項目名 | 狙う女を暗が裂く |
読み | ねらうおんなをあんがさく |
分類 | 必殺シリーズ |
作者 | |
公的データ | 追い詰められ、深手に喘ぎながら男は呟く。 俺はまだ殺らなきゃならねぇ奴がいる。そいつを殺るまでは … 恨みとも呻きともつかぬ叫び声をあげて男は死んでいった― 読み方は「あんが裂く」で正しいのかどうか不明。(おっぺ) |
感想文等 | なんとなれば。。。この話の根本はつづめて言ってしまうと、「女に騙され、金も仕事も投げ打ってしまった男が、女に笑いものにされて偽りに気づき、恨んで女を殺してしまった。女と共謀し、一緒になって笑いものにしていた金持ちたちが、自分の顔さえ覚えていないほど、なんとも思ってもいなかったことを知り、それにも逆上して金持ちたちも殺してしまった。鬼のような連続殺人者として追われる男は、残った金持ちを殺そうとするがついに捕縛されて死ぬ」。こういう話なのである。そして、男――寅吉という名前だが、鬼のようだということで『鬼寅』と呼ばれた――が捕縛される前に逃げ込んでいたのが、鉄砲玉のおきんの家だった。おきんは、鬼寅からこの恨みと事情を聞き、深く同情する。いよいよ鬼寅が見つかって捕縛され、殺されたとき、おきんは「鬼寅を見つけたものに金を出す」というお触れ通りの金を手にし、その金を仕置料にする。鉄と錠は、残った金持ちを殺す。。。 鉄・錠の「棺桶と念仏」コンビに殺された金持ちは、別に人を殺したわけでも、悪意を以て誰かを破滅させたわけでもないのである。座興として、美女の戯言に付き合い、仲間たちと一緒になってこの余興を楽しんだ。ひとりの将来ある腕のいい板前が、女の色香に迷って、人生を踏み外していくのを、余興の一つとして面白がっていたのだ。つまりは、「冗談」だったのだ。 それを、「仕置」する、殺してしまうというのは、いかがなものか。。。これが大勢の感想なのだ。 だが、、、と私は個人的には思っている。どこで読んだのか、2つの科白がある。1つは、「池に小石を投げ込むのは、人間にとってはただの冗談だが、池に棲む蛙にとっては死活問題だ」。もう1つは、「結果で判断するしかない。動機はよかった、すばらしかった。だが、結果が酷いことになったなら、動機は何の言い訳にもならない」。 そのままどおりの科白ではなかったかもしれない。けれど、特に前者の科白は心しておかなければならないものだと思っている。 自分にとってはほんの冗談でも、それで傷つくどころか破滅する人もいるかもしれないのだ。 そして、それに対して、「そんなつもりはなかった」と言ったところで、それは免罪符にしてしまっていいのだろうか。 金持ちたちは、本当に特に悪意があったわけでもないのだろう。だからこそ、激昂している寅吉を見ても、「誰だ、お前は?!」と大真面目に言ってのけたのだ。寅吉に対して敵意も悪意も何の利害も持っていなかった。寅吉を笑いものにしたのは、本当にただの冗談でしかなかったのだ。 しかし、それこそが寅吉にとってあまりにも酷なことだった。。。 確かに、正義の味方「仕事人」ならば、行動を起こすわけにはいかないレベルの「恨み」かもしれない。 だが、仕置人は、いいのではないか? 仕置人は、どんな本質的な悪でも、「頼まれなきゃあ見逃したかもしれねえが」と言ってしまえるのだ。そして代わりに、「頼まれちまった以上、こっちも商売なんでね」とも言ってしまえる。行動の基準は善悪の強弱でも、仕置料の多寡でもないのだ。心を――動かされたかどうか、ただそれだけではなかったか。 だから――鬼寅と呼ばれた男の痛切な叫び、怨念の声を聞き、おきんも、鉄も、錠も、何の疑義も差し挟むことなく行動を起こしたのではなかったか。 仕置のとき、「お前は誰だ」とわけもわからない様子で言った金持ちに対して、鉄が「鬼寅だ」と名乗ったのは、まさしく、正義のためでも金のためでもなく、本当にただひたすら「鬼寅に成り代わって」、それだけの気持ちからの行動だったためではないのか。 だから、、、私は個人的に、この作品を肯定するし、個人的に、思い入れもある。忘れてはならないものがある作品なのだと。。。 この回で最も印象的なのは、捕縛されてその場で命を落とした寅吉を見て、ふらふらと立ち上がり、憑かれたように言い、叫ぶおきんの姿だ。 「……鬼寅は、、あたしが見つけたんだ……だから五両は! あの金は! ……鬼寅は……あたしが、見つけたんだ……」 この叫びは、鬼寅を弔うための仕置料を手にしようとするのと共に、なぜ見つけてしまったのか、見つけずにいれば、殺させずに済んだかもしれないのに、、、というつらい後悔と自責もあったように、聞こえた。。。(おっぺ) |