語る「万華鏡」

(アンドロイドお雪)

アンドロイドお雪(あんどろいどおゆき)

項目名アンドロイドお雪
読みあんどろいどおゆき
分類SF小説

作者
  • 平井和正
  • 公的データ
  • 幻想剤密売で捕まった老人が、独身の貧乏刑事野坂に贈った遺産。それは白い滑らかな肌を持ち、人間の娘と少しも変わらない、時価数百万ドルのアンドロイド“お雪”だった。
     かいがいしく身のまわりの世話をするお雪は、家婦として申し分ない。だが彼女が来てから、野坂の身辺にはトラブルが多発し、なぜか彼自身も次第に精彩を失っていった……。
     発達しすぎた科学技術の落とし子、お雪が巻き起こす怪事件を描いた、平井和正のSF長編傑作!
  • 感想文等
  • これがたぶん初めて読んだ平井和正SF。小学生の時だったんじゃないかと思う。
    アンドロイドやロボットが登場する未来SFなのだが、時代設定が未来なだけで、描かれ方は現代を舞台にしたハードボイルド小説と変わりはない。そう、文体や描写はほとんどハートボイルド・ミステリ小説に近い。主人公の野坂の周辺で起こる事件、人間関係、恋人のケイを巡る周囲との軋轢、そしてお雪の謎。お雪がアンドロイドでなく謎の(人間の)美女で、ロボットやサイボーグ等が登場してこなければ、まさしくハートボイルド・ミステリに他ならないのかもしれない。

    しかし、この作品が舞台をアンドロイドやサイボーグの存在する未来に置いている理由は勿論あるのだ。「SFだから」「SFにしたかったから」などということでは全くない。

    平井和正は「人間」を書くために、それを必要としたのだ。
    そしてそれはまた、単に人間とロボット、アンドロイドの「対比」ということでは、ない。

    この長編には原型となった同題の中編がある。プロットもストーリーの骨子も全く同じで、長編化に当たって登場人物が増え、エピソードが膨らまされ、あるいは追加され、長編となっているのだが、水増しとは言えず、寧ろ必要な量が漸く満たされた長編化なのだが、肝心なのは、原型中編では存在しなかった一言が、最後に追加されている点だ。

    最初、長編版で読んでいたときには読み流していたサイボーグ猫・ダイの一言なのだが、その言葉が原型には存在していないことを知り、では何故このセリフの追加が必要だったのかを考えてみたとき、大仰なようだが、慄然とした。
    テーマがまさしくその一言に集約されていたのだと、初めて気がついたからだ。

    冒頭に書いたあらすじ紹介は角川文庫に拠るのだが、「発達しすぎた科学技術の落とし子、お雪が巻き起こす怪事件」というのは、とんでもなく表層的な見方である。
    確かに、事件の中心にはお雪がいた……しかし、彼女は何も巻き起こしてなどはいないのだ。
    そして……

    そして、先程「主人公の野坂」と書き、それはそれで間違いとは言えないはずなのだが、エンディングを読むとき、これはやはり間違った表現なのかもしれないと思う。
    野坂の姿など、どこにも、おそらく作者の中にも、存在をやめてしまっているからだ。
    そこにいるのは1人のアンドロイドの娘と、サイボーグ猫だけだ。
    そして、彼女と彼の小さな会話だけだ。(おっぺ)
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