項目名 | 地獄花 |
読み | じごくばな |
分類 | 必殺シリーズ |
作者 | |
公的データ | 浪人生活の貧乏から夫を仕官させようとする妻。その切なる願いに仕掛人となった夫。だがその現場で彼が見たものは何か? 脚本:安倍徹郎 監督:三隅研次 【キャスト】 藤枝梅安/緒方拳 神谷兵十郎/田村高廣 神谷しず/金井由美 音羽屋半右衛門/山村聡(おっぺ) |
感想文等 | 画面に登場した兵十郎は、貧乏を特に苦にした様子はない、剣の腕は凄いが、おどけたところのある、陽気というよりは剽軽な感じのする男だ。 子供はいないが、しずという美しい夫人がいて、いかにもの武士の妻らしく、特に不満や愚痴を言うこともせず暮らしている。それでも、なかなか仕官の道が見つからない兵十郎が「武士の暮らしに戻りたいか」ときくと、「戻りとうございます……」と本音を告げる。そんな妻を兵十郎も不憫に思っているのだ。 いよいよ仕官の道がひらけたとき、必要な支度金が二人にはなかった。兵十郎は、妻の願いをかなえるため、仕掛人として人殺しに手を染める決意をする。梅安や左内を雇っている元締の音羽屋半右衛門からスカウトされたのだ。 その初めての仕掛の夜……兵十郎は首尾よく標的の極悪人を仕留めた。金にあかせて人々を食い物にする畜生だった。 寝所を襲ったのだったが、寝屋には布団に身を隠すようにしてちぢこまる者があった。金力に物を言わせて虜とした女だろう……兵十郎は安心させようと声をかけた。 だが。女は。 兵十郎の仕官のための支度金を作るために、一晩だけの売春を決意して、身を売りに来ていた妻女だったのだ。 今にも気がちがいそうな表情を見せる妻女、魂の砕け散る兵十郎。。。 そして。。。 脚本を書いた安倍徹郎によると、この話のプロットは、、、O・ヘンリーの「賢者の贈り物」だというのだそうだ。。。 「賢者の贈り物」には、すれ違いながらもどこかしら最後にほのかな愛の暖かみが残り、たぶんはこの夫婦は笑い合うことができるだろうと思わせる。だが、この「地獄花」は―― 脚本家の筆もかなりなものだが、これにしても凡百の演出に任されれば、さしたる感興もない一本になってしまう可能性はいくらでもある。だが、神谷兵十郎を演じた田村高廣の力、そして、画面を司る監督・三隅研次の緊張感が、この作品を忘れられないものにしているのだ。 お茶の間時代劇との対局に位置する、必殺シリーズそのもののようなエピソードだ。(おっぺ) |