感想文等 | 前回の「賭けた命のかわら版」がオーソドックスすぎて特に印象に残らなかったのと反対に、今回はかなり濃厚な情念のドラマが展開する。 まずは冒頭で早くも仕置が遂行される。鉄と錠は旅先で仕置を完遂し、さっさと逃げ出す。主水ら他の仕置人は随行しなかったようだ。 大雨に見舞われ、飛び込んだ宿には、鉄・錠以外に、一癖二癖、或いは後ろ暗さを抱えていそうな連中が何人も集うことになった。そして、始まる連続殺人事件。はたして誰が殺人犯人なのか。 と、別にアガサ・クリスティ張りの本格ミステリ犯人捜しなわけではなく、早々に殺害シーンその他が描出され、犯人一味は割れる。鉄、錠、そして仕置人たちを公儀の隠密か何かと誤解している追っ手の殺害犯人たち、実際の隠密たち、梅津栄(笑)、その他一つ宿に集った人々の思いが絡まり合う中、惨劇は頂点を迎える。無意味に失われる、小さな夢を抱いていた一つのいのち。仕置人の怒り。 人々の死に様も鮮烈な映像で描かれるが、最後に情念を吐き出すのは棺桶の錠の慟哭と叫びだ。明瞭な「悪」どもが破滅した後、ただ無辜と思われていた者に露出される利己と、それがための哀しみ。「馬鹿野郎てめえ!!」錠の哀切の悲鳴、叫び。 「悪いやつほどよく見える」から再度、「くだらない」侍の理念のために無意味に失われる命や想いのために、錠はまた慟哭することになった。 この「馬鹿野郎てめえ!!」という錠の叫び、この姿は、「必殺仕置人」という物語の中で、とにかく1つ、覚えておきたい部分なのだ。仕置人という存在が、どのように「仕置」をしてきたのか、それは一体、どういう仕業だったのか。 「商売」にも「仕事」にもなる前の、自分たちの本音と欲望と、やむにやまれない衝動から発していた、仕置というものを。(おっぺ)
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