感想文等 | 「人狼天使」と書いて、ルビは「ウルフ・エンジェル」。 これはなかなか魅力的なタイトルだったと思っている。ノンノベル版のカバー画は生頼範義氏で、そのどっしりとして頼もしいアダルト犬神明と「人狼天使(ウルフ・エンジェル」)」のタイトルの表紙は惚れ惚れとするくらいだった。
収録されているのは、中編「ウルフガイ・イン・ソドム」と、おそらくはアダルト・ウルフガイ・シリーズの最終パートとなる人狼天使の第1部「憑霊都市」。 「ウルフガイ・イン・ソドム」は、アダルト犬神明の“前世”たるソドムシティの住人カルデヤのウルの物語だが、「未来の記憶」として時折犬神明の意識も混入したりして読み応えもあった。しかし、若干「得た知識の放流」のように「神と悪魔の真実」が語られ始め、これはこれで初読の時には刺激的ではあったのだが、今読み返すと、「それはもう知ってるよ」的な感覚が先に立ってしまう。 登場人物の感情とシンクロする読書においては、何度読み返しても同じシンクロが可能だ。そして、それこそが特に平井和正作品を読むときの一番の「面白さ」だった。これは「人狼白書」「人狼天使」についても決して変わるわけではないのだが、ただ、「知識の提示」部分はそうではない。言ってみれば、新しい知識や技術について書かれている本は、初めて読むときには面白いが……というところか。 だから、犬神明の感情が描かれている部分はこれまで同様に抜群に面白く、犬神明の「知識」が提示されている部分は光と熱を失っている……但し、何度か読み返している読者にとっては、という感じだ。初読の読者にとってどうかは不明である。
「ウルフガイ・イン・ソドム」が単独で成立しているのに対し、「憑霊都市」は第1部とはなっていても、長さや内容からしてほとんどプロローグに近い印象だ。石崎郷子の復活、矢島との対話、雛子やマイク・ブローニングの動静、ジュディ・ギャザラとの出会い等が描かれ、そして事件らしい事件、山場らしい山場はないのだ。
物語の動きは続く「人狼天使第2部魔天楼」からに持ち越される。
ちなみに文庫化されると、「人狼白書」同様、「人狼天使」のタイトルは消滅した。 この巻は「ウルフガイ イン・ソドム」と微妙なタイトル(笑)になっている。「人狼白書」「人狼天使」にタイトルに愛着のある人間にとっては哀しいことなのだが、おそらくは要らぬ軋轢を避けるためのことなのだろうかな。(おっぺ)
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