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カリフォルニア電力危機(5)〜危機の原因A 平成13年4月19日に行われた日本エネルギー経済研究所主催の経済産業省と電気事業連合会合同での米国カリフォルニア州電力危機調査報告講演会の話を続ける。 日本における電力の規制改革は、アメリカの意向が陰に陽に感じられる。 今回のように、経済産業省と電気事業連合会が、同じ事象(カリフォルニアの電力危機)に対して、大きく異なる見解を披露するのは、異例である。 このことは、理論的には健全ともいえるかもしれないが、実際、規制当局と、被規制産業の関係は、理論的に目論む(両者の適切な?緊張関係)ようにはいかないのが通例で、実は被規制産業にイニシャチブを握られてしまうのである。 (転載はじめ) この論文は、米国電気事業が、公益事業委員会の規制を精密にすればするほど生産性は落ちていく、という立証とも表裏になっていて、その後の米国電力自由化の一つのキックになったもので、わが国にもこのことは当てはまる。 「規制当局対電力」という構図で、わが国電力自由化をとらえること自体が間違いである。電力改革というのは、結局は電力ビジネスの中にある利権構造・保守派のかたまりと、企業経営としてのダイナミズムを求めるかたまりとの相克に新規参入者・規制当局・顧客が巻き込まれているものと解釈すべきものである。 企業としてのダイナミズムがちゃんと出てくれば、電力改革は早晩決着し、規制当局は安楽死することになるだろう。「電力対規制当局」という構図を残せば、規制当局は電力業界に気に入られるようにプレイしながら自らの存在ドメインを残すことになるだろう。(エネルギーフォーラム掲示板[34] コラムニストK (エネルギーフォーラム誌の電力コラムニスト)2001/08/26) しかるに、カリフォルニア電力危機をめぐり、両者が対立するという異例の事態の裏には、アメリカという外力が働いている(全面自由化を掲げている経済産業省側へ)と考えるのが自然である。 それはさておき、報告講演会の内容を詳しく見ていく。まず電事連の報告からみてみる。 電事連によると、今回の電力危機は、単純な市場メカニズムに任せて供給責任が希薄化したことが主な原因であり、自由化における制度設計は、細部の問題あると位置づけている(ように見える)。 (引用はじめ) @供給力の不足 A送電線運用の制約 B発電コストの上昇 C制度設計上の問題 そして、下記の事項に関して、教訓を引き出している。 (引用はじめ) A価格の安定 B小売市場 C全般 (引用おわり) 一方、経済産業省は、制度設計の問題に重きをおいて論旨を展開している。要するに新規参入の促進および長期投資をうながすような制度設計をすることにより、供給力の不足はなくなるといっている。 まず、電力危機の原因は、 (引用はじめ) A電力システムの問題 B混乱の背景となる事情 今回の調査から、将来の検討に向けて次のような論点を提起している。 (引用はじめ) A安易・硬直的な価格規制の危険性 Bリスク管理手段の制限が安定供給を阻害する問題 C環境規制が投資に与える影響 D需要家の選択肢としての分散型電源 E電力系統の安定性を確保する仕組み F需要を価格に弾力的に反応させる仕組み G電力市場における価格操作を監視・防止する仕組み H電力供給システムのガバナンス 長々とした提案であるが、自由化の成否の要は制度設計にありと最後に結んでいる。 (引用はじめ) 次回、どちらに軍配をあげるべきか考える。
2002/02/16(Sat) No.01
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カリフォルニア電力危機(4)〜危機の原因@ カリフォルニアの電力危機の原因をめぐって、経産省vs電事連の先鋭な対立が顕在化した。 経済産業省と、全国の電力会社でつくる電気事業連合会は、平成13年4月19日、日本エネルギー経済研究所主催の講演会において、電力自由化を進めた米カリフォルニア州で、大規模停電などの「電力危機」が起きた問題に関する調査報告書を、それぞれ発表した。 何の問題に対しても、オーソドクシー(正統的な)なテキストへのアプローチが正攻法である。従って、まずはこの報告書から取り上げたい。 カリフォルニア電力危機の原因について、両者の見解を一言でいうと、 となる。 ところで両者の立場を、今日の政局に当てはめてラベリングすると、さしずめ となるだろう。 国民としては、構造改革派にエールを送りたいところではあるが、アメリカも強力にこの派をバックアップしており、気がついたときには、金融工学を駆使した彼国に、いいとこどり(cream skimming)されるのではないかとの危惧を日本のエネルギー業界は持っている。その意味で、エンロンの破綻は、業界(特に電力会社、ガス会社)にある種の安堵感をもたらした。 国民のための自由化であって、国民のためにならないような外国のための自由化であってはならない。このことを噛みしめるために副島先生のぼやきから引用する。 (引用はじめ) リバータリアニズムは、徹底的に市場原理主義です。しかし、リバータリアンたちは、各国のそれぞれの国民文化を、認めます。アメリカの基準を押し付ける、ということに、きわめて、慎重です。リバータリアニズムは、世界中だけでなくアメリカの国内政治と経済をも握り締めているグローバリストたちと闘うからです。 総括原価方式で守られてきた公益事業の会社の高コスト構造の体質は改められるべきであるが、悩ましいのは、「自由化していけば、料金が下がる」という命題の是非について、未だ歴史的判定はなされていないということである。 エネルギー学講座Vol.19で引用した、米国消費者連盟(CFA)の報告を再度引用する。 (引用はじめ) 電力市場における小売競争導入は、それによる効率性向上の成果よりはるかに大きなコスト増をもたらした。その結果、料金は下がるどころか上昇した。 コスト増の原因としては、市場の力の乱用を避けるために要求された予備電力の増設、投資を引き出すための資本コストの増大、既存発電所のたなぼた的利益の発生、競争力ある送電ネットワーク運営コストの増大などである。 カリフォルニアの電力危機も、電力料金の引き下げが容易でないことの証左である。仕入れ価格を自由化して、小売(一般の客への販売)価格を凍結していたから、電力会社の破綻を招いたといわれているが、小売価格の凍結が、もしなかったら一般の客へそのしわ寄せがいくだけであった。 また、あの電力自由化の元祖、英国でも、未だ料金が下がらないため、制度設計の試行錯誤を続けている。(「ブラウンアウトの危機を超えて」下村芳弘 エネルギーフォーラム社 29〜34頁) もちろん、価格が下がっている国・地域もあることも銘記しておきたい。特にドイツでは、中規模および大口需要家向けや複数サイト業務用向けの価格が50%、超大口需要家向けは20%下がっており、小口商業用、家庭用は20−30%値下げとなっている。(「電力自由化時代への対応と取り組み」2000年1月17日 電気新聞主催シンポジウム 報告書より) 電力自由化の試行錯誤は、現在進行形であり、明確な出口(低廉なエネルギー価格の安定的な供給)は、まだ見えていないのである。 ともあれ、両論併記となった奇妙なこの報告会についてのニュースを引用する。 (転載貼付はじめ) 経済産業省と、全国の電力会社でつくる電気事業連合会は平成13年4月19日、電力自由化を進めた米カリフォルニア州で、大規模停電などの「電力危機」が起きた問題に関する調査報告書を、それぞれ発表した。 発電能力不足で、停電が発生したしたことをめぐって経済産業省側は、「将来の需要に見合った設備投資が行われるよう、新規参入の促進などが重要」と指摘し、従来通り競争促進策を推進する立場を示した。 一方、電事連側は、「単純な市場メカニズムに任せるだけでは供給責任が希薄化する」と分析し、自由化には慎重に対処すべきだとの主張を盛り込み、調査を共同で行ったにもかかわらず、それぞれの立場を反映し異なる結論を導いている。 現地調査は、平成13年2月下旬に実施された。カリフォルニア州の自由化制度では、発電会社と配電会社とを分離し、送電部門は非営利組織が担当している。配電会社は、電力市場で発電会社から電力の卸売りを受け、配電設備を経由して電力を小売りしている。 電力危機の原因について、経済産業省は「IT(情報技術)の普及に伴う予想以上の電力需要の伸びが背景にある」と分析。そのうえで同州の自由化制度特有の欠陥として、電力供給拡大のための長期投資を電力会社に促がすシステムがない点を指摘し、それが構造的な電力不足を悪化させた、と結論づけた。 同省は「自由化の推進策では、電力の安定供給を確保する制度が重要」との教訓を導き出し、日本では将来の電力不足を回避するため、電力会社や新規参入会社が円滑に設備投資を出来るような環境を整備するべきだと主張した。 一方、電気事業連合会はこの仕組みについて、「発電と送電とを分離し電力の安定供給義務を誰が負うか、あいまいにしたのが大きな要因だった」と指摘し、同省内で検討されている、日本での発電・送電分離案をけん制。さらに、「発電施設と送電施設とが同時に完成するよう、一体的な設備投資計画が必要だ」と強調した。(平成13年4月19日 毎日新聞) 次回、この調査報告書をさらに詳しくみていく。
2002/02/13(Wed) No.01
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