項目名 | 別れにて候 |
読み | わかれにてそうろう |
分類 | 必殺シリーズ |
作者 | |
公的データ | |
感想文等 | これは、 「正しいことなんねえ、きれいなことなんかこの世の中にはねえと思いながら、心のどこかでそれを信じて十手を握ってきたんだ」と鉄に対して愚痴った主水が「俺たちゃ悪よ、悪で無頼よ」と「悪であることを正義の遂行の手段とする」仕置人の道を見出し、それにのめりこんで、鉄たちと別れた後もその蜜月時代を忘れられずに貢たちをスカウトしてまで仕留人を始めた・・・それに対して一番言ってほしくなかった、考えたくなかった、ことなんじゃないかという気もしました。 「俺たちにやられた奴にだって、家族や好きな奴がいたかもしれん」 そんなこと言いだされたら、主水の拠って立つ場所がなくなってしまう。 「俺たちゃ悪よ、悪で無頼よ」 正義の味方なんかじゃないんだから、世の中がよくなろうがなるまいが、やった奴に家族がいようが好きな奴がいようが関係ない・・・はずなのに。 でも、貢は突きつけてしまう。 主水は、それを認めるわけにはいかないのです。認めたら、自分が「仕置人」として、そしてわざわざ自ら仲間を募って「仕留人」としてやって来たことが虚しくなってしまうかもしれない。 だから、貢の言い分を拒絶する。間違っているのはおまえだ、と。 「カスにはカスなりに生き方がある」 けれどその言い方には、「俺たちにしかできねえ仕事なんだ」と仕置人を始めたときに言った言葉と同じに、「悪だが、カスだが、役に立つことをしているんだ」という自分への正当化があったのではないか? それを支えにして、主水は自分の「正義」を「心のどこかでそれを信じて」きた・・・ その結果…… 「俺が殺してしまった!」と石屋が口走りますが、おそらく、それは主水も同じ慟哭を心に叫んでいたに違いなく。 自分がスカウトし、自分が躊躇いを許さず、その結果。 そして、そんな主水に、貢は「・・・すまなかったな」と笑ってしまう・・・ この瞬間、主水は貢の言い分に敗北するしかなくなってしまった。 「もう頃合いだ。糸井がそれを、教えてくれたんだ」・・・と。 たぶん、これは念仏の鉄は「仕置人」解散時にすでに知っていた感情だったんだと思うんですよ。「仕置人」終盤、「無関心もほめられたもんじゃねえな」などと言いだし、最終話で「銭金抜きでいいことをするっていうのもまんざらじゃねえな」などと思ってしまうや否や、しっぺ返しのようにチーム崩壊の危機を迎えたことから、鉄はたぶん「人情のためとか、悪い野郎を裁くとか、そんな安物の絵草紙に出てくるようなこと」で殺しをすることが決して「世の中を少しでもよくする」わけでもないし、悦に入れるようなものではないと分かっていたのだと思うのです。 だからこそ、トリックを使ってまで、主水たちと別れた。「いつまでも続けるようなありがたい商売でもないだろう」、と。 主水は、全然認識していなかった。だから、平気で「また始めたい」と思って仕留人を始めちゃうことが出来た。鉄に比べて、主水は本当に甘甘なんです。そこが個人的には決して嫌いではないのですが・・・ 貢の死という結果を突きつけられて、ようやく主水は自分の思い上がりに気付く。明るく楽しい仕置人、仕留人、「おれたちゃ悪よ」を標榜して、けれど「心のどこかでおのれの正義を信じて」いたのが中村主水。「世の中少しでもよくなったか?」だって、別に正義の味方じゃないんだから・・・「奉行所が目こぼしするとなりゃあ、そいつを俺たちがやらなきゃならねえ」「俺たちでなけりゃあできない仕事なんだ」「そろそろ始めなきゃならないと思ってた」そんな使命感めいた言い方をしてきたのは常に中村主水。「心のどこかで信じて、十手を握ってきたんだ……」。 貢の言葉に、貢の死に、主水の拠って立つ基盤は崩壊し、仕留人は解散した。 ここで日本の夜明けが来れば、開国、維新となって、二度と仕置人が結成されることもなかったのでしょうが、 「わしを殺せば、日本の夜明けが遅れるぞ!」 というわけで、日本の夜明けは遅れまくってしまい、黒船もいつしか帰ってしまったようで、そののち何十年も延々と江戸時代は続いていくことになったわけですが・・・(おっぺ) |