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日本のエネルギー政策が相変わらず、審議会ベースで行われている。議事録を見ると重厚な議論が行われていると思う半面、同じ論点があちこちで議論されており、無駄に感じる部分もある。 特に昨今は、審議会の中にある多数の分科会(下記URL参照)の報告が乱立?しており、また総理や内閣からも燃料電池等に関する施策メッセージが発せられる等、一体どの施策が上位の位置付けにあるのか大変見えにくい。http://www.meti.go.jp/report/committee/index.html 少なくとも、一昨年「エネルギー政策基本法」が成立し、それに基づき平成15年度にエネルギー基本計画を策定したわけだから、これが最上位にきてもよさそうなところだが、何故か法案段階から訴求力がなく、エネルギー業界ではあまり人気がない。 それは、今脚光を浴びている燃料電池等の新エネルギーに対して、その開発を牽引していくというものでなく、国家のエネルギーの安定供給(=その柱が原子力の推進)を第一義的に訴えたという衣の下の鎧が見えている印象を与えた(反原発側へ)からである。 しかるに、世上はどうかというと、特に昨年あたりからは、あまりの水素エネルギーフィーバーに、復活の兆しのある原子力発電は形無しの様相を呈している。 そんな中、また新たな審議会が急に立ち上げられ、ぼやっとまたか何だろうと鷹揚に構えていた業界にショックを与えている。その審議会とは、エネルギー環境・合同会議というものである。 これは経済産業省の両雄である産業構造審議会と総合資源エネルギー調査会という二つの審議会が協同で作った会議(審議会の中の審議会)で、屋上屋を重ねているようでもあるが、かってなかった大きな枠組みであることは確かである。新聞報道(日本経済新聞1月23日)では以下のようになされている。 (引用はじめ) 具体的な検討の場として、産業構造審議会と総合資源エネルギー調査会の合同検討会議(奥田経団連会長)を1月21日に立ち上げ、8月を目途に最終答申を作る。大臣官房が事務局となる。 燃料電池は効率性やコスト面でまだ基幹と位置づけるには課題が多いので、開発支援策や規制緩和策を打ち出し、開発スピードを速めることを促す。(日刊工業新聞04年1月9日) 産業構造審議会と総合資源エネルギー調査会は、1月21日にエネルギー環境合同会議の初会合を開き、中長期的な環境エネルギー政策の検討に着手した。今後毎月1回のペースで開催し、6月を目途に中間報告をまとめる。(日本経済新聞1月23日) 里屋和彦です。 ところで、座長には、産業構造審議会座長であるトヨタの奥田氏がつくことになった。 余談であるが、経団連の会長ポストにおいて、東京電力の平岩氏の例外はあったが、製造業の大企業のトップがやはり、わが国では最大級に権威付けられることとなっており(そのこと自体は日本の拠って立つ基盤を表している)、その方針は今回のエネルギー環境・合同審議会のような権威あるポストの人選にクリアに表れる。 しかし、今回そのこと以上に大きな意味は、奥田氏が明確な原発不要論者(エネルギーフォーラム/2004.3 62頁)であり、この人事が原発推進路線の転換を企図しているのではないかということである。 科学ジャーナリストで、原子力推進派の中村政雄氏は、今回の合同会議について、その存在理由が判らない旨の批判している。 (引用はじめ) 日経産業新聞1月23日付は「あえてエネルギー業界の人は外し、大所高所から意見を伺う(経産省大臣官房)。既存業界のしがらみにとらわれない大胆な戦略提言を期待したい」と書いた。これでは、現場を知らずに記事を書くメディアを笑えない。素人を集めて戦えば勝てるといいたいらしい。(エネルギーフォーラム2004.3123頁) 里屋和彦です。 と、これまでのエネルギー関連の審議会に比べ、確かにより大所高所からの知見を披露しそうな面々が任命されている。 そして、4月7日に行われた第三回の合同会議にて、シナリオどおり?に核燃料サイクル見直し論が出てきた。(朝日新聞 2004年04月08日より) (引用はじめ) 日本の原子力政策の柱である核燃料サイクル計画について、経済産業省のエネルギー環境合同会議で7日、見直しを求める意見が相次いだ。同会議は、30年までのエネルギー・環境政策を決めるために、総合資源エネルギー調査会と産業構造審議会(いずれも経産相の諮問機関)で構成。6月に中間報告をまとめる。見直し論が経産省の足元にまで及んだことは、今後、波紋を広げそうだ。 同サイクル計画は、原発(軽水炉)の使用済み核燃料を再処理してプルトニウムを取り出し、原発で再利用(プルサーマル計画)する路線。 合同会議で、茅陽一・総合資源エネルギー調査会会長は「プルサーマル計画の停滞や、高速増殖原型炉『もんじゅ』の高裁での設置許可無効判決などを考えれば、今までの流れで推進しようということでは答えが出ない」と主張。何らかの革新的な原子力技術を導入しないと、行き詰まるという見通しを示した。(朝日新聞 2004年04月08日) 里屋和彦です。 原子力発電推進政策は、 があるが、現在の政府の政策は、将来的に@を前提としたAの政策であり、これまで、原子力業界の大分裂で報告してきた一方の雄(核燃料サイクル見直し派)は、Bをベースとして、@、Aはいわゆるオプションにしておけというものである。 従って、少なくとも”原子力を基幹電源とする従来のエネルギー政策を大幅に修正し、燃料電池など水素エネルギーや分散型電源へ”というニュアンスは別次元の論議のはずであるが、反原発派に足元をすくわれかねない状況を惹起させているのは皮肉なことである。 原子力推進の政策と水素エネルギーの開発推進の政策を二律背反に位置づけることは危険である。長年培ってきた原子力に関する蓄積された技術は、世界に誇るべき日本の資産であり、その維持のためには最新技術への不断の関与が欠かせない。 原子力産業界において、もしそのような契機が失われていくなら、その伝統(蓄積された技術)力は、急速に衰えていき、先で復活したいと思うことがあっても、新たに競争力を確保することはできない。 このようなことは、何の産業でもいえることではあるが、原子力技術のような巨大な産業体系を持つ分野においては、とりわけ欠かせないセンスである。
2004/04/20(Tue) No.01
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