語る「万華鏡」

(「星降り山荘の殺人」に書き足す)

星降り山荘の殺人(ほしふりさんそうのさつじん)

項目名星降り山荘の殺人
読みほしふりさんそうのさつじん
分類ミステリ小説

作者
  • 倉地淳(おっぺ)
  • 公的データ
  • 雪に閉ざされた山荘。そこは当然、交通が遮断され、電気も電話も通じていない世界。集まるのはUFO研究家など一癖も二癖もある人物達。突如、発生する殺人事件。そして、「スターウォッチャー」星園詩郎の華麗なる推理。あくまでもフェアに、真正面から「本格」に挑んだ本作、読者は犯人を指摘する事が出来るか。
    (ノベルズ版カバー裏の「あらすじ」より)(おっぺ)
  • 感想文等
  • このミステリを読む前には、もしかしたら、都筑道夫物部太郎シリーズ第2作、「最長不倒距離」を読んでおくと、もっと楽しめるかもしれない。「最長不倒距離」の手法を使って、1つの大きなネタをこしらえているのだから。
     この作者の「猫丸先輩」ものは、何ともとぼけた味わいが好きなので、とりあえず楽しんで読んでいる。が、この「星降り山荘の殺人」は猫丸先輩ものではなく、今のところ単発の名探偵ものだ。この魅力的な名探偵が、いつかまた新作で登場することがあるかどうかは判らないが、実におもしろかった。とにかく、こういうネタ・趣向はありがたい。文学的感動とかそういうものを求めて読むばかりではないのだ、読書というものは。
     このネタは一発芸で、それだけに、ギリギリギリギリという感じに弓を引き絞って、一気に解き放っているのがよく判る。具体的には、文庫版で言えば442ページ。章立てごとに、「最長不倒距離」を踏襲して付されてきたリメリック(笑)が、この1つ前からすでにいきなりリメリック形式を破綻させていたのだが、それも弓の引き絞りの最後の一押しで、ついにここにいたって、効果音も華々しく、矢が放たれているわけだ。
     この瞬間、最初の頃のリメリックで、「探偵役」として書かれていたのが、何を隠そうスターウォッチャーの星園ではなくて、こっそりと出されていた麻子のほうだったことが判明する。これは見事なまでにフェアーで、そして、大いなる詐欺師のやり口だ(笑)。ここまでフェアーな詐欺にはなかなかお目にかかれない。これこそミステリのどんでん返しの醍醐味というものである。
     実を言えば、このネタというか趣向というかには、珍しく先に気がつけていて、「勝利!」の凱歌をあげていたのだけれど(笑)、それだからといってつまらなかったということも全くなかった。ネタが割れるとつまらない、割れているとつまらない、というレベルでないからだろうと思う。つまり、読んでいる途中で、「あっ、もしや?」と気づいて、それまで読んできたところを読み返してみながら、「あっ、そうか、なるほど! ここでのこの文章は、ああいう意味だと思っていたがそうではなくて、こういう意味だったのか!」と作者の工夫や趣向にむしろ感心・感嘆できていた。見事な出来のミステリならば、きっとそういうことが可能だということなのだろう。
     ちなみに、たいてい作者の趣向にひっかかるだけの私が、どうしてこの素晴らしい作品についてだけは、珍しく先に読み勝ちできていたかといえば、実は、作者があまりにもフェアだったからという点と、もうひとつ、要するに、真の「探偵役」がとても魅力的に思えていたからだったのだ(笑)。
     「探偵役」の麻子と、そのコンビの作家・あかね。この二人のほうが、「探偵役」と見せかけられた星園よりも(そもそも、最初に読んだ講談社ノベルズ版では、カバー裏のあらすじ紹介がまた引っかけになっていて、いかにも星園こそ「探偵役」という書かれ方になっていたのだ。しかし、これも私はアンフェアだったとは思わない。むしろ、文庫でも変わっていない登場人物表こそ唯一のアンフェアな部分ではなかろうか。)ずっと生き生きして魅力的だった。当たり前といえば当たり前だったのだけど、そういう見かけにはなっていない作品なわけだから、いろいろ考えてしまったわけだ(^^;)。
     で、読んでいる最中、どうも雪の山荘という限定空間だから、容疑者は限られているし、何しろ倉知淳の作品だから、解決の付け方はありきたりのはずはないし、となると、誰が「犯人」だろう。。。と考えたとき、どう考えても、「面白い結末としての犯人にふさわしい」キャラクター、が、せいぜいこの麻子とあかねしかいなかったのだ。
     ところが、どうにもこの二人が魅力的なキャラだったので、心情的に犯人になってしまって欲しくなかった。私はそういう点、おセンチなのである。
     そこで、どうにかこの二人が犯人でない可能性はないものか。。。とそれまで読んできたところを読み返していたら。。。
     はた、と具体的には文庫本では23ページのリメリック(くどい)の書かれ方の意味に思いついてしまったのだ。
     そうして、「もしや?」と思い、あちこちチェックしてみると、見事にカチリカチリと適合するように書かれている。それで、ああ、これは。。。と思ったわけだ。
     そして、感心。感動。
     ここまで趣向を用意して、ミステリを書いてくれる作家がどこにいる。いや、今は幸い、いろいろいてくれるのかもしれないが、しばらく前までは、本当にいなかった。
     この作品では、たまたま「読み勝ち」して、しかも、それでも面白かったのだが、もし、見事にひっかかっていたなら、それはそれでもちろん大喜びだっただろう。
     私が待っているのは、そうして大喜びさせてくれるようなミステリだ。読み勝ち出来ても喜べる、そしてまた、見事に引っかけてくれて大喜びさせてくれる、そんなミステリ。
     いつかまた、こういう本を読みたいものだ。
     生きているのもまんざらじゃねえな、と念仏の鉄は言ったが、本当にそういうものなのだよね。(おっぺ)
  • 見事なできばえ。
  • 上の、伏字になっているとこの中で、「唯一アンフェアではないかと思う」と書いたとこについて補足すると、つまり、登場人物表で星園と杉下の2人だけ、少し間をおいて書かれている、という点。これだと、どうしても星園が「探偵役」のようになってしまうのだ。杉下だけが離してあるのなら、単に視点人物だけ特別扱いなんだな、となるのだけれど。。。(おっぺ)
  • 幸運な事に、全く何の予備知識も無しに読む事が出来ました(タイトルに惹かれて購入)。
    キャラがマンガチックで性格付けも割とステレオタイプ…軽〜く読み進んで行ったら、ラストで驚愕!!
    最初からアレだ、と知って読んだらあそこまでビックリ出来なかったと思うけど…やっぱり自分的には傑作です。
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