3  20世紀の教会


 1848年の「共産党宣言」以後の唯物史観に基づくマルクス主義の台頭は 、教会にとっても大きな挑戦であった。教皇レオ十三世は1891年、教会初の 社会教書『レールム・ノヴァールム ―労働者の境遇について―』を発布し、近 代資本主義のひずみによって苦しんでいる労働者の境遇にふれ、労働者の種々の 権利をキリスト教信仰の立場から訴えた。さらに1917年のロシア革命によっ て樹立した無神論国家に抗して、教会はキリスト教の弾圧と暴力による人間性の 蹂躙のゆえに反共姿勢を固める一方、社会問題に積極的に取り組むようになった 。

 二つの世界大戦とその後の世界の動きは、教会にも地球的な規模の人類意識 、あるいは世界意識というこれまでにないまったく新しい問題をつきつけること になったが、それには幾つかの要因がある。一つには両世界大戦という前代未聞 の悲劇を通して、逆説的ながら「人類は一つ」という深い自覚を得たことである 。この意識は交通と通信網のめざましい発達によってますます強まった。またヨ ーロッパにおけるキリスト教離れと、それに反比例するようかのようなアジア、 アフリカ、南米でのキリスト教の拡大、さらに東西の冷戦の緊張と軍拡競争や南 北問題による持続的な危機意識、日進月歩の科学技術の進歩とその成果である宇 宙開発や核の恐怖など、これらの要因によって呼び覚まされた「一つの人類」と いう鮮明な意識は、イエス・キリストから教会に託された救いの恵みと教会の使 命が、人類社会にとっていったい何であるかを改めて問うことになったのである 。

 こうして新しい時代に生きるカトリック教会は、全面的な自己改革の道を断 行した。それは教皇ヨハネ二十三世の招集によって1962年から1965年に かけて開かれた第2バチカン公会議に始まる。この公会議は特に、人類とともに 歩む教会の本質と使命を深く再理解し、さらに現代社会の苦悩と人類の希望を鋭 く洞察した。それをふまえ、これまでの閉鎖主義を撤回し、カトリックの伝統を 保持しながらも、さまざまの改革路線を大胆に打ち出し、人類社会に開かれた教 会をめざして歩み始めた。典礼の改革、信教の自由、プロテスタント教会との教 会合同運動、司教・司祭・修道者・信徒の使命の覚醒と養成、諸宗教との対話、 社会正義の実現など、多岐にわたる課題への実践的な取り組みなどが進行中であ る。すでに教皇庁は英国教会との交わりを回復し、東方教会とも古いきずなを確 認し合った。また、平和運動、聖書翻訳の共同作業や活発な学術交流などプロテ スタント教会との協力関係は日々強まっている。 こうして教会は、キリストに おける人類の一致を実現していく道具として、世の終わりまで人類とともに歩み 続けていくのである。


参考文献
上智大学中世思想研究所訳『キリスト教史1〜11』講談社、1981〜19 82年出村 彰『キリスト教入門2 歴史』日本基督教団出版局、1977年D .ノウルズ(朝倉文市訳)『修道院』平凡社、1972年半田元夫・今野国雄・ 森安達也『キリスト教史R1〜R3』出川出版社、1977〜1978年


カトリック中央協議会発行『カトペディア92』より


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