エアリバ81〜88話(最終話)
[ ツリーで表示する ] [ 時間順で表示する ] [ お返事を書く ]投稿者:B 投稿日時:09/05/17 02:48:32
エアリスリバース 81話「神の誕生」
「終わりだ」
ヴィンセントはもう片翼に飛びながら、デスペナルティで狙い打つ。もう片腕は前腕が変化したチェーンソーを振り上げる。
セフィロス=ウェポンは片翼から金色の波を放った。ヴィンセントを跳ね除ける。
「!」
咄嗟の抵抗にあったが、指令塔部分であるセフィロスはクラウドが固めている。
ウェポンは落下し、このまま地上戦で、仲間たちと総力を挙げれば、倒せないことはない。
そう、踏んだ。
光は明滅を繰り返しながら、地上に堕ちていく。
着地する。そう思った。
光が爆ぜだ。
鈍い唸りと爆音が耳をつんざく。
着地した時にはウェポンの姿はなかった。
そこにあったのは人並みの大きさの異形。
否。異形と呼ぶには人間に近い形。が、人間でないことは一目にわかる。
背に生えた金色の片翼。
全身を鎧に包む黒き甲殻。
生暖かい風が揺らす銀色の長髪。
太陽に透かした海のような淡い緑の瞳。
その手に握る白刀。
オブシダンウェポンの力を取り込んだセフィロスが跪いていた。
爆音と共に吹き飛ばれたクラウドは何足か離れた位置からセフィロス=オブシディアンを確認した。
「――!?」
似たような変形は前にもあった。大空洞での戦いの際、変形を見せた。
今度はウェポンの体の寄生から、支配へと進めたのだろう。
状況を理解したクラウドは跳んだ。アポカリプスを振り下ろす。
呆気ない音がし、刃がセフィロス=オブシディアンの左手の甲で止めれていた。
篭手のように覆われた甲殻は頑強で、大きなダメージを受けた様子はない。
「……」
セフィロス=オブシディアンはさほど動揺している様子もなく、目だけクラウドに向けるとそのままの体勢で力任せに左手を降った。剣越しに伝わった力でクラウドの体は吹き飛ばされた。
「……!」
再び距離が開いた。
鈍い音を聞いた気がした。
セフィロス=オブシディアンは翼で頭を覆う。
デスペナルティの射撃を防いだ。
ヴィンセントは急降下しながら、左手のチェーンソーで狙う。
セフィロス=オブシディアンの左手に何かが見えた。
闇の輝き――
交わしきれないヴィンセントは体勢を変えた。
黒い光線は蝙蝠の羽を三枚、斬り飛ばした。
ヴィンセントは先のウェポンのように、セフィロスから離れた位置に墜落した。
クラウド、ヴィンセント、ソードは各々が分散している。数百メートル離れた位置にはハイウィンドが位置し、更に離れた位置にティファたち別働隊がいる。
セフィロス=オブシディアンは左手を体に引き戻すと、手を軽く握った。左の背に生えた翼を一振りし、右手の正宗を握りなおす。
音もしないくらいのため息のようなものをつき、瞳の中の意思は一瞬、体の奥に引っ込んだように見えたが、すぐに戻ってきた。
この体は、追い詰められたことによってウェポンを強制的に取り込んだ結果だ。
寄生して時間が立ったことにより、支配が行き届き、土壇場となって食らい尽くした。
生物兵器としての力を人間大のサイズにまで凝縮し取り込んだその力は先よりも強い。ただ立っているだけでも、体の内側から感じる力は何倍にも高まっている。
力は巨竜のごとく。動きの軽さは鳥の羽のごとく。
正宗を振るった。
切っ先の延長線上にある地面に亀裂が走った。次いで風を咲く音が聞こえた。
今ならば、前よりももっと戦える。そんな確信めいたものがある。
「フ」
セフィロス=オブシディアンはクラウドたち三人を見渡した。跳躍し、空中で静止する。
正宗を掲げ、切っ先で天を衝いた。刃先から何かが飛び出した。
それは黒い球体となる。
正宗の柄を握りなおした。
黒い球体は飛散し、降り注ぐ。
一撃がファイガクラスの威力はあろうか。それが数十。撒き散らされる。
半径数十メートルの乱舞だ。
「ガァッ!!」
ソードはよけようとするが、先ほどの吸収技の影響で体がまともに動かない。
背に一撃、倒れた拍子にもう一撃、二撃。なすすべもなく、打ちのめされる。
「ソード!」
クラウドが駆け寄り、守る。黒いスコールが止んだ時、周辺はクラウドたちの足場以外、ほぼ全てが抉り取られていた。
「動けるか」
「すまぬ」
無理ということだ。
この場はクラウドとヴィンセントが乗り切るしかない。
セフィロス=オブシディアンはゆっくりと降下してくる。
「どうにも……」
クラウドはソードを背に構えた。ヴィンセントも斬られた羽を再生させながら、立ち上がる。
「戦鬼に生まれついた者は、戦鬼としてあらねばならないようだ」
着陸した。
地鳴りがしているような感覚があった。
セフィロスは穏やかな語り口なのに不気味な重圧がある。
「平穏は望むべくもないな? クラウド……」
「……」
「お前と」
ジェノバ。戦闘兵器、ソルジャー実験体。
「俺と」
ウェポン。星が生み出した生物兵器。
「いずれが優れた兵器か。けりをつけようではないか」
「俺は兵器じゃない」
「当人の意思など、意味を持たない。あるのは事実のみだ。そしてお前は戦う人形。兵器だ」
常人は持たぬ身体能力と生命力。その力は通常の人間を軽く凌駕する。
それはセフィロスも同じ。ザックスも……。
自分は少なくとも自覚の限りは自分の意思を持っている。生きている。人形ではないし、兵器ではない。
仮にそれでも、自分の意思とは関係なく戦力を持つことが兵器の証明だと言うのなら、兵器としてのみ存在するのではない。
ソードが好例だ。彼は目の前のセフィロスから生まれて、明らかに兵器のみにはない。心がある。守ろうとする意思がある。
「俺は【兵器】にはならない」
「ジェノバの力を有して、か」
「俺は人間として生きる」
――そしてお前は?
セフィロスの額に赤い瞳は出ていない。
今のセフィロスは狂気にとらわれていない。ちょうど、二つが混ざり合ったようだった。
元のセフィロス、第3の目を浮かべた時のセフィロスとも同じ。根底に抱える心は同じだった。
彼は自らと兵器とする。人の心を持つが故に狂う引き金となった、心を否定する。
それは人間でなくなるということ。即ち、兵器。圧倒的破壊者。神。
詭弁である。当人もそれは理解出来ていた。
兵器として道具として。生まれて育ってきたことに疑問を持ちながらも、それ以外の術を持たない。少なくとも本人はそう判断している。
「ならば、証明してみせろ。人間として、生きる力を」
道は交わらない。
道は交差して、各々は別々の地へと進んでしまう。
だが……いた。交差する一時、柄の間ではあってもそこに彼らはいた。
自分と。ザックスと。セフィロスと。交差する瞬間があった。
ザックスさんの口説きのテクニックを聞けなかったのが、残念だが。
「証明してみせる。セフィロス。あんたは、俺たちの記憶の……思い出の中で眠っていてくれ」
「そう簡単には、俺は思い出にはならないさ」
言葉を合図にしたかのように、二人は動き出した。
エアリスリバース 82話「千年桜」
アポカリプスと正宗がぶつかり合った。
セフィロスは力をこめる。
「フン!」
クラウドの脚が地面にめり込む。
単純な力比べはセフィロスが圧倒的優位。
技で制圧するしかない。
大きく跳躍する攻撃は体の制御を失う。素早いセフィロス=オブシディアンには危険だ。
アポカリプスが空中に「凶」の字を描き出した。
――リミットブレイク「凶斬り」
セフィロスの体に凶の字を描き出す。
――ガキイィン
止められた。桜花乱舞に似た技だが、桜花乱舞はほぼ瞬時に五つ、八つの斬撃を見舞う技。凶斬りよりも上。これを操るセフィロスに効く筈もない。
「ソードは……こうしていたな」
セフィロスは正宗を静かに動かす。動き自体は速い筈なのに研ぎ澄まされた身のこなしのせいか、音もなく思える。
――桜花乱舞・八重
八つの軌跡が蛇のように、防御を掻い潜る。
脳天や腰は避けたが、左右の袈裟を食らってしまった。
胸にX(クロス)の血の花が咲く。
「グッ!」
「片割れというのも都合が良いものだ」
ソードに出来ることはセフィロスにも出来る。
クラウドに出来ることは限られている。接近戦で隙を作らずに繰り出せる技ならば、先の凶斬りはもしくは――
「あるいは」
セフィロスは語りかけてくる。
「そんな顔だ。クックック……」
「……」
超究武神覇斬は大技中の大技。一度放てば、次はない。
セフィロスにとって、この技は初見ではない。他でもない大空洞の戦いで最後の決着の際に見せてしまっている。
先の桜花乱舞。ソードの技をあっさりと真似る眼力。それを可能にした素体。
くりださねば、反撃はない。くりだして、看破されたら最後。
クラウドは攻めあぐねていた。
躊躇うことも、相手に見透かされることになる。
――クラウドはん
声がする。リーブの声だ。
骨伝道マイクから伝わる。
――わての機体には脱出機能も、自爆機能もついてます。いざとなったら、指示して下さい。キーワードは【脱出】【自爆】です。
脱出するわけにはいかない。自分が脱出しないにしても、ロケットは一人用。全員撤退は出来ないし、この場の三人が退いたところで飛空艇のシドやエアリスたちが危機に晒されるだけだ。まともに戦える要員がシドしかいない状況で、他のクルーたちも庇いながら戦闘するなど、不可能だ。
そうなると、出来ることは限られてくる。
出来るだけ使いたくはない。また爆破自体でセフィロスを倒せるとは思えない。あるとするなら、爆破の後にあの技をぶつけることだ。
――「超究武神覇斬」!
超究武神覇斬の単発では凌がれる危険が大きいが、不意をつくことが出来たのなら、望みは大きい。
しかしさっきの今だ。ソードが先陣を切り、自分が一撃。リーブがかく乱し、自分が一撃。
似ている。読まれそうだ。
「……」
ヴィンセントが無言で立ち上がった。ソードは片膝をつきながら、立ち上がろうとする。
次の一撃が勝負の分け目か?
ソードとヴィンセントが目で配ってきた。
――行く!
ソードは体は動かないながらも、魔法を作り出していた。出力は小さいが、満身創痍の体から捻り出したアルテマ――
エメラルドグリーンの輝きがセフィロス=オブシディアンを包む。
デスペナルティがうなった。背の蝙蝠の羽が真空の刃をアルテマの中心に注ぐ。
クラウドは一足飛びに間合いを詰めていた。
同時にクラウドの背から何かが射出された。リーブロボの手だったもの。
合金製のマニュピレータがセフィロスの肩を掴んだ。胴鎧はクラウドの体を離れて肉迫する。
射出ロケットのひとつがセフィロスの足元で爆ぜた。
足場をとられたセフィロスは体制を直そうとする。
「【自爆】」
――すまない。
肩に食い込んだマニュピレータが引き寄せた胴体部が爆ぜた。
予想の通り、攻撃力にはならない。が、ほんの一瞬守勢に回らせることは出来た。
アポカリプスの初撃が当たった。
――超究武神覇斬――
大剣の乱舞が怒涛となってセフィロス=オブシディアンに襲い掛かる!
先ずは一撃。
次いで二撃。
次々と必殺の太刀を食らわせていく。止めは渾身の唐竹を振り下ろす!
筈だった。
一撃目は当たった。
二撃目は直撃は避けた。
三撃目で受け流し始めた。
四撃目――正宗の切っ先がクラウドを狙い――衝いた。
五撃目からはセフィロスが先んじていた。セフィロスはアポカリプスを弾きながら、闘気を高めた。
無音の間があった。
時にして一秒にすら満たないそれは長く思えた。
桜は花弁から花、花から枝となって、幹となる。木となる。
人間ベースの体ではなし得なかった、究極の太刀。
――リミット【千年桜】――
千年を生きたと思しき桜の木。咲き誇る薄紅――
花びらは斬撃。クラウドの五撃目を打ち払った。
舞う。乱れる。花びらの嵐となって。
武神覇斬以上の怒涛だ。研ぎ澄まされた一撃、一撃が超速の武神覇斬を押し返す。
六撃――二撃目。
七――三撃目。
四撃、五撃、六撃。クラウドに反撃を許さない。
七撃――Xの印のついた胸板を正宗が貫いた。
ヴィンセントが迫っていた。
八撃――刀の柄で額を殴る。
九撃――袈裟から切り崩した。
正宗の柄を強く握った。刀身からあふれる力の奔流と、空間に満ちた闘気が刃となってクラウドたちを切り刻む!
――【十(とお)】
赤いものが飛散していた。
花びらに似たそれは薄紅ではなく鮮やかな紅。
幹は人。枝は手足。花は血。
セフィロスを中心に桜の木が出来上がっていた……。
エアリスリバース 83話「希望」
――これは……何だ?
クラウドの眼前には薄く曇った空がうつっていた。
あるいは曇っているのは視界か。
セフィロスに刺された。
最大の技「超究武神覇斬」をもってしてもセフィロス=オブシディアンを止められなかった。
人の心を持つが故に狂ってしまったセフィロスは自らを破滅に追い込み、世界も破壊する。
そして全ては灰燼と化す。
そんなことはさせない。
そう思って――
「クラウド!」
聞き覚えのある声がした。
「野郎!」
シドだ。逆行で顔は見えない。声でわかる。
「クラウド!」
また聞こえた。女性の声。こちらも聞き慣れている。
「ティ……ファ?」
胸板を貫かれた。背に血が張り付いている。
「駄目! じっとしてて」
言いながらティファはセフィロスのいる方向を睨みながら、回復の光をその手に生み出す。
ヴィンセントはユフィが見ているらしい。ソードはレッドだ。
シドが駆けつけ、セフィロスが止めを刺す前にティファたち別動隊が戻ってきていた。
「ユ、ヒ……」
ヴィンセントが腕を杖にし起き上がろうとするのをユフィが止める。
「止めろ、馬鹿」
片手に不倶戴天を構えながらもう片手でヴィンセントを回復している。
傷が傷。表面は塞いでも、内部まで回復するのは時間がかかる。この場は止血だ。
「戻ってきたよ、皆」
レッドはその目にセフィロス=オブシディアンを移しながらソードとセフィロスの間に入っている。
シドはロンギヌスをセフィロスに向ける。
「やりすぎたぜ。英雄さんよ……」
「数が増えても結果は同じ。僅かに命を長らえただけのこと」
シドの言はなかったように構えなおし、一歩進む。
セフィロスを中心に円状にティファが囲っている。その円の内側、クラウドとセフィロスの間にシドがいる。
「これ以上は無意味だ」
クラウドを退けた。この上を行く者はいない。
「痛苦を味わい、死ぬか。敗北を受け入れて、楽に逝くか」
「どっちも御免だぜ!」
言うが早いか、シドが仕掛けた。
――リミット【大乱闘】――
上段・下段。四方八方から間合いと角度を使い分けた槍の連続攻撃がセフィロスを襲う。
「ふ」
穂先のひとつひとつをよく観察し、難なく交わしている。
「クラウド」
ティファは涙をかすかに滲ませた眼でクラウドを見つめていた。
傷つくのは辛い。自分は言うに及ばず、好意を寄せる相手ならばなおさら――
クラウドとティファはかつてセフィロスからニブルヘイムを守れなかった。エアリスも守れなった。
クラウドは皆を守って傷ついた。
――もう、見たくない。
ケアルの光はクラウドの傷口を辛うじてふさいだ。
このまま回復を続けていけば、完全回復をはたすだろう。
けれど、セフィロス相手にシドのみでは受けきれない。
「ここで待ってて」
もう見たくない。セフィロスが止まらない限り痛みが続くというのなら……止めるしかない。
「ティ、ファ……」
クラウドに予感があった。ティファにもあった。
この戦いは負ける。このままでは負ける。
クラウド、ヴィンセント、ソードの疲弊具合からセフィロス=オブシディアンの強さは推して知るべしだ。
それでもなお立ちはだかるのは退くわけにはいかないから。
守る。守って――「死」――
「――!」
鼓動が早鐘を打ち鳴らした。
「やあああ!」
シドの攻撃が止んだ瞬間、ティファはラッシュをかけていた。
倒れているわけにはいかない。倒れているわけにはいかない。
体は満足に動かない。
「ク……ソッ!」
自分に対する怒りで打ち震えた。
「おい、根暗男」
ユフィはぼそりと漏らした。
「……」
「死なないくらいには治した。あたしも行くよ」
「……ユフィ」
「へえ。珍しい。まともに名前呼びやがったっ!」
退くのは良手ではない。戦うのも良手ではない。
言葉に窮する。
「すかした顔して待ってろよ。チョチョイとやっつけて来るから」
軽口に言うほど、侮ってなどいない。
「……ああ」
「……じゃね」
シド、ティファ、ユフィの三人で当たった。
各々が仕掛けるが、セフィロスは防ぎ、交わし、見切る。
攻撃のリズムを少しずつ、少しずつ見抜かれてきている……。
「クラウド」
ソードの外傷を治したレッドがクラウドに駆け寄った。
「おいらも行くよ。隙を見て飛び掛る」
「ま、」
「クラウドは切り札だから、治して」
言葉を飲み込んだ。
「皆信じてる」
「……!」
及び腰になっていた。
この戦いの前、誓った筈なのに――
――信じるんだ。ティファを。仲間を信じるんだ。仲間の信頼に応えるんだ。そして今度こそ約束を果たす。困った時には駆けつける。それが自分のすべきこと――
信じるんだ。ティファたちを。仲間を。こうして自分たちの危機に駆けつけてくれた。
今度は自分の番だ。
体は未だ回復しきってはいない。
それなのに。
体から先ほど以上の力が溢れてくる。
疑心暗鬼でくりだした時とは違う結果を……残せる気がする。
「バレット」
エアリスはハイウィンドの甲板に出ようと立ち上がった。
「私行くね。バレットは?」
「何言いやがる!?」
「止めて止まると思う?」
有無を言わさぬ物言いにバレットは押し黙った。
「……思わない」
「それじゃ行きますか」
「……はあ」
言って聞かないことは一年以上前に立証済みだ。
バレットとエアリスは決戦の場へと向かうのだった。
エアリスリバース 84話「希望」
「ふん……」
セフィロスは凪いだ。ティファたちは後ろへ飛びのく。
このまま追撃が来るか。そう思った時にはセフィロスは飛び上がっていた。
正宗の剣先に稲光を発す黒い球体が轟く。
球が爆ぜた。
黒い流星は地上へと降り注ぎ、周囲を破壊しつくす。
シドは構えながら退いた。ユフィも同様だ。
ティファも退いた。その時、一瞬背後を見た。クラウドの無事を確認するためだ。
セフィロスが迫った。
ほんの一瞬で接近している。
ティファはファイティングポーズをとるが、相手の攻撃次第では交わしきれない。
甘い手で来るとは思えない。
やられる。予感した時。
――ギャリイイイン
背後から大剣が躍り出て、正宗に切り結んだ。
クラウドのアポカリプスだ。
「クラウド!」
「無事か、ティファ」
「うん」
一寸、傷を塞いだのみ。まともに動くことは出来ない筈だ。
助けてくれた嬉しさを抑えながら体勢を立て直す。
「ムン!」
セフィロスは力で押し切った。
クラウドは力を受け流し、左袈裟を狙うがよけられた。
その虚をつき、再び正宗を振るう。
辛うじて受けるが、流しきることが出来ずに体勢を崩される。
「ツンツン!」
ユフィの不倶戴天が二人の間を横切った。
シドが割って入る。
と、槍と地面の間から体勢を低くしたティファがセフィロスの脚を狙った。
軽く脚を浮かし、最小限の動きで槍の死角に回ると、ロンギヌスの槍に触れて呟いた。
「サンダラ」
感電して動きの止まった一瞬にセフィロスはシドとの距離を詰めた。
白刃が振り下ろされた。
「や……べ!」
真近に迫った刃を握る手に赤い何かがぶつかり、軌道をそらした。
切っ先は地面を抉る。
「グオオオオオ」
レッドはそのまま手首に噛み付き、離れようとしない。
もう片手で引き剥がそうとするにはクラウドたちとの距離が近い。
空間の空いた背後に気が向いた時、背に痛みを覚えた。
片膝をついたヴィンセントのデスペナルティから煙が上がっている。
セフィロス=オブシディアンは左手でレッドの側頭部を殴った。
「ガッ……」
一撃で重傷だった。顎の力が緩み、腕のひと振りで放り出された。
ヴィンセントは二撃目に移っていた。引き金に手をかけようとする。
その間、セフィロスは動いた。
正宗を右に凪ぎ、左手で雷撃を生み出し、背の翼を左に凪いだ。
正宗はシドの左腹を刻んだ。翼はガードの上からティファの左拳を砕いた。
雷撃がうなった。サンダガだ。
クラウド、シド、ティファに雷が降り注いだ。
踵を返すと、振り返りざまに正宗を振るった。
刃先から生じた空気の刃がデスペナルティの銃身を弾き、ヴィンセントの手から引き離す。銃との距離数メートル。
取りに行く間に攻撃されると判断したヴィンセントは左手をチェーンソー、右手をデスギガスの腕に変化させた。クラウドたちが無防備な状態にある以上、こちらに引きつけて体勢を整える必要がある。
が、セフィロスは乗せられなかった。ヴィンセントとの間には距離があるし、デスペルティをとって射撃するのはその間の時間がある。
ならば、構わず眼前のクラウドをしとめた方が良い。
ユフィが迫る。
「あたしが相手だ!」
「フン」
――リミットブレイク「血祭り」――
不倶戴天から繰り出された連続攻撃だ。巨大手裏剣の刃がセフィロスを狙った。
金色の翼が左半身を覆った。手裏剣は阻まれて、その向こうの体に達しない。
「ちくしょう!」
悪態をついたユフィは退いて、ヴィンセント、ソードとセフィロスの中くらいに立った。
――パラ
真っ正直に悪態をついたと思いきや、セフィロスの頭上には忍者特製の炸裂弾があった。
――パラパラパララ、パンパンパンパンパーン!
威力こそさほどではないが、不意をついたり。
爆発が続く中、ヴィンセントはデスペナルティを回収していた。ユフィとの連携をはかり、セフィロスに向けて一撃をくれてやる。
金色の翼が威力を阻む。同時に防ぎながら向かってくる。
あの翼は攻撃と防御を兼ねる。接近したら正宗と魔法の多段攻撃。接近されたら分が悪い。
翼を何とかできればという考えが通じたか。
ソードが動いていた。傷の深さこそクラウドらと大差ないが、新型ジェノバの恩恵か耐久性とパワーは従来より上。
右腕に正宗、左腕は……伸びていた。腕の途中がジェノバの触手のように変化しており、左手で翼を掴み、右手の正宗で翼の根元を叩き折った。
「グ……ガアアア!!」
左手のファイガでソードを吹き飛ばし、右手の正宗で真一文字にユフィたちに斬撃を放った。
痛みの怒りで力は増している。不倶戴天は弾かれ、デスペナルティの威力もかき消す。そのまま刃はユフィに達す……
「な……!」
ヴィンセントがチェーンソーの腕で受け止めていた。が、セフィロスの方が強い。魔法に使っていた左手も戻し、そのままの勢いで押し切る。
チェーンソーの鮫刃が削り落とされ、ブレード全体がひしゃげた。
セフィロスは包囲網から抜け出てヴィンセントたちと対峙した。
正面にヴィンセント、ユフィ、脇にソード、その向こうにレッド、クラウド、シド、ティファがいる。
数が多い。また包囲されたら面倒だ。
セフィロスは正宗を構えたまま、魔法の詠唱を始めた。飛び掛って来られたら、いつでも返せるように両手で正宗を構える。
――アルテマ――
ティファをクラウドを、シドがレッドを庇う。ユフィはヴィンセントを守り、ヴィンセントは迎撃に構える。
魔鉱色の大気が一行を蝕む。クラウドたちは耐え凌ぐのみだった。
と、魔法の威力から抜け出た者がいた。
ソードだ。
セフィロスはアルテマの発動を止め、ソードと切り結んだ。
「消えろ。半死人」
「お前が言うのか?」
正宗が正宗を弾いた。
セフィロスは小さく息を吐き出した。呼吸を整える。
多勢と戦い、再びリミットパワーがたまってきている。
「セフィロス」
その声は不意に響いた。
否、ジェノバを持つ者たちは察知していた。この場に近付く二つの気配を。
バレット。それに……
「エア……リス」
クラウドから漏れた。
エアリスリバース 85話「もしも」
エアリスが来たことによって、空気は一変した。
血で血を洗う戦場だった場所は、既に戦いが去ったかのようだった。
沈黙があった。状況を悟ったクラウドたちはセフィロスを通すまいと身構える。
エアリスは続ける。
「戦いを止めましょう」
「……」
セフィロスは何かを言いたげだ。
シドが叫ぶ。
「何言ってやがる! エアリスよお?」
「このまま戦い続けても、終わりは来ない。何年前からも。一年前も。そして今も。戦いを続ける限り、争いは続き、私たちは傷つけ合わないといけない」
セフィロスは黙ったまま聞いている。
「ジェノバに関わる因縁。私も貴方も大きな影響を受けた」
死してなお、この世に引き戻されたエアリス。
ジェノバを植えつけられて実験動物とされたクラウド。
生まれついての兵器として製造されたセフィロス。
それらを軸にまつわる因縁。神羅。古代種。
「ここにいる皆に関わりがある」
「……」
その先を促しているような気がする。
エアリスは続けた。
「今は戦っているけど、本心では争わなくてもいいのなら、争いたいと思ってない」
だから……。
「だから、戦いを止めるの。私たちは貴方を傷つけないし、貴方は星を傷つけない。ふたつが戦うことを止めれば、平和に」
「クックック」
セフィロスは悪辣な笑みを浮かべた。
「だから……戦いを止める?」
額を押さえた左手から第三の目が開くのが見える。
セフィロスの中の悪意と破壊衝動の象徴。第三の目。
「ええ」
エアリスはこの申し出が酷く現実から乖離した願望であることは承知している。
けれど、口にしたのはきっと誰もが思い描く夢だったから。
だから、言葉にした。「戦いを止めよう」と。
「だから……戦いを止める?」
セフィロスは繰り返した。
「確かにそう言ったか。止めると」
「ええ」
「下らない……」
今さら止めたところで問題は解決しない。
傷口は深すぎて膿んでしまった。決着は体が勝つか、傷が勝つか。
「一度では足りぬようだ。今一度黄泉への旅路につくか?」
正宗の切っ先がゆらめく。
それでも続ける。
「私が死んだら」
切っ先の動きが止まった。
「同じことが起きれば、また黄泉返る。それは貴方も同じ。ライフストリームに委ねない限り、貴方は貴方のままずっとあり続ける。何年経っても。ここにいる皆がいなくなっても……」
「……」
「止めようと思わない限り、終わらない。貴方だって……戦いのために生み出されてしまったことが悲しかったから……今ここで戦っているんでしょう?」
戦いの道具として生まれてしまうことを嘆き、戦いに身を投じる。
果てのない矛盾だった。
「知ったふうな口をきく」
額の目はいつの間にか閉じかけていた。
「お前にわかるのか」
父に母に存在を祝福されて生まれたエアリス。
兵器として産声を上げたセフィロス。
ふたりの間には大きな隔たりがあった。
「わかるなんて言えない」
小さく首を振りながらエアリスは答えた。
「貴方の心を私はわかってあげられない。でも……」
「……」
「わかりたい。貴方だけじゃない。クラウドも。バレットも。ティファも。皆の気持ちを出来る限りわかりたい。それじゃあ……駄目かな」
望んでいた答えだった。
きっと望んでいた答えだった。
戦いに明け暮れた自分には「愛」がなかった。人として欠陥品、兵器として生まれついた自分が人間としての心を持とうとしたところで人足り得ないと。
だから背を向けようとした。
人足らぬなら、兵器として、災厄として、禍つ神として……。
惜しむべくはこの言葉がもっと……もっと前に聞けていたのなら、きっと……
セフィロスの脳裏に何時かの景色が浮かんだ。何処かのバーで自分とクラウドとザックスと。ザックスは好きな女性を紹介すると言っていた。口説きのテクニックとやらも聞いていない。
女性が誰だったか、テクニックとはどんな内容だったのか。今となっては確かめるべくもない。
「悪くはない」
エアリスの表情がゆるむ。
「しかし、遅すぎた。戦いは既に俺の存在理由だ」
額の目が再び開いた。赤く輝く。
「俺は戦いに生きる。止まることがあるのならば、それは敗北した時。止まれというのなら止めてみろ」
「セフィロス……」
「そして阻んでみせろ」
セフィロスは一歩踏み出した。
兵器として生まれたことは憎しみであり、同時に誇りでもある。
自己否定と存在理由は表裏一体だ。戦場から離れえようもない。
クラウドはアポカリプスを握りなおした。
「セフィロス……!」
彼にとって戦いは悲しみだけではなかった。存在理由だった。
今一度下す。そこから人間・セフィロスは始まる気がした。
少なくとも当人の中ににおいては。
クラウドは歩み出た。
クラウドはセフィロスに、セフィロスはクラウドに斬りかかっていた。
空に暗雲が集まった。二人の周囲に嵐のような、雲のような結界が広がり周囲を吹き飛ばした。
「クラウド!」
ティファは拳の弾幕を見舞うが、全く手ごたえがない。体ごと突っ込んでも弾かれてしまう。
結界は広がり、半径数十メートルの大きな円となった。中の様子は雨雲のようなものに阻まれて見えない。
「チクショウ! 通れねえぞ、これ!」
シドが叩くが、弾かれる。
「落ち着け」
ソードが歩み出た。
「クラウドを助ける力が私たちにはある筈だ」
それは月での戦いで見せた力。
皆のリミットパワーをクラウドに集める力。そしてクラウドなら、果たしてくれる筈だ。
「力を……クラウドに」
ソードは両手を結界に向け翳した。皆も倣った。
「ふ……」
ソードは薄く笑む。見咎めたエアリスが聞く。
「どうしたの」
「何……下らぬことだ」
ほんの少しだけ。セフィロスにも頑張ってほしいと思ってしまっただけだ。
もちろん、手心を加えるつもりはない。
「勝て……クラウド」
エアリスリバース 86話「決着」
外界から遮断された嵐の中でクラウドとセフィロスは対峙していた。
クラウドは胸の傷の痛みは消えていた。代わりに熱さのようなものを感じる。重かった体をが沸き立ってくる。
感覚が研ぎ澄まされている。今まで以上の力が溢れている。ジェノバの更なる力か、戦いの終わりを決心したことによるのか……。
二人の間には距離があった。十メートル程度。ファーストソルジャー以上の力を持つ彼らにとっては一足飛びだ。
クラウドは正眼、セフィロスは上段に構える。互いの視線、息遣いを探る。脚を一歩、半歩と進めては一気に間合いを詰め、引くことを数回。繰り返していた。
緊迫感は徐々に高まっていた。張り詰めた糸が断ち切れた時が勝負。
互いの最終奥義を繰り出し、押し切った方が勝つ。
クラウドの元には仲間たちからのリミットパワーが集まってきていた。総力をあげた力だ。
疲弊しきった彼らには後がなかった。クラウドの双肩に命運がかかっている。
セフィロスは静かに深く息を吐く。全身から気の高ぶりを感じる。大山が鳴動するような威圧感だ。
次の一撃だ。
動きが緩慢に見えた気がした。実際は十秒にも満たない。瞬く間の出来事だ。
足元の小石が転げた。
それを切欠のように二人は加速した。
渾身の力を込めてクラウドはアポカリプスを振り下ろす!
いなしながらその先を狙う必殺の突きをセフィロスが繰り出す!
大剣と長剣が交わった。
伸びた腕を体に戻しながら、至近の二撃目が弾け合う。
血が燃え立つ。今までにない感触だ。肉迫した力の者たちが競う技と力の応酬だ。
刃滑りしながら、正宗の柄でクラウドの手首を打とうとする。
柄を避けながら刀の腹ごと叩き壊そうとする。
身を引き、バランスを崩した所を狙い打とうとする。
クラウドとセフィロスは切り結んだ。
互いの目にゆらめくは炸裂寸前の光。互いの究極技を出し合う爆発間際の光。
――瞳に閃光が迸った気がした。
――「超 究 武 神 覇 斬」!!!
――「千 ・ 年 ・ 桜」――
初撃は同時。
渾身のアポカリプスと必殺の正宗の衝突が光を生んだ。
――「俺は」
口に出しているわけではない。しかし、通じている気がした。
――「ずっと英雄に憧れていた。セフィロス、あんたが邪悪に染まり、故郷のニブルヘイムを踏みにじっても、憧れは消え去りはしなかった」
互いに弾かれた武器を戻し、至近の第二撃も相打った。
――「憧れは憧れのまま、居残った。果たしてそれを払拭した。あの時、大空洞で思ったんだ」
三撃目。互いの逆胴を狙いあい、互いをかすめた。
――「実際は終わってはいなかった。戦いの爪あとも。皆も心も。【英雄】セフィロスも」
四撃目。袈裟斬りどうしが弾けあった。
――「【英雄】は確かにいた。超えたと思ったのは【英雄】じゃなかった。だから……」
五撃目。互いの胴を狙い、互いに避けた。
――「【俺たち】はここで超える! けりをつけて、未来に進む! 最大の壁だったあんたを倒してな!」
俺たち。クラウド、バレット、ティファ、エアリス、レッド、ヴィンセント、ユフィ、ケット・シー、シド。ザックス……
――「なら、超えてみせろ。この一撃を凌いでな」――
クラウドは何か起こったのが理解出来なかった。
互いに究極技を出し合う超速の空間は、圧縮された時間だ。
数瞬の間に、一撃一撃が必殺の威力の攻撃を繰り出す。
これ以上の力だ。圧縮された時が、更に圧縮される。
六、七、八、九、十(とお)。残り五撃の力を一気に炸裂させる。
正宗の軌道が五つに見えた。
突進しながら、五対の腕を持ったセフィロスが迫っていた。
実体は一対だ。
見切れない。だが、セフィロスはひとつだ。
クラウドも残る力を捻りだす。皆の力を。自身の力を。そして祈る。エアリスに。ホーリーの光に。これからの未来に。
クラウドの全身が光に覆われた。アポカリプスも全体が光をまとい、巨大な剣の形を成している。
剣からの閃光が嵐が閉ざした空間を真っ白に染め上げた。
セフィロスは光の中に何かを見た。
クラウド。そして……ザックス。
ザックスはクラウドの背後で何かを言いたい気に、微笑して佇んでいる……。
セフィロスの五つの斬撃が呑まれる。振り下ろされた巨大な光の剣は全てを飲み込み、全てを白の世界の中に包んだ。
嵐が引いた。
エアリスリバース 87話「さようなら」
クラウドたちを覆っていた嵐の結界は晴れた。
曇天は雲が引き、光が差した。
結界の外側にいた仲間たちはすぐにクラウドたちの下に駆けつけた。先の光は決着の一撃だ。
円の中心だった場所にはクラウドとセフィロスがいた。クラウドは片膝をつきながら、セフィロスは仰向けに倒れていた。
光がまぶしかった。
何時の頃からか、こんなにも晴れがましい空を素直に感動出来なくなってきたのは。
最後の一撃。辛うじて当てた一撃で即死は免れたが、既に再起不能な領域だ。
光がまぶしかった。セフィロスは全身からエメラルドグリーンの光の粒を発している。
声が聞こえた気がした。クラウドの一撃、光が爆ぜた瞬間。ザックスの声が。それは声ではなく、意思のようなものだったのかもしれない。
「クラウド」
エアリスが来た。
わかる。ザックスの言っていた「可愛い子」だ。
奴はどうしても俺を止めたかったらしい。
「クク」
声を出すのも難しいが、笑みはこぼれた。奇妙なめぐり合わせだ。
「セフィロス」
クラウドが立ち上がる。駆けつけたティファは構える。クラウドは構えていない。
「限界だ……すぐに消える。その前に……殺したいか?」
ティファはファイティングポーズをとったまま、返事に窮した。
「ククク」
笑みを不快に思ったのか、拳に力がこもった。
続いた言葉はあまりに意外だった。
「すまなかった」
ティファは愕然とした。
今……何を言った?
「み、身勝手よ!」
故郷を焼き、自分たちの運命を狂わせた男。
その後、凶行の理由は何処となく理解は出来たが、納得はしたくなかった。
だって、この男は故郷を焼いたのだから! 憎まないといけないのだから。
それなのに今さら。今さら謝るなんて。
「すまない」
二回目は過去の謝罪ではない。己の身勝手へのものだ。
ファイティングポーズは解かれていた。その瞳から涙が落ちる。
「セフィロス」
エアリスが歩み寄った。
セフィロスの体には蛍のような灯がともり始める。
「貴方は……戦って消える。それで良かったの……?」
今、ティファに謝罪した彼は。「暴走」以前。
否、「人間」セフィロス。
「良いと……言えない。俺は殺しすぎた」
ティファが割って入った。
「違う。悔しくはないの?」
ティファの言葉は「人間」セフィロスを認めた上だった。
「……悔しいさ」
もし、自分が「作られた事実」を知り得なかったら。
もし、ソルジャーとして生を受けなかったら。
仮定の話は意味を持たない。
ソルジャーにしろ、そうでないにしろ、その時その場にいて、判断を下してきたのは自分。
どれだけ言い訳をしても責任転嫁だ。
でも、少しは願ってしまう。
もし、争いの種になる理由がなかったら。別の運命、別の出会いが待っていたのだろうか。
それを体現した男がいる。
セフィロス=クローン。道具として生まれて、人に至った者。ソードだ。
「セフィロス」
ソードの口調は穏やかながらも力がある。
「お前がいなかったら、私はいなかった。巡り会わせに対して、どう答えれば皆の心を満たすことが出来るのかわからない。だが、お前がいたから、私がいる。その点は感謝をしている」
ソードは毅然としていた。
「セフィロス」
クラウドが歩み寄った。
かつてセフィロスや、その代弁者としてソードからも言われたことのない言葉が浮かんだ。
立ちはだかる敵がいれば倒せと。殺せと。
それをしなくては大切な者を失うことになる、と。
今果たした。その結果がここにある。
事実は事実としてのみ、そこにある。
限られた時と力で足掻きながら選んだ結果が良かったか、良くなかったか。それはわからない。
ただ現実がある。それを受け止めて生きていかなくてはならない。
「止めてやったぞ」
クラウドとザックスの像が重なった気がした。エアリスも、確かめるように目を瞬かせる。
「ああ」
「逝くのか」
「ああ……」
もう生き返ることはないだろう。この戦いで自分は満足をした。
選択肢の中から掴んだひとつが正解とは限らない。初めから良い選択はなかったかもしれない。
その上で選んだ。自分を燃やし尽くして倒れた。
望みがないわけではない。なかったわけでもない。
もう眠ってもいいと思ったのだ。
セフィロスからは緑色の灯が立ち上っている。
光は少し立ち上っては消え、立ち上っては消える。
灯の粒はどんどんと多くなり、次第に全身を覆いつくした。
雲間から光が差した。
セフィロスは光の粒となり、雲散霧消した。
粒は次第になくなっていき、最後のひとつは天に消えた。
差し込んだ光が閉じた。
先まで彼がいた場所には何も残らなかった。
そして「何か」が残った。
「これで……良かったのかな?」
ティファは「何か」に尋ねる。
「……」
クラウドは無言だ。
二元論で決めることは出来ない。
その答えはないかもしれない。
けれど考える。考えて進む。その先に待っているかもしれない。
「さようなら……セフィロス」
クラウドはゆっくりと振り返った。
仲間たちも歩き出す。
クラウドはエアリスを庇いながら進み、ティファはクラウドを庇いながら進む。
バレットが軽く冷やかし、レッドが笑った。
一向に平和が戻った。
――ふわ
エメラルド色の淡い光の粒がひとつ、舞っていた。
一行はハイウィンドに戻ることにした。
途中、クラウドたちは体を庇いながら、歩いたり止まったりを繰り返していた。
「あっ」
エアリスが躓いた。
クラウドは手を差し伸べた。
エアリスは受ける。
右手を出そうとして引っ込め、左手で受けようとした。
手を握り、立ち上がった。
「大丈夫か」
「うん、大丈夫」
「怪我しているのか」
言いながらクラウドはエアリスの右手を掴み、優しく引き寄せた。
その手の甲からふわりとひとつ、エメラルド色の光の粒が上った。
目を見張った。
「エアリス……!」
エアリスリバース 88話(最終話)「ありがとう」
「バレちゃいましたか」
あっけらかんとエアリスは言い放った。
「そんな……」
馬鹿な。
月での戦いを終えた。星に戻って隕石のジェノバたちと戦った。セフィロスも倒した。
ようやく嵐が去ったかと思った矢先だった。
エアリスの手から魔鉱の灯が上っている。
この灯はセフィロスが消えた時と同じだ。
「エアリス……どうして!」
ティファが叫んだ。
戻ってきたと思ったのに何故。
「ごめんね……わたし、何となくだけどわかってた」
新型ジェノバは「適合した者」に力を与える。
適合しなかったシーザーたちもいずれは消える。そして、エアリスも……。
「私が生き返ることが出来たのは新型ジェノバのおかげなの。体に合えばずっと大丈夫だけど、合わなかったから……」
だから逝く。消えてしまう。
「エアリス〜……」
レッドがうな垂れている。
「どうしてだよッ。チクショウ」
バレットは地面を踏んだ。
エアリスは続ける。
「ごめん。ちょっと前からわかってたけど、言いたくなかったの。皆の悲しそうな顔を見たくなかったから」
「言ってくれればよかったのにさ! 言ってくれれば……!」
叫ぶユフィをヴィンセントが制した。
「言ってくれれば……もう少し……」
「……くそッ」
シドは叫ばずに押し殺した。手袋が震えている。
「何時まで持つか、わからなかったの。でも力になれてほっとしてる」
エアリスの意思が皆を悲しませずに間際までということならば、話さなかったことをこれ以上責めるのは無粋。
それにそんなことをしているうちに本当に消えてしまう。
何と声をかけるべきか。何と言えばいいか。
「またボディガードを依頼してくれ」
「……!」
エアリスは合点がいったようだった。
「報酬は」
「デート一回?」
「だから……」
逝くな。そう言いたい。
抑えようとした。
「頼む。逝かないでくれ。俺はまだ何も出来ていない」
「出来たじゃありませんか」
エアリスは一呼吸を置いた。
「星を守った。皆を守った。セフィロスも救った」
「……」
「いい点数をとれたから、先生が花丸をあげます」
「百点満点?」
「百点じゃないよ」
体に灯がちらついているのにエアリスは笑顔だ。
「女の子をデートに誘う時に泣きそうな顔をするの?」
かつてザックスがクラウドとセフィロスに言おうとしていた言葉。ザックスさんの口説きのテクニック。
――「女の子をデートに誘う時は笑顔ではっきりと言うんだ」
「デートしよう」
今度は笑顔で言った。
「う〜ん。九十点かな。おまけで百点にしてあげます」
「……ありがとう」
「行くのは今後会った時にします」
「……何年後になるんだ」
「何年でも待ってる」
今が今でなかったら熱烈な口説き文句に聞こえないこともない。
「ずっと待ってる。クラウドを。皆を。クラウドはその時が来るまでに笑顔でデートに誘えるようになってて。宿題です」
クラウドの笑顔は既に翳っている。
灯はエアリスの全身に移っていた。もう、あと少し。
「クラウド」
「……ああ」
「耳貸して」
言われるままにクラウドは左耳を向けた。
エアリスは両手で丸を作り、何かを呟く。
驚いたような顔をしてティファの方を向いたと思ったら、エアリスに肩を引き寄せられて、頬にキスをされた。
「……!」
「うふふ」
「な!」
驚き顔のクラウドと笑顔のエアリスと呆気にとられたティファがいた。
「ちゃんとしなさい! 宿題も忘れずにね!」
エアリスはティファの方に向き直ると悪戯っぽく笑んだ。
全身が輝く。灯がエアリスを覆おうとする。
「それじゃ、わたし行くね。皆大好きだよ。バイバイ!」
エアリスは光の粒となった。灯はふわふわと風に吹かれるように上りながら、霧消していく。
エアリスは言った。
――「ティファね。クラウドのことが本当に好きだよ。人をデートに誘う前に自分のことを好きな人のことぐらいちゃんと知っておきなさい! マイナス十点!」
九十点と言われた理由だった。
灯のひとつが消えずに空に上っていく。それは彼女が残した最後の奇跡だった。
雲間から金色の光が指した。
光のみではない。雲も。空も陽光のごとき金色に染まっていた。
光は星全体を包んでいる。
その時、コスモキャニオンのヒュージマテリアが消えた。
マテリアだったものは光となって、空に立ち上り、光の雨となって地上に降り注ぐ。
セトラとしての最後の力だった。光の雨はクラウドたちの傷を癒していく。
クラウドたちのみではない。ジェノバたちとの戦いで傷ついた戦士たちも癒していった。
奇跡は星規模で起きていた。
ウータイの外れにいたゴトーはふさがって行く傷口を見ていた。
「むう。これはどうなっているのだ」
「あれ? ありゃりゃ?」
コンドルフォートにいたラグナはもろ手を見つめて、間抜けな声を出している。
「おい、ルード。これはどういうことだぞっと」
「……わからん」
ジュノンにいたレノたちは首をかしげた。
星の各地で戦士たちはジェノバと戦っていた。
その中の誰か、あるいは全員が言った。
「奇跡」と。
数分だっただろうか。
光は止んだ。
エアリスのいた場所には白マテリアがあった。
クラウドはそれを拾い上げ、握る。
「……行こう」
ティファが尋ねる。
「……何処に?」
「まだジェノバが残っている。全部を終わらせるのはそれからだ」
クラウドはそう言って、ハイウィンドへと戻っていった。
――1年後。
クラウドたちは暫くぶりに会うことになった。
セフィロスとエアリスが再びいなくなってから一年。彼らはゴンガガの外れにいた。
1年前に死闘のあった場所には石碑があり、「英雄ここに眠る」と彫られている。
石碑からもう少し歩いた場所にも石碑がある。その石には「彼らが親愛なるエアリス」とあった。
クラウドたちは一年前にこの場所で散会し、ジェノバたちから星を守った。その後暫くは顔を合わせることは多かったが、段々と間隔は空いてきて、半年以上は会っていなかった。
そして1年後の今。一年前に忘らるる都で会った時のように彼らは揃っていた。
彼らが来た時には既にどちらの石碑にも花が置かれており、ソードがいた。
ソードは髪を短髪に切りそろえている。服装も黒いコートではなく、別のうごき易そうな服装だ。
彼はセフィロスではなく、完全に「ソード」になっていた。
「二年前の戦いがあった」
オリジナルセフィロスと大空洞で戦った時のことだ。
「彼らは既に一度死んだ筈だった。だが……」
運命は巡り、その一年後。
「一年前に彼らは蘇った。瞬きほどの時間だったかもしれないが、彼らはいた」
自分のオリジナルであるセフィロス。
自分に「貴方は貴方」と言ってくれたエアリス。
「その時間で私が感じた思いをどうあらわしていいか、語りつくせないのだが……私が一番告げたい言葉を贈ろうと思う」
クラウドが石碑の前に跪くソードに尋ねた。
「何て言うんだ?」
「ありがとう、と」
エアリスリバース ジェノバの災厄 THE END
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