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【UEA】スレイヤーズSTS 〜1回目〜


**** TATUYA ****

 ずううぅぅーん!
「ちいっ!」 
  予想外の衝撃に、オレはチェアから壁に跳ね飛ばされ背中を打ちつけると、
すかさず電子音で作られた女性…アインが警告を出してくる。
<緊急警告。確認未定のミサイル4。Dブロック1被弾。Dブロックを隔壁
閉鎖します>
「じょ、状況は!?」
 背中の痛みをこらえながらオレがいうと、それに答えるようにメインスク
リーンの左片隅に船体図が表示され、被害部らしき場所が赤い丸で囲まれる
と、今度はスクリーンの右側にミサイルの線図が表示される。
<右尾翼予備エンジンルームに火災発生。消化開始。ミサイルの形式は14
3型αと判明。1、艦底を通過。のこり2…>
「…143型α…くそっ…あいつの仕業か。やっぱり、この世界に逃げ込ん
でいやがったな…アイン!今のミサイルをなぜ事前に察知できなかった?」
<たった今、周辺の隕石群内にランチャーを確認しました。金属・熱・音声、
全ての感知システムにかからないよう、カモフラージュされていたようです
…残り2基。上空を通過。右尾翼予備エンジンルーム、火災の消化、完了い
たしました>
「よし、すぐにここから離脱しろ。またミサイルを食らうのはごめんだ」
<了解。緊急離脱します>
 エンジン出力、デジタルメータが最高値へ上昇し、
 ぐうん!
 最高値に達すると、
「うぎいぃやあぁっ!」
<…あっ……しまった……>
 いきなしとんでもねえ強力なGがオレを襲った。


 数秒後──
 どおおぉん!
 後ろから前へと押し出す激しい衝撃がオレの体を突き飛ばし、そのまま床
へと顔から落ちる。
<……………………………………………………………………………………
 ……………………………………………………………………………………
 ……………………………………………………………………………………
 ……………………………………………………………………………………>
「……………………………………………………………………………………
 ……………………………………………………………………………………
 ……………………………………………………………………………………
 ……………………………………………………………………………………」
「………………」
<……え…えっ…えっとお……おお…地域離脱完了し…たんだけど…達也生
き…て…ますう…>
 すこしおびえの入った声が部屋内にいるオレにかけられる。
「………………」
<…達也?…>
「………………」
<たっつやくうーん………ありぃぇ?>
「………………」
<おおーい、もしもーし>
「………………」
<おうおう…シカトかい、にいちゃん>
 つり上がったサングラスをかけ、デホォルメバージョンの可愛いアイン…
オレが乗っている船…がメインスクリーンの中央にでかでかと表示される。
 しかも…たばこを吹かし…おおー!ちゃんと煙がアニメーションしてる…
正面を人間の顔に見立てて、ちょうどほっぺた辺りになる場所に×の傷跡な
んかを付けて…なかなかの凝り性だ。
<うーむうぅ…こりは死んだかな…惜しい人を無くしたものだ。なんまんだ
ぶナンマンダブ>
 …ぽく、ぽく、ぽく、ぽく…
 今度は手がはえたアインが木魚をたたく姿がモニターに。サウンドスピー
カーから音声まで流してるし…
「…勝手に殺すな…」
<ちっ、生きてたか>
「なんだ、そのちっ、てーのは」
<…別に…>
 その後に小声…つーよりか小音って言った方がいいんだろうか…で、
<…くそ…もし死んでいたら保険が下りたと思ったのに…そうなればあれも
買えるし…これも…>
 …こ、こひつは……今度、すきを見てAIチップ取り外しちゃろか…
 ぢつを言うと、この船・アインの飛行速度は最高で音速を超えることが出
来る。
 もちろんそれには物凄いGがかかるわけで、その問題を解決するために重
力を緩和する装置がちゃんと備わっていたのだが…
「…このやろう…またやりやがって…」
 …ぼそっ…きっちり、ちゃっかり、彼女は忘れてしまっていたようである。
<…あ、あははははは…>
 笑ってごまかそうとしているアイン。
 今は真っ黒で何も映っていないそのモニターには一滴、大粒の汗が流れる
…もちろん映像でしかないが…
 彼女はオレの相棒で名をアイン。
 正式名を201型感情登録知性体DWSMM(ディダブルストゥーエム)
変船『アイン』。
 縦幅48メートル、横幅15メートル、総重量42トン、矢尻型の形をし
たブルーメタリック色…この色はアインの趣味&ラッキーカラー(機械にも
ラッキーカラーとかってあっていいんだろうか)…の中型宇宙船。
 現在は船と一体になっているため姿を見せていないが、船外に出ている場
合は、20前後の人型(女性)アンドロイドボディで行動をとっている。
 性格はお茶目でいたずら好き。過去、キレた…ぷっつんした…回数多々。
これさえなきゃいいやつなんだけど…
 趣味は、機体にはデリケートに撤し、くもり一つないボディにうっとりす
ること…趣味と言うのかな?これって…
 …さて…ほんでもって…自己紹介が遅れてしまったが、オレは田中達也。
14才。
 国家認定・次元セキュリティ会社『S.T.S』──に勤める最年少、”
特別級資格者”のトラブルコンサルタントである。
 次元は科学の発展した近未来(21世紀中旬)。
 この世界の一人の科学者が異次元航行を可能にした。
 そしてそのテクノロジーの発展により、さらなる発見。
 それは『魔族』の存在────
 みんなは魔族と聞いて、思いつくのは悪の根元を司る存在と思われるだろ
うが、オレ達の言う魔族は、異次元と異次元との境目に発生する磁場の中で
生活する種族たちのことを指し示している。
 元々、彼らは各世界の微妙な歪みを回復させる種族(以下、純魔族と呼称
)だったそうだが…と、いってもぴんとこない者もいるだろう…
 …えーと…ようするに……一つの次元の存在はメビウスの輪みたいなもの
だと思ってくれればいい。一つの次元には過去、現在、未来の3つが一つの
道につながっている。それがメビウスの輪。その輪の中で時間がぐるぐる回
り続けているのだが…その時間が何度も何度も回り続けると少しずつである
が、ずれが生じてくる。例えばどんなに精巧にできた時計でも必ず遅れたり
するだろう。それが次元の歪みになるんだ。
  さて、話はそれてしまったが、とにかく彼らがその歪みを治しているのだ
が…人間同様、やはり悪いやつがいるもので…その仕事をほっぽりだして、
いろんな世界でいたずらをするものもいる(以下、不魔族と呼称)
  たとえば無理矢理神隠しを起こしたり、ある世界でやりたい放題あばれま
くったり、神になったり魔王になったり…など等々…ちなみに異次元航行シ
ステムが世の中に一般化されてからは、似たようなことをする人間達までも
が現れ始めていたりする。
 そのため、最近になってからは、どんどんと歪みがひどくなり、異次元と
異次元とをつなぐトンネル(通称インフェイルホール)の…俗に言う神隠し
やタイムトラベルとかの原因…発生率が増えるつー厄介なことまでおきる始
めた。
 そこで、始まったのが国家認定・次元セキュリティ会社『S.T.S』─
─設立者は、異次元航行システムの生みの親、ラック=バーグスの直系にあ
たる。
 ──『S.T.S』──
 実はこの会社、国家認定と言われているだけのことはあり、社員のトラブ
ルコンサルタント(以後、トラコン)は、どんなところにでも強制捜査が可
能であり、警察からの介入もシャットアウトさえできる特権を持つ。つまり
は国家権力以上の力を持った会社と言うことになるのかな?
 ただ…多種多様の次元が存在するため、力が及ばない場所(次元)もある
のだが…まあ…次元の数なんて物は宇宙に存在する星の数に等しいと、どっ
かの学者(なんて名前だったかは覚えてない)が言っていたぐらいだし…
 この会社の主な仕事は、次元を狂わせる不魔族や人間たち犯罪者の逮捕、
および歪みの修正処理…
 と簡単に言ってしまったが…この魔族ってーやつは、頭はいいは、人間た
ちよりも体が丈夫やら、長生きやら、おまけに魔法まで使えるときた。
 そんなんこんなで、普通の人間が奴等を捕まえられるのかっつーとはっき
り言って無理。
 そこで会社は、純魔族である彼らや、各次元から不魔族らと対抗しえる者
たちをスカウトし、魔族専属のトラコン…彼らを”特別級資格者”と呼ぶ…
で対抗した。
 ちなみに、会社名である『S.T.S』とは『星とセキュリティ』の略…
と言われているのが表上、組織の定説なのだが、実は”stange to 
say(不思議なことには〜)”の略であると”特別級資格者”達だけは、
聞かされている。

「………………」
<………………>
 しばらく、ブリッジ内には沈黙が続いていた。次々とモニターに増えてい
く汗。
「……でっ……」
 その沈黙をオレが破る。
「…ゼオのヤツの居場所はちゃんとつかんであるんだろうな…」
 めちゃくちゃ、どでかい汗が一粒──
「もし逃してたら、オレはその辺に転がって火炎球、ぶっ放しまくるぞ」
<きゃーだめだめだめだめ。達也、お願いだからそれだけはやめて(泣)…
……ちゃんとトレースしてあるから。ゼオがここの世界にある、一つの星へ
と向かっってったのを確認しているって>
 その言葉と同時に泣きじゃくるアインの姿。
「その星ってーのは?」
<ここから120光年離れた星。達也の世界と同じで魔法が存在してるのね。
科学はそれ程発展していないようだけど…14世紀辺りの世界じゃあしょう
がないか。えっと…神の名前は赤の龍神・スィーフィード。魔王は赤目の魔
王・シャブラニグドゥっと…>
「ゼオはそこに何故向かったんだ?」
<それは特定不能ね。昔の彼だったら高い確率で特定することができたけど
…現在のゼオの情報は一切ないひ…>
 …ふむ…
「じゃあ、一番高い確率は?」
<9%で魔王を吸収すること>
「…9%か…ヤケに低いな…」
<チーフに連絡を入れておく?休みをくれーってコメントつきで…>
「…んなもんはいらんって…それに、この任務は極秘行動だぞ」
<そんな情報、記憶メモリからすでに消去してまーす♪>
「…おひ…」
<まあ、まあ、いいじゃないこのぐらいの娯楽。それよりどうする?>
「…こ、このぐらいの娯楽って…」
  モニターにはゼオが向かったとされる星が映し出されている…地球に似て
いるな。
「…アイン…」
<はい?>
「ゼオに気付かれずにその星へ行くとしてどのくらいの時間がかかる」
<2時間25分23秒>
 …2時間ほどか…
「じゃあ、とりあえず向かってくれ。今度こそヤツとのケリをつけるぞ…」
<………了解…>
「後は……情報の収集とお金の用意。オレはトレーニング室に行ってくる」
<…はい………てっちょっと待って!また、あれの特訓する気なの?>
「…ああ…」
<あんまり無茶はしないでよ…>
「お、珍しいな。心配してんのか」
<当ったり前じゃない。達也が無茶すれば無茶するほど、あたしのボディに
傷が付くんだからね!>
「………………」
 アインはきっぱりはっきり言いきった…あっ!…右手を握り締めるアイン
がメインモニタに…
「……そうか……う〜ん……それじゃあ、無茶するとしようか……」
<……だから…それだけはやめて……お願い……ぷりぃーじゅ〜……>
 泣きじゃくるデフォルトアインの姿が。
 そして船は一つの星へと向かう──




**** LINA ****


「爆煙舞っ!」
 ぼぼぼぼぼぼおおぉぉーん!!
 あたしの口から紡ぎ出された呪文が発動し派手な爆発音と煙が上がり、
「ひ、ひいえぇーーー!」
 ずざざざざ…
 その見た目の派手さに驚いたか、乾いた悲鳴を上げ、周りの連中は慌てて
後ずさる。その中の一人が叫ぶ。
「…な…なななな…なんだ、てめえは!」
 …ふっ…
 あたしは1つ含み笑い。やはりどこの盗賊だろうとあたしが登場するたび、
どこでもここでもあそこでも、セリフが決まっている。
 あたしは、ふさっと赤に近い栗色の髪をかき上げると、
「誰が言ったか騒いだか、天才美人魔道士と言われるこのあたし…」
「…いや…おれが思うには…恐れおののいた…という方が似合うと思うんだ
が…」
「ふんっ!」
 めしっ!
 問答無用の左アッパーが、あたしの横に立つ見るだけなら美形な兄ちゃん
の顎を見事にとらえ、彼は勢い宜しく吹き飛ぶ(ちなみに盗賊の方へ)
「いてー、いてー!リナ!なにすんだよいきなり!!」
「いやっかましい!せっかく人が格好よく登場している所を、妄想こみのつっ
こみで、ちゃちゃを入れるんじゃない!!」
「…妄想……って………リナっ!」
 突然真剣な表情になりあたしを見つめるガウリィ。
「…な…なによ…」
「…妄想って…何だっけ?」
「炸弾陣!」
『どうわあああぁぁぁー!』
 吹き飛ぶガウリィくん…ついでの盗賊ご一行様…であった──


「…う〜ん…久しぶりのいい収入だわあ(はあと)」
 ほくほく顔であたし達は…ガウリィは多少、呆れ果てた目であたしを見て
はいるが…帰路へと進む。
 もうこれだけ言えば解っていただけるだろう。
 そう、盗賊・い・じ・め(ハート)…ああ…なんて甘美な響きなんでしょ
う…魔法を問答無用でぶっ放せる上に、懐は暖かくなる。
 しかも今回なんて、依頼込みによる盗賊いじめなもんだから、一石三鳥て
ーやつなのよ。
 え?だったら盗賊がため込んだ宝を持っていくのはまずいんじゃないかっ
て?
 大丈夫大丈夫。盗賊を何とかしてくれっとは言われたけど…宝を取り戻し
てくれっとは依頼の中には入ってなかったしね(はーと)
「…すごく嬉しそうだな…リナ…俺まで吹き飛ばしておいて…」
「あったり前じゃない(ハート)それにガウリィを吹き飛ばすのはいつもの
ことだしねぇ(はあと)」
「………………」
 呆れ顔であたしの横を歩いていた、自称・天然おおぼけ剣士、及びあたし
の自称保護者、ガウリィ=ガブリエフはとりあえず沈黙した。
 金色の長髪に整った顔立ち。一見、気の良さそうな兄ちゃんだが、実はた
だたんに何も考えていないクラゲ兄ちゃん。
 こんなんでも光の剣の戦士の末裔で、半年前までは光の剣を持っていたり
してたのだが、どこで捨てたか忘れたか…って、ホントはある人物に返しちゃっ
たんだけどね…今は持っていない。
 てな訳でしばらくは彼の剣を探してうろちょろしてたんだけど、これがま
たなかなかいい剣が見つからない。
 やっとこさ、最近になって無銘の魔力剣を2つ見つけたのだが…逸品とは
いえ光の剣ほどの物ではないだろうし…ある一つは…レッサーデーモンあた
りを難なく切り倒せる!と思ったら、なんでかゴーストあたりが倒せない…
普通は逆だろ!…つー訳のわかんない代物だったし…なんだかねぇ〜
 さて………そしてこのガウリィと並んで歩く絶世の美人。世紀の天才美人
魔道士リナ=インバース…18にもなって『美少女』じゃあ、なんかこっぱ
恥ずかしいから『美人』に変更…
 誰が言ったか怯えたか………『盗賊殺し』……や……『ドラまたリナ』…
……とも……呼ばれている。
 …が、実は最近『魔を滅する者(デモン・スレイヤー)』と言う名で呼ば
れ初めてたりするのだ。しかもその呼び名を広げたのが、何をかくそうあの
アメリアだったりするわけなんだなこりが…
 半年ほど前にダークスターとの戦いを終えて、王宮に帰宅したアメリア。
そのとたん、王宮に使える者達に今までどこに行っていたのかと追求された
のだ…ようするに連絡をおこたっていたのね、あの子は…その前に連絡の方
法がなかったような気がするが…それに港町を破壊してそのまま逃げたから
なあ…あえて誰のせいだかは言わないけど。
 そして、その執拗な追求についこらえきれなくなったアメリアは話してし
まったのだ。あのダークスターとの戦いのことを…しかもあろう事か…調子
こいて、ガーブやフィブリゾの時の戦いまで話す始末。
 と、言うわけで今やあたしは…いや…あたし達は…ガウリィとゼルガディ
スも…一躍有名人になってしまったわけである。
 ……………目立ってるだろうな……ゼル……特徴ありありだし……今頃、
「…目立ってる…目立ちまくっている…」とかぶつぶつ言いながら、あっち
の世界に行っちゃってるとか……ちと、見てみたい気もする…
 …ガウリィは……ちらっ…ガウリィの顔を盗み見る……相変わらずのほほ
んとした顔………多分、なんも考えてないんだろうな…
「…それにさ、これからは当分、盗賊いじめ出来そうにないし…このぐらい
あってもいいじゃない」
「…ああ…えっと……やっぱりセイルーンにいくせいだからか…」
  自信なく言うガウリィ。
 そうあたし達は今、セイルーンへと足を運んでいる。セイルーンの近くで
は盗賊なんぞほとんどいやしないから…盗賊いじめができる今のうちに懐を
暖めておかなければいけないわけ…ちかっても、向こうではストレスがたま
りそうだから今のうちに発散させておこうと言うわけではないからね…お願
い、信じて(ハート)
「…そういや…リナ…アメリアにあうの何年ぶりだけか?」
 …おい…
「…ちょっと…何言ってんのガウリィ。アメリア達とわかれてからまだ半年
しかたってないでしょうが!」
「…え?……そうだっけか?」
 …ったく…
「…で、セイルーンに何しに行くんだ?」
 ずべしっ!
「…どうしたんだ?リナ」
「このクラゲ!3日前、連絡が来たとき散々話したでしょうが…セイルーン
のエルドラン先王が亡くなって、フィルさんが即位することになった。そこ
で是非ともあたし達にも即位式の出席をお願いしたいって!アメリアから!
!」
 その言葉をきいて、ガウリィはぽんと手をたたくと、
「おお〜そうだったそうだった、覚えてる覚えてる…」
 これである…さっきまで忘れてただろうが、あんたは…
 たぶん、この連絡はゼルにも届いているはずである…あの子が一番合いた
がっている人でもあるしね…
 この連絡によって、今回の即位式はかなり盛大な式になることは明白だ。
 なにせアメリアの友人であり、フィリオネル新王にも面識があり、かつて
のお家騒動での尽力な功績…まあ…ちょぴっとセイルーンのある一角を吹き
飛ばしちゃった事もあったけど…
 それにもまして──
  今や『魔を滅する者』として名を発している大魔道士である、このあたし。
 そして『魔を滅する者』の相棒であり、なおかつ『光の戦士』の末裔であ
るガウリィ。
 『魔を滅する者』と共に戦った魔剣士にして、あの五大賢者の一人・赤法
師レゾの血を受け継ぐ者、ゼルガディス。
 ──という、ネームバリューバリバリの3人が出席するとなると、即位式
に箔がつくてー物だ……ちょっと…誰よ…別な意味で泊が付きそうって言っ
たのは!
「けどよ…リナ」
「うん?」
「アメリアのヤツ。おまえさん見たら驚くんじゃないか。背、伸びたもんな」
「…うん……まあね…」
 この時期があたしの成長期だったのか、アメリア達とわかれて急に延び始
め出した。
 前までのあたしはガウリィと比べると彼の胸よりちょい下ぐらいだったが、
今ではガウリィの肩にまでに達している。
 たった半年でここまで延びるなんて、はっきし言って思ってもいなかった…
 まさか、呪いでもかけられたかな…あっ!もしかしてマルチナの仕業…
「けど…あいかわらず胸はぺったんこだ…」
 ずべしっ!
「色気もないし…」
 お、おにょれ、ガウリィ。
 その後、怒りをやどしたあたしがどの様な行動をとったのかは言うまでも
ない。


 ざわっ
 あたしたちがセイルーンの一角にある、ある飯屋へと入ると、店の中にい
た連中がいっせいに振り向きざわめきだした。
 その顔にはある種の驚きの入った表情。全員が全員、あたし達二人を見て
いる。
 …ふっ…さては美男美女のカップル…いかに頭がスライムでもガウリィは
ハンサムの部類…に目を奪われたか……
『…なあ、似てないかあの二人…』
『…ああ…似てる似てる…』
 ……って…かんじとはちょっと違う…はて?いったい、なんだ?
 手配をかけられたときの雰囲気にも似てるが……けど…ここセイルーンで
あれば、あのアメリアの目に真っ先に止まり「こんな手配書、嘘です。正義
の仲良し4人組がこんなことするはず…いや…リナさんなら何となく…いえ、
やっぱりあるわけありません」とか何とか言って手配書を破り捨てると思う
し…途中の「リナさんなら何となく」って所、ホントに言っていたら体裁を
加えておかなければ…
「さあ〜て、メシメシ。おいリナ、あそこの席が空いてるぞ」
 そんなことにはミジンコ並にも気付いていないガウリィは、鼻歌交じりで
さっさと指さした席にへと足を運ぶ。
 ざわざわざわざわ…
 更に店内が騒ぎ始めた。
『……リナ?……』
『……まさか……』
 ……はて?……ま、いっか……考えてもしょうがないし…それよりご飯ご
飯…ん?…
「あ〜こらっガウリィ!あたしをさしおいて先に注文してるんじゃない!!」
 …いつの間に席についた…言いながらあたしはガウリィのいる席に慌てて…
 どおぉぉぉぉっ!
『…ガウリィ…』
 店内に更なるざわめきが起こる。
 なんだなんだなんだなんだっ!
 あたし、なんか変なこと言ったか?
「え〜っと、とりあえずオレはこのチーズあえ平目のムニエルを4人前に…」
 にこにこ顔でウエイトレスのねーちゃんに注文を続けるガウリィ。
 …をひ…これだけ騒がれてもまだ気付かんのか、おまいは…
「………………」
「…あれ…お姉さん聞いてる?」
「…え?…あっ…す、すみません。…え…えっと…ご注文は…」
 この姉ちゃんガウリィの注文聞いてなかったのか?ぼーっとしちゃって…
もしかしてガウリィに見とれてた?
「………………」
 ……ああ〜っ……なんかむかむかしてきたぞ……
 席につき、ガウリィの注文の後にすかさずあたしも…多少無骨な表情で…
注文を入れる。
「…は、はい…ご、ご注文は、い、以上で…えっと…」
 なんかやけに緊張しまくっているウエイトレスさんである。
 むかむかする胸がいっそうひどくなる。
「…………」
 注文を聞き終えてもまだそわそわしながら無言で立ちつくしている彼女…
あのねぇ…さっさと厨房に行きなさいよね…
 ごくっ
 姉ちゃんが喉をならすと、
「あ、あの…す、すみません。じ、実は一つ、お尋ねしたいことが…」
『?』
 ウエイトレスの姉ちゃんが息咳きって口を開く。
「お二人方はもしや、リナ=インバース様とガウリィ=ガブリエフ様では…」
『え?』
 あたし達はそのセリフにしばし呆然。
 そして沈黙──
 店内にいる全ての人たちがあたし達の返事に注目しているみたいだった。
  ──手配書──いや、なんか違うか…あたしはありありといぶかしげな表
情をしながら、
「…ええ…………そだけど…」
「ああ…確かに俺はガウリィ=ガブリエフだって…なあ…リナ。俺たちこの
人と合ったことあるけか?」
「ないわよ」
 おおおおおおぉぉぉぉっ!!!!
 そのあたし達の返事に、この店に入って一番大きなざわめき…いやもうこ
れは歓声と言うべきか…そして津波宜しくほとんどの人たちがこちらに押し
寄せ、あたし達の席を中心に囲い込んだ。
「…あわわわわわわわ…」
「ななななな…なんだなんだなんだ!リナ!いったいみんなどうしちまった
んだ!」
「…あ、あたしが解るわけないでしょ!…み…みなさん落ち着きましょう…
ね、ね、ね(はーと)」
 一人の女性があたしの目の前にまで顔を近づけ…なにかその目は微妙に潤
んでいたりするのだが…
「あああああ〜ほ、本物のリナ=インバース様。あたしもう大感激ですう〜」
 と言いながら手を胸元で組む…
「…へ?感激って…」
「…あぁぁ〜…もう死んでもいい…」
「…あのお…」
「…しあわせ(はーと)」
 …は…はあとをまき散らしながら、あっちの世界に行っちゃってるよ…こ
の人…
「え?なんだ…」
 一人のがたいのいい傭兵らしいオッちゃんがガウリィの肩をたたき、それ
にガウリィは反応していた。そして、
「うおおおぉぉぉぉぉおー!光の剣士様に俺さわっちまったよ。もうぜって
い手を洗わん」
 肩をたたいたその手を天にかかげ、涙流して吠えまくる。
 いや、一生洗わないってのはどうかと思うよ、あたしは。
「くうううぅぅぅぅ〜やっぱしリナちゃんは可愛い〜」
 …え?か、可愛いって?
「ほんとほんと、すげー可愛いー!」
 なんか次から次と見も知らぬ男どもが、あたしを見て「可愛い」という単
語を連発してくれるが、この勢いに押されて何が何だかもう訳がわからない。
「リナ様、ガウリィ様」
 …あ…ウエイトレスの姉ちゃん。
「あたしお二人方の大ファンなんです」
 え?大ファンって?…いや…ちょとまて…いくらファンだからとはいえ、
あたし達の顔を知ってる風なんだけど…どこで知ったんだ、おまいら…
「何いってんのファンていうのはねえ、プロマイド全シリーズに写真立て、
等身大ポスター、なんかを全て揃えていなけりゃだめなのよ!」
 と彼女の反対側にいた女性が叱責する。
「そのくらい持っています!!」
 プ、プロマイド?写真立て?等身大ポスター!!…をひをひ…なんなんだ
そひは…
「ふっ、あまいな…」
 いつの間にかあたしの隣の席に座っていた一人の男が髪をかき上げながら
言い、一本のバラをあたしへと差し出す。
  …あ、どうも…
「…私ならそれに限定品の4人全員が書かれた超特大ポスターに、今では入
手困難なぴこぴこリナちゃんを加えるがね…」
 …げ、限定品…超特大…ぴこぴこリナちゃ…あ!これはかすかに覚えが…
 ……てっんなもんはどうでもいいよの……これって一体全体、なにがどう
なってんのよーーーー!!!!



 既に日は沈み、街の店にはちらほらと灯りがつきだした頃である。
「…ぜい…ぜい…ぜい…ぜい…な、何とか逃げ切ったわね…」
「…な、なんとかな…」
 あたしとガウリィはとりあえず街の裏道で珍しくへばっていた…………そ
れに……………………

 ご飯食べられなかったのよー(泣き)

 どっぱーんっ!
 津波をバックに涙流しつつ拳を握りしめるあたし。
「…何やってんだ?リナ?…」
「………………」
 ……む…むなしい………
 …ううううぅぅぅっ……おにゃかがしゅいたよおおぉぉ………
 あの後、あたし達は延々と1時間、ファンの人たちに握手を、サインを求
められた。
 いつものようにあたしが呪文の一つ唱えて沈黙させればいいのだが…いや
…一様、3、4回ほどやってみたんだけど…ただあたしたちがここにいます
よーって知らせているだけのようで、魔法で黒こげになった人数の3倍が別
なところから、所狭しとやって来て増えてしまうだけだった…
 そこで否応なしにあたしとガウリィはその場から退散したってわけ…そし
て3時間。その間中、ファンというやからに追いかけ回された…そして今に
至る。
 …くそお…なんかよく考えたらあたし達が何で逃げなきゃならないのよ…
だんだん腹がたってきたぞ…
「…しかし…どういうことなんだ…あれは…」
「…さあ…」
 少なからず、あそこの食堂で聞いたことは…あたし達4人(あたしにガウ
リィ、アメリアにゼルガディス)のプロマイドに写真立て、ポスターにゴー
レム印の『ぴこぴこリナちゃん』シリーズ、リナちゃん・アメりん・ガウく
ん・ゼルやんの各種大中小のぬいぐるみ、子供達に大人気・『爆裂戦隊・ド
ラグレンジャー』の人形&変身セット(なんじゃ…そりは…)……etc,etc…
 それに加えて…「リナ様がお書きになられている自英伝。毎週欠かさずに
読んでいますわ!」………って……あたしはんなもん書いた覚え、ないぞ…
「なんなら僕が教えて差し上げましょうか」
 その声に慌ててあたし達は声の方へ振り向く。その先には上空でたたずむ
黒影一つ。そいつは──
「お久しぶりです。リナさん。そし…」
 いつも絶やさぬにこにこ顔に──
「炎の矢」
  ──黒髪のおかっぱ頭──
「…てガウ…わわわ…」
 ちいいぃぃぃー…よけたか…
  ──そして黒い神官服を──
「…ち、ちょっと、リナさん、いきなり何をするんですか!」
 ──まとった獣神官ゼロスだった。
「あ、気にしないで(ハート)たんなる憂さ晴らしだから」
 あたしは手をぱたぱた仰ぎ、
「…あのですねぇ…リナさん…僕のこといったいなんだと…」
「たんなるマト」
 きっぱり言い放つ。
「…しくしく…」
 その辺の家の壁に『の』の字を書くゼロス…いじけるなよ…
 この一見、何が楽しいのかわからんくらいに、四六時中にこにこ顔の兄ちゃ
ん。こう見えても赤目の魔王の腹心、獣王ゼラス=メタリオムに仕える高位
魔族である…ちなみに強引な交渉にはめっぽう弱い。
「…ゼロスいつまでいじけてるんじゃないの…それよりも…さっき、なんか
教える言ってたけど…もしかしてあんた、この騒ぎの原因知ってるの?」
  そのあたしの言葉に何事もなかったかの様にすくっと立ち上がったゼロス
は…やっぱひ嘘泣きかい…
「ええ…実はですね…」
「お待ちなさい!!」
  と言いかけたゼロスの声をふさぎ、朗々と響く──

<続き 2回目へ>

 
 
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