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里屋和彦の『エネルギー学講座』



(2002/12)

Vol.34 原子力業界の大分裂(1)
日本における原子力業界の大分裂について書く。

これまで原発推進派vs.原発反対派の構図はポピュラーなものであったが、この数年、原発推進派の中が真っ二つに割れつつある。

しかも割れた原因が、日本の原子力政策の中心課題であった、「核燃料サイクル」をめぐるものだけにその意味するところは大きい。果たして、この大分裂は深刻なものであるか、それともとるに足らないものなのか。

この対立の構図を一言で表すと、使用済核燃料に対しての「再処理・プルサーマル政策」vs.「長期貯蔵政策」ということになる。

戦後、原子力発電を導入して以来、日本の原子力業界は、原子力推進の政策について小異はあるものの、長い間一枚岩を保っていた。その政策の中心テーマに位置しているものが、「核燃料サイクルの確立」というものである。その全体像を、電気事業連合会のホームページから引用する。

上の図を見ると上下二つのサイクルが見て取れるが、上のサイクルが、いわゆるプルサーマル(※1)方式による核燃料サイクルであり、下のサイクルは高速増殖炉(※2)を核とした核燃料サイクルである。

※1プルサーマル
ウランを燃料として原子炉で燃やした後、使用済燃料の中にできたプルトニウムを、軽水炉で燃やせるようにウランと混ぜて、混合原子燃料に加工したものをMOX(Mixed Oxide)燃料といい、MOX燃料を、現在の原子力発電所の軽水炉で使用することを「プルサーマル」という。

※2高速増殖炉
高速増殖炉(FBR:Fast Breeder Reactor)は、発電しながら、消費した以上の燃料を生み出すこと(増殖)のできる原子炉であり、現在の軽水炉などに比べて、ウラン資源の利用効率を飛躍的に高めることができるといわれている。

本来なら、核燃料サイクルは、高速増殖炉を含んだものが本丸を意味していた。しかし、肝心の高速増殖炉が「もんじゅ」の事故により、その開発が頓挫しているため、急場しのぎで核燃料サイクルの中心に祭り上げられているのがプルサーマル方式なのである。

したがって、高速増殖炉を核にすえた燃料サイクルを仮に「核燃料の完全リサイクル」と呼ぶなら、プルサーマル方式はいわば「核燃料の部分リサイクル」でしかない。

(原子力発電に係わる用語については、電気事業連合会のホームページ等をご参照ください。また、今日のぼやき有料版(02.12.24)に、自然界に存在する核爆発を起こす物質であるウラン235のことと、同じく核爆発を起こす物質であるプルトニウム239の製法が分かりやすく記述されているので、是非ご参照下さい。)

閑話休題。

さて、「再処理・プルサーマル政策」vs.「長期貯蔵政策」の大きな亀裂を示す記事を下記に引用する。(エネルギーフォーラム2003年1月号24−25頁)

(引用はじめ)
元東京電力副社長・日本原燃社長の豊田正敏氏(「長期貯蔵政策」派)は主張する。

ウラン資源の需給が緩和しており、価格も20年前より下がっている。一方、使用済み燃料再処理費などは20年前より高騰し、ウラン燃料に比べて核燃料サイクル費は2倍に。またサイクルの中核となる高速増殖炉の実用化の目途は立っていない。

この状況では、使用済み核燃料は原発敷地内30〜40年間程長期貯蔵し、将来必要性が生じた時に再処理・リサイクルを行うべきである。また六ヶ所村再処理工場は稼動せざるをえないが、余剰プルトニウムを持たない国際公約から、ウランのみ回収し、プルトニウムは高レベル廃液と混ぜガラス固化すべきである。

これに対して、まず早瀬祐一東電取締役(「再処理・プルサーマル政策」派)が「原発の稼働率が向上する中で、再処理コストが原子力全体に与えるインパクトは小さい。またエネルギーを長期的、安定的に確保するのは、資源事情、セキュリティ、環境問題などの要因を考慮すべきで、経済性に特化すべきでない」と批判。(エネルギーフォーラム2003年1月号24−25頁)
(引用おわり)

里屋和彦です。
記事には書かれていないが、当然のことながら、両者とも長期的な視点における核燃料サイクル(FBRありきの完全リサイクル方式)の考え方は一致しており、問題は短期的、つまり今どういう政策をとるべきかについての対立なのである。

両者の議論は、原子力学会に端を発し、エネルギー関連の雑誌にても昨今かまびすしい。次回、その主要な論点について考察したい。



2002/12/31(Tue) No.01

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