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前回、高速増殖炉が実現すれば、飛躍的な資源の有効利用に資するという光の側面に言及したが、やはり核兵器開発という影の側面を踏まえないといけない。 原子力発電所からの使用済み核燃料を再処理して、プルトニウムを抽出することが核兵器開発の大きな危惧として、一般に喧伝されるものの、一方で以下のような認識も原子力関係者の間ではポピュラーでもあった。 電気新聞「時評」より引用する。(日本は核武装するか?金子熊夫) 仮に作れたとしても、サイズや重量が大きくなり過ぎてとても運搬できない。そんなことをするのは恰も鋼鉄か鉛で飛行機を作るようなものだと言う人もいる。しかし、ちゃんと爆発はしないものの、プルトニウムをばら撒く程度の粗製爆弾は比較的容易に出来る。いかに粗製でも殺傷能力はあり、危険であることは間違いない。 (中略) 従って、いわゆる「ならず者国家」やテロ組織が、もし本当に核兵器を作ろうとするなら、わざわざ原発用のプルトニウムを使わずに、最初から兵器用プル専用の炉を使ってやるはずである。しかし、それであってもそんなに簡単にできるものではない。(電気新聞「時評」:日本は核武装するか?金子熊夫)http://www.engy-sqr.com/media_open/kkaneko/denkisinbun0206.doc 里屋和彦です。 (引用はじめ) その中で、核兵器級と原子炉級プルトニウムの相違について、「信頼性、性能面で、原子炉級プルトニウムでは兵器級に比べ劣るが、経験のある兵器設計者であれば、十分信頼性を持つ設計が可能である。従って、テロリストや、核兵器製造をたくらむ国家にとって、原子炉級プルトニウムも目標となりうる」と明確に述べている。(「どうする日本の原子力 山地憲治 日刊工業新聞 154頁) 里屋和彦です。 ところで、冒頭の金子熊夫氏が言及している「兵器用プル専用の炉」とは、どのようなものであろうか。これについては、物理学者の槌田敦が対談の形で下記のように答えている。(「もんじゅ」と核兵器と「原発の黄昏」『宝島30』1996年3月号 槌田敦(物理学者) 聞き手 加賀新一郎(フリーライター) (引用はじめ) 槌田:それは『もんじゅ』が、軍事目的の原子炉だからです。軍事用プルトニウムを生産する目的で開発された原子炉なんですよ。 宝島:それではなぜ、動燃は,「もんじゅ」の開発に躍起になったんでしょう。 槌田:高速増殖炉を使えば、純度の高いプルトニウムが生産できるからです。ブランケットにわずかに残ったプルトニウムは高純度で、しかも再処理が簡単なんです。運転するのは大変だけれども、軍事用の高純度のプルトニウムが簡単に生産できる。それが、高速増殖炉が生き延びてきた理由です。世界の原発の大半をしめる軽水炉の使用済み燃料を再処理すると、純度六〇%のプルトニウムができます。しかし、これでは原爆はつくれません。爆発させるくらいはできますよ。原子炉だって制御棒を抜けば爆発するんですから。しかしそれではテロ集団の核兵器で、とても一国が所有する核兵器とは言えません。 高遠増殖炉の使用済み燃料からは、純度九八%のプルトニウムを生産できます。高速増殖炉の燃料はなにかと言えば、軽水炉でできたプルトニウム。つまり、高速速増殖炉はプルトニウムの純度を高める装置なんです。言ってみれば、プルトニウムの濃縮装置ですね。 宝島:他の原子炉では、高純度のプルトニウムはとれないんですか。 槌田:核兵器に用いるプルトニウムを生産できる原子炉は、三種類あります。まず『もんじゅ』のような高速増殖炉、そして重水炉、黒鉛炉の三種類。 このなかでいちばん高純度のプルトニウムを生産できるのが高速増殖炉なんです。純度はだいたい九八%。重水炉、黒鉛炉では九六%くらいのプルトニウムしかできません。核兵器は純度の高いプルトニウムのほうがつくりやすいのです。純度が低いと、前爆発などの危険性があり、また貯蔵したり、飛行機で運んだりはできません。その意味では高速増殖炉でつくるほうがいいわけですが、一方これは、今回の事故で明らかになったように、ナトリウムを用いなければならないから非常にむずかしい原子炉なんですね。 ナトリウムというのは可燃性の金属流体ですが、そんじょそこらの可燃性ではない。原子炉の事故でいちばん怖いのは炉心の爆走や炉心溶融ですが、高速増殖炉の場合、暴走溶融もさることながら、それ以前にナトリウム漏れが起きてしまう。運転しては漏れ、運転しては漏れの連続で、とてもやっかいなんです。したがってアメリカや旧ソ連などは、重水炉や黒鉛炉でできた純度九六%のプルトニウムで原爆をつくっています。 一方、高速増殖炉にとことんこだわったのがフランスです。むずかしい方法でより純度の高いプルトニウムをつくろうとしているから、アメリカや旧ソ連などより核兵器の開発が遅れてしまった。 宝島:それで、ここへきてしきりに核実験を行なって、遅れを取り戻そうとしているわけですか。 槌田:そういうことです。 (中略) 宝島:そうはいっても、日本が核兵器を保有するとなれば、アメリカが黙っていないと思うんですが。 槌田:そうおっしゃる方がよくいますが、それは間違いです。いま日本が核兵器保有に近づいているのは、アメリカの援助によってなんです。アメリカは、自分の掌の上だったら核武装を援助するんですよ。いま日本の核武装化をいちばん望んでいるのは、アメリカです。なぜなら、対中共戦略のためです。 冷戦終了後、中国は核戦略の対象を、モスクワから南方海域に移しました。海軍を中性子爆弾で核武装する。これは中国の軍事雑誌にはっきり出ています。もし南方海域でなにか事が起きると、中国とぶつかることになるのはアメリカです。しかしアメリカとしては、直接ぶつかるのは避けたい。途中にバファーを置きたい。となると、日本に核武装させるのがいちぱんいいわけです。 宝島:いま日本に、核兵器用のプルトニウムがつくれる原子炉は何基あるんですか。 槌田:まず『常陽』『もんじゅ』の高速増殖炉が二基あります。そして、東海村にある日本第一号の原子炉で、これは黒鉛炉です。イギリスから買ったものなんですが、これがまたいわくつきなんですね。原子力の初めての大型事故といわれているのが、イギリスのウィンズケール原発の事故です。その事故を起こした原子炉の改良型を日本が購入したのです。イギリスで事故を起こしてるのにもかかわらず、なぜそんなものを購入したのか。それは、核兵器がつくれるからです。 防衛庁の安全保障調査会の報告書(一九六九年版)にも「東海原発の運転を発電炉から変更すると、年間二四〇キロの軍事用プルトニウムがつくれる。また発電炉のまま運転しても、炉心の周辺部分から六から一〇キロの軍事用プルトニウムができる」とか「アメリカやソ連の核兵器に対抗するのは無理だが、対中国にはそれで充分である」というようなことがはっきりと書いてあります。 当然、慌てたのがアメリカです。それで東海一号炉は認めたんですが、二号炉からアメリカの軽水炉を入れさせることになったんですね。この展開は、先の北朝鮮の核開発疑惑と同じです。北朝鮮も黒鉛炉を持っていて、軽水炉に変えさせられました。あとは、原子力研究所のなかにも一基あるようです。これも防衛庁の報告書に書いてある。おそらく黒鉛炉でしょう。 したがって、日本にある核兵器開発可能な原子炉は、高速増殖炉が二つ、防衛庁公認の原子炉が二つ(笑)ということですね。(「もんじゅ」と核兵器と「原発の黄昏」『宝島30』1996年3月号 槌田敦(物理学者) 聞き手 加賀新一郎(フリーライター) 里屋和彦です。 この対談は、1996年のものであるが、同氏は、日本の核武装への懸念を以前から指摘してきている。今日の危機とは文脈が違うとはいえ、「アメリカは、自分の掌の上だったら核武装を援助する」という指摘は、今日においては耳目を引く発言である。 アメリカが高速増殖炉の開発を断念したのは核拡散の懸念からだといわれている。各国の高速増殖炉の開発が頓挫している現況は、結果的?にはその線に符合した形となっている。 なお、今般の危機に際しての、同氏の言説(下記)を、上記の復習もかねて読まれてみてください。
2003/06/30(Mon) No.01
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