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里屋和彦の『エネルギー学講座』



(2002/07)

Vol.29 東電の隠蔽問題と、自由化、原子力
電力vsガスの不毛な対立について続けて書く予定であったが、今般ニュースとなっている東電の隠蔽問題と、自由化、原子力の問題を絡めて少し論じたい。

この東京電力の原子力発電所の点検記録虚偽記載問題は非常に気になる問題である。通産省(当時)への告発者は検査を請け負ったゼネラル・エレクトリック・インターナショナル社(GEII)に派遣されていた親会社のゼネラル・エレクトリック社(GE)元社員だったというから、謀略の線も考えておかねばならないであろう。

それにしても、下記の責任の取り方の素早さ?の背景は一体何であろうか。
(転載はじめ)
東京電力は30日、同社の原子力発電所の自主点検記録が改ざんされていた問題の責任を取る形で、南直哉社長と荒木浩会長が辞任する方向で最終調整に入った。両氏は財界活動からも身を引くほか、那須翔相談役も日本経団連評議員会議長を退任する公算が大きい。(読売新聞2002 年 8月 31日)
(転載おわり)

周知のように、電力業界は日本のエスタブリッシュメントの中核を形成している。その中核を一挙に直撃している背景には何らかの報復の線もあり得るであろう。

さらに気になるのは、またもやのプルサーマル計画の延期である。
(転載はじめ
東京電力の福島、新潟両県の三原子力発電所で、一九八〇年代後半から九〇年代前半にかけて発生したひび割れなど計二十九件のトラブルについて、自主点検作業の検査記録や修理記録などに事実と異なる記載がされた疑いのあることが経済産業省原子力安全・保安院の調べで二十九日、分かった。保安院では、意図的な記録の改竄(かいざん)が明らかになれば電気事業法違反の疑いがあるとしている。東電の南直哉社長は同日夜、記者会見を開き、プルサーマル計画を当面延期する方針を明らかにした。
(転載おわり)

日本は、プルトニウムの在庫を増やさない方針を1990年代初頭に国際公約しているが、日本全体のプルサーマル計画の度重なる延期は、国際公約を果たすどころか、蹂躙している印象を対外的に与え続けている。

今回の問題で、原子力発電の政策がまたしても大きく頓挫することとなるだろうが、このことは原子力発電を電力自由化論議の枠外に置こうと腐心してきた電力業界に大きなボディーブローになってくるのは必至である。

電力業界が核となった、電力自由化問題の最大のテーマである「発送電分離」についての米国からの強大な圧力をどうにかかわそうとしていた矢先だっただけに、タイミングは奇妙である。

振り返ってみると、今年になって電力自由化論議についての激しい攻防にどうやら、一定の方向性が見えてきていた。

Vol.18 エネルギー産業の自由化(6)で述べたように、電力・ガスの自由化の議論は、自由化の範囲(程度)をどうするかという問題と、自由化のための制度設計(その主な争点は「発送電分離」)をどうするかという二つの問題に別れる。

思い起こせば、日本における「発送電分離」問題は、そもそも細川連立政権からの政争の副産物のようなものであった。東電の平岩相談役は自由党の小沢一郎党首と親しいと言われ、細川連立政権が誕生した際、電力業界は旧新生党に接近した。こうした姿勢に自民党が猛反発して、電力攻略の一環として、1997年初めの佐藤通産相(当時)の「発送電分離」発言につながったと言われている。

そして、Vol.25 エネルギー産業の自由化(13)に報告したように、電力自由化についての、経済産業省 vs. 電力業界の攻防は、電力業界が、経済産業省に対して、肉を切らせて(全面自由化を認めて)、骨を断つ(発送電分離を拒否した)戦略で、電力業界の方に軍配が上がりつつあった。

(再転載はじめ)
電力自由化を議論する総合資源エネルギー調査会(経済産業相の諮問機関)の電気事業分科会が4日開かれ、電力小売りの自由化範囲について、段階的に新規参入範囲を広げ、5年程度をめどに一般家庭も含めた「全面自由化」を実現することが固まった。なお、経産省は、電力業界が抵抗していた発電、送電部門の別会社化「発送電分離」に踏み込まない方針を示した。 (毎日新聞2002年4月5日)
(再転載おわり)

Vol.24 エネルギー産業の自由化(12)でみてきた、平成13年4月19日に行われた日本エネルギー経済研究所主催の経済産業省と電気事業連合会合同での米国カリフォルニア州電力危機調査報告講演会での両者の攻防は、結果的に電気事業連合会の方に軍配が上がりつつあったのである。

ところが、公正取引委員会による巻き返しが図られた。

(転載はじめ)
電力全面自由化へ、発送電分離を提言−公取委
公正取引委員会は28日、電力小売りの全面自由化に向けた提言をとりまとめた。全面自由化の制度をつくるうえで、大きな焦点となっている「発送電分離」に対して、「競争が有効に機能する環境を整備するには系統運用(送電部門)を電力会社から切り離すべきだ」と分離を求めている。(毎日新聞2002年7月1日)
(転載おわり)

この奇妙な、かってない権力分散の様相に私自身、何か違和感を感じた。電力自由化問題を論議していた電気事業分科会をはじめとして、相当の議論が積み重なられてきた結果、「発送電分離」は望ましくないという方向で、業界の世論は固まりつつあったのに一体何かあったのだろうかと。

このような状況の中、経産省(長い攻防の末、電力業界と軌を一にした)は、再度メッセージを発した。

(転載はじめ)
経産省資源エネルギー庁首脳は21日、電力自由化問題に関連して「(電力会社の)発送電分離は必ずしも必要ない」との考えを示した。また総合資源エネルギー調査会(経済産業省の諮問機関)のこれまでの議論について、「安定供給の面が十分でない。原子力発電の推進について、何らかの方法を考える必要がある」との認識をしめした。いずれも電力自由化の方向を変える可能性のあるものとして注目される。(日刊工業新聞2002年8月22日)
(転載おわり)

こういった背景の中で、冒頭の東電問題が炸裂したのである。

2002/07/31(Wed) No.01

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