隣にいることが当たり前で。
隣に気配を感じると、振り返ってしまう。
そう。例え、幻聴と分かっていても。
今、あいつは・・・ここにいない。
「ユージ・・・」
空気のような存在。
必要ではないのだが、必要とするもの。
手が届く所にありながら、決して触れられないもの。
そんな、存在だったような気がする。
若干冷える空気に、自分の心ももぎ取られて行く様な感覚。
立て続けに聞こえる無線は、全てマイナスの考えに導いて行く。
『そんな筈はない。あり得ない』
思考が麻痺する。
「ユージ・・・」
ふと呟く相棒の名前。
あまりにも重く、自分にのしかかる。
焦りと、怒りと、怯えと、絶望。
それに輪をかける様に、道が混んでいた。
俺は車を飛び降り、バイクを調達して、スロットルを全開にした。
潮風が、肌に突き刺さる。
間に合う。そう。絶対に間に合う。
まるで、呪文の様に呟く。
いつものように、
「遅いよ、タカ」
と、ちょっと子供っぽい瞳で見つめ返してくる、ユージの顔が浮かぶ。
決して、過去(うしろ)を見る事のない、真っ直ぐな瞳で、俺を見ている。
「タカ・・・・」
微かに聞こえた声。幻聴かと思った。
その声の方に、バイクを置き去り、走る。
聞こえるわけなかった。あの時点で。
それ位、距離は離れていた筈。
けれど。確かに、俺には聞こえたんだ。
俺の見たユージは、赤の中に横たわっていた。
「ユージ!!」
絶叫に近い俺の声。ユージとの距離が、全然縮まらないような感覚。
周りから見れば、ほんの一瞬だっただろう。
血だまりの中に、躊躇せずに膝を折る。
と、微かに、ユージは微笑んだ・・・ような気がした。
ぽんぽこさんの所の「幻覚」の、タカサイド。
全快祈願に捧げますー。