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里屋和彦の『エネルギー学講座』



(2001/06)

エネルギー学講座 Vol.15
エネルギー産業の自由化について(3)

ネットワーク型産業における自由化のあるべき姿を描くことは難しく、その進展は、試行錯誤によるほかない。

エネルギー産業の自由化が話題になっている。

平沼経済産業大臣は、家庭用の電気まで小売の自由化を目指していると、かって発言し、物議をかもした。

電気やガスとかのエネルギーという財の自由化は、鉛筆を誰でも自由に売ってよろしいというものと少し訳が違う。

資本家が自由好き勝手に、電力設備、ガス設備を建設しようとすると、競争者を倒そうとして供給過剰になり、結局共倒れとなって消費者に不利益を被る。このことを、過当競争/破滅的競争という。このことは、歴史のレッスンである(らしい)。これは、電力・ガスのようなエネルギー産業のみならず、他のネットワーク型産業(電話、交通)にも当てはまる。よって、これらの産業には、独占を認めたほうがよい。このことを自然独占という(らしい)。学者の言葉で、少し整理すると、

(引用始め)
経済学において、電力通信をはじめとするネットワーク型産業はもともと「規模の経済を持つ費用逓減産業」として位置付けられてきた。巨大な初期投資を必要とし、生産量が多くなれば多くなるほど単位当たりコストが下がっていく産業では、競争市場はうまく機能せず、むしろ現在の支配的プレーヤーの地位を認めて(自然独占)、料金規制という形で資源配分の最適化を実現した方が合理的だ、というのがその説明である。そうした整理の下、電力ビジネスは「規模の経済」をもつ産業として、垂直統合・供給独占をベースに発展してきた。
(引用終わり)(電力改革の構図と戦略 15頁 西村陽 エネルギーフォーラム社 2000年)

かかったコストを全部、消費者の価格に転嫁する悪名高き?やり方(総括原価方式という)は、上記の考え方を基に、多くの国で採用されていた。

それが1980年代の後半から大きく転換し、電力ビジネスに「市場」を創出し、「競争」を導入する経済学的モデルが登場した。

(引用始め)
電力ビジネスに「市場」というものが作り得る、ということをまとまった形で示した初期の文献に、1983年にMITのポールジョスコウとリチャードシュマーレンシーの著によって出された「電力市場」(Markets for Power)がある。この本では電力産業の発電レベルの競争、小売りレベルの競争の可能性が示唆され、その前提条件として既存電力産業が持つネットワーク、すなわち送電線網の共有インフラ化という新しい規制の枠組みが示された。このことが、1980年代以降の各産業の規制改革、すなわち航空、鉄道等の運輸産業、電気通信産業や、電力・ガスといたエネルギー産業の規制改革、競争システムの導入に数多くの枠組み・モデルを提供してきた。
(引用おわり)(電力改革の構図と戦略 14頁 西村陽 エネルギーフォーラム社 2000年)

ようするに既存のネットワークは、独占が認められていたが故に形成されたものである。よって、だれもが、使用料金を払えば第三者でもアクセス(して需要家に送ることを託送という)してもいいじゃないか、そして競争させれば価格は下がるじゃないかという考えである。

余談だが、ディベートで高名な松本道弘氏は、すでにエスタブリッシュしているもの(例えば送電線)を、飛んできて上からおいしいところをいただく(例えば託送)行動パターンを蜂に喩えられ、これはアングロサクソンのやり方であると言われていた。私も、第三者アクセスという考え方で、ネットワーク型産業の自由化が図られるなどとは想像もしなかった。今では、毎日そういう記事を読んでいるので何とも思わないが、よく考えてみると、こんなことをあっさり発明してしまう彼民族の賢さに畏怖してしまう。

閑話休題。このように、電力なら、送電系統が十分に拡充されていること”ということが自由化を開始する条件である。しかし、拡充される前は、総括原価方式あるいはもどきでも何でもやらないと、冒頭に述べた破滅的競争の歴史のレッスンがあるがために、膨大な投資をしようという動機(インセンティブ)が働かない。このことは、現在行われている自由化論議においても焦点の一つである。この点において、経済産業省の石油審議会が、昨年12月13日に自由化の最先進国である英国の王立国際問題研究所にガス事業の自由化についてヒアリングを行っている。

(引用はじめ)
新設パイプラインは調達コストが高くなるため規制で保護される必要がある。一定期間は独占権を与え、余力を解放するにとどめ、費用回収後に全面解放した方がいい。
(引用おわり)(ガスエネルギー新聞2000.12.20)

一方、コスト回収というリスクの存在のため、リスクヘッジとして前回vol.14で紹介した金融技術が発達してきたのも事実である。

細かい話は除くと、ネットワーク型産業の自由化というのは、自然独占が前提であった考え方を補正しつつあるもので、発展途上である。よって、現在のところ試行錯誤で進むしかない。この意味では、自由化に反対している人は業界にも少ない。しかし、その程度に関する将来の見通しについては選択肢がある(下記の経済産業省HPの引用中の4.法律改正(規制緩和)にあたり想定される選択肢 参照)。

この自由化の制度設計のため、日本では業界の命運を決する審議会が立て続けに開かれており、喧々諤々の議論がなされている。ひとことでいって、現在のところ、誰も何が正しいのか解らない。自由化のために、どのような制度設計が望ましいかが見えない状態である(次稿以降、議論の内容を紹介していく)。

理論的な話は、とりあえずおき、具体的に、電力・ガス産業の自由化の現状および今後の展望は下記である(経済産業省のホームページより引用)。

ポイントは小売りの自由化という考えで、誰でも自由に(電力・ガス会社以外でも)電気・ガスを売って良いということで、小売の範囲は少しずつ拡充されつつある。小売のイメージを下記に示す。

(朝日新聞 2000.2.19)


(経済産業省のホームページからの要約引用はじめ)

電気事業法及びガス事業法の一部を改正する法律について

経済構造改革の一環として、平成13年までに国際的に遜色のないコスト水準を目指すべく、現在独占の認められている電気事業・ガス事業につき、一層の競争導入を促進すると同時に、料金規制などの見直し(規制緩和)を行うため、第145回通常国会において、電気事業法及びガス事業の一部を改正した。

1.法律名

電気事業法及びガス事業法の一部を改正する法律

2.法律改正(規制緩和)の内容

競争促進のための制度整備

@電気事業における小売の部分自由化の導入

電気の小売については、電力会社による独占供給が認められていたが、大口の需要家(特別高圧需要家:原則使用規模2千KW以上で2万V特別高圧送電線から受電)に対しては、電力会社以外の供給者による電気の小売を可能とした。また、競争を有効に働かせるために、電力会社が保有する送配電線を、電力会社以外の供給者(新規参入者)が利用するための公正かつ公平なルール(託送ルール)を整備した。

Aガス事業における大口自由化の一層の促進

既に行われていたガス事業の大口小売の自由化を一層促進するため、大口の範囲を200万m3から100万m3に拡大するとともに、その際、競争を円滑に促進する観点から、ガス会社が保有する導管を、ガス会社以外の供給者が利用するための公正かつ公平なルール(託送ルール)を整備した。

3.法律改正(規制緩和)にあたり想定される選択肢

(1)電気事業

・全面自由化
全ての需要家に対する小売供給を自由化すること。

・部分自由化
一部の需要家に対してのみ小売供給を自由化すること。

・プール市場の創設

イギリス等で導入されている制度で系統を管理する会社が、翌日の30分毎の需要想定を行い、その時間毎に、毎日発電事業者による入札を実施するもの。

(2)ガス事業

・大口供給範囲の一層の拡大

現行の大口供給範囲を年間契約数量200万m3以上からさらに緩和し、年間契約数量100万m3以上に拡大する。

・大口供給範囲の現状維持

ガスエネルギー供給者に与える影響等も考慮し、みだりに供給範囲を変更せず、当面、現行の大口供給範囲年間契約数量200万m3以上を維持する。

(要約引用おわり)

(つづく)

2001/06/30(Sat) No.01

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