感想文等 | キャプテン・グレアム、持ち場を離れ…… そしてマックスはグレアムから捨てられ、嫌われたと思い…… グレアムは壊れてしまっていたのだ。キャパシティの限界を超えていた。だから、マックスに何も応えてやることができず―― 「ボクからそんなに…離れていかないで……」 そのマックスの声がやっとグレアムの中に届いたとき、もうマックスは…… そしてマックスは…… よく何もわからないうちに、マックスは孤児院に入れられていた。そこで過ごす日々。小さなオデコの坊やだったマックスが、すっかり足も伸び、しっかりとした少年へと成長していく、それほどの日々…… マックスの中にはいつまでもグレアムがいて、そしていつまでも空虚な遠い目のままなのだ。だから、つらいとき、さびしいとき、頭の中にアンジーやサーニンを呼び出しても、グレアムは呼べない…… 大好きなグレアムを脳裏にすら呼び出して話せもしない、その哀しさが、マックスに意固地な殻をひとつ作らせる。そしてそれが、友達との齟齬を産み―― 個人的には、この長編での「独りで戦う」マックスが、全話の中で一番好きだ。他の三人の中にいると、どうしても一歩引いてしまうアクの弱いマックスが、完全に独りで他人とも自分とも戦い抜いた。それがこの「奴らが消えた夜」だ。 そして――アンジーは回復を見せ始めたグレアムと共に、サーニン・マックスを探す。実はアンジーは並行してサーニンを見つけていたのだが……そのことは続く「裏切者」まで持ち越される。 いつまた正気を失うかもしれないグレアムを伴いながら、サーニンのことも隠しながら、そんなアンジーは疲れ……だからアンジーには、フー姉さまが憩いだったのだろう。正気を壊してしまったグレアムを預かっていたのはエイダであり、場所を提供してくれたのはエイダの友達のオフィーリア。エイダは彼女をフーと呼び、アンジーたちはそして彼女をフー姉さまと呼んだ。フーと、そして特にアンジーとの交情は、「愛しのオフィーリア」でせつなく描かれることになる。 グレアムは…… マックスの呼びかけ。。。「ボクからそんなに…離れていかないで…」――に応えることができず、反応できたときには、、、だからいつも、いつまでも、マックスの悲しそうな顔が、笑わない顔が浮かんでくるのだ。 だから。。。 アンジー 君のいたわりを… ボクへの信頼のなさを受けとめるように ボクはマックスからも …それがどうであろうと 受けとめるだろう… “ボク達4人… 同じ船に乗り込んでるようなものだね” アンジーが言った 昔4人一緒にいた頃に “グレアム キャプテンみたいだね” マックスが言った ボクを信じていた頃に 今のボク達は まるで難破してしまった船のように ねむってしまっている者… 泥酔していた者… 持ち場を離れ 船を守りも守れもしなかった者… 覚悟はしていたさ… マックスは、差別される悔しさにいじけていく友達ヴァトゥが悪行に走るのを留めるために、ヴァトゥをどこまでも見守ろうと思う。それは、思い出の中の、「大好きだった昔のグレアム」との約束のために。。。 様々な行き違いと、思惑違いと――すれ違いと。 思いやりは相手に届かず、溜まったストレスは本心ではない悪意を産む。 マックスは疲れ、自分に向かって言う。 嘘つきだな…ボク もう…とうにヴァトゥを追うのいやになってるくせに… アンジーやサーニンの幻影が浮かび、けれどそれは寧ろ今のマックスにはさらにつらい。 知らないくせに!! もう…今のアンジーも今のサーニンも知らないくせに! ……グレアム! グレアムなら何て言ってくれるの? ヴァトゥについててやりたいのももういやなのもホントなんだ、グレアム! もうサーニンやアンジーを夢みれないんだ もうボクはサーニンの年令を追い越し…やがてアンジーも… マックスは。。。 ………そして、 再会が来る――。 私は――「再会」の物語にいつも突き刺される。新しい出会いはうれしく素晴らしいものだ。だが、「再会」は――再会はせつなく慕わしく、それは途方もないほどに。 マックスはさまよい、疲れ、自分との戦いに迷う。自分のせっかくの好意や努力を解ってくれず解ろうともしない友達――もうやめよう、やめればいいんだ、と心の中でマックス自身の分身が楽しげに言う。それはもしかしたら、マックスの心の中のアンジーやサーニンの化身かもしれず―― が。もう1人、別の分身の姿が遠くに見える。そのマックスは物静かな様子で、優しくマックスに提案する。 「マックス…それでもヴァトゥについていてあげようよ」…… マックスは―― 思う。口にする。 「ボク…君が一番好きなんだけど…」 でも。 「うん! ヴァトゥについていてやろうよ」 「でも君、ずい分と遠いんだもン」 ついに耐えきれずにマックスはうずくまり、すすり泣く。あの懐かしい、大好きな分身のところがいいのだ。そこへ行きたいのだ。けれど、どうしても行けない。行くことが……できない…… ………… ………… … … … 「マックス」 マックスは顔を上げた。そこにはグレアムがいる。冷たく虚ろな眼のグレアムではなく、昔好きだった、マックスを好きだと言ってくれていた頃と同じ、優しい笑顔のグレアムが―― 「グレアム! グレアム、ボクあそこへ行きたいんだよ、でも行けそうにないの…ボク」 「どこへ行きたいの? どうして行けないの?」 「だってグレアム、ボクもうすっかりわからなくなってるんだもん。ボク孤児院の子なの…それでみんながボクまともじゃないって言うから、ボクどうすればまともなのか…」 マックスは――昔のままに――グレアムに疑問を憤りをぶつけ……グレアムは昔のままに優しく、真摯に考えて答えてくれる。 すべてが解決する回答が得られるわけでもない。それでもマックスはうずくまったまま、いつか笑顔になっていた。 「笑うんだね…マックス」 だって、 「嬉しいんだよ…昔のグレアムみたいで。久しぶりだね」 マックスは夢見ている気持ちのままに言う。笑顔で―― 「でも変だね…アンジーやサーニンは昔のままの姿ででてくるのに……」 さびしいとき、つらいとき、マックスの心に出てきてくれたアンジーとサーニン。グレアムは呼び出すことすらも……けれど、いま目の前のグレアムの姿は、どうしてだかとても成長していて…… だから……マックスは……思う……。 ねェ…何だか変だね… グレアムったら 大きくなってでてきたよ…… …… …… …… このクライマックスは、私の鬼門だ。下手をすると今書きながらそうであるように、涙がせり上がってきてしまうからだ。 「奴らが消えた夜」は、急激なキャラクターの成長などから、絵柄的にずいぶん違和感もあるパートだ。前作「山の上に吹く風は」や次作「裏切者」と比べても不安定に過ぎる作画状態に見える。 だが、だからって、それがなんだというのだ。なんでもない……このクライマックスの前では、どんなものもなんでもないのだ。 思うのはただ1人、最後のシーンは現実のことなのか、それともミッジの夢だったのか、それだけだ。 もちろん、それは……(おっぺ)
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