フォーレ ピアノ四重奏曲 第2番 3楽章。
出だし。 ♭三つ。教会の鐘の音を静かにピアノが模倣する。 町のはずれにあるフォーレの家で聞く鐘の音は遠く、家並みに反響し、こだまする。 大きな鐘を表すバス(ミ♭ーソーミ♭ーソー)、 大きな鐘のあいだに入りリズムを刻む小さな鐘の中声(シ♭ドレドシ♭ド)。 半拍遅れで大きな鐘の反響を表すソプラノ(ーミ♭ーソーミ♭ーソ)。
それぞれのパートは短調の要素をもたない。 長3度、または全音での長3度の進行。 Es-Dur、B-Durの重なりのなかに、偶然のように半音が生まれる。 反響音のミ♭、続いて小さな鐘の音のレ。 人々の希望、救いであるはずの教会の鐘の音に暗い陰がさす。
すきまに生まれた不安の裾をつかんでヴィオラが歌いだす。 「レーーー」 「レーミ♭ファーソーファミ♭ーレソー・・・」
反響によって偶然つくられた半音「レミ♭」。 これが短調への入り口であるように思う。
3つの♭を持つ、c-mollの譜面づらでありながら、 スケールの範囲が狭められると、臨時記号を使わずとも 部分的な半音や部分的な全音が他の調をよそおって歌いだす。 丁度、窓枠に切り取られたまやかしの風景のように。
この曲を聞くときめまいに似た感覚を覚えるのは、そのせいかもしれない。 |
|