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自英伝<デモン・スレイヤー> 〜1回目〜


*** LINA(?) ***

 突然、あたしは左腕を闇からあらわれた手にとらわれた。
 とてつもなく冷たい手──
 おもわず魔法を使おうかと考えたがこのままでは使えない。
  ええーい。
 自由な右手で慌てて剣を鞘からぬき、振る。
 ざあうん…闇から生まれる腕を難無く切り裂さ──くが腕はすごい速さで再びくっ付いていく。
「…こ、この…きゃんっ!」
もう一度、切ろうとした瞬間、突然の電撃を浴びせられ──意識が一瞬途切れかかる。  力が抜ける。そして足がその場で崩れへたりこんだ。だがやつはあたしの腕をまだ放そうとしない。  何故こんな事になったんだろう…何故?  話は単純だった…  あの…思い出すにはちょっと辛い、とある事件を解決したばかりのあたしとガウリィは、その足であたしの故郷であるゼフィーリアへの帰途…あたし達の道先に1人の少年が立ち構えていた。 そしていきなりその少年はこう言ったのだ。『オレたちの仲間になれ』っと。もちろん断ったあたしたち。そしたら、今度はその少年はいきなり怒りだして『殺してやる』ときたもんだ。  それから戦闘になって…けど、あの少年が空間をわたれるだなんて……瘴気なんて全然感じなかったのに…しかもあたしたちは完全に相手をなめくさっていて… 「んにゃろお!」  あたしのところへ駆けるガウリィは叫び、つい最近になって手に入れた魔力剣<斬妖剣>でその腕に斬りかかり、  がちいぃーん!  見えない壁に跳ね返される…とまたあたしを電撃が襲う。  さっきのよりも強力── 「!」  悲鳴もでない。攻撃が止むとあたしは腕をつかまれたまま上半身が倒れ──  ──ず何かに髪を捕まれ、倒れることを拒絶された。 「…ううぅ…」 「リナ!」  あたしの近くでガウリィが叫ぶ。だけど、彼とあたしの間には見えない壁に遮られガラス越しで見つめるだけのように…ガウリィはその壁をこんしんの一撃で剣を振り下ろすが、うち破ることは できず、あたしに近づくことも出来ない。  ガウリィの剣が生半可な代物ではないのに──  彼の腕前が一流以上であるのに──  あたしの目の前に漂う闇から、もう一本の腕が生える。短剣を握り締めた腕が──  腕が近づく、 「ぐぅ……っっっ」  あたしは思わず呻く。 剣が……あたしの胸の中に潜りこむ、心臓のある…… 「…あ…」 「リナああぁぁぁーーっ!」  ガウリィの絶叫があたしの耳を貫く。そして意識を失った──  …ゆらゆら…ゆらゆら…  ……………………………………………………………………………………………… ………………………………………………………………………………………………… …………………………………………………………………………………………………  ゆらゆらと…まるで水の上に浮かぶ浮遊感をあたしは身体に受けていた。  ……………………………………………………………………………………………… ………………………………………………………………………………………………… …………………………………………………………………………………………………  …ゆらゆら…ゆらゆら…  …気持ちいい…  …眠い…………………このまま寝てしまおうか…  …ゆらゆら…ゆらゆら…  ……………………………………………………………………………………………… ………………………………………………………………………………………………… ………………………………………………………………………………………………… 「………頼む…おまえ達ならリナを治せるんだろ」  そんなことを考えていた折、あたしの耳にそんな声が他人事のように入ってきた。  あれ?これってガウリィの声だ… 『そりゃまあ…治せないことはないけど…』 「なら頼む…リナを…」  ねえ…ガウリィ誰と話してるのよ?  声からすると男…少年かな?  眠いせいなのだろうか、何故かあたしは目を開かせることができなかった。  そのため、声の主の姿を確かめることも出来ない。  ガウリィの青く澄んだ綺麗な瞳を見ることもできない。 『しかし…いいのか?』 「なにがだ…」 『この後、彼女が幸せな人生を送れるかは、わからないんだぜ…もしかしたらとても辛いことが起こるかもしれない…心臓を貫かれても死ななかった女…不死の体をもった女…とか呼ばれたり してな…』 「………………」  彼の言葉にガウリィは答えない。それとも絶句したのか… 『もしかしたら、彼女の体に魔王の一部が封印されていて、それが目覚めてしまうかもしれない…』 「…いや…そっちのほうが、まだかわいげがあるような気が…」  …おひ…ガウリィ…それはどういう意味じゃ!! 『彼女と魔族との戦いが更にエスカレートして、お前さんが先に死んでしまって彼女を悲しませるかもしれない…』 「………………」  ガウリィは答えない……いや…もしかしたら… 『そうなったら、どうするつもりだ?』 「………………」  沈黙が入る。 『………………』 「………………」 『………………』 「………………」  しばらくして、 「…とりあえず…」  ガウリィが口を開く。 「…言っている意味がわからん!」  どごぐしぃゃかっ!!!!  …あ〜やっぱひ〜  …今のひっくり返る音は……かなり盛大に転んだようね…彼… 『おおーーー!!!見事な空中バク転!!!』  突然、女の子の声。 『じゃかしっ!舞は黙ってろ!!』 『ええええーーーーーー!!!』 『ええー…じゃない!………って…あ〜すまん…とにかく…話を変えよう…』 「そいつは助かる」 『………………』  なんか…彼がすごく可哀相に思えてきたぞ…あたしゃ… 『…じゃあ…あんたは何故、彼女を助けたいと思うんだ?』 「そいつはわからん」 『…おい…にいちゃん…喧嘩うっとんのかい…』  ガウリィのきっぱり言い放つ返事に声のトーンが変わる、謎の少年。 「…だがな…」 『………………ん?』 「…リナはまだまだ生きようとするはずだ…」 『…ふう〜ん…』 「だから俺はそれに答えたい…それに…」 『それに?』 「…それに、リナがいるところは俺のそばだ…ただ、それだけさ…」 『………………』  ガウリィ? 『…ねえ…』  突然、先ほどの女の子の声が聞こえてきた。 「なんだ?…」 『それって……彼女に対しての愛の告白として、とっていいの?』 「………………」  …あ…あ…あ…愛の…告白だあーーー!!!  その言葉にしばし沈黙が入る。もしかしたら、ガウリィは彼女のその質問に苦笑しているのかも…だよねえ…ガウリィ…ねえ…そでしょ… 『…わくわくわくわく…』 『…わくわくわくわく…』 『…舞…それに恵美まで…すごく、楽しそうだな…』 『…うん(はあと)』 『あー…顔、赤くなってるう…』  え?え?え?…赤くって…ちょ…ちょ…ちょ…ちょっとお…  ガウリィの気が多少、膨らんだのが何となくわかる。  そして同時に叫んだ。 「いい加減にしてくれ!!!治してくれるのか、くれないのか!!!」 『…あ〜ごめんごめん…悪かった…悪かった…そんな怒んなよ…ちゃんと治してやるから…』 『えー!まだ答え聞いてない!!』 『…恵美…頼むからお前さんだけでも常識人でいてくれいぃ〜(泣)』 『無理(はあと)』 『…む…無理って…笑顔で言うか?普通…』 『…え…えっと…今のって…あたしは常識人じゃないってこと?』 『『うん!絶対!非常識人!!』』 『うううぅぅぅ〜そんなはもんなくてもおぉ〜(涙)』 「ほんとに、治してくれるのか!」 『…ん?…まあな…そんかわり…』 「ん?なんだ?」  この時、ふいにあたしは睡魔に襲われ始めた。 『………やりなよ…』  ん?…な…に?…その…かわり…って何?…何なの?…聞こえない…… 「…わかってるさ…一生な…」  そこでまたあたしの意識は遠のいた──  …ゆらゆら…ゆらゆら…  ……………………………………………………………………………………………… ………………………………………………………………………………………………… …………………………………………………………………………………………………  …ゆらゆら…ゆらゆら… 『…おーい…生きてるかあ?…』  …う〜ん…うるさいなあ…あたしはまだ眠いぞ…  知らない男の声が聞こえる。 『死んじゃったかな?』  勝手に殺すな!!  別の知らない女性の声が聞こえる…いや…まてよ…さっきの男の声って… 『あのなあ…アイン…そんなわきゃないだろ…』 『そうかな?』  そうだ! 『生きてるほうにケーキ3つ』 『のった!』 『…かけるな…』  まったくだ… 『おーい…姉ちゃん…いい加減に起きないと、服、全部はぎ取って人だかりの中にでも放り込むぞおー』  なにっ? 『…たっちゃん…それは…ちょっと…まずいんじゃあ…』 『…起きないんですけど…やっぱりはいじゃおっか?』 『冗談ですよね?アインさん?』 『120%本気(はあと)』  まてこら! 『…ふむ…うんなら…究極の起こしかた…』 『…究極?…』 『…おーい…ドングリ目のぺちゃぱいぃぃっ!!』  むかっ! 「だああああーー!!!やっかましいぃーーーー!!!!!!!」  行きおいよく起きあがるとあたしは開口一番そう叫んで… 「って…あれ?」  きょときょと…周りを見渡す。それは別に珍しくもないのどかな風景。  …どーやら…あたしは一本の木に寄りかかって、眠っていたらしいが…あれ?  えっと…あたし、いつからここで寝てたんだっけ?それにさっきの声は…?  状況がつかめない。  …もしかして…夢か何か? 「…う〜ん…やめろおぉ…」  慌てて声のした方を振り向いた。  あたしのすぐ隣にガウリィもいた。こいつはまだ眠っている。  やっぱり夢だった…の…かな?… 「…リ…ナ…」 「ん?…何、ガウリィ?いつから起き…」 「…むにゃ…むにゃ…」  なあんだ、寝言か… 「…リナあ〜………俺のそば…」  どきん!!!  その言葉に一瞬、心臓が高鳴る。  ──…それに、リナがいるところは俺のそばだ──  彼の言葉が頭の中に響きわたる。 「…リナ………俺の…に………むにゃむにゃ…」 「…あん?…」  ガウリィの顔を除く。  …くす…  その無邪気な寝顔に、つい笑顔がこぼれる。  …あたしの夢を見てるのかな…こいつ…  起こしていた上半身を戻し寝る格好になると、そのまま仰向けになるようあたしは転がった。  手をあごに乗せ再び彼の寝顔をみる。  …ねぇ…どんな夢を見てるの?ガウリィ?  いつもどうり食事を取り合う夢?  それとも、相も変わらずボケっぷりを発揮してあたしにどつかれる夢なのかな?  いつまでもあたしを子供扱いして頭をなでてる夢?  でも、あたしはもう18なんだよ…ガウリィ…解ってるの?  あたしは起き上がり正座をする。瞳はガウリィの顔から離さずに。  そのまま、あたしの顔が少しずつ、少しずつ、ガウリィに近づく。  ドクンっ  心臓の鼓動が大きく速くなっていくのが自分でも分かる。  それとも…その青い瞳で…その笑顔で…そしていつまでも…いつまでも、横であたしを支えてくれる、守ってくれる夢?  …恋しちゃったのかな?こんなのに…  そのことに驚きはない…そんなことずいぶん前に分かっていたことだし…  こいつは、あたしのことどう思ってるんだろ…  ──女の子らしく、恋だってしてみたいし…──  魔王と戦う前に、ある2人の前で拳を握りしめながら言った言葉。  脳天気でなかなかのハンサムで…  クラゲで剣の腕は超一流で…  どんなときでもあたしを守ってくれて…  時々、何となく…カンかな?…であたしが思っていることに気付いちゃうし…  でも、気付かない時もあるし…  あたしのために怒ってくれて…叱ってくれたこともあったっけ…  初めてあった時は理想の男性像とはかけ離れていたけれど…女の子らしく……か…  あはははは…これって、何となくかなってるのかな?  静かな風が吹き、あたしの髪が流れ、ガウリィの髪と重なり2色の妖精が舞う。  あたしは自然と目を閉じた。  唇と唇が重なる。  そして──この時──  あたしの…本当に小さな夢が、ほんの少しだけかなったかように思えた──  そして彼の本心が聞けるときこそが── ********************************************************************  このお話はフィックションです。当人物たちは存在しますが、事件及び出 来事はすべて読者かたがたに、依存いたします。 ******************************************************************** **** お ま け **** 「風にながれる赤と金──  交わされる口づけ──  2人と少し離れた木の枝に隠れて、オレはその光景を眺めていた。  オレの名はタツヤ。  若干15才で特別級資格者になった国家認定・次元セキュリティ会社『S.T.S』──のトラブルコンサルタントだ。  へ?次元セキュリティ会社っていったい何かだって?  …う〜ん…そうだなあ…」 「こら…舞…人の横で勝手なナレーションを作ってくっちゃべっとるんじゃない!」 「あううぅぅ〜手持ちぶさただったもんでつい…てへ(はあ)」 「てへ…っじゃないだろ…てへっじゃ…」 <っにしてもさあ…タツヤ> 「…いいなあ〜…相思相愛だもんねぇ…あの2人って…」 「………………」  恵美のやつはうっとりした目で2人を見つめてるし… <なあんであんな、意地悪するような事、言ったのおぉ?> 「オレが至極難しい説明の仕方を考えているその時、右手の時計に仕込まれている無線機から、相棒のアイン…正式名は感情登録知性体DWMM・変船『アイン』…の声が流れてくる」 「だからナレーションはやめいっつーとろーが!」 「みえぇぇ〜!ごめんなしゃあいぃぃ〜〜!!」 <おおーい、もしもーし> 「はあ〜…一組のアツアツカップル…あたしも…もぐ…いつか…」 『恵美(さん)(めぐちゃん)?』  ポッキ−食いながら妄想に浸ってるよ… <ちょっと聞いてるの?タツ之助くん> 「誰がタツ之助だ…」 「きゃあ〜…やだやだ…たっちゃんったら…こんなところで…」  ばしばしと突然オレの肩をたたく恵美。 「もしもしい〜…恵美さん?」 「誰かに見られでもしたらあ〜」  ──恵美──妄想暴走中── <あの時さ、麻酔が効いていただけ何だし怪我は完全完治してたでしょ。それなのにあんなことを言ってさあ…> 「ちょっと、あいつの本心が聞いてみたくてな…それに………おまえさん…彼女に声だけは聞こえるようにしといただろ…気付いてないとでも思ってたか…オレが…」 <あれ?やっぱ、わかっちゃった>  そりゃ…ドアップでメインスクリーンにこにこ顔を出してるんじゃ…何かあるって気付くけどね…普通… 「けどさあ…たっちゃん…なんであの魔族は彼女に近づいたんだろ?」 『………………』 「あれ?…みんな黙っちゃって?どうかしたの?」 「…恵美…急に素に戻るなよ…思考がついていけなかったぞ…今…」 「あたしも…」 <私もです…> 「あたしっていったい…」 「あ…すねた…」  青い火の玉が周りにたたずんでやがるし… <で…結局のところはどうなんでしょうかね…さっきのやつの狙いって?> 「さあな…こっちの人間の中じゃあ、結構、巨大な力を持っている人だし…会長のお気に入りの人だし…それでなんかに利用でもしようとした…」 「そんなところかな?」  オレの言葉にうなずく恵美。 <命知らずな…会長にばれたらどんなお仕置きされることやら…>  とりあえずそいつは、ぶち倒して本社へ返送しておいたが……既に…お仕置きされてたりして… <…いや…もしかしたら…> 「ん?なんだ?」 <ねぇ…タツヤは聞いてない…ある世界のリナ何とかさんって人って…会長の身内だとか何とか…> 「いや…」 <もしかしたら彼女なのかな?同じリナだし…>  ふう〜ん…もしそうなら不魔族が絡んできた理はわかるが… 「…だが…もしそうだとしてだ…何故あいつがそんなことを知っていたかなんだが…ん?…って…ちょっと待てよ…」 <………………>  …それ以前に… 「…アイン…そんな情報…おまいさんはどっから仕入れてきたんだ?」 <…え?…あ…あはははははは…いや…それは…そのおぉ…>  …こいつ… 「…また、本社のコンピュータをハッキングしたんだな…」 <…う゛……だって…暇だったんだもん……………>  …おいおい…暇なだけでハッキングするか…普通… 「…まあ…いいや…それよりこの辺一体で起こってる次空の歪みだが………アイン……あれ?…おい……アイン?……」  無線から返事が返ってこない。 「…おい…アイン……返事しろ…………」  …応答なし…まさか…… 「…おい…アイ…」 『はい、アインでふう(ハート)申し訳ありませんが、只今、外出しております。ご用のあるお方は、ぷぴいぃー、っと言う発信音の後にメッセージを入れて…』 「………………」  ええ〜い!あのやろ…人の話を最後まで聞かずに船のボディ磨きに行きやがったなあああぁぁーーーー!!!!!! 『…くだしゃい。ぷりいぃーじゅう(ハート)』  ぴいぃ〜  そして、発信音が鳴り終わった後に寒い風がオレの頬を殴っていった。 <続き 2回目前編へ>
 
 
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