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里屋和彦の『エネルギー学講座』



(2003/04)

Vol.38 原子力業界の大分裂(3)
原子力業界の大分裂の話に戻る。

現在政府は、プルトニウムの在庫を増やさない政策をとっている関係上、使用済み燃料を再処理して出てくる(出てきた)プルトニウムを軽水炉で燃やすいわゆるプルサーマル政策をとろうとしている。

ところが、周知のようにプルサーマル計画が、先般の東電不正データ問題で、寸前のところで頓挫(しかし何というタイミング!)してしまったため、プルトニウムの在庫を減らせないでいる状態である。

となると、使用済み燃料をそのまま捨てるか、再処理できる環境が整うまで貯蔵しておくという二つのオプションが出てくることになる。しかし、使用済み燃料をそのまま捨てる(直接処分と呼ばれている)方策も膨大な研究が必要とされるため、結局のところ、貯蔵しておくしかないといういわば袋小路にはいってしまっているのが現在の状況なのである。

エネルギー学講座Vol. 34 「原子力業界の大分裂」で設定した対立軸

使用済核燃料に対しての「再処理・プルサーマル政策」vs.「長期貯蔵政策」

というのは、意見の対立点として整理できるが、現実の世の中は周知のように

「再処理・プルサーマル政策」ができない状況にあるから、「長期貯蔵政策」をとって、当面上に述べた2つのオプションの是非を検討していこうという方向になっているのである。

従って、原子力業界の大分裂という現況は、両者の対立ととらえるよりも、「再処理」→「プルサーマル」→「長期貯蔵政策」という議論のある意味での後退過程で生じている現象と認識すべきである。

したがって、エスタブリッシュメント内での対立という風に安易に煽ると、それこそdivide and ruleにより、原子力事業そのものが揺さぶられてしまう(undermine)ことを危惧する。

もう一度、整理すると

「再処理・プルサーマル政策」派は、高速増殖炉の見通しがないままの再処理は、国際圧力状況下において、再処理が現況では実施できないので、高速増殖炉の見通しがつくまで、「プルサーマル」で乗り切ろうよといっているのであり、

「長期貯蔵政策」は、プルサーマルはリサイクルといいながらかえって経済的でないから、先に経済的になるか、高速増殖炉(経済的な)の実用化の見通しがつくまで貯蔵しておきましょう、

といっているのである。

よくよく見ると、両方の主張の根幹のキーワードは、高速増殖炉の将来の実用化の見通しであり、それがないということになるとこの対立関係は、全く意味がないものとなってしまう。

高速増殖炉を、一人日本が実用化できるようになってしまうと、飛躍的なエネルギー自立が図れるため、グローバリストから見るととんでもないという話になってしまうだろう。

プルサーマルしか使い道がない再処理に、技術開発の夢を感じる向きはないだろう。せいぜい化石燃料の有効利用というオプションに組み込まれるだけの存在となる。専門家の意見を引用すると、

(引用はじめ)
再処理せずプルトニウムのリサイクル利用をしないでも原子力開発の意義はあるのか?この点については、より長期的な視点からの評価が必要である。海水からのウラン生産が実用化しない限り、軽水炉による利用だけでは、原子力はエネルギー資源として石油並みかそれ以下の供給力に止まる。
(アジア地域の安全保障と原子力平和利用 山地憲治 地域構想特別委員会第3次報告書 社団法人 原子燃料政策研究会より)
(引用おわり)

ということになる。

このように原子力業界は、長期貯蔵の退却を余儀なくされる中、その貯蔵場所の確保自体が困難な状況になってきている。そこで、中間貯蔵という喫緊の問題が浮上(何年も前からであるが)してきた。

(引用はじめ)
中間貯蔵施設を新設、改正原子炉規制法が成立

原子力発電所で生じる使用済み核燃料を再処理するまでの間、一時的に貯蔵する「中間貯蔵施設」の新設を盛り込んだ改正原子炉等規制法が9日、参院本会議で可決、成立した。来年6月に施行される。貯蔵方法や施設の建設地は未定で、建設は2010年以降になる見通しだ。

全国の原発で貯蔵されている使用済み核燃料は7000トンに上り、貯蔵容量の小さい原発では限界に近づいている所もある。2005年に操業開始が予定される青森県六ケ所村の再処理工場の処理能力は最大800トンで、1年間に発生する使用済み核燃料900トンを下回る。このため、電気事業者から中間貯蔵施設が必要との声が上がっていた。

電力業界は今後、中間貯蔵施設を設置する事業者の設立や貯蔵方法の検討を進める。施設建設には、通産相許可が必要となる。中間貯蔵施設の完成後、使用済み核燃料は再処理工場に搬入されるまでの間、中間貯蔵施設で保管されることになる。[毎日新聞平成15年6月10日]
(引用おわり)

原子力業界は、現在この中間貯蔵を大きな戦略と位置付けているが、上に述べたその議論の歴史や、「中間貯蔵」という名前そのものからしても、そんな立派な形容詞が相応しいとは思われない。その感覚こそが、現在の原子力業界、翻っては日本が置かれている立場を如実に示していると思う。

2003/04/30(Wed) No.01

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