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里屋和彦の『エネルギー学講座』



(2003/03)

Vol.37 天然ガスと水素エネルギー(2)
これからの20年間で、エコカーの主役になるのは、燃料電池車でなく、ハイブリッド車である。

本稿においても、あえて水素エネルギーについての冷静な視点として、言及を行う。

水素エコノミー社会(水素エネルギーを主要エネルギー源とした産業社会)の到来は目前と迫ってきたといわれる。

時間軸の見方の差を除けば、水素エコノミーの到来に対して疑いを抱く向きは極めて少ない。これは、イデオロギーの違いに拘わらず、共通している。

例えば、かのレスターブラウンのワールドウォッチ研究所、エイモリーロビンズのロッキーマンテン研究所、そしてジェレミーリフキン等々、エネルギー左派の面々のみならず、ダニエルヤーギンのCambridge Energy Research Associates (CERA)、そして前回紹介したブッシュ政権まで、水素エコノミーラッシュである。

例えば、下記URL参照。
http://www.worldwatch.org/press/news/2001/08/02/
http://www.rmi.org/sitepages/pid540.php

余談であるが、ブッシュ政権の水素エネルギーの利用を目指したロードマップ「National Hydrogen Energy Roadmap」では、水素の製造手段の一つとして、原子炉からの電気や熱を利用して、水を電気分解することも提起されている。原子力の復活を進めているブッシュ政権ならではの話題である。

そして、「エントロピーの法則」の著著で日本でも有名なジェレミー・リフキンの最新著も「水素エコノミー」(NHK出版)である。その中で著者は、10年以内には内燃機関から水素燃料自動車への移行が始まるとしている。(同書283頁)

事実、世界の大手自動車メーカーは、こぞって燃料電池車の導入計画を発表している。

しかし、フィーバーと化している風潮の中で、これまでにも述べたように、燃料である水素の供給体制(水素インフラ)が、果たしてそんな短い期間の間で、整うかどうか根強い懐疑の念が渦巻いているのもまた事実である。

冷静に見れば、大手メーカーは、燃料電池車の開発を大々的に喧伝しながら、一方で冷静に保険(ハイブリッド車の開発)ともいえる投資を計画しているのである。(あるいは燃料自動車の投資こそ保険かもしれない)

実際、トヨタ自動車は、4月17日、ガソリンエンジンと電動モーターを組み合わせて走るハイブリッド車「プリウス」を全面改良し、今秋にも日米欧で発売すると発表した。

(引用はじめ)
この新型プリウスは、燃費を現行モデルより10−15%改善し、ガソリン1リットルあたり35km超まで伸ばした。通常の小型車と比べると1リットルあたりの走行距離は、15kmも長い。

(中略)

トヨタは今後、新システムを他の車種にも搭載、2005年までに10車種で30万台のハイブリッド車を販売する方針だ。
(読売新聞 2003.4.18朝刊)
(引用おわり)

里屋和彦です。
最も、アクティブな推計でも、燃料電池車の普及台数は2010年で5万台である(しかもこれは基本的に皮算用の数字である)。国内レベルの数字ではあるが、この数字の違い一つでも燃料電池車の不確実性が浮き彫りになっている。

そして、水素インフラの見通しは、本当のところどうとらえられているのだろうか。

(引用はじめ)
各メーカーがハイブリッド車戦略を強化している背景には、エコカーの本命とされる燃料電池車の普及に時間がかかることがはっきりしてきたという事情がある。燃料となる水素の扱いが難しく、水素充填スタンドの普及に時間がかかることや、巨額の開発費がかかることから、「普及には早くても20年はかかる」(ホンダ幹部)との見方が多い。

このため、当面はハイブリッド車市場が主戦場になると、各メーカーは見ている。

(中略)

これまで、燃料電池車重視の姿勢だったGMも方針転換し、今年後半から、5年間で7車種のハイブリッド車を発売する方針を表明した。フォードモーターやダイムラークライスラーもこの動きに追随している。
(読売新聞 2003.4.18朝刊)
(引用おわり)

里屋和彦です。
世界的に著名なエネルギー論者よりも、このような巨額な投資リスクを抱えている世界のメーカーの動向にこそ、現実的な道程が示される。このことを見逃すべきでない。

水素エコノミーフィーバーの今こそ、第二の核融合フィーバーにならないような冷静な視線が必要である。

2003/03/31(Mon) No.01

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