項目名 | 仕事人狩り! |
読み | しごとにんがり |
分類 | 必殺シリーズ |
作者 | |
公的データ | 脚本:寺田敏雄 監督:石原興 小五郎(東山紀之)の前に、かつての剣の師匠・雨宮騏一郎(勝野洋)が現われる。今では江戸城に仕える身となった雨宮が、お忍びで小五郎を訪ねたのにはわけがあった。老中・加納実守(杉本哲太)の一派が、大老・松坂忠宗(神山繁)暗殺を企てていることを知った雨宮は、松坂の命により秘密裏に加納を粛清するために仕事人を雇いたいと考え、奉行所に勤める小五郎に仕事人に関する情報を聞きに来たのだった。だが、小五郎は知らないふりをする。気苦労の絶えない任に臨む夫を前に、妻のきよ(若村麻由美)も心配そうな様子だ。 その頃、江戸では鬼の面を被った謎の人物による殺しが相次いで発生する。殺しの現場には、なんと「仕事人参上」の筆書きが残されていた。仕事人の噂に、街は騒然となる。小五郎や中村主水(藤田まこと)、涼次(松岡昌宏)や匳(田中聖)、お菊(和久井映見)たちも、ニセ仕事人という商売敵の出現に浮き足立つ。 一方、雨宮は鬼面の仕事人の居場所を突き止め、仕事を依頼した。だが、その直後、暗殺計画を探っていることが加納の一派にばれてしまい、加納に大老暗殺の濡れ衣を着せようとした罪で切腹を申し渡される。介錯人として呼ばれた小五郎は、辛い気持ちを押し殺して太刀を振り下ろしたのだった。 自分の命が仕事人に狙われていると知った加納は、仕事人狩りを始める。仕事人を密告した者には賞金を出すことを決め、街中に札を立てたのだ。無実の人々が次々と引っ立てられ、加納の家臣・杉浦又兵衛(宮川一朗太)によって厳しい拷問を加えられていくのを見て、小五郎は怒りを抑えられない。 きよからの頼みを受けた小五郎は、加納一派を仕事にかけようとする。中村主水も涼次も乗り気ではないが、小五郎の熱意に負けて、仕事を引き受けることを決めた。まず、お菊が匳をおとりに加納邸に潜入した。匳は加納の家臣・日村早雲(鷲生功)を仕留め、中村主水も杉浦の腹に脇差を突き立てた。地下牢の鍵を奪ったお菊は次々と捕らわれた人々を解放していく。さらに、涼次が加納を仕事にかけようとした矢先、加納邸に鬼面のニセ仕事人たちが押し入ってきた!一方、小五郎は加納の部下の剣豪・伊能玄十郎(國本鍾建)と対決。苦闘の末、なんとか伊能を倒した。大混乱の中、お菊を逃がそうとした涼次は加納によって捕らえられてしまう! 果たして涼次の運命は! |
感想文等 | が、必殺シリーズとして継承された「仕置人」ではすでにして正義の味方ぶりが如実に表れていたかと思います。 のちのち特に初期の秀が「青臭いことを」と主水に張り倒されたりしましたが、実に一番「正義にからまれた」男として存在していたのが、中村主水その人だったと思います。仕置人第一話での言動、なかんずく仕置人となる決意をする動機が主水の中にある正義心だったことは間違いないのではないでしょうか。 この第一話ラストで「俺たちゃワルよ、ワルで無頼よ」と言いながら、「俺たちでなきゃできない仕事なんだ」と照れたように(誇ってしまうように)言うことが、主水の「青臭さ」だったと思えます。 そして、以降、たぶん主水はそれをずっと引きずってしまった。解散したり、再開したり、それを繰り返すたびに「おれたちゃクズだ」と言い聞かせる。人を殺す自分が正義の味方のはずなどない。そんな正義などあり得ない。 主水の自己欺瞞を最初につっついた糸井貢は早々に自分だけいなくなってしまった。そのあとは幸いに、正義だのなんだの小難しいことを考えるやつと組むことはなかった。主水は自分達をクズだクズだクズなんだから人を「殺していいんだ」とブツクサ言いながら仕置をしていられた。 それが、錺の秀という男が出現するに至り、なにがなしの危機感を感じた……だから、「おまえのやってきたことはただのガキの遊びよ」と、主水自身のやってきたことそのものを罵倒し、否定する。秀の言う「熱くなってあとには何も残らない」のは、かつての仕置人だった自分達の「活躍」そのものだったのだから。 それでも、鹿蔵や畷左門といった大人たちが根本にいてくれれば、主水はバランスをとることはできた。しかし、やがて…… だから主水はやがて「ちがう……仕置人だ!」と高らかに名乗るヒーロー性も、「恐ろしい男」であることもやめてしまい、表の顔どころか、裏の顔ですら、仲間達に軽侮される「昼行灯」にすることにしてしまう。 それが「新仕事人」以降の中村主水だったんだと思うようになりました。 なんだかんだいって、順之助が堂々と口にしてしまうまでの主水グループでは、他ならぬ中村主水しか青臭い正義論を持っている仕置人など、いなかったような気もします。主水にそれを突きつけた糸井以外は。そして、順之助が主水を慌てふためかせた。おまえ、それは口にしないでくれよ、考えないようにしてるんだからさ。 あんまりあわてふためいたものだから、「金をもらうのは歯止めなんだ」と口にしてしまった。これによって、「仕置をするのはおまんま喰うため」=「金のため」だったのが、「仕置をするのは正義のため(でもむやみに殺しちゃうのは正義の味方のしてはいけないことだから、金をもらうことで自分は正義の味方ではないと自分に言い聞かせ、行動の足枷にする)」=「金のためそのものではない(正義が先にあり)」と主水自身が実は宣言してしまった。 以降、「金ももらわないで仕置をするのは、“自分は正義の味方なんだから、自分が悪いと判断した奴はどんどん殺していい”と思いあがった外道」という図式が成り立ってしまった。そしてそれと並行して、仕事人たちはよく「俺が頼み人だ」と「金さえ出せば(歯止め形式さえ守れば)、自分が悪いと判断したやつを殺していい」ことにしてしまうようになった。なんのことはない、自分の正義心を引きずり続けた主水の一言から、とうとう本当にそんな十字軍的正義の味方たる仕事人一味が誕生してしまったのではないか。 火種は、仕置人当初からあった。そして、すべては中村主水に内在していた。 だから、あえて言えば「仕置人は正義の味方だ。けれど、自分はワルだと思っていたから、外道にだけはなりたくなかった」、しかし「仕事人は正義の味方だ。自分はワルだと口にしてさえいれば、少額の金を出すことを免罪符に好き勝手に人を殺戮できる外道になれた」。 極端ではありますけれどね。 涙としか手を組まない正義の味方でもいいのです。ただ、口でだけ悪を標榜しながら、実は正義の名のもとに自分の基準で人を殺すのはすでに外道だろうと、それだけが。 長くなりました。(おっぺ) |