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核燃料サイクルをめぐる原子力業界の大分裂が大きな社会問題としてクローズアップされてきた。 7月25日のサンデープロジェクトにおいても、中川経済産業大臣に、この問題について、田原総一郎氏がインタビューを行っていた。それほどまでに、この分裂は大きな問題となっている。 元々、原子力学会の一部で論争が始まり、原子力の専門誌に連載されるようになった後、エネルギー全般を扱う雑誌においても論争がかまびすしくなり、業界新聞にも頻繁にとりあげられるようになった。 最近では、経済産業省、電気事業連合会が、使用済み燃料の直接処分のコスト試算を隠してたとして、大きなスキャンダルとして広がりを見せている。上述のサンプロでもこの話題が取り上げられていた。 この話題をちょっと時系列に追うと、まずは、経済産業省(旧通産省)からである。電気新聞(2004.7.6) から引用する。 (引用はじめ) 3月の国会で幹部が誤った答弁をしたことはお詫びする」と述べるとともに、全省をあげて情報開示の徹底に取り組む考えを示した。核燃料サイクル政策に関しては「国のエネルギー基本計画で着実に推進することとなっている」とし、サイクル推進に変更はないことを表明した。(電気新聞 2004.7.6より) そして、電事連(民間)が、その翌々日あわてて?後を追った。電気新聞(2004.7.8)より。 (引用はじめ) 経済産業省が94年の総合エネルギー調査会(通産相の諮問機関、当時)の作業部会で試算結果を提示しながら公表していなかったことが問題になったことを受けて電事連が調べたところ、今回の取りまとめ資料が見つかった。(電気新聞 2004.7.8より) 里屋和彦です。 従って、このコスト試算はそれぞれが行ったものであろうが、彼らインナーサークルの間では、当然ながら共有化されていただろう。今回の経済産業省から始まる一連のリークの流れは、彼らの間でまず合意されたと見るべきである。 しかしながら、このインナーサークルは、これまでのエネルギー学講座の自由化問題で報告してきたように、現在では分裂状況にあり、核燃料サイクルをめぐってその亀裂はさらに増幅している。 また、最近の経済産業省の原子力政策において、現実路線(推進派から見れば後退傾向)に拍車がかかっているように感じられることが多い。例えば、最近、経済産業省の諮問機関である総合資源エネルギー調査会は、従来の原子力政策を事実上、方針転換した。週刊「エネルギーと環境」(2004/5/20)から引用する。 (引用はじめ) 里屋和彦です。 また、コスト試算隠蔽の件に付言すれば、このコスト試算隠蔽?の問題は、昨年の原子炉の"不合理な検査基準"に端を発したデータ隠蔽事件の顛末(電力業界トップの首がとび、多くの原発が停止に追い込まれ、電力危機が発生)を想起すれば、これを梃子に、再び同様の危機が発生し、最終的に再処理路線を一気に崩される懸念がある。 何はともあれ、最大の当面の焦点である六ヶ所村の再処理工場稼動を来年に控え、今後さらなる揺さぶりがかけられてくるだろう。首尾よく稼動が開始されたとしても、それ以降の稼動状況は常に監視の目を向けられ、些細な事故でも針小膨大に喧伝される。 一つ間違えば、もんじゅの轍を踏む恐れが濃厚である。このような状況は、これまで長い間、膨大な試験・研究を積み重ねてきた研究者・運営者達はたまったものではない。 閑話休題。 この場合、対象となる使用済み核燃料は、全量もしくは必要となる量のみの2ケースが出てくる。並べると、全量即再処理派、全量漸次再処理派、必要量漸次再処理派に分かれる。 勿論、このような議論はずっと前からあったわけであるが、議論が先鋭化していく中で、新聞等の一般誌にも出てきた。 ここらあたりの空気を代表しているのが、元外交官の金子熊夫氏率いるEEE会議(http://www.eeecom.jp/)である。同会議の〜我が国の核燃料サイクル政策に関する提言〜から引用する。 (引用はじめ) 当初は、原則「即時全量再処理」という文言が用いられていた。これは商業用原子炉の開発を優先して、再処理技術の開発を二の次にすることのないよう、再処理技術開発を早期に進めるための文言であった。 その後の原子力開発は、高速増殖炉も再処理技術も多くの困難に直面し、議論の末、「即時全量再処理」のうち、「全量」を残したまま、「即時」の二文字が除かれた。 「即時」ではなくとも、何時かは全部再処理することを目指して技術開発を進めるとの趣旨である。しかし、今日、「全量再処理」という文言は、一部たりとも再処理せずに処分してはならないかのように受け取られているが、これはあまりに狭量な解釈というべきである。 里屋和彦です。 整理すると、原子力推進派といえども、核燃料サイクルに対する立場の違いから四つに分類される。 再処理派は、 再処理見直し派は、 となる。 実際、先に話題となった原子力のバックエンドの総額が19兆円という試算においても、2045年までに発生する使用済み燃料5.6万トンについて、3.2万トンは、六ヶ所再処理工場で処理し、残りの2.4万トンについては、中間貯蔵で対処するものとされている。 従って、再処理派は事実上、Aの立場のみとなる。 Bの立場は、Aから見れば、獅子身中の虫たるべく、再処理派Aを動揺させている存在であるが、この立場は、昨今の社会問題化してきた核燃料サイクルをめぐる分裂状態の中で、エスタブリッシュメント内の一角で、急速に形成されてきた派である。 通常、再処理見直し=再処理反対(自民党河野太郎氏の立場)ととられがちだが(すなわちCの立場、もしくは原発自体反対)、正確にはBの立場を含んだ派なので紛らわしい。このBの立場は、プルトニウム利用に目処がついていない現状では、六ヶ所村の再処理工場の運転開始については、一時延期を唱えている。(すなわち、当面貯蔵し、その後は再処理か直接処分) それから、留意すべきことであるが、直接処分方式をとっている国といえども、実は将来的には、再処理のオプションは放棄していない。このことからも世評に惑わされ勢いあまって、我が国が現時点において、使用済み燃料全量を直接処分する方式を採用して、再処理への道を閉ざすような不可逆な政策をとるようなことだけは絶対に避けなければならない。 私が、最終的に防衛ラインと考えるのは、最低、再処理を継続的に行っていくことであり、全量再処理か否かは、国益の観点からは取るに足らない副次的な問題と思う。資源が少ない日本であるからこそ、決して再処理路線の放棄はなされるべきではない。 余談であるが、 同氏は、電気事業連合会会長の時に電力自由化に強く抵抗していた方である。今回の辞任の件が、そういったことと無関係であることを願いたい。
2004/07/08(Thu) No.01
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