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里屋和彦の『エネルギー学講座』



(2003/08)

Vol.41 原子力業界の大分裂(6)
日本における原子力業界の大分裂の最大の論点は、核燃料サイクルを今後とも続けていくか、それとも一時中断して、今後の技術開発の動向をみながら、使用済核燃料はしばらく貯蔵するかというものである。

そこには、使用済核燃料を即捨ててしまうオプション(ワンススルーという)は、当面とりあえず考慮されていない。資源の少ない日本にとっては、合意がはかりにくい政策であったためであるが、諸外国では、ワンススルー路線をとっている国は、アメリカをはじめ、カナダ、スウスウェーデン、ドイツ等いくつかある。

ところで、伝えられているようにブッシュ政権は、原子力復活の政策に舵をきってきている。その中で、すでに放棄していた核燃料サイクルの見直しも図られている。

前回述べたように、アメリカでは高速増殖炉の開発(実用化を目途としたもの)は、中止されているものの、研究自体は継続して行われており、プルトニウム・リサイクルが必要になった場合に備えて、彼らはまだ技術を持っている。アメリカの原子力技術は、他国と比べて非常に層が厚く、幅が広い。

ここら辺の詳しい流れについては、下記HP参照。
http://mext-atm.jst.go.jp/atomica/03010504_1.html

そのアメリカがもう一本の手を使い、日本の原子力政策の歴史的な根幹である核燃料サイクルに揺さぶりをかけてきた。

2003年7月29日、マサチューセッツ工科大学(MIT)の教授ら9人が報告書「原子力発電の将来」を発表したのである。

民主党に近い政策集団といわれるMITだけに、第一義的にはブッシュ政権の原子力政策をけん制する意味合いがあるが、その一方で、日本の「核燃料サイクル政策」に対する揺さぶりを意図していると読み取るべきだろう。このことは、民主・共和両党にまたがるグローバリストの合意でもある

ともあれ、その内容の要約は以下のようなものである。

(要約引用はじめ)
原子力は温暖化対策の貴重な選択肢であり、その総発電量の拡大が必要。ただし、当面はプルトニウム利用に踏み込まず、ワンススルー路線の維持を図る。

将来的にもプルトニウム利用が必要になっても、核拡散防止策や保障措置を改善するなどして、核が目的以外の分野に流れないよう、制度上の歯止めが不可欠である。(電気新聞 2003年8月6日)
(要約引用おわり)

別の記事を引き続き引用する。

(引用はじめ)
最終的な結論は、「少なくとも50年間は、米国および世界において、ワンススルーで進めていくのが妥当」というものであった。

(中略)

核燃料サイクル路線との比較において、総合的にみて、「現時点でワンススルーを上回るという説得力ある証拠がない」という判断を下している。

ところが、核不拡散の観点から軽水炉リサイクルの路線(注:日本の当面の路線)を否定している反面、長期的な高速炉リサイクル路線(注:日本の長期的目標の高速増殖炉リサイクル路線とは違うが。その違いについてはここでは省略)を否定しておらず、二者択一論によるワンススルー路線の提言ではない点に注目すべきだ。(電気新聞 2003年8月27日)
(引用おわり)

里屋和彦です。
折しも、その直後の2003年8月5日、日本においては、原子力委員会が「核燃料サイクルのあり方を考える検討会」の議論をまとめた報告書を発表した。

同報告書においては、核燃料サイクルをめぐるさまざまな疑問にこたえる形で、高速増殖炉サイクル政策堅持の必要性を改めて強調している。

(引用はじめ)
プルサーマルによる軽水炉サイクルは、諸外国において実用化段階にあり、日本国内でも技術的には実施可能である。

(中略)

軽水炉サイクルについては、高速増殖炉サイクルの導入を前提にプルトニウム燃料製造技術などを実用規模で習得する上で重要と指摘した。

再処理工場の操業に伴って、大量に発生することが予想されるプルトニウムに関しては、情報公開を通じた管理プロセスの透明性向上を通じて対応する。

具体的には、各事業者に対して、年度単位で利用目的、保管場所など詳細なデータの提出を求める。(電気新聞 2003年8月6日)
(引用おわり)

里屋和彦です。
しかしながら、核燃料サイクルかワンススルーかという議論は、冒頭にも述べたように当面の問題であって、将来的にはワンススルーせざるをえない状況は、下記のように可能性として予見されている。従って、将来の選択肢の確保のためにも、今からそのための研究開発を着手していくべきである。

(引用はじめ)
今後高速増殖炉の導入がより将来時点に遅延し、また導入すべき基数やエネルギー生産量も、当初の見込みより低位に抑えられるとなれば、軽水炉使用済み燃料の再処理についてもより遅延し、またその設備容量も限定される。

そのために備蓄すべき使用済み燃料の量も限定されるとなれば、必要以上の使用済み燃料はいずれ処分さざるをえない。その可能性があることは、もはや否定すべきでない。再処理の必要がないにも拘わらず、すべての使用済み燃料は、将来必ず再処理されるので直接処分は考える必要がないとする考え方は、いまや説得力を持ち得ない。
(「どうする日本の原子力」原子力未来研究会 日刊工業新聞 50頁)
(引用おわり)

里屋和彦です。
それにしても、先のマサチューセッツ工科大学(MIT)の教授ら9人が報告書「原子力発電の将来」の公表のタイミングは、意図的ではないだろうにせよ、直後の日本の核燃料サイクル堅持のアナウンスに冷や水をあびせかけたようなものであった。

2003/08/31(Sun) No.01

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