語る「万華鏡」

(「竜馬から大樹へ」の一部削除)

竜馬から大樹へ(りょうまからだいきへ)

項目名竜馬から大樹へ
読みりょうまからだいきへ
分類特撮

作者
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  • 公的データ
  • 特救指令ソルブレイン」第23話。
  • メサイア編」三部作の第三話。
  • 変幻自在のメサイヤの攻撃に翻弄されるウィンスペクターとソルブレイン。そしてついにファイヤーまでもが・・・!撃て大樹!流星となって今こそ燃え上がれ!ソルブレイバー入魂のマキシマムモード!
  • 感想文等
  • 大樹の思った通り、メサイアはただのロボットではなかった。人間の脳髄を利用した、いわばサイボーグのような存在だったのだ。
     事故に遭った旅行者の体を利用して、メサイアは作られた。そして、家族と共に幸せに暮らしていた頃の記憶を甦らせて、メサイアは自由を求め逃亡したのだ。
     藤波博士を襲撃したのも、自分の身体から爆弾を取り除いてもらうためだった。
     ウインスペクターに、いや、隊長香川竜馬に極秘任務として与えられていたのは、このメサイアの秘密が世界に暴露されないよう、隠密裏に、速やかに、メサイアを抹殺することだった。
     心の内を全く見せない竜馬が、人が変わったように非情にみえたのも当然だった。竜馬は事実、全力で非情に徹していたのだ。
     「俺だって、悩んだ末の結論なんだ……」
     この言葉にも、かけらほどの誇張はなく、むしろ抑制しすぎた表現と言えただろう。
     ありとあらゆる打開策、別の方途を探し考えたのに違いない。
     だが、メサイアの体内の爆弾は、取り外そうとすればそれだけで即座に爆発する。逃亡により一度起動した時限装置を停めるすべはない。竜馬が何にどう悩もうとも、メサイアは破壊する以外にはなかったのだ。
     メサイア自身が翻意して戻ってくることでもあれば……しかし、幸福な家庭と引き離されたのを恨むメサイアが翻意することなど、さすがの竜馬にも考えられなかった。
     全ての真相が露わとなる中、メサイアを追跡するファイヤーとブレイバー。メサイアは町の中心に向かっている。自暴自棄になり、復讐心の虜と化しているのだ。追いすがる2人の特捜刑事を、強力な超兵器で撃退にかかるメサイア。
     そして、ブレイバーは躊躇して追跡が遅れてしまい、単独でメサイアと対峙したファイヤーは、ついに大きなダメージを受けて倒れてしまう。強化スーツが損し、付加に耐え兼ねてマスクが自動解除された。
     「メサイア……せめて、人のいないところへ行って、爆発してくれ……」
     をおしてなんとか立ち上がりながら、しかし、もはやメサイアを止める力を失った竜馬はそう訴えるが、メサイアの怒りを拡げるばかりだった。
     かけつける大樹に、竜馬はギガ・ストリーマーを託す。
     「奴を、撃て。……ためらうな。情けは、無用だ」
     責任感と決意とで強く言い切る竜馬からギガ・ストリーマーを渡される大樹=ブレイバー。
     ついにブレイバーは、メサイアの前に、ギガ・ストリーマーを手に立ちふさがる。
     だが……この場面で、「ソルブレイン」という番組は、大樹という主人公は、空前絶後ではないかという変換を見せてしまうのだ。
     前作の主人公ファイヤー=香川竜馬を引っ張りだし、いわば「先輩ヒーローが、未熟な現ヒーローを励まし、成長させる」パターンを踏襲していきながら、そして確かに、犯人=メサイアに感情移入するあまり再三メサイアを取り逃がしてしまい、結果として竜馬を負させる失策をおかす大樹にとって、竜馬は見習える先輩だったはずだ。そのはずなのだが、託されたギガ・ストリーマーを手にメサイアと対峙したブレイバーは、しかし、ついに強化スーツのマスクを自ら外してしまうのだ。
     汗よりも涙でくしゃくしゃになった大樹のが、マスクの中から剥き出しになった。
     「……俺には撃てない……撃てないんだ」
     かすれ果てた声で絞り出すように言う大樹。その手には、メサイアと家族とが写った写真がある。
     「この写真を見た時から、できるはずがないとわかっていたんだ……おまえは何も悪くないのに、破壊するなんて、どうしてもできなかった……」
     大樹は写真とギガ・ストリーマーとを手にしながら、無力な涙にまみれる。そんな大樹を見つめ、竜馬も、メサイアも凝然と立ち尽くす。
     「俺は刑事失格だ……メサイア、好きなところに行け」
     確かに、このときの大樹は刑事としてもヒーローとしても失格だった。感情に呑まれ、その結果に責任も持てずに投げ出してしまう。メサイアが「好きなところに行く」というのは、どれほどの重大な災害を呼ぶか、大樹にも判りきっていたはずだ。
     このときの大樹を支持することは、決してできない。
     だが、結果だけを見るならば、大樹の偽りない心情の吐露が、メサイアの心を動かしたのだ。
     「……俺は、人間でもない。ロボットでもない。……ただの化物だ」
     そう穏やかな口調と表情で言い、メサイアは自ら人のいない場所へと向かい、誰一人巻き添えにすることもなく、爆死して行ったのだ。最後の瞬間に、妻子の名前を痛切に叫びながら。
     大樹の心底からの想いが、メサイアの心を救ったのだ。
     これは勿論、結果だけの幸運でしかなかったはずだ。大樹は特捜救急警察の行動隊長としては、自覚の通り、失格でしかない。バッドエンドを迎えていた可能性も十分以上にある。
     しかし、この瞬間、大樹は「あまりヒーローらしくない主人公」から「この番組にふさわしい唯一の主人公」に生まれ変わったのだ。
     日本を離れる竜馬が、大樹に言う。
     「俺は、自分のやり方を間違っていたとは思わない。だが、レスキューというものの根本を、大樹、お前に教えられたような気がする」
     褒め過ぎだろう(笑)。間違いなく、全力で非情に徹しようとした竜馬のほうが、刑事としてもヒーローとしても正しい。竜馬こそが、幾多の試練を乗り越えて、かつてよりも成長してきたのだ。
     だが、理屈はそう判っても、心そのものが大樹にエールを贈るのだ。
     そして、竜馬は続ける。
     「ギガ・ストリーマーは、人を救うためのものだ。俺よりも、お前が持つのがふさわしい」
     こうして、ギガ・ストリーマーが竜馬から大樹へと受け継がれた。
     この三部作は、前作の主人公が登場するお祭りという括りを越えて、「人の心を救う」テーマに挑んだ印象深い作品だった。
     大樹は刑事失格となりながら、メサイアの心を救った。他に、もっと賢いやり方があったかもしれない。竜馬の決断の方が正解だったことにも間違いはない。
     ヒーロー番組としては、任務を途中で放棄し、そのためにどんな結果が訪れるかを思考停止してしまうことは許されないはずだ。
     似たような物語を、遥か黎明期にもすでに現出させたものがある。「ウルトラマン」のエピソード「故郷は地球」だ。
     ここでも、宇宙怪獣と思われたジャミラが「実は人間」であり、府の犠牲者であり、秘密を隠匿するために極秘で抹殺しようとされていた。それを知った科学特捜隊員のイデは、「俺やめた!」と武器を投げ捨てるのだ。
     この「メサイア編」はあるいは「故郷は地球」の語り直しなのかもしれない。(こういうのはパクリとは言わない)
     だが、イデは「ウルトラマン」の主人公ではなかったし、ウルトラマン自身はきっちりと(?)ジャミラを倒している。
     時を経て、語り直された物語は、主人公自身に「やめた!」を選択させてしまうことで、テーマに挑んでみたのかもしれない。
     この「メサイア編」で、「ソルブレイン」は確かに「ウインスペクター」から深化した。竜馬から大樹へ、主人公は受け継がれ、更なるテーマの深化を遂げたのだ。
     そして、こののち、「ソルブレイン」は泥沼のような「高岡編」を迎えることになるのだ。。。(おっぺ)
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