項目名 | 水に描かれた館 |
読み | みずにえがかれたやかた |
分類 | ミステリ小説 |
作者 | |
公的データ | |
感想文等 | この作品の犯罪トリックも珍しいものだったが、実は一番記憶が残っているのは「洗濯機」のシーンだ。ふつうなら、関係ないなと済ましてしまうところだが、とにかくセリフや文体のタイミングがいいので、はまりこんでしまうのだ。 この作品で強調された神秘主義的な部分は、「夢館」で1つのピークを迎え、以降ミステリからファンタジーの方向へ拡がりが増していく。「孤児シリーズ」は万人(?)受けかもしれないが、「館」シリーズは読者を相当選びそうである。が、この「水に描かれた館」はとりあえずまだミステリの体裁を保っており、「あやつり」タイプのミステリとしてはかなり大胆なものを展開している。 アガサ・クリスティー「カーテン」の犯人など、「あやつり」の犯人はかなりの知能犯が多い。高木彬光「呪縛の家」、都筑道夫「キリオン・スレイの敗北と逆襲」、いずれも名探偵は“真”犯人に辿りつきながら、具体的に“検挙”することはかなわない。結局、「カーテン」のポアロのように、悲劇的な最期を遂げる場合も出てくる。 しかし、「水に描かれた館」の犯人は、「あやつり型」としては型破りに、自ら積極的に「犯罪」を実施している。通常の「あやつり型」とは正反対と言っていいほどである。動機、行為の実験性、愉快犯的な在り方は共通しているが、ただ心理学的手法を用いて犯行を操っているのでなく、「催眠」とした実質的な「手を染める」ところまでやっているのだ。 現在では、京極夏彦の作品等で、こうした大胆不敵な「あやつり」型犯人も出現しているが、当時としては途方のないものだったのではないだろうか。 この縦軸と、転生輪廻の愛という横軸が絡んで、ミステリー・ロマンと謳うにふさわしい作品となっている。そこから、ヒロインのダブルキャスト、孤児シリーズとの融合と、ダイナミックに炸裂した「夢館」につながっていく。(おっぺ) |