自英伝<デモン・スレイヤー> 〜2回目前編〜
*** LINA(?) ***
「ねぇ…ガウリィ……ガウリィは…あたしのこと…どう思ってるの?」
「え?どうって?」
あたしの問いに、言葉を濁す相棒のガウリィ=ガブリエフ。
今、あたしの顔は、これでもかって言うぐらい真っ赤になっていることだろう。
あの変な夢を見てから数日後の出来事──
「爆煙舞っ!」
ぼぼぼぼぼぼおおぉぉーん!!
あたしの口から紡ぎ出された呪文が発動し派手な爆発音と煙が上がり、
「ひ、ひいえぇーーー!」
ずざざざざ…
その見た目の派手さに驚いたか、乾いた悲鳴を上げ、周りの連中は慌てて後ずさる。その中の一人が叫ぶ。
「…な…なななな…なんだ、てめえは!」
…ふっ…
あたしは1つ含み笑い。やはりどこの盗賊だろうとあたしが登場するたび、どこでもここでもあそこでも、セリフが決まっている。
あたしは、ふさっと赤に近い栗色の髪をかき上げると、
「誰が言ったか騒いだか、天才美人魔道士と言われるこのあたし…」
「…いや…おれが思うには…恐れおののいた…という方が似合うと思うんだが…」
「ふんっ!」
めしっ!
問答無用の左アッパーが、あたしの横に立つ見るだけなら美形な兄ちゃんの顎を見事にとらえ、彼は勢い宜しく吹き飛ぶ(ちなみに盗賊の方へ)
「いてー、いてー!リナ!なにすんだよいきなり!!」
「いやっかましい!せっかく人が格好よく登場している所を、妄想こみのつっこみで、ちゃちゃを入れるんじゃない!!」
「…妄想……って………リナっ!」
突然真剣な表情になりあたしを見つめるガウリィ。
「…な…なによ…」
「…妄想って…何だっけ?」
「炸弾陣!」
『どうわあああぁぁぁー!』
吹き飛ぶガウリィくん…ついでの盗賊ご一行様…であった──
…ごとごとごとごと…
そんな音を立てながら、荷馬車が揺れ進む。
…ごとごとごとごと…
…ごとごとごとごと…
ぽかぽか…と陽気なお日様に藁の上に寝そべっているので気持ちがいい。
…ごとごとごとごと…
…ごとごとごとごと…
こんな気持ちがいい時は歌を歌いたくなる。
…ごとごとごとごと…
…ごとごとごとごと…
歌っちゃおうかな?
うん歌おう…何がいいかな?
うん。こんなのがいいか…………こほん…
あ〜る〜♪晴れた〜♪ひ〜る〜さがり〜♪
い〜ち〜ば〜へ続〜く道♪
に〜ば〜しゃ〜が♪ご〜とご〜と♪
く〜ら〜げ〜をつれ〜ていく〜♪
か〜わ〜いい〜♪リナちゃ〜ん♪
ハンカチ振って〜♪
か〜なしそ〜な♪目をして見送るよ〜♪
ガウ♪ガウ♪ガ〜ウ♪ガウリィ♪おしゃべりく〜ら〜げ♪
ガウ♪ガウ♪ガ〜ウ♪ガウリィ♪いくらで売〜れ〜る♪
「なあ〜リナ…」
「ん?何?ガウリィ?」
ぽかぽか陽気の中でごとごと揺れ、ゆっくり進む藁を積む馬車は、あたしの実家ゼフィーリアへと向かっていた。
ガウリィの脳ミソのような、ほのぼのとした旅が続いているなか、その藁の上に腰を下ろし、のんびりと歌っていたそんなあたしに、ガウリィがのんびりと問いてきたのはきっと陽気に当てられた錯覚だろう。
行くとこ来るとこ、厄介な事件に巻き込まれてばかりのあたしとしては、これだけのんびりとしているのは珍しいくらいの快挙と言えるが、ガウリィのこの脳ミソがきっと不可思議なエネルギー…能天気波動抱とか…を発生させているに違いない。
うん。そうだ。そうに決まってる。
あたしが決めた。そう決めた。
あたしが正しい。あたしが真実。
「お〜い…リナあぁ…」
「何?厄介事撃退装置くん(はーと)」
「何だよそれ…」
「さあ♪何でしょう(はあと)」
もうみんなはご存知かと思うけど…一様自己紹介。
…ごとごとごとごと…
「…なあ…リナ…」
無視。
あたしは絶世の美人。世紀の天才美人魔道士リナ=インバース。18にもなって『美少女』じゃあ、なんかこっぱ恥ずかしいから『美人』に変更…
「……リナあ〜…」
「無視」
「……………いや…無視って…(汗)」
呆れ果てたその顔であたしの横を歩いていた、自称・あたしの保護者、他称・天然おおぼけ剣士くらげ、ガウリィ=ガブリエフはとりあえず沈黙した。
金色の長髪に整った顔立ち。一見、気の良さそうな兄ちゃんだが、実はただたんに何も考えていないクラゲ兄ちゃん。
こんなんでも光の剣の戦士の末裔で、半年前までは光の剣を持っていたりしてたのだが、どこで捨てたか忘れたか…って、ホントはある人物に返しちゃったんだけどね…今は持っていない。
てな訳でしばらくは彼の剣を探してうろちょろしてたんだけど、これがまたなかなかいい剣が見つからない。
やっとこさ、最近になって無銘の魔力剣を2つ見つけたのだが…逸品とはいえ光の剣ほどの物ではないだろうし…ある一つは…レッサーデーモンあたりを難なく切り倒せる!と思ったら、なん
でかゴーストあたりが倒せない…普通は逆だろ!…つー訳のわかんない代物だったし…なんだかねぇ〜
さて………そしてこのガウリィと並んで歩く絶世の美人。世紀の天才美人魔道士リナ=インバース…18にもなって『美少女』じゃあ、なんかこっぱ恥ずかしいから『美人』に変更…
誰が言ったか怯えたか………『盗賊殺し』……や……『ドラまたリナ』………とも……呼ばれている。
…が、実は最近『魔を滅する者(デモン・スレイヤー)』と言う名で呼ばれ初めてたりするのだ。しかもその呼び名を広げたのが、何をかくそうあのアメリアだったりするわけなんだなこりが…
半年ほど前にダークスターとの戦いを終えて、王宮に帰宅したアメリア。そのとたん、王宮に使える者達に今までどこに行っていたのかと追求されたのだ…ようするに連絡をおこたっていたの
ね、あの子は…その前に連絡の方法がなかったような気がするが…それに港町を破壊してそのまま逃げたからなあ…あえて誰のせいだかは言わないけど。
そして、その執拗な追求についこらえきれなくなったアメリアは話してしまったのだ。あのダークスターとの戦いのことを…しかもあろう事か…調子こいて、ガーブやフィブリゾの時の戦いまで話
す始末。
と、言うわけで今やあたしは…いや…あたし達は…ガウリィとゼルガディスも…一躍有名人になってしまったわけである。
……………目立ってるだろうな……ゼル……特徴ありありだし……今頃、「…目立ってる…目立ちまくっている…」とかぶつぶつ言いながら、あっちの世界に行っちゃってるとか……ちと、見て
みたい気もする…
…ガウリィは……ちらっ…ガウリィの顔を盗み見る……相変わらずのほほんとした顔………多分、なんも考えてないんだろうな…
…ごとごとごとごと…
「…なあ…リナ…」
「だから無視♪」
「ううぅぅぅ〜…少しは聞いてくれよお〜…」
「……なによ?」
「…あの山…なんか変じゃないか?」
あたしの家があるゼフィーリアへの道をひたすら進むその先で、ガウリィが道すじから右10度方向のその山を指し示しめす。
標高2000ほどの1つの大きなこぶに、両脇には見事に整った同高800ほどの2つの小山。
中央の一番高い山を縦に中心線を入れると、右側も左側も見事一致する綺麗な形の山で、これぞ左右対称シンメトリーってやつになる。
………………………………………………………………………………………………………………………………………
「…そ…そ〜お?どう見ても普通の山じゃない。きれいに整った三つこぶの…」
「でも…なんであんなにいびつな形なんだ?」
「山だもの。いびつなのが自然でしょ」
「自然かなあ〜?」
綺麗に整ったその山を見てガウリィは首をかしげた。
綺麗に整ったその山を見てガウリィは首をかしげた。
…ごとごとごとごと…
静かに緩やかに荷馬車は進む、しばらくして緩やかに流れるきれいな川と接触する。
あたしにとっては当時、見慣れていた川。
「…なあ…リナ…」
「なに?」
「この川…なんで…河川が3つもあるんだ?」
「別に、いいんじゃないの…河川が1つだろうが2つだろうが3つだろうが」
その川には3つの河川があった。均等な感覚で均等な川幅のある。
「…そうかなあ〜…」
「…………………そ…そうよ…き…気にすることないわよ…」
「…う〜ん…」
…ごとごとごとごと…
何事もなく荷馬車は進むと、道の先にある物体が見えてきたはずである。
「なんだあ〜あの四角いのは?」
「岩よ」
そう縦長の…綺麗な長方体の岩。
あたしはその方角はまだ見ていない。
というより、まだその場所からは、かなり離れていてあたしの視力では見えないのである。
だから、だからガウリィだからこそ見える距離なのである。
ただ、見てはいないがガウリィが言っているものが何なのかははっきりわかっている。あれだということに。
「岩〜でも…あれってかなりでかいんじゃないか?」
「そうね…高さが20メートルぐらいあるから…」
「そんなに?」
「まあ〜ね…ちなみにあれが、ゼフィーリアの入り口としての目印にもなってるの。あそこから5分もかからないところには温泉宿もあるし…」
「へえ〜…温泉かあ〜…いいねぇ〜」
…ごとごとごとごと…
そしてさらに進んでいくと、あれの全貌を…その大きさを再確認できるところまでやってきた。
「は〜でっかいな〜…こんな四角い岩。どうやってできたんだ?」
その姿にガウリィは感嘆な声をあげ、あたしに尋ねる。
「もともとはここにあったわけじゃないわ。最初はここからちょっと先の方の地中に全部すっぽりと埋まってた岩なのよ」
「それを掘り起こしたのか?」
「まあね…その岩を掘り起こしたおかげで偶然、温泉が湧き出たんだけどね…」
「へえ〜」
あたしにとっては見慣れたその岩をガウリィは再び見上げ、岩から隠れ出た太陽光に目を細めた。
どきっ…
かすかな風が吹き、彼の金色の髪を舞い上がらせる。その一本一本が太陽の光で輝きを放ち、あたしに幻想的な絵を見せつける。
…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………って!!
…何よ!今のどきっ…ってーのは!
なにときめいてんのよ!あたしはっ!
あたしは別にガウリィのことなんて…ただ…彼の髪の毛は綺麗だなっていうのは、乙女が思ってしまうのは当然で…えっと…だから…その…………
…って………あたし……………誰に言い訳してるんだろ…
「あれ?」
と…そこでガウリィが何かに気づいた。
「なんか…横を見ると違う形に…」
ぎくっぎくっぎくっぎくっ
「って!なんだこりゃ!」
そして、ガウリィが横から見たものは…………………………
「…………………ヤマ…イシ?」
「…おい…」
…………………………『岩』だった…
どん!でん!ばん!
と、でかでかに彫られた漢字の『岩』の字。これぞ、正真正銘の『岩』である。
あたしたちがやってきた道筋からはただの四角い岩にしか見えないが、ひとつ横にずれるとそれは違う形になるのである。
「…なあ…リナ。この『やまいし』ってなんだっけ?」
「…ガウリィ…それは漢字の『岩』って字よ」
「おおっ!そっか!どっかで見たことがあるなって思ったら、そうか『岩』って漢字か!」
…こらこら…すぐに見て気づきなさいって…そのぐらい…
「…………………………」
手を打つその格好で彼は動きを止めた。
「どったの?ガウリィ?」
「なあ…リナ…そういや…途中で見た山だけど…」
ぎくっ
「『山』って字にそっくりだったよな」
………………………………………………………………………………………………………………………………………………
「……そ…そうね…山だもの(汗)」
「…そうだ…あの川も、考えてみれば『川』って漢字にみえなくもないなあ〜」
「…………………そ…そ〜お(汗×2)」
『……………………………………………………………………』
会話が途切れた。
なぜか静かな時がこの場を忍ばす。
「おまえがやったのか」
「…う…」
今の会話だけで何故、わかる?ガウリィ?
「…やったのか…」
「ふっ…若気の至りってやつね…」
「…おいおいおいおい…」
「しょうがないでしょ。やっちゃったもんは…大体…もうあれは12年ほど前のことだからとっくに時効よ!」
「ジコウ!!!…………って…なんだ!」
すぱんっ
ハリセンが空いっぱいにこだました──
当時、あたしが5歳ちょい時である。
近所の同年のガキんちょになんで『山』って漢字はあんな字を書くんだろといわれたことがある。
もちろんそれを知っていたあたしは、『山の形が変形してあんな字になった』と説明したが、腐った根性をしたあのガキは信用してくれない。
もともとあたしたちが住む近くの山は1つこぶもしくは多こぶ(5、6ほど)のものばかり。
で、あのガキは3つこぶから変形した漢字は間違っていると言って、あたしの説明を聞き入れなかったのである。
そこであたしは行動を起こした。
なければ作れば良いだけのこと…子供じみた可愛い発想である。
みんなは地精道(ベフィス・ブリング)を覚えてるであろうか。
そう、大地の精霊に干渉して地面に穴をあける、本来はトンネル堀の術。
それを使いあたしは1つこぶの山を3つこぶにしたのである。しかも、綺麗に形を整える徹底振りで・・・
それと同じ理由で同じことをあの川にも行ったのは、それから1ヶ月あとのことである。
「じゃ…この岩ももしかして?」
「…まあ…ね…」
たずねるガウリィにあたしは悲痛な思いでそれを肯定した。
なお、説明しておくが、この岩が出来上がった理由は前述の2つとはちょいとばかし違ってたりする。
…これは…この岩は…あたしの血と汗と涙と、そして生き続けていいられる人生の結晶体である。
当時、『川』を作り上げ、あの悪がきに説明の成功を収めた達成感に喜びを堪能していたあたしに悪夢が襲った。
それは、ことの真相をねーちゃんに知られてしまったこと。
もちろん、あの時は本気で殺されると思いましたよ、あたしゃ…
そして、それを恐れ、涙を流し懇願して誤るあたしにねーちゃんはひとつの課題を出してきた。
『迷惑をかけた皆さんにお詫びをこめるため、疲れが取れる温泉を掘り当てること』
『掘っている最中、自分より大きな岩にぶち当たったら、その岩に岩と言う字を彫る事』
である。
あとは言わなくてもわかるであろう。ま…そういうことである。
「それにあん時は…『いや〜さすがリナちゃん…これでまた観光名物がひとつ増えたねぇ〜』って言って喜んでくれたんだから!みんなから!」
「またって…ほかにもまだなんかやってんのか?」
…う…しまった余計なことを…
「おまえさん…子供の時、どういう人生おくってきたんだ?」
「聞かないで…お願い…」