
「お茶菓子ねぇ…持ってきてたかなあ?」
 こいつら何をのんびりと…だいたい、あんたらが持ってきたこのカプセルのせい
であたしは………ん…………あれ?
「…………」相変わらずにこにこゼロス。
「…………」剣を構えるガウリィ。
「…………」ぶつぶつとあたし。
「…………」ゼロスそのまま。少しほほの辺りに汗が流れる。
「…………」ガウリィもそのまま。
「……なるほど……」あたし。
「…………」ゼロス動かず。なんか汗が多くなったか…
「…………」ガウリィも動かず。
「…をひ…ゼロス…」あたし。
「…さあ…お二人方、さっそくこの中に入っていただきま…」
「どうやって…」
 ゼロスのセリフを遮ってあたしは一言つぶやいた。
「…………」腰に手をおくあたし。
「…………」固まるゼロス。
「…………」ガウリィ…何も考えてない。
「…ああー!気付かれたあ!!」
 ばかめ、あのカプセルの使い方も聞かずに盗むから…
 ダッシュ!達也へ駆け寄るゼロス。そして──
「達也さん!今からでも遅くはありません。これの使い方を教えて下さい」
 ──泣きつく…おまい…魔族だろ…情けないぞ…
 あたしがつかつかとゼロスへと歩み寄り、
「お願いです。達也さん(泣)」
「いいよ」
 なにいいいいぃぃぃー!
 ちょ、ちょっと待てあんたは悪人に力をかすんかい!
「教えてやってもいいけど…」
「お礼はします!」
 そんな暇与えるわけ…
「…いや…そうじゃなくて…使い方を知ってもそれは使いもんにならないん
だけど…」
『………は………?』
 あたしもゼロスも、かなり間の抜けた声を出す。
 …使い物にならないって一体?…
「それ使い捨てなんだ…ようするに、そいつ自体には、収納する物を小さくするエネ
ルギーと、結界を張るエネルギー、そしてそれを維持するだけのエネルギーが1回分
づつしか持ってねえんだ…だいたいこれだけを使用するエネルギーをそんな小さい物
に…ほこほこほこほこ…何回も使える程、蓄えられるわけないだろうが…」
 …た…確かに…
「じゃ…じゃあ…その力の蓄え方を…」
「ちなみに1度、中に収納しっぱなしにしてれば別の物を収納することは出来ないぞ」
「で、では…まず、取り出し方を…」
「ああ…そんならそのカプセルを壊せばいいんだ…」
「…それでは意味がないじゃないですか…」
「そんなとこまで面倒見る気ないぞ…俺は…」
「…………」
 完全な沈黙のゼロス。
 …なるほど…それでこいつあたしが欲しいって言ってもすぐにおれたのね…まっ…
それは後で問いつめるとして…まずは…
 ぽんっ!
「…ゼロス(ハート)」
「は、はひっ」
 肩に手をおきながら呼ぶあたしの声に、ゼロスは引きつりながら振り向き──瞬間、
 みしっ!
 あたしの右拳は見事にこいつの顔をとらえてた。



 地面にはいつくばっているゼロスの背にあたしは馬乗りになっている。
 ──さあ〜て…どうしてくれようか…
「リナさん、許して下さい。今のは単なる冗談なんです!」
 …ふむ…
「──四界の闇を統べる王──」
「そ、それは増幅呪文──まさか…リナさん…あれを…」
 ふっふっふっふ…そのまさかよ…
「あれってなんだ?」
「しんない…でも楽しみ(ハート)」
 と達也&アイン。結構無責任なヤツ…ゼロスも可哀相に…
 増幅呪文が終わるとすかさずあの呪文の詠唱に入る。
「──悪夢の王の一片よ──」
「わあーやっぱり神滅斬!きゃーやめて。それを受けたらいくら僕でも滅んじゃ
いますう〜!!!」
 もとより承知のこと。
「わあああ…あっそうだ…ガウリィさん。お願いです。リナさんを止めて下さい」
 ガウリィに助けを求めるとは…魔族として嘆かわしいぞゼロス…
「と言われても……俺がリナを止められると思うか?」
「ああぁぁぁぁぁー!そういえばああぁぁぁ!!!」
「さらばだゼロス………………化けるなよ…」
 ガウリィが両手をあわせこっちを向いて拝む。
「南無っ…」
「…知り合ってすぐになくなってしまうとは…おしいことだ…」
 アインと達也もガウリィのまねをする。
「きゃーやめて下さいリナさん!お願いです!ぷりぃーずううううぅぅぅ!
!!」
 だあーめ(ハート)
 後は『力ある言葉』を唱えるだけ。
「ラブナ──」
「緊急警告!」
「──ブレ…あ…あん?」
 あたしはアインが叫ぶ一言で呪文を中断してしまった。
 なになになに、なんなのいきなり…
「…た…助かった…」
 ぽつりとほんとに小さい声でゼロス。
「どうしたアイン?」
「北東20000にミサイルを感知。形式は…」
 彼女がしばし黙る──
「143型α!」
「な、なんだって!」
 その2人の叫びと緊張する姿。
 多分、あたし達はその姿を始めて見たかもしれない──
 …でも…その143型αってなんじゃろか…

<続き 3回目へ>

 
 
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