OK Works 1 (1973-1978) | Home

OTOMO KATSUHIRO on Magazine

連作短編「傷だらけの天使」シリーズ

ハイウェイスター』に1篇、『BOOGIE WOOGIE WALTZ』に6篇が収録された「傷だらけの天使」シリーズ。シリーズではあるものの、キャラクターの固定した連載ではなく、連作短編の形を取っています。但し、「暗夜行路」の主人公であるトラック運転手と同じ姿形の人物が第二話や第七話で登場するなど、ある種の「スターシステム」が用いられていた可能性もあります。

週刊漫画アクション '74年10月31日号』に掲載された最初の作品はデビューから13作目で、キャラクターの等身が上がって主線が細くなった、所謂「劇画的」な絵柄になった時期のものです。実際に絵柄が大きく変化したのはこの年の春、「密漁の夜」、「Boogie Woogie Walts」2作、「One Down」辺りですが、これが一旦「目覚めよと呼ぶ声あり」で整理され、その後「心中ー"74秋ー」からしばらくの間、劇画調の絵柄が続きました。但し、その間にも絵柄の変化は続いています。最も目に付くのが、背景を真っ白にして、そこに心理描写であろうベタやトーンの図柄を入れる技法の変遷。この技法は'74〜5年の作品では随所にみられますが、最も明確な使われ方をした「傷だらけの天使 第四話 醜悪の軋み」を頂点に、次作「同 第五話 チュンパラブギウギチュンパラブギ」まで続いた後、「同 第六話 スカッとスッキリ」で突然使われなくなりました。その代わりに、各コマに背景が克明に描き込まれるようになるのが、「スカッとスッキリ」の次作でシリーズ外の「辻斬り」、そして「傷だらけの天使 第七話 ROCK」です。これで画風が確立したわけではありませんが、大友克洋の画の特徴、そしてその後のマンガ界に多大な影響を与えた「背景とキャラクターを等価な線で描写する」技法は、この頃に始まったと考えて良いでしょう。またそれに伴い、心象を表現するようなスクリーントーンの使用も大きく減少します。そして「ROCK」では敢えてスクリーントーンを全く使わないという実験も。このような画の変遷を辿る意味で、「傷だらけの天使」シリーズは非常に重要な位置にあると言えるでしょう。

なお、同名のテレビシリーズがつとに有名ですが、その放送開始は1974年10月5日から。大友克洋の「傷だらけの天使 第一話 暗夜行路」は同年同月24日売りの号での発表であり、作品制作は放送開始とほぼ同時と思われます。そのことから、テレビシリーズのオマージュ、影響等というよりは、1966年公開の同名の日活映画へのオマージュというか、もっといえば他の作品で曲名をタイトルに拝借しているのと同程度の意味合いなのではないかと推測されますが、この点については更なる検証が必要です。

このシリーズ、1974年秋から約1年に渡って、『週刊漫画アクション』に掲載されました。その間、『漫画アクション増刊 1975年8月23日号』に一篇、シリーズ外の作品である「辻斬り」が掲載されていますが、それ以外の作品は制作されていません。そして1975年11月27日号に掲載された「ROCK」でシリーズは終了となるのですが、実はもう一篇、準備中の作品があったことが分かりました。それは「円卓の騎士」。「That's Amazing World」の同名作ではなく、「傷だらけの天使」シリーズの一作として用意されていたものです。その作品は結局未完成のまま放置された後、これを原案とした高寺彰彦氏の作品「円卓の騎士」として発表されました(大友克洋のクレジット無し)。但し、放置される前に扉絵と一部のコマはペン入れが行われており、扉絵は高寺彰彦氏の手元に、ペン入れされたコマの一つは単行本『GOOD WEATHER』に収録されました。

この時期のアクションは入手困難です。2、4,5話の掲載誌は、まだ入手できていません。

週刊漫画アクション 1974年10月31日号

Weekly Actioni '74/10/31
タイトル作家頁数
ピンナップ「大人のアリスの不思議な国2」4c深井 国2
離婚倶楽部 1 4c扉+2c4p上村一夫28
燃える蹄鉄北村章二・弾雅也24
現代柔侠伝 青春期40バロン吉本24
ゲバゲバ時評はら たいら5
オシャカ坊主列伝 345 2c4p小島功4
傷だらけの天使1- 暗夜行路 -大友克洋23
ぶれいボーイ 24 2c4p小池一雄/芳谷圭児28
ないとキューソク 54岩本久則5
おれはカザノ派 3-42モンキー・パンチ19
子連れ狼 3-109小島剛夕・小池一夫28
赤鞘遊侠伝 158 2c4p黒鉄ヒロシ8

大友克洋初のシリーズ連載(といっても読み切りシリーズですが)「傷だらけの天使」第1話、『boogie woogie waltz』収録の「- 暗夜行路 -」が収録されています。アオリは「男、命をクルマに賭けて 暗い浮世の定期便ー 夜の国道、俺の縄張 ハクい女にゃ縁ねえが 気楽な夜の独り稼業ー」。扉ページのワク線の中に写植が打ってあります。初出時の扉ページのタイトルは白抜き文字ではなく、縦に白い帯をバックにした黒い文字でした。これが単行本収録に当たって変更されました。また、17ページ目1コマ目の曲名「アイ・ショット〜」の「アイ」と「ショット」の間のナカグロが加えられています。それ以外の変更はありません。
 最終ページは1コマ目以下が余白になっていますが、これは広告や目次などが入っていたわけではなく、表現上の技法です。この最終ページに限らず、この作品はこれまでの実験成果がいろいろと詰め込んであり、非常に印象的に仕上がっていると思います。「ユリイカ・特集大友克洋」にも引用された18ページ目のコマも象徴的ですが、最後の2ページの余韻は、この作品ならではのものではないでしょうか。

週刊漫画アクション 1975年2月26日号

Weekly Actioni '75/2/26
タイトル作家頁数
現代柔侠伝 青年期10 4c扉+2c4pバロン吉本X
どらきゅらクン 4モンキー・パンチX
男たちの神話 4滝沢解+芳谷圭児X
ゲバゲバ時評はら たいら5
オシャカ坊主列伝 2c4p小島功4
傷だらけの天使3短距離走者の連帯大友克洋23
離婚倶楽部 14 2c4p上村一夫X
ないとキューソク 67岩本久則5
アンクルけん 3村野守美X
子連れ狼 3-115小島剛夕・小池一夫X
赤鞘遊侠伝 2c4p黒鉄ヒロシ8

boogie woogie waltz』収録の「傷だらけの天使 3 短距離走者の連帯」が掲載されています。アオリは「俊英が描く現代の青春群像」。
 雑誌と単行本では、ネームの細かい部分に至るまで変更はありません。ところで、茂正の部屋のポスターの絵が、コマによって変わるのは何でなんでしょうね (^_^;)。

週刊漫画アクション 1975年8月7日号

Weekly Actioni '75/8/7
タイトル作家頁数
ピンナップ:モンキー・パンチの DO IT YOURSELF! 4cモンキー・パンチ2
現代柔侠伝 蛟龍期8 4c扉+2c4pバロン吉本28
唖蝉昴すまる・小島剛夕24
離婚倶楽部 最終回上村一夫23
ゲバゲバ時評はら たいら5
オシャカ坊主列伝 383 2c4p小島功4
ばんからヨーコ 3やすだ たく23
折り紙師岩本久則5
マタギ 4 2c4p矢口高雄22
傷だらけの天使6スカッとスッキリ大友克洋22
UPUP バルーン 17モンキー・パンチ10
男たちの神話 第6章2-前編滝沢解+芳谷圭児26
赤鞘遊侠伝 2c4p黒鉄ヒロシ8

ハイウェイスター』収録の「傷だらけの天使 6 スカッとスッキリ」が掲載されています。アオリ、ハシラ等の編集のコメントは一切なく、単行本に収録されたものと全く同一です。
 この作品では、後の作品に繋がる「子供たち」が登場。しかも、舞台となった家は「酒井家」で、女の子は「ゆきえ」ちゃん。このキャストはそのまま「酒井さんちのゆきえちゃん」へと繋がっていきます。そのため、「傷だらけの天使」7篇の中でこの作品だけが『ハイウェイスター』に収録されたのだと思われます。しかし、ホントに暑そうですよね‥‥。

週刊漫画アクション 1975年11月27日号

Weekly Actioni '75/11/27
タイトル作家頁数
ピンナップ:モンキー・パンチの DO IT YOURSELF! No.6 4cモンキー・パンチ2
子連れ狼 4 137 4c扉+2c4p小島剛夕・小池一夫32
傷だらけの天使 7 ROCK大友克洋22
嗚呼!!花の応援団 7どおくまんプロ23
ゲバゲバ時評はら たいら5
オシャカ坊主列伝 399 2c4p小島功4
サチコの幸 10上村一夫23
ごんたくれ 22 2c4p正岡としや25
朱肉岩本久則6
カッコマンモンキー・パンチ24
現代柔侠伝 蛟龍期23バロン吉本26
赤鞘遊侠伝 210 2c4p黒鉄ヒロシ8

boogie woogie waltz』収録の「傷だらけの天使 7 ROCK」が掲載されています。アオリは「頽廃、怠惰、逃避、退嬰 シラけたアタイたちにゃ ヤクとロックが勲章サ!?」。
 連載時は22ページが掲載されましたが、単行本では26ページになっています。連載時に削られたのは、単行本222-223、および 232-233ページの見開き二つ。前後のページで時間を交錯させている構成が、うまく機能しなくなってしまっています。また、単行本 221p 4コマ目の黒人兵隊の下半身が、連載時は消されていました。
 「傷だらけの天使」シリーズ紹介でも触れたとおり、この作品ではそれまでとうって変わってスクリーントーンが全く使われていません。陰影は全てカケアミ等の描き込みで表現されていて、写真トレスを多用する前の宮谷一彦(作品集ならば『俺たちの季節』の頃)の画風を発展させたようなものとなっています。また、はじめて本格的にキャラクターとして描かれた黒人が、所謂マンガの黒人では全くなく、骨格から描かれた黒人であったことも、発表当時は衝撃を持って受け止められました。同列には語られていませんが、女性のヌードがここまではっきり描かれたのも初めてであり、この描写もリアルを通り越して「あけすけ」とも言えるものでした。デビュー当初からマンガ的なデフォルメの少ない画風の大友克洋でしたが、この作品と、次の「鏡」において、カリカチュアライズのほとんど無い作風が突き詰められたのでは無いかと思われます。しかし1976年に入ると一転、今度は劇画からマンガへと急転換してゆくことになります。

OK Works 1 (1973-1978) | Home

This page last modified at .