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里屋和彦の『エネルギー学講座』



(2003/12)

Vol.43 水素社会へのシフト(1)
アメリカは、水素社会へ本気で舵を切り始めた。

02年1月に公表された「"FreedomCAR"計画」(燃料電池自動車開発プロジェクト)と、03年1月28日に一般教書演説で明らかにした「"FreedomFuel"計画」(水素供給に焦点をあて、製造・輸送・貯蔵などの分野での各種問題の解決を目指すプロジェクト)の二つが、その本命のプロジェクトである。

"FreedomFUEL"計画は、"FreedomCAR"計画を補完するもので、安定的で安全な水素供給に関する社会的なインフラ整備を行い、既存の化石燃料とコスト的に充分競合できる状態の実現が主な目的とされる。

アメリカは、両計画合計で向こう5年間17億ドル程度の規模と期間で、「2020年までに米国の多数の一般ドライバーがFCVを購入・運転できる社会を実現する」ことを目指している。

余談であるが、水素社会に関する議論では、クリントン政権の頃に、かの環境左派のワールドウオッチが、2020年にはアメリカは水素社会に入ると予想し、半信半疑の評論が繰り広げられたが、まさかブッシュ政権が同じ2020年までに・・・のような大胆な計画をぶち上げるとは想像だにしなかった。

閑話休題。
ところで、先日、私はあるシンクタンクの水素社会・燃料電池に関するセミナーに行ってきた。そこでの講師は、アメリカ(ブッシュ政権)がこのように水素社会への転換を目指すのは一にも二にもセキュリティのためであると強調していた。9.11で、アメリカは中東情勢に影響されないエネルギー供給体制を真剣に取り組み始めたと

日本では、水素社会云々の話は、環境問題の観点(ワールドウオッチと同じ)から喧伝されることが多いため、上述したアメリカの強い意志を感じている向きは少ない。

それにしても、最近の水素社会へのシフトという観点から論述される記事の多さはいささか異常とも思えるほどである。エネルギー関連の雑誌で、水素社会に関する特集が頻繁に組まれ、同工異曲の記事が引きもきらない。もともと欧州が先行してた水素社会への取り組みであるが、ブッシュ政権の猛追に会い、逆に世界中が引っ張られているかのような昨今である。

そんな中、ブッシュ政権はさらに新しいイニシャチブを始めた。「水素経済のためのパートナーシップ」(IPHE)がそれである。燃料電池、水素インフラはこれからの技術であることから法規制がついていっておらず。ISOでの基準等も決まっていない。どこがデファクトスタンダードをリードするかしのぎを削っている最中である。こういう中で、アメリカの主導の下でその基準作りを行おうとするのがIPHEプロジェクトである。

これまで、水素インフラ・燃料電池に関わる基準作りは欧州が先行しており(例えばEIHPプロジェクト等)、アメリカはぼちぼちとそれに呼応するというような対応であったが、いきなり”今後は俺が仕切る”とでもいうような豹変振りである。
(この法規制が未整備というのは、燃料電池自動車でいうなら、例えば下記のURLの図にあるような規制である)(http://www.mlit.go.jp/kisha/kisha03/09/090609/090609.pdf)

(転載はじめ)
日米欧など15カ国、水素・燃料電池で基準策定へ
日本・米国・欧州などの15カ国は「水素経済のためのパートナーシップ」(IPHE)をワシントンで開催し、水素エネルギーの普及や燃料電池の技術開発協力を行っていくことで合意した。基準・規制の国際統一に向けて、エネルギーや自動車などの民間企業を加えて国際間の連携をめざす。

IPHEは米政府が創設を提案していたもの。米国は、地球温暖化防止のための京都議定書に批准しなかったことから、独自の温暖化防止案として、開催をよびかけていた。今後、15カ国は水素エネルギー利用のための規格・基準の国際統一をめざすことになる。

ただ、米国は京都議定書に反対することで、地球温暖化防止に向けた日欧などの国際的な動きに水を差しただけに、IPHEで各国の足並みがどこまで揃うか、不透明だ。また、次世代クリーンエネルギーの本命とされる燃料電池分野では、日本の自動車メーカーなどが先行しているだけに、機密漏洩の危険もありそうだ。(2003年11月25日)
(http://response.jp/issue/2003/1125/article55853_1.htmlより)
(転載おわり)

里屋和彦です。
上述したシンクタンクの講師によると、アメリカで03年11月19日から21日までの3日間、ワシントンで開かれたらしく、各国の閣僚級に対して10月にいきなり召集?がアメリカからかかったそうである。通常、こういった会議を開くには一年ほどの準備期間を設けて段取りを進めることからも、ブッシュ政権の強引さを垣間見るようでもある。

ところで、水素社会の鍵となるテクノロジーは燃料電池であるが、現在フィーバー中の固体高分子型燃料電池(PEFC)の雲行きが、下記の記事に見るように怪しくなってきている。

(転載はじめ)
固体高分子型燃料電池(PEFC)を使った家庭用コージェネの早期商品化に暗雲が垂れ込めている。中枢となるフッ素系イオン交換膜の劣化問題が克服できず、実用化に必要とされる耐久性(約4万時間の稼動実績)を確保する見通しが立たないためだ。「某エネルギー関係企業で有名なメーカーのPEFC実証機を複数導入したところ、1,000時間を待たずして相次いで壊れた。個人的には、05年の商品化はまず無理だと思っている」。エネルギー業界の技術関係者はこう明かす。(エネルギーフォーラム 2004 JAN. 131頁)
(転載おわり)

里屋和彦です。
アメリカは固体高分子型燃料電池(PEFC)の開発は、燃料自動車用のみとすでに見切りをつけているようであり、定置型(家庭用、業務用、産業用におけるコージェネ用途)においては、燃料電池の本命といわれる固体酸化物型(SOFC)にその戦略をシフトしつつある。

日本は、一気呵成に大メーカーがこぞってPEFCに取り組んでる真っ最中であるが、そのぬかるみは深いものになりそうである。(つづく)

2003/12/31(Wed) No.01

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