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里屋和彦の『エネルギー学講座』



(2001/04)

エネルギー学講座 Vol.13
(番外編2)

燃料電池は、普及しない。

燃料電池システム

<日本ガス協会のHPより>

現在、分散電源して、もてはやされているのは、マイクロガスタービンと燃料電池である。

マイクロガスタービンは、旧来型のガスタービンの技術の延長線上にあり、固有の問題点はあるが、今後も漸次、開発が進んでいくと予想される。

しかし、燃料電池は、相当の紆余曲折が予想され、ことによれば、夭折しかねない問題点を含んでいる。

また分散電源自体も、電力会社からの電力(系統電源)なくしては、社会のシステムとしては、安定的ではなく、その価値の見極めは意外に困難である。

本稿は、燃料電池と分散電源の問題点について記すこととする。なお、燃料電池の開発に冷水をかけることが目的でなく、持っている存在価値と限界を考察するためであることをお断りしておく。

燃料電池は、4タイプに分かれるが、実用化されているのはリン酸型と呼ばれるもので、全国で69台(2000.3.31時点)設置されている。発電コストが28円/kwhで、実用化されている発電システムと比較して、約3割高となっている。(毎日新聞20001.4.25)

音が静かなことや、有毒な排気ガスを直接出さない等、環境に優しいという点を売り文句だが、上記のデータからみても、実用化されているリン酸型でさえ、普及しているとはいい難い。

昨今、燃料電池が話題になっているのは、自動車や家庭用として使えそうな、大型冷蔵庫位の大きさの固体高分子型燃料電池(PEFC)というタイプの燃料電池の開発が急速に進んできたためである。その特徴は、


  • 構造が簡単
  • セル(後述)が小型化できる。
  • 常温で始動でき、かなりの出力を得られる。
    (日刊工業新聞 2001.4.16)

一方、下記の問題点が指摘されている。


  • 改質(後述)のプロセスが複雑で時間がかかり、負荷変動に対する追従性が良くない。
  • 触媒の白金にCOが付着し、性能が劣化するため、寿命が短い(目標値は40,000時間であるが、現在5,000時間程度)。
  • 高コスト(目標値は、自動車用で、5,000円/kw、家庭用で200〜500千円/kwであるが、まだ程遠い)
    (同上)

    燃料電池の原理の単純なイメージは下記の通りである。

    水は電気分解といって、外部から電気を通じると、水を水素と酸素に分解できるが、燃料電池は、その逆で、水素と酸素を電気化学的に反応させ、電気を発生させる(発電)ものである(同時に水が発生する)。水素と酸素を供給し続ければ連続して発電できるので、発電装置として利用することができる。


    <日本ガス協会のHPより>


    ここで、水素と酸素を供給し続ければ連続して発電できるということに最大の難関が存在する。それは、

    酸素を連続して供給するには、身の回りにある自然の空気をポンプで送りつづければよいが、水素は、自然に存在していないため、どこかで水素を作って燃料電池本体に送り込まねばならない。

    ということである。

    家庭用の発電システムとしての燃料電池は、都市ガス(主にメタン=CH4)から、水素を取り出して(このことを改質という)、燃料電池本体に送り込めばよい。改質のイメージは下記である。なお、改質器は、燃料電池本体と、一体のユニットとして通常構成されている(冒頭の図参照)。

    <三洋電機のHPより>

    改質器へは、都市ガス=メタン(CH4)と水蒸気(H2O)が供給され、約700℃で反応して、水素が発生する。この水素を燃料電池本体に送り込むのである。
     
    また、燃料中に少しでもCOが含まれると電池性能が著しく低下しるので、CO除去器では水素中のCOを酸素(O2)と反応させ無害な?二酸化炭素にする。

    以上の改質およびCO変成・除去においても、温度管理が難しく、加温したり冷却したりで、エネルギーを使っているのである。

    それでも、家庭用は、燃料に都市ガスを使えばよいのであるが、問題は自動車用の燃料電池である。当面は、今あるガソリンスタンドのインフラを生かすガソリン改質方式が、有力と目されている。しかし、天然ガス(=メタン:CH4)に比べ、普通のガソリンは品質が悪く、高品位のガソリンでなければならない。

    ならば、直接、水素を供給する水素スタンドを整備していけばよいのではと思われるかもしれないが、


    • 自動車のように、大量の需要が見込まれる燃料としての水素の調達法(インフラ整備) は、石油の枯渇が遠のく現況では、逆に確立しにくい。
    • 自動車に搭載する、軽量で容量の大きい水素の貯蔵タンクの開発のブレークスルーが見えない。
      (日刊工業新聞 2001.4.5)

    水素燃料電池自動車(自動車内で改質するのでなく、水素製造を車の外で行い、その水素をスタンドでもらうタイプ)が、本格的に導入された場合の水素供給法のオプションを整理したのが図1(季報エネルギー総合工学1999.7号 78頁より)である。図中、太線の部分は商業ベースでの運用が確立している部分である。

    エネルギー資源取得地にて、水素を製造する方式は、上流から下流までのインフラ構築に多くの時間と費用を要する。また、製造法、インフラが確立したとしても、トータルのシステムがコスト安かどうか疑わしい(この視点については、別稿に触れたい)。

    また、天然ガスからのパスにおいては、単純な見方をすれば、昨今導入が進められている、天然ガス自動車のインフラ体制より、改質の部分が増えておりコストが増す要因になってしまう。よって、水素燃料自動車自体の価格、効率、耐久性のいずれにおいても、天然ガス自動車を上回らなければ、それにとって代わり普及する見込みはない。上に挙げた技術のブレークスルーも見えない現況では、五里霧中である。


    実際、以上のような背景から、燃料電池自動車の開発の当事者たちも、以下(日刊工業新聞 2001.4.5) のように語っている。

    フォルクスワーゲンのフェルディナンド・ピエヒ会長の言、

    「燃料電池の実用化は、世間で言われているほど簡単ではない」

    トヨタの渡辺浩之常務の言、

    「燃料電池車の普及は技術面や燃料供給インフラなどの問題解決に時間がかかる。」


    エネルギーを生み出す技術は、ITのように飛躍的には進歩しない。
    今、提案されている発電技術で、近年、全く新規に発明されたものはなく、燃料電池を含めメニューは、ほぼ数十年前から出揃っていた。

    高温(Ta)の熱源と低温の熱源(Tb)の間で動く熱機関(エンジン、タービン等)は、カルノー効率と呼ばれる(Ta−Tb)/Ta以上の効率にはならない

    しかし、燃料電池は、他の発電システムと違い、熱機関ではないため、効率の向上に関し、制限を受けない。
    書き込み継続中

    2001/04/22(Sun) No.01

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