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里屋和彦の『エネルギー学講座』



(2002/02)

Vol.24 エネルギー産業の自由化(12)
カリフォルニア電力危機(5)〜危機の原因A

平成13年4月19日に行われた日本エネルギー経済研究所主催の経済産業省と電気事業連合会合同での米国カリフォルニア州電力危機調査報告講演会の話を続ける。

日本における電力の規制改革は、アメリカの意向が陰に陽に感じられる。

今回のように、経済産業省と電気事業連合会が、同じ事象(カリフォルニアの電力危機)に対して、大きく異なる見解を披露するのは、異例である。

このことは、理論的には健全ともいえるかもしれないが、実際、規制当局と、被規制産業の関係は、理論的に目論む(両者の適切な?緊張関係)ようにはいかないのが通例で、実は被規制産業にイニシャチブを握られてしまうのである。

(転載はじめ)
ミクロ経済学の世界では、ノーベル賞をもらったG.スティグラーが、「公的規制の当局は、結局は被規制産業に気に入られるように、その業界の利益のための規制をしてしまう」という主旨の論文を書いて以来、この種の議論が活発に行われている。

この論文は、米国電気事業が、公益事業委員会の規制を精密にすればするほど生産性は落ちていく、という立証とも表裏になっていて、その後の米国電力自由化の一つのキックになったもので、わが国にもこのことは当てはまる。

「規制当局対電力」という構図で、わが国電力自由化をとらえること自体が間違いである。電力改革というのは、結局は電力ビジネスの中にある利権構造・保守派のかたまりと、企業経営としてのダイナミズムを求めるかたまりとの相克に新規参入者・規制当局・顧客が巻き込まれているものと解釈すべきものである。

企業としてのダイナミズムがちゃんと出てくれば、電力改革は早晩決着し、規制当局は安楽死することになるだろう。「電力対規制当局」という構図を残せば、規制当局は電力業界に気に入られるようにプレイしながら自らの存在ドメインを残すことになるだろう。(エネルギーフォーラム掲示板[34] コラムニストK (エネルギーフォーラム誌の電力コラムニスト)2001/08/26)
(転載おわり)

しかるに、カリフォルニア電力危機をめぐり、両者が対立するという異例の事態の裏には、アメリカという外力が働いている(全面自由化を掲げている経済産業省側へ)と考えるのが自然である。

それはさておき、報告講演会の内容を詳しく見ていく。まず電事連の報告からみてみる。

電事連によると、今回の電力危機は、単純な市場メカニズムに任せて供給責任が希薄化したことが主な原因であり、自由化における制度設計は、細部の問題あると位置づけている(ように見える)。

(引用はじめ)
カリフォルニア電力危機の原因

@供給力の不足
州内の新設電源なし、米国北西部の渇水、近隣州からの電力輸入の減少・輸出増加、夏の老朽ガス火力稼動による秋以降の計画外停止の増加、発電事業者の意図的な計画外停止やガス売りへの転換

A送電線運用の制約
供給エリア間の連系容量制約、電源立地場所の不特定による送電線新設の困難化、増強計画の責任所在が不明確

B発電コストの上昇
燃料である天然ガス価格の高騰、NOx排出権価格の高騰

C制度設計上の問題
予測される需要増に対する長期的供給力確保に責任を負う仕組の欠如、私営電力への火力発電の売却要請・スポット経由の取引義務・長期契約による調達禁止などリスクヘッジの困難、発電事業者の意図的な価格操作を招く余地のある取引制度による卸電力価格が高騰、私営電力の小売価格凍結による経営破綻
(引用おわり)

そして、下記の事項に関して、教訓を引き出している。

(引用はじめ)
@供給の安定
単純な市場メカニズムのみでは、供給責任が希薄化し、安定した供給力が確保されず、価格の急騰や供給支障の不安は払拭されない。卸市場の自由化により取引量(電気の移動量)が増加し、日々変動することや電源立地場所の不安定さ等から送電線建設計画策定が困難となる。さらに、電源と送電線の効率的設備形成が困難化する恐れがある。

A価格の安定
十分な供給力がないと市場メカニズムは働かない。スポット市場への依存度が高くなると、価格変動が大きくなる。電源の多様化は、価格の安定に寄与するが、市場に任せた時には一つの燃料に依存する傾向が高まって進みにくい。価格は当然振れ、高くなることもあり、高止まりすることもある。

B小売市場
卸市場が自由化されても小売市場が規制されると事業者のリスクは格段に高まるとともに、市場メカニズムが働かなくなる。

C全般

  • 電気という財の特質を十分認識する必要がある。

  • 失敗した場合の社会的影響は、急激かつ大きい。

  • 関係者、利用者の徹底した議論が必要である。

  • (引用おわり)

    一方、経済産業省は、制度設計の問題に重きをおいて論旨を展開している。要するに新規参入の促進および長期投資をうながすような制度設計をすることにより、供給力の不足はなくなるといっている。

    まず、電力危機の原因は、

    (引用はじめ)
    @外部環境的要因
    IT経済化等による需要の高い伸び、厳しい環境規制等による発電所・送電線建設の遅れ、天然ガス価格の高騰、水不足による水力発電の低迷等

    A電力システムの問題
    構造的供給力不足、電力会社のリスクヘッジ手段の未整備、需給の逼迫に対するシステムの脆弱性

    B混乱の背景となる事情
    利益団体間の政治的妥協による改革、州政府と連邦政府の権限の二重構造
    (引用おわり)

    今回の調査から、将来の検討に向けて次のような論点を提起している。

    (引用はじめ)
    @設備投資が円滑に行われる仕組み
    長期契約の自由、発電能力確保義務、新規参入の促進など、安定供給が確保される制度設計が極めて重要である。送電ネットワークは公共財的役割があるため、市場原理だけでは投資誘因は最適化し難い。

    A安易・硬直的な価格規制の危険性
    競争移行期間の暫定的料金規制の適用には慎重な検討が必要である。

    Bリスク管理手段の制限が安定供給を阻害する問題
    電力事業者が安定供給を目指してリスク管理できる手段が重要である。異なる取引サービスの競争が、リスク管理選択を多様化させる。

    C環境規制が投資に与える影響
    発電所や送電設備の建設に大きな影響を及ぼす。供給力の制約要因にならないよう、今後も調査検討が必要である。

    D需要家の選択肢としての分散型電源
    安定供給確保のためには、需要家側の電源調達の選択肢を可能な限り広げることも重要である。今回の電力危機を背景にカリフォルニア州の需要家は分散型電源の導入に積極的になった。

    E電力系統の安定性を確保する仕組み
    電力自由化においては、単に市場を自由化するのではなく、系統安定のうえで必要となる新たなルールを検討することが必要である。

    F需要を価格に弾力的に反応させる仕組み
    カリフォルニア電力危機では小売価格が凍結され、需要家に価格を通じた情報が伝達されず、需要は需給逼迫に反応して抑制されなかった。需要家が価格に需要を反応させることができれば、問題を相当緩和できるとの指摘がある。

    G電力市場における価格操作を監視・防止する仕組み
    需給を瞬時にマッチさせることが不可欠な電力市場の特質は、価格操作が起こりやすくなる。意図的な発電事業者の価格吊り上げの可能性が指摘されたが、両論ある。系統運用上不可欠な電源についても独占力行使の指摘もある。価格操作の監視とともに、価格操作が起こりにくい市場設計・市場構造が重要である。

    H電力供給システムのガバナンス
    事態の変化に応じて迅速な制度運用の調整を行うことができるかが課題である。特定の利害関係者に偏らない公平性の確保も重要である。
    (引用おわり)

    長々とした提案であるが、自由化の成否の要は制度設計にありと最後に結んでいる。

    (引用はじめ)
    我が国としては、制度設計の失敗がカリフォルニア州のように重大な結果を招くことを踏まえ、自由化の検討に際しては細心の注意を払う必要がある。また、環境変化を不断に注視し、機動的に対応することも関係者に求められる。カリフォルニアを含め、諸外国の改革事例について経験を摂取・吸収することは今後とも有益である。
    (引用おわり)

    次回、どちらに軍配をあげるべきか考える。
    (つづく)

    2002/02/16(Sat) No.01

    Vol.23 エネルギー産業の自由化(11)
    カリフォルニア電力危機(4)〜危機の原因@

    カリフォルニアの電力危機の原因をめぐって、経産省vs電事連の先鋭な対立が顕在化した。

    経済産業省と、全国の電力会社でつくる電気事業連合会は、平成13年4月19日、日本エネルギー経済研究所主催の講演会において、電力自由化を進めた米カリフォルニア州で、大規模停電などの「電力危機」が起きた問題に関する調査報告書を、それぞれ発表した。

    何の問題に対しても、オーソドクシー(正統的な)なテキストへのアプローチが正攻法である。従って、まずはこの報告書から取り上げたい。

    カリフォルニア電力危機の原因について、両者の見解を一言でいうと、

  • 経済産業省  :制度設計の問題

  • 電気事業連合会:自由化自体の問題
  • となる。

    ところで両者の立場を、今日の政局に当てはめてラベリングすると、さしずめ

  • 経済産業省(全面自由化派)  =構造改革派

  • 電気事業連合会(部分自由化派)=抵抗勢力
  • となるだろう。

    国民としては、構造改革派にエールを送りたいところではあるが、アメリカも強力にこの派をバックアップしており、気がついたときには、金融工学を駆使した彼国に、いいとこどり(cream skimming)されるのではないかとの危惧を日本のエネルギー業界は持っている。その意味で、エンロンの破綻は、業界(特に電力会社、ガス会社)にある種の安堵感をもたらした。

    国民のための自由化であって、国民のためにならないような外国のための自由化であってはならない。このことを噛みしめるために副島先生のぼやきから引用する。

    (引用はじめ)
    2000年5月29日
    リバータリアニズムは、本来、徹底的に市場優先主義です。あえて、市場原理主義(マーケット・ファンダメンタリスト)だ、という、悪罵に近いものまで、私は、自分の本や、雑誌の評論文の中で、認めました。 それなのに、リバータリアニズムは、国際市場の場面では、どうして、一国市場主義なのだ、という、疑問あるいは、批判がでてくるのは、当然と考えます。

    リバータリアニズムは、徹底的に市場原理主義です。しかし、リバータリアンたちは、各国のそれぞれの国民文化を、認めます。アメリカの基準を押し付ける、ということに、きわめて、慎重です。リバータリアニズムは、世界中だけでなくアメリカの国内政治と経済をも握り締めているグローバリストたちと闘うからです。
    (引用おわり)

    総括原価方式で守られてきた公益事業の会社の高コスト構造の体質は改められるべきであるが、悩ましいのは、「自由化していけば、料金が下がる」という命題の是非について、未だ歴史的判定はなされていないということである。

    エネルギー学講座Vol.19で引用した、米国消費者連盟(CFA)の報告を再度引用する。

    (引用はじめ)
    電力規制改革を実施した州では、電気料金の大幅な引き下げが期待されていたにもかかわらず、消費者は規制改革を行わなかった州より高い料金を支払い、低レベルのサービスを受ける結果となっている。

    電力市場における小売競争導入は、それによる効率性向上の成果よりはるかに大きなコスト増をもたらした。その結果、料金は下がるどころか上昇した。

    コスト増の原因としては、市場の力の乱用を避けるために要求された予備電力の増設、投資を引き出すための資本コストの増大、既存発電所のたなぼた的利益の発生、競争力ある送電ネットワーク運営コストの増大などである。
    (引用おわり)

    カリフォルニアの電力危機も、電力料金の引き下げが容易でないことの証左である。仕入れ価格を自由化して、小売(一般の客への販売)価格を凍結していたから、電力会社の破綻を招いたといわれているが、小売価格の凍結が、もしなかったら一般の客へそのしわ寄せがいくだけであった。

    また、あの電力自由化の元祖、英国でも、未だ料金が下がらないため、制度設計の試行錯誤を続けている。(「ブラウンアウトの危機を超えて」下村芳弘 エネルギーフォーラム社 29〜34頁)

    もちろん、価格が下がっている国・地域もあることも銘記しておきたい。特にドイツでは、中規模および大口需要家向けや複数サイト業務用向けの価格が50%、超大口需要家向けは20%下がっており、小口商業用、家庭用は20−30%値下げとなっている。(「電力自由化時代への対応と取り組み」2000年1月17日 電気新聞主催シンポジウム 報告書より)

    電力自由化の試行錯誤は、現在進行形であり、明確な出口(低廉なエネルギー価格の安定的な供給)は、まだ見えていないのである。

    ともあれ、両論併記となった奇妙なこの報告会についてのニュースを引用する。

    (転載貼付はじめ)
    <加州電力危機>調査報告書を発表 経済産業省と電事連

    経済産業省と、全国の電力会社でつくる電気事業連合会は平成13年4月19日、電力自由化を進めた米カリフォルニア州で、大規模停電などの「電力危機」が起きた問題に関する調査報告書を、それぞれ発表した。

    発電能力不足で、停電が発生したしたことをめぐって経済産業省側は、「将来の需要に見合った設備投資が行われるよう、新規参入の促進などが重要」と指摘し、従来通り競争促進策を推進する立場を示した。

    一方、電事連側は、「単純な市場メカニズムに任せるだけでは供給責任が希薄化する」と分析し、自由化には慎重に対処すべきだとの主張を盛り込み、調査を共同で行ったにもかかわらず、それぞれの立場を反映し異なる結論を導いている。

    現地調査は、平成13年2月下旬に実施された。カリフォルニア州の自由化制度では、発電会社と配電会社とを分離し、送電部門は非営利組織が担当している。配電会社は、電力市場で発電会社から電力の卸売りを受け、配電設備を経由して電力を小売りしている。

    電力危機の原因について、経済産業省は「IT(情報技術)の普及に伴う予想以上の電力需要の伸びが背景にある」と分析。そのうえで同州の自由化制度特有の欠陥として、電力供給拡大のための長期投資を電力会社に促がすシステムがない点を指摘し、それが構造的な電力不足を悪化させた、と結論づけた。

    同省は「自由化の推進策では、電力の安定供給を確保する制度が重要」との教訓を導き出し、日本では将来の電力不足を回避するため、電力会社や新規参入会社が円滑に設備投資を出来るような環境を整備するべきだと主張した。

    一方、電気事業連合会はこの仕組みについて、「発電と送電とを分離し電力の安定供給義務を誰が負うか、あいまいにしたのが大きな要因だった」と指摘し、同省内で検討されている、日本での発電・送電分離案をけん制。さらに、「発電施設と送電施設とが同時に完成するよう、一体的な設備投資計画が必要だ」と強調した。(平成13年4月19日 毎日新聞)
    (転載貼付おわり)

    次回、この調査報告書をさらに詳しくみていく。
    (つづく)

    2002/02/13(Wed) No.01

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