脅迫者の手

1996年8月30日発行
著者  広瀬隆
発行者 森元順司
発行所 株式会社光文社
印刷所 凸版印刷株式会社
製本所 凸版印刷株式会社

 月刊宝石に2月から6ヶ月間に渡って連載されていた、広瀬隆のノンフィクション小説。しかし、侮ってはいけない。この小説には広瀬本人のものと思える含蓄ある台詞が多く含まれている。特に第二章。

 P83「私はペンタゴンで、この原理をたびたび警告した。今月も警告した。警告は、あらかじめ、繰り返して発表しなければならないものである。なぜなら、警告は、相手の機先を制するからである。こうして警告は、最終的に予想が外れなければならない。警告が的中するようでは、われわれの努力は未熟である。絶えず、反語として、危険な軍人と工作部隊の機先を制しなければならない」ウィリアム・スタンレー
 P98「われわれドイツの諺に、”喧嘩を売りたければ、相手に金を貸せ”という名文句がある。貸し手は催促する。ところが、借り手は返せない。そうなると何が起こるか・・・・・・喧嘩だ。日本人がやっていることは、アメリカ人に喧嘩を売っているようなものだ」ゲオルク・フォン・ミューラー

 警告のくだりは、今まで広瀬隆が行ってきた数々の警告と重ね合わせて考えずにはいられない。この文面どおりに読みとると、広瀬隆の警告の予想はすべて外れてくれなければならないことになってしまう。実際本人は「わたしの警告が効を奏して最悪の事態は全て免れてしまった。良かった」という状況を望んでいるのに違いない。困ったことに、広瀬隆の警告のいくつかは当たり、世相はより悪い方向に進んで行くのである。広瀬隆の警告を受けて改善活動する人間の数はいまだに少ないこの国。しかし、問題は次から次へと噴出し、正義感のある人たちの気持ちを逆撫ではしても癒されることは無いのが現実なのでは。

 P106 ディクソン氏に対して「どうでしょう。彼には、さきほどの様子では、もうひと仕事頼んだほうが、口が堅くなるだろうと思うのです。今のままでは、彼とわれわれが、見知らぬ者同士、互いに疑いが残ってよくありません。このことは、私の経験から申し上げています」ゲオルク・フォン・ミューラー
「確かに、人を信頼した者だけが、人から信頼を得られます。よく見抜かれましたな」オブライエン神父

 P138 前妻(シャルロッテ)と離婚するに際して言われたこと「あなたは社会問題を考えているようだが、社会問題を起こしているのは、社会そのものだ、あなたもその一人だ、というわけだ。その問題を起こしている渦中にいると、自分の愚かさに気づかない。離れるとすぐ分かるそうだ。確かにシャルロッテの言うことには一理ある。これが社会かと、あきれるようなことばかりだが、みな、それに慣れて、問題に気づかないそうだ。痛い言葉だ」ゲオルク・フォン・ミューラー

 P198 家を持たない人間のためにアジアでプランテーションの事業をすることについて「そういう貧困の問題は、政治的に解決するべきだと言っていた。ビルは国務省だから、むしろ仕事の上で責任を感じていたらしい。ずいぶん、二人と喧嘩したよ。僕も、アメリカ人と日本人の欠点を喋りまくって、本当に怒った。人間が死のうとしているんだ。でも、最後には二人が、待てないことを分かってくれた。命は、待ってくれないんだ。動物も、植物も、それに人間もだ」デヴィッド・リー(李東雲)

 内容は7章構成になっており、当時の焦点であったアメリカ大統領選挙のゆくえがアトランタオリンピック問題と絡めて描かれている。が、それらの事象の最中に書かれていたこともあって、中途半端な感があり、今ひとつ何が言いたいのか主題が見えてこない気がする。広瀬隆小説の定石であるとはわかっていても、またもやショッキングな(強引な)結末に読者は驚かされるであろう。
 それでは実話面と思われる見地から私なりに読み所を要約してみる。

第一章 長谷寺にて
何故この時期に韓国2人の元大統領が逮捕されたのか?の問いかけと、近年の韓国政界に関する説明

第二章 ビルの不幸
ジョージ・ソロスの来日を絡め、アメリカと日本の各国内経済問題の本質論

第三章 教会堂からの脱出
オリンピックの開かれるジョージア州アトランタの背景 コカコーラ、KKK、医薬品

第四章 アトランタへ
数十年前から代わり映えしない日本の報道に対する苦言

第五章 スタジアムの興奮
米三大ネットワークの買収とIOCの関係、英狂牛病

第六章 決行

第七章 再び長谷寺にて
日本証券市場の今後と金価格が果たしてこの後どう推移していくのか

 多くの謎(実話なのか空想なのか)
広瀬隆のノンフィクションはどこまで実話でどこからが空想なのか時々わからなくなるのは私だけではないでしょう。それを差し引いても読む価値があるから我々は広瀬隆の著作を読んでいるわけなのですが・・・賢い読者にならないと、広瀬隆の罠にはまってしまうかもしれません。(罠=警告であったりするわけです)(本人に罠という意識があるのか無いのかという点は意見が分かれるところだと思います)ここではそんな疑問をまとめてみました。
第五章P196 読者投書欄の売買コーナーで、ウォール街の集団相場操作が行われている(いた?)という話
第六章 磁場でコンピューターのメモリーを消去してしまう装置は本当に開発されているのかどうか
この装置を開発しているとされる、3人の博士は実在の人物か
全章 金価格が上昇するという予測は本当か

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