「桜、まだですねぇ」
「桜?」
俺は、右京さんの視線の先を見た。
つか、どの木も同じ様に見える。
「あの木ですよ」
ゆるやかに上げられた手。
その指先で指された木へと近寄ってみると、硬く閉じられたつぼみがようやく確認出来た。
「よく見えますね、その視力で」
「桜の木の幹は特徴的ですよ」
右京さんは俺の後ろから、桜の木へと近づき、俺を追い越して、桜の幹へと触れる。
「縞模様があるんですよ。ほら、こんな感じで」
指先が、縞模様をなぞる。
「あ、本当だ」
いつもながら、その観察眼には感服する。
「まだ、もう少し先ですね」
見上げているその顔は、優しさに溢れている。
多分、たまきさん、美和子、それと、俺しかしらない表情。
「咲いたら、皆で花見、しません?」
「いいですね。ですが、場所取りは出来ませんよ?」
「花見なんて、一本あればいいんです。そんな多くは必要ないですよ。それなら、俺、穴場知ってますから」
自信を持って、言った言葉。
目の前の男は、そうですか、と言って、笑った。
うめーはさいーたか、さくーらはまだかいな。
とりあえず、気象庁の開花予報は激しく外れ。
さすが、おてんとさん、気まぐれモード驀進。