奪われし未来
1997年9月30日発行
著者 シーア・コルボーン
ダイアン・ダマノスキ
ジョン・ピーターソン・マイヤーズ
訳者 長尾 力
発行人 速水浩二
発行所 株式会社 翔泳社
印刷・製本 大日本印刷株式会社
序文をゴア副大統領が寄稿しているが、企業の下請けに成り下がった日本国会政治家にこんな事できるか。日本では考えられない事。アメリカの成熟した民主主義というものの、良き一面なのであろう。しかしゴアの結論はぼやけている。彼がこの本から何を学び実践しているのかだが、研究チームの結成程度でこの事態に対処できるのか。もう研究から実践に移る時期ではないのか? 「今にして思えば遅きに失した」と、オゾン対策などについて本人が語っているだけに余計に腹が立つ(まあ、仕方ないのか)。
以下に個人的に各章の概略を述べる。
序 米国副大統領アル・ゴアの寄稿
レイチェル・カーソン著「沈黙の春」と同等の問題提起と評すとともに、遅すぎた問題提起になんら明解な結論を出し得ずにいる
はじめに
広瀬隆風読み物(警告の書)であることの断り書き
本文1ページ目(P13)において早くも広瀬隆節炸裂
「ハクトウワシの奇妙な行動が気になっていた」この広瀬隆常套句”奇妙”使用は反則
第一章 前兆
1950年代から現れてきた世界各地の生殖異常事件を列挙
第二章 有毒の遺産
シーア・コルボーン女博士が五大湖周辺の異常現象に関する論文を検証した結果、有毒の遺産はホルモン作用を攪乱していたことがわかる
第三章 化学の使者
フレデリック・ヴォン・サール教授の行った子宮仲間効果研究で、テストステロン(女性ホルモン)とエストロゲン(男性ホルモン)が胎児の性発達に及ぼす作用と効果などがわかった。人間の場合、染色体はXYでもテストロゲンが作用しなかったために外見など完璧に女性化した男性も存在する
第四章 ホルモン異常
医学史上の二大惨事「サリドマイド」「DES Diethyl Styl Bestrol」の人体投与の結果、人(特に胎児)がホルモン攪乱物質に弱いことがわかった
第五章 子孫を絶やす五〇の方法
化学物質の生体内機構の説明
ジョン・マクラクラン曰く 天然ホルモンとホルモン作用攪乱物質の構造は違うのにも関わらず、タンパク質からなるレセプターはどちらも抱擁してしまう。また、擬似エストロゲン含有植物もあり古来から重用されてきたが、合成物質との違いは体内蓄積しないこと。
章題の作者アール・グレイ曰く ホルモン作用攪乱物質に対するヒトと動物の反応はおおむね同じ。動物実験の結果を検討する必要がある
第六章 地の果てまで
ホルモン作用攪乱物質として確認されている51種類の合成化学物質の1つ、1929年に導入されたPCBを例に環境中を循環し生体内に蓄積していく様子を解説。人里離れた北極にまで分布している事実
第七章 シングルヒット
リチャード・ピーターソンのダイオキシンに関する作用機序研究紹介 ダイオキシンはエストロゲンレセプターとは結びつかない。アリール炭化水素のような孤児レセプターとは結合するが、その影響は未だ謎のまま。暴露ラットは生殖力検査をパスしたが、ヒトの精子数は病理すれすれの数のため、人類の前途はひどく多難
第八章 ここにも、そこにも、いたるところに
アナ・ソトー博士とカルロス・ソンエンシェイン内科医の研究等から、プラスチック中に内分泌系攪乱物質が含まれていることがわかった。しかし人類はこれら合成化学物質について驚くほど無知である。内分泌系攪乱物質をはじめ残留性化学物質は人体内を自由に動き回っており、その濃度は合成エストロゲン濃度の数千倍にも及んでいる
第九章 死の年代記
ベルーガ、フロリダヒョウ、アリゲーター、カメ、カエル、サケ、ミユビシギ、ハクトウワシ、シギ、チドリ、セグロカモメ、ホッキョクグマ、イルカ、アザラシ、等の野生生物絶滅と内分泌系攪乱物質との関係についてわかっていること
第一〇章 運命の転機
乳ガン、精巣ガン、前立腺ガン、不妊症、学習障害、は、動物実験の場合と同じように人間に対しても関連して引き起こされている。合成化学物質との厳密な因果関係をとらえることは、現実無理だとしても、次々と立証はされていることから、「人類の健康を守る立場にある方々には、限られた情報を頼りに具体的な行動を起こす義務があるはずだ」との警告
第十一章 がんだけでなく
1950年にヴァーラス・フランク・リンデマンとハワード・バーリントンは、合成化学物質にはホルモン作用を攪乱する事をはじめて警告しているが、その後30年間この警告は見落とされてきた。
レイチェル・カーソンも「沈黙の春」において生殖異常を取り上げていたが、ページが進むに従い、それに対する考察はなりを潜め、ガンに対する警告中心になっていった。
行政側の対応も、次のようなガンに偏重した対応であった。「発ガン性を安全の目安にすれば、ヒトはもちろん魚や野生動物を、がん以外のあらゆる危険からも守ることができる」
第十二章 わが身を守るために
前章までの言説を踏まえた上で、内分泌系攪乱物質からの防御策を提示
第十三章 不透明な未来
ホルモン作用攪乱物質が、脳にも影響を与え、生殖能力だけではなく学習能力の低下も招いているかも知れないと、人類への予測される副作用を列挙
第十四章 無視界飛行
ここ50年にも及ぶ各種産業の発達は、合成化学物質に支えられてきた。開発された物質はタイムラグを経て予期せぬ欠点もでてくる。未来を変えたいのなら問題定義を全く一から立ち上げ直す必要がある
読後感想文 今日までに提示された研究結果、状況証拠から、合成化学物質が人間を含む動植物に対して内分泌系攪乱物質として作用していることは間違いないだろう。しかし、それら大半の物質を社会から除去しようとする試みはほとんど行われておらず、すべての合成化学物質を駆逐することは困難な作業であろうし、実際不可能だ。
1999年6月京都府綾部市定例議会にて川端和之議員36は、市の買い上げ用地の用途変更に対してこう忠告した。「市は、土地を買収した時と同程度の熱意を持って、地域住民に対して用途変更の経緯と事後説明を行って欲しいと思います」と。私は思う、「合成化学物質をこの地球世界にばらまいた社会システムに関わりを持った人間達は、ばらまいた時と同程度以上の熱意を持って、これらの物質を完全に回収し元通りにして欲しい」と。
しかし、私や地球社会生活者は、今後も合成化学物質による被爆は避けられない。私の精子数も減少していくだろうし、子孫が残せるのかも疑問だ。とりあえず、母親の胎内でペニスの形成異常は無かったと思うが。前立腺肥大は父が患い手術したが、私もその手の病に疾患するおそれも多い。化学産業に引導を渡す事ができなければ、状況は改善される余地はない。引導の渡し役は誰?
ところで、この本を発売からほぼ2年たった1999年7月26日に購入したがまだ第1刷だった。売れていなさそう・・・早速知人達と回し読みする事にした。
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