感想文等 | そして、いよいよサーニンの物語が始まる…… マックスの「奴らが消えた夜」と同様に、「山の上に吹く風は」から直接続く形で始まる――いや、すでに「山の上」で出てきていた少女がそのまま出てくる分、さらに連続性は強いと言えるだろう。 そしてサーニンは出会う。エルと。エルバージェと。 ――馬という生き物にさほど思い入れもない。それでも、サーニンとエルとのむすぼれは解る。あとあとグレアムが、クークーのことはよくわからないけれど、サーニンがクークーをどれだけ大事に思っていたかはわかる、と言ったように。 笑えないサーニンを唯一癒せたのがエルバージェ……サーニンはいつも、なにかしら「はみだし」た者と特に強い愛着でつながるのかもしれない。アンジーら仲間たちはもちろん、エルバージェ、クークー…… そして「裏切者」というキーワード。 裏切られた……と人は言う。私の期待は裏切られた。私の信頼は裏切られた。こんなに信じたのに。こんなに愛したのに。 こんなにも、返礼のあることを願っていたのに、と? こんなにも報われることを……報われたいと…… いったい、故意に、悪意を持っての裏切りが、本当にどれほどの数も転がっているのだろう。 それでも…… 「私の期待は裏切られたから」 「私の愛情は支払いを停止しました」 …… この「裏切者」には、あまりにも多くの想いが詰まっている。信頼することの難しさ。それは、勝手な押しつけや、幻想でしかないかもしれないのに。 けれどまた同時に、裏切られてなどいないのに、そんなふうに感じ、思い込んでしまうのもまた。 どれほど多くの「裏切り」を、「期待」を、「信頼」を、思い、言い、重ねてきたことだろう。 誰も「裏切られた」などと言わない世界は、楽しいのか。哀しいのか。(おっぺ)
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