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里屋和彦の『エネルギー学講座』



(2003/05)

Vol.39 原子力業界の大分裂(4)
原子力の核燃料サイクルにおける論争の各論を追う前に、論争のキーファクターとなっている高速増殖炉について、その基本的な意義を確認する。原子力発電の議論は常に光と影があるが、ここでは光の側面から言及する。

今日では、40才台以上の世代にしか覚えはないかもしれないが、昭和40年台までは、原子力エネルギーは非常に瑞々しくそして輝かしく見えたものである。高速増殖炉などは当時意味など知る由もないが、夢の原子炉とその頃から大きな期待が寄せられていた。

昭和46年版、55年版科学技術白書を見ても、当時高速増殖炉への大きな期待がかけられていたことが判る。
http://wwwwp.mext.go.jp/kag1971/index-33.html
http://wwwwp.mext.go.jp/kag1981/index-13.html

少し大雑把な内容であるが、高速増殖炉の意義について、具体的に確認していく。

高速増殖炉の仕組みを簡単にいうと、ウラン238は燃えない(核分裂しない)がプルトニウム239は燃える。そこで自然界に大量にあるウラン238をプルトニウム239に転換(増殖)すれば、原子炉で取り出せるエネルギーは飛躍的に増えることになる。つまり、高速増殖炉とはプルトニウムを増殖させて燃やす原子炉の方式ということになる。(詳しくは、「高速増殖炉」のキーワードで、検索して様々なHPで確認ください)

プルトニウムが増殖しつつリサイクルされるということになると、その間はまさに純国産エネルギーとなることを意味にする。

(引用はじめ)
我が国では、昭和30年代初頭、将来、高速増殖炉が実用化されれば、ウラン資源が60〜70倍有効利用されるとの期待から、再処理・プルトニウムリサイクルを国の方針として決めた。(日本原子力学会誌より)
http://wwwsoc.nii.ac.jp/aesj/publication/p-t60.doc
(引用おわり)

里屋和彦です。
ここで、そもそもエネルギー資源の可採埋蔵量について確認すると、
各資源の可採埋蔵量は、概ね下記(東京電力のHPより)の数字位で現在語られている。

となれば、現在の原子力発電は、化石燃料の延命をいくらか助けている程度であり、これほどの逆境にさらされている状況下で、推進派にとっても、割に合う話でない。

やはり、前回でも述べたが、高速増殖炉の夢がないと、原子力開発の魅力は大激減するのである。

核燃料サイクル開発機構のHP(http://www.jnc.go.jp/zmonju/mj_intro/mj_kiseki/kiseki_html/kiseki0201.html)をみると、3500年のウラン資源の利用が可能とあり、文字通り桁違いの年月である。

原子力図書館の資料を見ると(下図)、
http://www-atm.jst.go.jp/pesco/ENERGY/KURASI5.HTM
発電に占める各一次エネルギーの割合は、
原子力(35%):天然ガス(24%):石炭(19%):石油(9%)となるため(下図)、

高速増殖炉が実用化すると単純に期待すれば、
原子力35%に加えて、
天然ガス(24)+石炭(19)+石油(9)=52%も原子力エネルギーに置き換わるため
、合計では35+52=87%が原子力で賄えることになる。。

一方、一次エネルギー総需要に占める電力用エネルギーの比率が、1995年では39.5%となっていることから、(同HPより)

一次エネルギー総需要に占める原子力(高速増殖炉)の比率は
87%×39.5%=34%となり、現在、ほとんど0に等しい日本のエネルギー自給率が飛躍的に高まることになる。

しかしながら、
世界各国で、その開発は頓挫し、日本とフランス?くらいがかろうじて細々と孤高の開発を続けている。(下記HPを参照)
http://www.atom.meti.go.jp/siraberu/recycle/03/main02s.html

アメリカは、最も早く80年代に撤退した。技術のフロンティアを常に目指す彼らが、いち早く撤退するのは、高速増殖炉の開発には多くの困難があるといわれているが、やはり素朴に納得できない。

幾多のトラブルを克服してスペースシャトルを飛ばすあのアメリカが、何ゆえ高速増殖炉をかくもはやくあきらめたのか。日本でさえ、断念せず、実験レベルでは一応の成功?をおさめつつあったというのに。

その謎は、残念ながら私には判らないが、少なくとも化石燃料をビジネスの中核とする人たちにとっては、飛躍的な資源の有効利用が得られる高速増殖炉の存在は煙たい存在に違いない。

日本だけが、夢のエネルギーを実現し、そして世界のエネルギー技術ををリードしていくようになってしまうような道程を、日本は果たして歩んでいけるのだろうか。

「もんじゅ」は、現在止まったままになっているが、あの事故の原因はプラントの複雑なプロセスに関わることでなく、温度計の設置の単純な設計ミスであった。

2003/05/31(Sat) No.01

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