「では、帰りますっ」
敬礼して出た立花は、足をふらりと渋谷の繁華街に向けた。
「そういや、洋服買ってないなぁ、しばらく・・・」
給料日過ぎた事だし、と立花は紳士服売り場へと向かった。
広い店内に、色んなブランドの店が林立している。
そのほとんどが、年末ということで、セールをしていた。
こういう時でないと、なかなか手が出せない。
個人的に、クレジットカードは持ちたくなかったので、いつもにこにこ現金払いな生活をしていた立花にとって、数万の買い物は二の足を踏む。
「スーツ、着ないしなぁ・・・」
隣に鳩村がいつもいる状態で、スーツを着込んで歩いている状態を想像して、凹む。
「・・・だめだ、めちゃくちゃ見劣る・・・」
「何が見劣る?」
その声に、弾かれた様に振り返った立花の前に、鷹山がいた。
「鷹山さん・・・」
いつものダークスーツに、ダークグレーのコート。
ほとんど鳩村と変わらない出で立ちに、ため息をつく。
その姿に、鷹山が今度は驚いた。
「俺、何かやった?」
「してません・・・。自分が凹んだだけです・・・」
ここまで自分が貧相に思えたのは久々だ。前回は、大下と組んだ時だった気がする。
「あー・・・、何で親父に似なかったのかなぁ・・・」
「・・・? 母親に似てても別にいいじゃねぇか。俺は、母親似だぞ?」
「そうなんですか?」
「・・・何でそんなに驚くかね。顔立ちは、な。さすがに体格までは似ないぞ」
「・・・そんな女の人がいたら、こっちがびっくりしますよ」
鷹山が、店のショーウィンドウを見た。
「スーツ、欲しいのか?」
「いや、別にスーツにこだわってる訳じゃないんだけど、良い物が欲しいかなーって」
「立花は体系的にユージに似てるし。こんなごっつい感じじゃなくて、もう少しカジュアルな感じなのがいいと思うぜ? ここは、俺か鳩村向け」
そう言うと、鷹山は別の店へと案内した。
「ここなんか、いいんじゃないか」
さっきの店より、洋服の感じも、店の造りも、少しイメージ的に明るい所だった。
「まあ、仕事で着るとしたら、あまり派手なのは出来ないだろうから・・・」
慣れた手つきで、ジャケットの棚を漁る。
立花は、その後ろで、その手元を覗き込んでいた。
「そういや、鷹山さん」
「ん?」
「今日は、お仕事は?」
「ああ、オフだよ。俺もユージも」
「大下さんは今日は?」
「さぁね。ま、適当やってるんじゃない? 捕まえられもしない女追っかけたり」
「ナンパですか・・・」
「多分な。お、これいいんじゃないか?」
鷹山は、一つのジャケットを引っ張り出すと、ハンガーを外し、立花に羽織らせた。
ライトグレーのシングル。
見た目より、重さはない。
「腕を回してみて、違和感がないかどうか確認する。じゃないと、アクションの時に出遅れるからな」
「さっすが、鷹山さん。うん、大丈夫そうだよ」
「何着も駄目にしたからなぁ・・・」
その言葉に、立花の動きが止まる。
振り返ると、その服を脱いで、ハンガーへかけ、棚へと戻した。
口元には、引きつった笑いが張り付いていた。
「あははは・・・・、それ、忘れてた・・・・」
自分の今の仕事を考えると・・・・、やっぱり一着あればいいか、と。
「そんなに、凄いのか、西部署」
「はは・・・は・・・、銃弾使わない月があったら、教えて欲しいですよ・・・」
「あちゃ・・・」
「まだそんなに給料よくないから、せめて巡査部長になってから、背広にします・・・。そだ、鷹山さん、暇なら、これから裏原付き合って下さい」
「裏原ぁ?」
「ボディガードですよ、ボディガード」
「必要ないだろ、大門軍団の一人が」
「一人だと、ナンパされるんですよ・・・。うざいんすよ・・・」
「あはは、そういうことか。わかったよ」
その後、デートに間違えられたり、大下とばったり会ったりするのは、また別のお話。
今日は誰かさんが背広で演説応援に引っ張り出されていったんでw