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里屋和彦の『エネルギー学講座』



(2001/10)

Vol.19 エネルギー産業の自由化(7)
米国消費者連盟(CFA)の報告の前にニュースをひとつ。

政府は、さらなる電力小売自由化を目指している。その先の全面(完全)自由化も視野に入っているようだ。

(引用はじめ)
政府が電力小売の自由化の範囲を04年春までに拡大することが確実となった。自由化の対象は現在、2万ボルト以上の電気を使う大型の工場やビルなど全需要家の3割弱に限られているが、少なくとも需要の63%にあたる6千ボルト以上の利用者まで広げる。実現すれば、中小工場やスーパーなどが電気の売り手を選べるようになる。

平沼経済産業相は、「(家庭も含めた)完全自由化も視野に入れる」と表明しており、電話の「マイライン」のように、家庭が電力会社を選ぶ仕組みの導入時期も合わせて検討する。(2001.11.3 朝日新聞)
(引用おわり)

話を戻す。
米国最大の消費者団体である米国消費者連盟(CFA)が、この程電力規制改革(リストラクチャリング)についての興味深い調査結果を報告した。(http://www.consumerfed.org/erspring_pr.pdf)

ちなみにCFAは、マイクロソフトの商品価格に関するレポートを1999年に発表し、話題を呼んだ団体である。96年から98年の3年間にOSの価格を不当に高く維持し、1本当たり35から45ドルの過剰な利益を得たと糾弾している。

今回の電力規制改革についても辛辣である。

その報告書は、“Nation’s Recent Experience with Electricity Restructuring Reveals Its Near-fatal Flaws”「最近の電力規制改革で明らかになったほぼ致命的な欠陥」と題され、連邦と各州の政策担当者に向けた提言の形をとっている。Restructuring=規制改革という訳語となっているが、自由化と読んで差し支えないであろう。

10月17日のガスエネルギー新聞に、その概要が出ている。同新聞は、都市ガス産業の業界紙なので、記事掲載基準にバイアスはかかっているであろうことは承知の上で、あえて紹介したい(自由化牽制のためでない)。

報告書の執筆は、CFAのクーパー研究部長で、8月30日に緊急発表された。以下、引用していく。

(引用はじめ)
電力規制改革を実施した州では、電気料金の大幅な引き下げが期待されていたにもかかわらず、消費者は規制改革を行わなかった州より高い料金を支払い、低レベルのサービスを受ける結果となっている

電力市場における小売競争導入は、それによる効率性向上の成果よりはるかに大きなコスト増をもたらした。その結果、料金は下がるどころか上昇した。コスト増の原因としては、市場の力の乱用を避けるために要求された予備電力の増設、投資を引き出すための資本コストの増大、既存発電所のたなぼた的利益の発生、競争力ある送電ネットワーク運営コストの増大などである。
(引用おわり)

アメリカで現在(2001.11)、電力規制改革(=自由化)のプロセスの途上にあるのは、25州で、約半分である。その他の州は調査中か、全く動きがない。クーパー部長は、その規制改革を実施している主要な州の問題として、次のような例を指摘している。

(引用はじめ)
・カリフォルニア州では、エネルギー供給業者による電力と価格の適切な操作を禁じたため、電力卸価格は4倍になり、夏には停電の脅威にさらされた。

・ニューヨーク州では、家庭用の夏料金が40%以上も上昇、停電の恐れもあった。このため、プライスキャップ制、ディーゼル発電による緊急配電、節電プログラムなどの劇的な規制介入を行い、さらに夏期の低温で事態のさらなる悪化を防いだ。

・規制改革に取り組んでいる22州のうち、比較的早くはじめたマサチューセッツやモンタナ州では、料金規制の撤廃、市場価格での料金設定をおこなった。この結果、消費者の負担は劇的に急増した。
(引用おわり)

クーパー部長は、規制改革を存続する為には徹底した改善を要すると指摘している。その改善の具体的内容は下記である。

(引用はじめ)
・現在考えられているより少なくとも2倍の競争者の必要性
・予備電力として従来考えられてきた量(15-20%)よりはるかに大きい量(30%)」が必要と主張している。
(引用おわり)

そして、最終結論は議論を呼びそうな刺激的な提言となっている。

(引用はじめ)
・規制改革にまだ手をつけていない州は、実施しない方がいい。
・規制改革をスローダウンまたは止めることができる州はそうするのがいい。
(引用おわり)

次回から、以上の事を検証する為に、カリフォルニアの電力危機について考えていきたい。


2001/10/31(Wed) No.01

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