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里屋和彦の『エネルギー学講座』



(2002/05)

Vol.27 パイプラインについて(その2)
パイプラインについて前回の続きを書く。

拙論文の『わが国におけるエネルギー供給システムのグランドデザイン』において、国内幹線パイプラインの早急な整備を主張したが、このことについては、広域天然ガスパイプライン研究会という団体が、すでに1990年代初頭から細々と啓蒙を続けていた。

都市ガス業界でも、独自に国内幹線パイプラインの構想を持っていたが、LNG体制がどっかりと根をおろしている電力業界の反対にあい、1990年代後半以降、この話題はエネルギー業界ではタブーとされてきたのである。

ただ、当時は今日話題となっている分散型エネルギーシステムへのシフトという考え方は、まだ現実的ではなく、あくまで欧米に比べて、わが国ではパイプラインが整備されないのはどうしてかという素朴な疑問が、国内幹線パイプライン構想の動機だったのである。

ところで、広域天然ガスパイプライン研究会は、三菱グループのイニシャチブで運営されているものである。

そして、三菱グループの中核である三菱商事は、わが国のLNG(液化天然ガス)ビジネスのパイオニアとして、特にブルネイとの取引において大成功を収め、エネルギー業界に不動の地位を築いてきた。

その三菱グループが、パイプラインによる天然ガスのビジネスを長年目論んでいるにも拘らず、未だその目途が全く立たないのである。もしやロックフェラーvs.ロスチャイルドの利権の相克があるのかと考えたりもしたが、わが国におけるパイプライン建設コストの異常な高さが、少なくとも大きな桎梏であることは間違いないといえる(拙論文参照)。

同研究会のホームページにおいて、国内幹線パイプラインの具体的な構想が展開されている。

(広域天然ガスパイプライン研究会より)
http://xing.mri.co.jp/research/research/pipeline/

(引用はじめ)
天然ガスの輸入パイプラインが現実化してくるとき、国内幹線パイプラインは、既に骨格が完成しているか、または、少なくとも同時に完成する必要がある。国内のエネルギー輸送システムの近代化を図り、消費者に求められている供給の効率化を実現するためには、国内幹線パイプラインの実現が不可欠である。

わが国の幹線ガスパイプラインの現状は、十分な国産資源に恵まれなかった、内陸に大きな需要が分布していない、パイプラインの建設コストが高いなどの理由から国産天然ガス開発会社などが建設した、高々2,000kmの延長があるに過ぎない。欧米の主要先進国は、国内幹線パイプラインが既に整備されています。韓国、台湾でも、既に整備されている。

(中略)

わが国の国内幹線パイプライン構想は、2005年から2020年にかけて完成し、"梯子型"を形成する。つまり、日本海沿岸縦断の輸入幹線パイプライン、太平洋沿いの需要開拓用幹線ガスパイプライン、及びこれらを連結する列島横断の準幹線ガスパイプラインである。概算建設コストはそれぞれ1.3兆円、2.2兆円で、合計3.5兆円となる。
(広域天然ガスパイプライン研究会より)
http://xing.mri.co.jp/research/research/pipeline/
(引用おわり)

ところで、拙論文は国内幹線パイプラインの整備を訴えたものであるが、パイプラインの中に入るガスは一体どこから持ってくるのかという大問題については触れていない。巷間喧伝されているのは、サハリン、シベリア、中国等における天然ガス田から長距離のパイプラインでガスを持ってこようとするものである(下図参照)。このことについては、日本国内においても活発な議論が行われている。

(広域天然ガスパイプライン研究会より)
http://xing.mri.co.jp/research/research/pipeline/

なおサハリン、シベリア、中国等のガス田以外に、日本近海にも将来有望といわれているメタンハイドレートという資源が存在している。この件について、副島先生が「今日のぼやき」で言及されておられる。

(引用はじめ)
「メタンガス(天然ガス)のハイドレート」を安全に取り出して、日本国のエネルギー自給体制を勝ちとって、それで、次の時代の大きな戦略図をひくべきだ、と書こうと思う。ガス・ハイドレートというのは、10000メートル以上の深海に氷の塊(かたまり)状になって退蔵している天然ガス資源のことだ。この問題が、実はものすごく大きいのだ。
(今日のぼやき有料版「299」)
(引用おわり)

補足情報として以下報告したい。

(引用はじめ)
メタンハイドレートが21世紀中葉以降において最も有望な天然ガスとして注目されるのは,次のような背景あるいは理由による。

メタンハイドレートは,メタンなどの天然ガスが水の中に閉じ込められてできる氷状の物質であるが,従来,南極や北極の凍土地帯,ロシア北部のガス田におけるパイプ閉塞事故等もあり陸地においては,その存在はかなり早くから知られていた。その後,海底下の地中における調査結果の発表から,その分布は世界的で,その資源量についても,従来型天然ガスと同規模の量を有するレベルであることが判ってきた。

特に日本において,四国,紀伊半島沖にある南海トラフ海域あるいは北海道周辺海域でも有望な天然ガス,ハイドレートの存在が確認されてきた。しかも,その資源量は,我が国の現時点(1995年消費量ベース,約540億m3)における天然ガス年間消費量の137年分にも相当する量であるともいわれ,1次エネルギーの80%以上ものエネルギーを海外に依存する資源小国の日本にとって貴重な国産エネルギーとして期待される。
(財団法人エネルギー総合工学研究所のHPより)

(引用おわり)

その資源量についてみてみる。

(引用はじめ)
世界のメタンハイドレート資源量
メタンハイドレートの分布に関しては,現在迄に得られたデータを基に全世界の分布個所が把握されている。下にその分布図を示す。

(財団法人エネルギー総合工学研究所のHPより)
http://www.iae.or.jp/DATA/TENBOU/1997-HIZAIRAI/4shou.html

資源量のより精度高い推定には、今後一層の研究が必要であるが、いずれにせよメタンハイドレートによる天然ガス資源量は在来型天然ガス枯渇時代の次世代をになえるだけの膨大な量にのぼることは間違いないと見てもよさそうである。

メタンハイドレートは特に資源のない我が国にとっては特別の価値を持つ。メタンハイドレートは一般に海溝に向かう陸棚斜面に発達しているため,日本列島はメタンハイドレートについては恵まれた地形である。

下図は日本周辺海域のメタンハイドレート分布図で、一点鎖線で囲まれた水域が日本が主張する排他的経済水域(いわゆる200カイリ経済水域)である。 同図に示される通り同海域における主なメタンハイドレート分布地域は,200カイリ経済水域内に在り,この点からも日本に有利な海洋地下資源である。 なかでも四国、紀伊半島沖合いわゆる南海トラフ,北海道奥尻島海域では、実際にメタンハイドレートも採取されている。

日本海域全体の資源量についても種々の見方があるようであるが、専門家の意見を総合するとメタンガス量にて約7兆m3はあると見られている。 これは、日本の天然ガス年間総消費量(1995年度約540億m3)の約137年分に相当する。

(財団法人エネルギー総合工学研究所のHPより)
http://www.iae.or.jp/DATA/TENBOU/1997-HIZAIRAI/4shou.html
(引用おわり)

以上のようにメタンハイドレートは純国産資源として有力な候補と考えられ、実用化できれば、資源のないことによって常にその存立が脅かされている我が国にとって、大きな自立の基盤となるだろう。

すでに石油公団等は、通商産業省からの委託事業として、国内石油天然ガス基礎調査を実施しており、掘削技術の開発を中心に幅広く研究を進めている(石油公団のHP参照)


研究者に近い人に直接伺ってみると、他の先進国の関心の薄さを尻目に、日本の研究は相当に進んでいるそうである。いざ実用化の段になって、国際石油資本にいいとこどりされないように知的所有権の面でも先手をどんどん打っておくべきであろう。

幸い?国際石油資本は、日本近海のメタンハイドレートに特に関心を示しているわけではない。それは彼らは、在来型の石油、天然ガスの大量の資源を世界的に支配しているわけであり、また上の図にもあるようにメタンハイドレート自体、世界中に分布しているわけで、彼らにしてみれば、必要になったらいくらでも本気で取り組むが、今はそこまで気が回らないといったところであろう(もちろん研究者レベルでの関心は高いものがあるが、日本のように国家をあげて取り組むといった姿勢はない)。

副島先生は、わが国のエネルギー供給体制にとって、この稀有の僥倖のチャンスを生かすよう主張されている。

(引用はじめ)
「メタンガス(天然ガス)のハイドレート」を安全に取り出して、日本国のエネルギー自給体制を勝ちとって、それで、次の時代の大きな戦略図をひくべきだ。(今日のぼやき有料版「299」)
(引用おわり)

経済産業省では2020年代以降の実用化を目途としているそうであるが、もっと早く利用できるようになって、日本の独立に大いに寄与してもらいたい。

2002/05/29(Wed) No.01

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