感想文等 | 京極夏彦は、必殺マニアなのである。この私など足元にも及ばないのである。で、この映画はつまり、京極夏彦版「必殺」みたいだった。そうらしいと聞いてはいたが、本当にそうだった(笑)。 必殺必殺と一口に言っても、全30作、タイプも違えばカラーも違う。劇場版等も含めれば、一体「必殺」とはどんな作品なのか、観た人によって全く違う印象を持つはずだ。早い話、「必殺仕掛人」と「必殺仕切人」を連続して観てみればいい。観てみることができなければ、例えばサブタイトルを比べてみればいい。 必殺仕掛人「仕掛けて仕損じなし」「暗闘仕掛人殺し」「殺しの掟」「理想に仕掛けろ」「地獄花」「おんな殺し」「罠に仕掛ける」 必殺仕切人「もしもお江戸にピラミッドがあったら」「もしも惚れ薬と眠り薬を間違えたら」「もしも密林の王者が江戸に現れたら」「もしも超能力でシャモジが曲がったら」「もしも珍発明展が開かれたら」 ほら、違う。 必殺シリーズの代表キャラクター、中村主水の登場する作品たちを観てもそうだ。というより、少なくとも「必殺仕事人」以前は、むしろ意識的に同じ「主水もの」でもカラーを変えていたとしか思われない節は多い。 必殺仕置人「いのちを売ってさらし首」「牢屋で残す血のねがい」「罪も憎んで人憎む」 暗闇仕留人「仕留て候」「地獄にて候」「過去ありて候」 必殺仕置屋稼業「一筆啓上地獄が見えた」「一筆啓上業苦が見えた」「一筆啓上崩壊が見えた」 必殺仕業人「あんたこの世をどう思う」「あんたこの宿命どう思う」「あんたこの結果をどう思う」 新必殺仕置人「問答無用」「情愛無用」「夢想無用」 必殺商売人「女房妊娠!主水慌てる」「むかし夫婦いま他人」「他人の不幸で荒稼ぎ」 必殺仕事人「主水の浮気は成功するか?」「仕事人危うし!あばくのは誰か?」「登城の大名籠は何故走るのか?」 新必殺仕事人以降は、サブタイトルもパターン化し、「主水○○する」のような形になっていくが、それ以前はこのようにカラーも違い、また、テーマ性すら異なって見えていた。 長くなったが、こんなふうに「いろいろ」な必殺だから、「怪」が必殺だ。。。と言われても、一体どの程度、そして「どの必殺」なのか、不明だったのだ。 観てみると。。。まあ、これは、監督もカメラマンも「必殺!三味線屋勇次」のスタッフだし、というわけで、画面的に観れば映画版の必殺そのものだったし、主人公たちのキャラのカラーとしては「新必殺仕事人」クラスかなあ、、、ちょうど「主水腹が出る」「主水娘と同居する」といったサブタイトルたちの。これが「必殺仕事人III」になると「窓際族に泣いたのは主水」「饅頭売って稼いだのはお加代」だし、「必殺仕事人IV」だと「主水犬にナメられる」「主水忘年会の幹事でトチる」だし、「必殺仕事人V」だと「主水ヘソクリを盗まれる」「主水、送別会費を全額盗まれる」「主水、いじめられっ子になる」だし、「必殺仕事人V激闘編」の初期数話は少し持ち直してもすぐに「りつの家出で泣いたのは主水」「主水、正月もまたイジメられる」「主水、羊羹をノドにつめる」だし、「必殺仕事人V旋風編」だととうとう「主水、ワープロをうつ」「主水、化粧をする」だし、ああ、泣けてくるよ。・°°・(>_<)・°°・。。だから、「新必殺仕事人」はぎりぎりの線なのだ。あるいは、この「旋風編」の直後の、「必殺仕事人V風雲竜虎編」なら、「返り討ち秘話」「主水の刀を研ぐ男」のように持ち直して、さすがにテーマ性やらハードさでは返り咲けなかったものの、見所は多々あったから、この辺でも許す←何をだ?(笑) 実際、仕置のシーンのスタンスは、「新必殺仕事人」よりは「必殺仕事人V風雲竜虎編」以降に近いものがあったと思う。 と、あくまであくまで「必殺」との関連のみで書き並べてしまったが、仕方がない。これは、どうやら原作とも掛け離れて「必殺」ベースで作られたものらしいし、そうなると、必殺マニアの私としては、そこに関連して語るしかないではないか。 テーマ性や語り方は、初期の必殺に近いものがないでもないけれど、画面がやっぱりクリーンで明るすぎるよね。「必殺仕掛人」「必殺仕置人」から「必殺仕事人」の前半くらいまでは、必殺っていうのは暗い画面で、なのにやたら美しいものだった。「必殺仕置屋稼業」の第1話を凝視していると、よく分かるのだ。。。(おっぺ)
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