エネルギー産業の自由化について(2)番外の燃料電池の稿が途中であるが、本稿は自由化の問題に戻り、自由化が生み出した金融技術の隆盛の一端を紹介する。自由化の理論的考察は、次回から行いたい。
欧米では、自由化の進展で、公益事業のリスクが顕在化していったため、リスク回避の金融技術;FT(Financial Technology)および金融商品の開発が盛んになっている(エネルギーフォーラム 2001.3月号66頁)。
リスクとは、例えば、投資回収の不確実性、燃料価格、為替の変動、京都メカニズムの導入、炭素税、排出権取引制度、地震等々(同上)である。
エネルギーマーケットに適用されようとしている、リスク回避のためのFT、および金融商品は、
- 先物(先渡し契約)
- プットオプション
- コールオプション
- キャップ/フロア
- 証券化
- スワップ
- リアルオプション
- 天候デリバティブ
- 地震デリバティブ
(エネルギーフォーラム2001.3号66〜68頁)
等々である。日本の電力会社は、証券会社に日参し、必死で勉強しているそうであるが、今のところ勉強にとどまっているらしい。
日本の自由化については、2000年3月の改正電気事業法により、特別高圧2万V受電・2000kW以上の大口部門については、自由化された(誰でも発電して売ってよい)。しかし、今のところ、新規参入者は、ダイヤモンドパワー、エネット、イーレックスなどにとどまっている。
上記に挙げたFT手法がより普及するには、電力を売買する全国プール制度の開設、一般家庭用までの電力の小売自由化、電力市場の競争状況を確認する政府の独立機関の創設等が必要となる(日経2001.5.16)。その意味で、日本の電力会社にとり、FTは、できない技術ということではなく、その基盤が未整備なので、具体化していないのである。
以上の状況下で、上記の@〜Gの内、日本で行われた?ものは、A、E、Fである。
<Aの例>
アジア国際通信2000.12.17( http://jimbo.tanakanews.com/222_3.html)より
(引用始め)
まずエンロンは、日本で“とぼけた”電気販売業を開始した。
顧客と3〜5年の電気販売契約を結び、顧客は初年度、既存の電力会社との契約を継続、2年目以降はエンロンから事前に決めた額で電気を買うというもの。初年度分の最大10%を、エンロンが顧客にキャッシュバックするというところがポイントで、このサービスを11月から開始した。もっとも、エンロンが「売るべき電気が集められなかった場合は、契約を破棄できる」という、 “逃げ道”がしっかりと用意されているのである。
東京電力の南直哉社長は、「さすがはエンロンさん、うまいことを考えた。目先の甘い話に飛びつく顧客がいるかもしれない」と語ったが、この“とぼけた”サービスに対して、業界では「エンロンは本気なのか?」といぶかる声がもっぱらであった。
(引用終り)
ところが、エンロンにしてみれば、これはプットオプション(将来のある期間に決められた価格で売る権利)という金融手法を使っているに過ぎない。エンロンにしてみれば、需要家から現在の電気料金の10%相当の金額でプットオプションを購入し、発電所建設の事業化リスクを低減したことになる。(同上)
<Eの例>
エンロン系火力で電事連会長見解
東奥日報2001.2.17(http://www.toonippo.co.jp/news_too/nto2001/nto20010217.html)より
(引用始め)
電事連の太田宏次会長は十六日、青森市のホテル青森で開かれた電事連総合政策委員会(社長会)の終了後に記者会見し、米エネルギー大手エンロン系列のイーパワー社がむつ小川原地域に計画している大型火力発電所について「相当な量の仕事をこなさなければ実現しない計画であることは事実」と述べ、実現は困難との認識を示した。
イーパワー社は、六ケ所村鷹架の敷地約百ヘクタールに天然ガスを燃料とした出力二百万キロワットの火力発電所を建設し、二〇〇六−〇七年に運転開始する計画。二期計画ではさらに二百万キロワットを増設する。
太田会長は「二百万、四百万キロワットというのはなかなか大きな数字だ。土地があるから立地するのだろうが、それだけでは発電所は造れない」とした上で、送電や燃料調達、港湾整備、環境保全などの課題を列挙した。送電については「過剰設備を持てば経営が苦しくなるため、電力会社は送電線を容量いっぱいに使う。余裕があるわけではなく、(イーパワー社が)大量の電力を送るためには新しい送電設備を造らなければいけない。時間もかかるし、用地交渉が要る。相当な量の仕事をこなさなければ実現しない計画であることは事実だと思う」と述べた。
(引用終り)
ところが、これもエンロンは百も承知で、これはリアルオプションという手法を使っているに過ぎない。(エネルギー学vol.11参照)
<Fの例>
2000.7.27電気新聞より
(引用始め)
米エンロンは、インターネット上で天候デリバティブ(金融派生商品)の取引を日本およびオーストラリア市場で開始すると発表した。
世界各国のエネルギー、金融商品の売買が行えるエンロン・オンラインで取引するもので、日本市場向けには東京、大阪を対象に、天候変動の事業リスクを軽減するデリバティブ商品を投入した。エンロン・オンラインで日本向けの商品は初めて。
エンロン・オンラインはインターネット上で電力、ガス、原油などエネルギー関連商品やデリバティブなど金融商品を取引できるシステム。
(引用終り)
安定供給に最大の価値をおいている日本の電力会社にとって、この自由化の文化を受け入れるには、広範な議論と国民の覚悟が必要である。(つづく)
2001/05/30(Wed) No.01